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国境の町ディールズで中華がゆ

 国境の町ディールズはサムナー領の外れにある。平和な時世を反映して東の隣国オルコット王国との交流が活発だった。人も物もたくさん出入りしているのに応じて飲食店や宿屋、国内外の品物を扱う商会が立ち並んでいる。


 平和なので兵隊の数も少なく、町の雰囲気は穏やかだ。


「シリルさん、ここで小さな商売をするにはどこに申請すればいいのでしょうか」

「すぐそこにある商人ギルドに預け金を添えて申し込めばいいんだよ」


 商工会は大通りの端にあった。事務所のような雰囲気の出入り口を入ると、中には十人ほどの人が机に向かって仕事していたが、私たちに気づいた女性が席を立ってカウンターに来てくれた。


「こんにちは。ご用件は?」

「こちらで新しく商売を始めたいのです」

「場所は決まっていますか?」

「馬車を使いたいので許可される場所を教えて欲しいです」

「売り物はなんでしょう」

「軽食かお菓子、飲み物です」

「ではこれを読んでください。移動販売なら申請金は銀貨十枚です」


 ジェラートで稼いだお金から銀貨十枚を渡して領収書と移動販売が許される場所を書いた書類を受け取った。


 家に帰ってからゆっくり読もうと、受け付けてくれた人にお礼を言って商工会の事務所を出ようとして壁に貼られたポスターに目を奪われた。それは印刷ではなく手書きのポスターだった。


『コンテスを食べて健康になろう」


 若い女性がお皿にこんもりと盛り付けたコンテスなる物をスプーンですくって食べようとしている絵柄だった。その絵が。間違いなく稲と米である。米は赤米だろうか。赤紫色だ。


「あの、すみません、このコンテスというのはどこで手に入れられますか?」


 受付をしてくれた女性がにっこり笑って

「ヘインズ雑穀店で扱ってますよ」

と教えてくれた。


 シリルさんに案内されて行ったヘインズ雑穀店は大きなお店で、店頭には各種雑穀が木箱に入れられて並んでいた。コンテスは一番前に置いてある。価格は他の物より少し高い。


「こんにちは。何を差し上げましょ?」

「コンテスをバケツ一杯くらい欲しいのですが」

「はいはい。銀貨二枚になります。お嬢さんは食べ方を知っているかい?」

「ええ。色々試したいと思ってます」

「美味しいのができたら作り方を教えてもらえるとありがたいな。コンテスはこれから普及させたい穀物なんだよ」


 笑顔で別れてシリルさんの家に帰った。


「で、どんな料理にするんだい?」

「シリルさんはおかゆって食べたことありますか?」

「おかゆ?ないなあ」

「では楽しみにしていてください」


 早速コンテスなる赤米を洗って水を入れ、骨つきの鶏肉と一緒に煮込んだ。骨付き鶏肉から濃厚なダシが出るから、あとはゆっくり粒が残る程度に煮ておかゆを作る。煮込みながらトッピングを作った。


 生姜とみじん切りにした豚肉を甘辛く煮た物、パンを刻んで油で揚げた物、刻んだネギ、半熟のゆで卵。


「今日はこのくらいにしておくか」


 満足してつぶやくと、後ろで本を読んでいたヴィクターとポーリーンさんがクスッと笑った。シリルさんはおかゆが待ち遠しそうだ。


 赤米と一緒に煮込んだ骨付き鶏肉を取り出して、アチッ!と言いながら骨から肉を外して細かく裂き、塩、おろし生姜とごま油をかけた。トッピングはこれで全部で五種類。おかゆに塩で薄く味をつけて出来上がり。


「さあ、試食してくださいな」


 全員の前に赤紫色のとろりとしたおかゆ。テーブルの中央には五種類のトッピング。


「自分のおかゆに少しずつこのおかずをのせて食べてみてください。熱いから火傷しないように気をつけて」


 赤米もおかゆも皆が初めてらしく、フーフー吹いて冷ましている。


「うまい。コンテスの甘みともっちりした舌触りがいいな」

「カリカリの揚げたパンと食べると歯触りが楽しいし、油の旨みで食が進むわ」

「何種類もおかずがあると、延々と食べてしまいそうだ」


 よしよし、好評。


「これ、売れるかな?トッピングは三つまで自由に選べます、って売り方にして、一杯銅貨三枚でどうかしら」


「安くないかしら」とポーリーンさん。

「いいんじゃないか?安ければ毎日食べる人もいるだろうし」とヴィクター。

 シリルさんは全種類のトッピングを試していてまだ試食中で返事なし。


 よし、明日は広場で朝からおかゆを売ろうではないか。


「はぁ。美味しかったよハル。これはやみつきになる美味しさだね。トッピングとやらが何種類も用意されているのも素晴らしいよ」


 よしよしよし。


「ジェラートは売らないの?私、あれがないのは寂しいわ。人手が足りないなら私が売るわよ?」

「ポーリーンさんが売り子をやってくれるなら」

「やるわ!じゃあヴィクター、ジェラートを作るのを手伝って。私、もうすっかり作り方は覚えたの。氷魔法さえ使えたら私が一人で作るんだけど」


「ああ、お安い御用だ」


 ポーリーンさんはジェラートの作り方を見て覚えていたらしい。ジェラートは分量さえわかれば簡単だものね。シンプルなミルク味だけにして、おかゆとジェラートを売ることにした。


 中華がゆは中華の意味が伝わらないからただの『おかゆ』と言う名前で売ることにした。美味しければ名前はなんでもいいのさ!

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