茶番ですか
敵の本拠地に駆けつけたのはコンラッド・スローン様の領兵と、ここの領の兵士だそうだ。ここはウルテウス領というらしい。
大勢の領兵たちに制圧され逮捕されたのは、ほとんどが若い魔法使いだった。彼らを大人しくさせていたのは「吸廃魔法」の使い手。彼らが手をかざして呪文を唱えると皆クタリと力が抜けて倒れた。次々と犯人たちが倒れたまま運ばれて地面に並べられている。
「あの人たちはなぜ黒い仮面を?」
「吸魔術の使い手は顔を知られるのを嫌がる人が多いんだ」
いつの間にか馬車の外に来ていたコンラッドさんが説明してくれた。蔑まれるからかしら。あんなに役に立っているのにね。
そして今、私は毛布に包まり、馬車に揺られている。早くシリルさんの家に戻りたい。私の隣にはヴィクターが座っていて、なぜかずっと肩を抱かれている。向かいの席にはコンラッドさんとポーリーンさんだ。
「捕まった人たちはどうなるんですか?」
「王都に送られる。彼らは他人の魔力は吸い取ったが誰も殺していないから、死刑にはならないだろう。だが……彼らの作ったつむじ風を起こして魔力を吸い取る魔法の解明が終わったあとはどうなるか。牢に繋がれる期間が有限か無期限かは私にはわからない」
馬車は進む。ヴィクターは喋らない。ポーリーンさんもなんだか思わしげだ。コンラッドさんの前では話せないことでもあるのだろうか。私はとにかく疲れていた。
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移動する馬車の中でずっとコンラッドさんからの事情聴取があった。シリルさんの家に着いてからじゃだめなのかな。
「疲れているときに済まない。だが、今回の件は王宮に報告する義務がある。君が拉致された理由を報告するには君の能力についても触れなければならない。つむじ風を見ることができるのも消すことができることも報告書に書かねばならないんだ」
「あ」
「私からの報告より先に何らかの情報が王宮に上がる可能性もある。場合によってはすぐに王宮の調査官が我が領地に来る。その前に聞き取りを済ませたい」
「は、はい」
ヴィクターが肩に回した手で、ポーリーンさんは目で『うなずけ』と合図するからうなずいて返事をした。
私の知っていることはヤマネコというリーダーとモグラという誘拐係、カエルという貴族らしい男、世話係の女、仲間と思われる子供のことだけだ。ろくな情報を持っていない。
「なるほど。わかった。そろそろ山に入る」
「はい」
「山は盗賊が出やすいから気をつけるように」
「……」
どうやって気をつけろと?そう言えばさっきから前と後ろにいたはずの護衛が乗っている馬車が見えないのだけど。離れすぎじゃない?
はて?と思っていると馬車が停まった。ドアが外から開けられて、スカーフで顔を半分覆った男が「降りろ」と言いながらヴィクターの腕を引いた。
「え?え?え?」
おとなしく降りるヴィクター。続けて「お前もだ」と私に言う。私を後ろから押し出すポーリーンは自ら続いて降りる。
「金目のものを差し出せ」
「はい、これでお許しください」
コンラッドさんが布で包んだお金らしき物を差し出す。双方がセリフ棒読みなんですけど、これってなに?もしや茶番?茶番なの?
私たち三人が降りると、馬車はコンラッドさんを乗せて走り去って行った。
「さてと。ハルは疲れてるだろう。少しゆっくり休むといい」
「その声は……」
覆面の男がスカーフを下げる。
「やあハル。久しぶりだね。無事に助け出されて安心したよ」
「シリルさん!なんで野盗の真似なんか」
「ハル、まずは馬車に乗りましょう」
ポーリーンさんに促されてシリルさんの後に続いて歩く。少し行くと幌馬車が停められていた。
「私が御者をしよう。ハルは後ろでヴィクターとポーリーンに事情を説明してもらうといい。美味しい食べ物も積んできたよ」
荷馬車に幌を張った荷台は居心地がいい。箱型の椅子は物入れになっていて、箱型のテーブルも物入れ。たくさんの荷物が積んである。
ポーリーンさんが四角い缶から大きなクッキーを取り出し、別の缶からサワークリーム、イチゴジャムを取り出して木のお皿に盛り付けて手渡してくれる。
「甘いものなんて久しぶりだわぁ」
バリバリと遠慮なく食べる。合間に木のマグカップでお茶も飲む。お茶は大きな水筒みたいな容器から注いでくれた。少々ぬるいけど贅沢は言わない。そんな私をヴィクターとポーリーンが優しい目で見ている。
「もっと早く俺たちに連絡してくれるかと思っていたよ。なかなか連絡が来なくて心配した」
「そうよ。クロにもっと早く連絡させれば良かったのに」
「ええー。だって私には途切れることなく見張りが付いてたから。クロの実力がわからなかったし、連絡したことを知られて場所を移動されたら厄介じゃない?」
「なるほど。ハルはずいぶん冷静だったんだな」
「ヴィクターなんてあなたが拉致されてから荒れちゃって大変だったのよ?」
「荒れた?大変て?」
ポーリーンはクスクス笑うだけで教えてくれない。ヴィクターはプイと横を向いたまま返事をしない。
「それで、こんなに荷物を持ってどこに行くの?シリルさんの家じゃないの?」
「私の先見によるとね、シリルさんの家にいると二日後には王宮から人が来るの。ハルのことを迎えに来るのよ」
「私を?王宮が?」
「ええ。まだ理由はわからないけど、おそらく今回のつむじ風と無関係じゃないと思う。あなたに利用価値を見出したんじゃないかしらね」
言われたことを理解するのにちょっと時間がかかった。
「えええー。王宮って、とことんだわね」
「王宮って言うより……宰相だろうな」
「深海魚か。ありえるわね」
少し三人で遠い目になったけど、ポーリーンさんが明るい声で話を切り替えてくれた。
「シリルさんが『みんなで移動しよう』って提案してくれてね。シリルさんの実家が海の近くにあるんですって」
「それだけじゃないぞ。コンラッドさんが俺たちを逃すために協力してくれたんだ。野盗に襲われて俺たちが連れ去られた、ということにしてくれたのさ」
ああー。さっきの茶番はそういう……。
「何はともあれ、みんなで楽しく暮らせそうじゃない?」
私がそう言うと、ヴィクターもポーリーンさんも「思ってたよりずっと元気だ」と苦笑した。
馬車はのんびり進む。私たちは小さな旅を楽しんだ。
最終話まで書き終えたのでコメント欄を再開しました。






