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攻撃魔法の実演会

 スローン領の東に位置するハートフィールドで攻撃魔法の実演会が開かれた。主催者はこちらの領主様。その領主様が開会の言葉を述べていらっしゃる。


「魔法使いの中でも攻撃魔法に優れる魔法使いは、その一人で魔力を持たない兵士百人分の働きをします。攻撃魔法に優れる魔法使いは我が国の宝です。彼らがいてくれるおかげで我が国は安泰なのです。本日はその優れた魔法を領民の皆さんに披露したいと思います。どうぞ皆さん、滅多に見られない素晴らしい魔法技術を堪能してください」


 ハートフィールドの領主様がわざと攻撃魔法だけをヨイショする。

 ポーリーンさんが苦い顔で私に文句を言う。


「わざとだとわかってはいるけど、先見魔法使いの私が聞くと思うところはあるわね。吸廃魔法使いが聞いたらもっと気分が悪いと思うわ」

「やはりそういうもの?」

「ええ。ムカムカしちゃう」


 広場は私たちが以前ヴィクターと二人でジェラートを売っていた広場よりずっと広い。そこに十人の攻撃魔法の使い手が並んでいる。わざと式典用の華麗な制服を着せられている。彼らをひと目見ようと領民たちが数百人は集まっていた。


 その群衆の中には私服の警備隊と探索魔法が使える魔法使いが何人も紛れ込んでいる。つむじ風が発生したら私が発生している方向と進行方向を伝えることになっている。


 やがて攻撃魔法の実演が始まった。


 一人が軽い木の皿を空中高く投げる。すぐに一人が火魔法を放つ。ボッ!と火がついて木のかけらは空中で燃えて消えた。なにあれ。一瞬で焼き尽くせるの?いったい温度は何度なのだろう。


 次は氷魔法の使い手のデモンストレーションだ。

 小ぶりのクッションが投げられると、それを氷の矢が空中で貫く。そして落ちてくるクッションに向けて新たな氷の矢を放つと、クッションは粉々に切り裂かれて中の羽が盛大に観客の上に降り注いた。


 観衆は皆、大興奮である。

 歓声を上げる者、手を叩くもの、ピョンピョン跳ねて喜んでいる者。みんな大喜びだ。


 全てのデモンストレーションが終わり、そろそろ解散、と言う時だった。アレが見えた。


「来た!あっちよ!」


 会場の端っこからウネウネとつむじ風が動き出した。狙いは攻撃魔法を実演した魔法使いたちだろう。私がつむじ風の発生している方向を身振りで示した。たくさんの警備兵と魔法使いがドッとそちらに走る。魔法使いは探索魔法を使って犯人を探しているはずだ。


 混乱した会場に警備担当者の声が響く。

「観覧の皆さんは動かないで!その場にいてください!」


 その声に慌てていた観覧客たちも動くのをやめて事態を見守っていた。


 しばらくして少年二人が捕まった。良かった、これで事件は解決だとホッとした。二人は領主さんも立ち合いの上で取り調べを受けるそうだ。暴れていた少年二人は、地面に押さえつけられたせいで服装は乱れ、土に汚れていた。そして悔しそうな顔で私を睨んでいた。


「王国の犬め!」


 縄で縛られ引き立てられながら少年たちは私を罵る。私は自分が王国の犬と呼ばれたことにちょびっとショックを受けたけど、領主様は「気にするな。ハルのおかげで助かったよ」と言ってくれた。



 数日後、コンラッドさんがシリル家に訪れて、ハートフィールドでの取り調べの結果を教えてくれた。


 彼らは下級貴族の子で、弱い風魔法の使い手と同じく弱い吸廃魔法の使い手らしい。


 仲間に習った方法で他人の魔力を吸い出して倒れさせることが面白く、次々に魔法使いを見つけては魔力を奪って憂さ晴らししていたらしい。デモンストレーションの日も、一人だけ襲ったら逃げるつもりでいたらしい。


「彼らが捕まったのなら、もう安心ですね」


 私がそう言うとコンラッドさんの顔が渋くなった。


「それがそうでもないんだ。どうやら彼らは王国の魔法使いの不満分子の一派のひとりでね。あのつむじ風の作り方を仲間同士で共有していたんだよ。これからその一派を探し出して捕まえねばならん。うちの領地にも仲間がいるかもしれない」


 そう言ってコンラッドさんは帰って行った。事件はまだ解決していなかったのだ。この前ヴィクターたちが捕まえ損ねたのは、その仲間なんだろうか。どんよりした気分の私にヴィクターが気を利かせたのか、外に誘ってくれた。



「ハル、金の粉を浴びに行かないか」

「行きます!」


 

 二人で裏庭に出る。それぞれ金の噴水の右と左に置いてある椅子に座った。金の粉は今夜も盛大に噴き出している。


「なあハル。俺は日に日に体調が良くなる。ここはすごいよ」

「私たちだけで独占するのが申し訳ないくらいよね」


 二人でまったりしていた。が、突然ヴィクターがバッと立ち上がって辺りを見回した。


「人の気配がする」

「え?」


 キョロキョロしたら、つむじ風が裏庭の隅にいた。


「アレが来てる!ヴィクターは離れていて!私が消すから!」

「あっ、待て!ハル!」


 つむじ風目指して走った。私が触れればあんな物は消えるのだ。消すことばかり考えていた私は、走っている途中で誰かに腕を引かれ、倒れ込んだ。起きあがろうとしたら素早く頭に黒い布袋を被せられた。


「おい!ハルを放せ!」

「おっと。俺たちに攻撃をしたらこいつは死ぬぞ」


 聞いたことのない声。首に当てられる何か硬くて尖ったもの。刃物はまずい。魔法なら無効にできるけど刃物には抵抗できないよ。


「アイスランス!」

「うわわ!って消えた?」


 ヴィクターの放った氷の槍は、私が消してしまったようだ。私の能力、不便!男は私を抱えるようにして走り出した。


 

♦︎



 ポーリーンの先見した大災害まであと六ヶ月。

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