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宰相ベネディクトの思惑

 宰相のベネディクト・ファラーは上がってきた報告書に長いこと目が釘付けになっていた。


 その事件解決の糸口になったのはあの(・・)ハル・アユカワだと言う。あの女、なかなか見つからないと思ったらハートフィールド領やスローン領にいたのか。そしてこんな能力を持っていたとは。宰相は唇を噛んだ。


 王都とハートフィールド領で相次いで発生していたという魔力切れの件は魔法使い本人による不注意だろうと考えていたのだが、そうではなかったわけだ。


 領兵によって捕縛された不穏分子たちは、ホルダール王国の攻撃魔法重視、魔力量重視の政策に不満を持つ者たちだった。今まで何度も小さな反乱を起こしてきた者たちと同類だろう。





 この国では貴族かつ攻撃魔法の使い手が一番上位に立つ。貴族の身分が同じであればより強い攻撃魔法を使える者が上位に位置づけされる。


 攻撃魔法の強さが同じであれば、より身分が上の貴族が上位になる。身分と攻撃魔法の強さの二つの要因で立場が決まるのだ。


 よって平民の魔力無しが最下層に位置しているのだが、不満が出るのは最下層からではない。貴族でありながら攻撃魔法が不得意な者に不満が出やすいのだ。


 過去に何度か起きた反乱は全て制圧されて、捕まえられた反乱分子は投獄されている。今回も投獄して終わらせるつもりだったが、彼らが作り出した「離れた場所から相手の魔力を奪う魔法」はベネディクトの頭脳をチクチクと刺激する。


「この新しい魔法、使えるのではないだろうか」


 風魔法と吸廃魔法を組み合わせて使うなど、誰も思いつかなかった。この魔法をもっと強力にできたら離れた場所にいる敵の魔法使いを無力化できるのではないか。その新技術は自分の輝かしい名誉を運んで来るように思える。


 聖女召喚はいまだに成功せず、国王からは度々の催促が来る。その度に最高責任者として「まもなくでございます」と答えるのもそろそろ苦しくなっていた。


「ブレント・ベインズを呼べ」





 魔法師部隊隊長のブレントは宰相に呼び出され、聞かされた内容に驚いていた。


「風魔法と吸廃魔法を組み合わせ、なおかつそれを強力化する、ですか」


「そうだ。弱小魔力の若造どもにできたのだ。王宮勤めの魔法使いなら簡単だろう。それが成功すれば我が軍の損傷が大幅減となる。敵の魔法使いを魔力切れにした後で戦えばいいのだからな。ブレント、風魔法と吸廃魔法の使い手を集めてこの魔法を習熟させ、大型化を研究開発せよ」


 ブレント・ベインズは宰相の執務室から退出して自分の部屋に向かいながら、今聞いた戦法には大きな問題があると思った。


 宰相の案は確かに効率的で国庫の負担も少ない。しかし戦争時に今まで英雄となってきた攻撃魔法の使い手の立場がないがしろになる。逆に今まで二番手三番手だった風魔法と吸廃魔法の使い手が活躍することになる。


 宰相は召喚魔法の使い手だから、火魔法や氷魔法などの攻撃魔法専門の使い手の気持ちにやや疎い。戦争において活躍した者はその後の褒賞で大きく勢力を伸ばすから、この作戦は新たな勢力争いの種を生むのは間違いない。


「面倒なことを」


 この作戦がどう今後に影響するか、先見に見させなければ。そう考えたブレントはポーリーンを呼び出したが、使いの者が「先見様は休暇中です」との返事を持ってきた。


「ポーリーンが休暇?そう言えばそんなことを言っていたな。だがあれはずいぶん前の話だったが、いつまで休暇を取っているのだ?」


 使いの者が事務方に問い合わせに走り、返事を貰ってきた。この手のことにはいきなり使役鳥を使わないのが礼儀だ。


「はあ?百日の休暇だと?この国に大災害が起きるかもしれないと言ったのは自分なのに、彼女はいったい何を考えているのだ!」


 ブレント魔法師部隊隊長が事務局に足音も荒く乗り込んで、許可を出した事務局長に問い正すと、事務局長はおどおどしながら一枚の紙を差し出した。


 休暇の申請書には間違いなく自分のサインが書き込まれていた。


「……あの時か!」


 ブレントはこのサインをした時のことを思い出した。宰相に呼び出されて急いでいた時だ。


「くっ」


 慌ててポーリーン宛に使役鳥を飛ばそうとしたが、どうやらポーリーンは使役鳥が届かない距離にいるらしく、ブレントの使役鳥は飛び立つことなくブレントの頭上をクルクルと旋回しているだけだった。


 いかに強い魔力を持つブレントと言えど使役鳥を飛ばせる距離には限界がある。ポーリーンは近くにはいないと言うことだ。


「二十年も城に引きこもって暮らしていたくせに、こんな時に限って休暇をまとめて取るとは!」


 しかし許可したのは自分なので大っぴらに彼女を非難すれば、それはそのまま許可した自分の落ち度として返ってくる。仕方なくブレントはこの作戦がどんな結果をもたらすかを先見しないまま宰相の指示を忠実に実現するしかなくなった。


「風魔法と吸廃魔法の使い手を集めよ」


 ブレントの命令を聞いた部下たちは普段あまり活躍することのない者の招集に内心で驚いたが、あまりにブレントが不機嫌なので疑問を口にすることなく命令に従った。


 一方、宰相は軍部の非魔法使いの中から人探しの得意な者を呼び「スローン領にいるハル・アユカワを王城に連れて来るように」と命令を出した。


「魔法使いに見えない魔力を見ることができて、消すこともできる能力、使い道がありそうだ。ハズレくじかと思ったらそうでもなかったようだな。よしよし。なかなかいい展開ではないか」


 

 

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