最強のトッピング
中華風のおかゆは安くて美味しくておなかも満足すると歓迎され、とてもよく売れた。
「嬢ちゃん、これは美味いなぁ!」
ハフハフしながら熱い中華がゆを食べる男たち。味の濃いトッピングと混ぜながらスプーンでかき込む子供たち。
私はトッピングのひとつを日替わりにすると決めた自分のせいでトッピングに悩むことになる。楽しい悩みだ。
「さて皆さん。今日は新しいトッピングを色々作ったから味見して感想をお願いします」
テーブルの上には何種類もトッピングが並んでいて、皆が少しずつおかゆに載せて食べた。
「ハル、俺は鶏肉を甘辛く煮たのが好きだ」
「私は豆を何種類も煮たのに黒蜜をかけたのが好きだわ」
「あれ?シリルさんは?」
「どれも美味しいよ。だけど、わがままを言えば、私は懐かしい母の味を作ってもらえたら嬉しいのだが」
「どんなのでしょう?」
「茹でた豚のモツを刻んでカラリと揚げて、辛いスパイスと岩塩をまぶしたものなんだ」
説明を聞いていた全員が「それ、美味しいやつ」という顔になる。
「それはエールに合うわね」
「間違いなく蒸留酒にも合うな」
ポーリーンとヴィクターが美味しい口になっている。
私も想像したら口の中がスパイシーな揚げたモツの味を求めてしまう。
「作ってみる!肉屋さんに行けばモツは手に入るわね。シリルさん、一緒に行って香辛料屋さんで母の味に近いスパイスを買ってきてくれますか?」
「ハル、私はそれに青ネギを散らして欲しいんだけど」
「ポーリーンさん、それ間違いないやつ!」
シリルさんに味見してもらいながら作ったモツのスパイシー揚げ。カラリと茶色になるまで揚げたモツは噛みごたえがあるが、おかゆに乗せると柔らかくなる。おかゆにはスパイシーなモツの風味が染みる。
ポーリーンはモグモグしながら目を閉じた。
「私、モツってそれほど好きじゃなかったけど、これは美味しい。しっかり揚げてあるのがポイントね」
ヴィクターは「そんなにか」と言いたくなるくらいモツを山盛りにして食べている。そして噛み締めながら「うまい……」とため息をついている。
「ハルはどうだい?私の母の味は気に入ったかい?」
「シリルさん、これは最強のトッピングだわ。青ネギとすり下ろしたショウガと炒りゴマもかけてみたけど、延々と食べられるわ」
「うわ、それ俺もやりたい」
「私も!」
四人で作ったモツを食べ切ってしまった。作り直さねば。明日のおかゆ販売が楽しみだ。
明日の準備を終えて、庭に出た。クロを呼び出し、膝に乗せて背中を撫でながらぼんやりとベンチに座っていると、シリルさんがやって来た。
「ハル、こんな時間にどうしたんだい?」
「ヴィクターの体の回復のために、この町でもあの金色の粉を浴びられたらいいなって思ってるの。どこか魔力が湧いている場所を知りませんか?」
シリルさんが「ふふふ」と笑う。
「私はここの生まれ育ちだ。知ってるに決まってるじゃないか」
急いでヴィクターとポーリーンさんにも声をかけ、シリルさんの後について歩いた。数分でそれが見えた。
「うわぁ……」
「ね?すごいだろう?」
「なんだよ、ハル、シリルさん。俺たちにもわかるように説明してくれ」
「そうよそうよ」
それは住宅街の中にポツンと作られた小さな公園みたいな場所だった。
「私が自分の稼ぎでこの土地を買ってね。地域のみんながくつろいであれを浴びられるようにしたんだ」
平民の家一軒分くらいの小さな土地の真ん中に丸い花壇が作られていて、花壇の中央には女神像。女神像の周囲から盛大に金色の魔力が噴き出している。四つのベンチが花壇の周囲に置かれている。真夏はベンチが木陰になるような位置には落葉樹が植えられていた。
「シリルさん、これはいいですね」
「そうだろう?」
「ヴィクター、どのベンチに座っても魔力を浴びられるようになっているわよ」
「そうか。それじゃ早速」
ポーリーンさんもヴィクターを見習って座る。花壇から噴き出している金色の魔力は満遍なく周囲に降り注いでいる。ヴィクターもポーリーンさんも全身に金色の粉を浴びている。気がつけばクロもいて、目を細めて花壇の端で金色の粉を浴びていた。私とシリルさんも浴びた。
「ヴィクター、私ね、ひとつ疑問に思ってる事があるの」
「なんだい?」
「私が体に受けた魔力はどこへいくんだろう。魔力は傷を治す手助けをしたり草花を元気にしたり相手を攻撃したりしてるでしょ?なんらかのエネルギーを持ってるはず。なのになぜか私は魔力を浴びても少し体が温まるくらいだし、魔法攻撃も効かない。私が受けた魔力のエネルギーはどこへ行くのかな」
「んー」
ヴィクターが考え込んでる隣でシリルさんが「え?」みたいな顔をしている。
「もしかしてハル、気づいてないのかい?」
「気づくって何を?」
「ハルの体が浴びている大地の魔力は、体の中を通り抜けて地面に逃げていってるけど」
「ええっ?」
シリルさんが指差す地面を見ると、『言われてみれば』というレベルだが私の足が踏んでいる地面はほんのりと明るくなってる……ように見えた。
「ありゃ。素通りしてる?私の足元、少しだけ明るいね」
「ああ、気づいているかと思ってたよ」
「全然気づかなかった。大量に光の粉を浴びているからわかりにくかったわ。そっか、素通りしてるのね」
「俺は魔力が見えないから気づかなかったが。ハルは魔力を素通りさせるから魔力ゼロなんだろうか」
「さあ?」
そこでポーリーンさんが提案した。
「ヴィクター、私が見ている前でハルに攻撃魔法を使ってみてよ。大地の魔力を受けたときとどう違うのか、見てみたい」
夜の公園で思いがけず実験することになった。
少しハラハラしているシリルさんと探究心でワクワクしているポーリーンの前で私が仁王立ちになり、ヴィクターと向かい合った。今回は私が受けた攻撃魔法の行方を見るのが目的だ。
「行くぞ」
「いつでもいいわよ」
ヴィクターが片手を胸に片手を頭上に掲げて振り下ろす。同時に「アイスランス」と唱えると大きな氷の槍が私に向かって飛んで来る。
氷の槍が私に触れる直前に消えるのはいつもの通りだ。私とシリルさんは私の足元に注目していた。
ポーリーンさんが詰め寄る。
「で?どうだったの?」
「氷の槍が消えた瞬間にハルの足元の地面が光るな」
「うん。私にも見えた。大地に魔力を戻しているみたい。私ったらまるで避雷針だわ」
ん?とヴィクターが首を傾けた。
「『ひらいしん』とはなんだい?」
「雷をわざとそれに誘導して、金属の線で導いて雷の力を土に逃すの。家が燃えたり壊れたりするのを防ぐためにね」
「ああ。なるほど」
ヴィクターが考え込んでいる。
「さあ、帰りましょう。明日も朝からおかゆを売るわよ!」
「ジェラートを売るのも忘れないで」
「はいはい」
四人で賑やかにシリルさんの家に戻った。






