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コンラッドさんとクロの声

 スローン領の領主コンラッドさんは突然訪問した私達を歓迎してくれた。


「やあ、久しぶりだね。使役鳥の知らせでは大切な報告があると言うことだったが」

「つむじ風の犯人を見ました」

「ヴィクター、本当か!さあ、まずは中に入ってくれたまえ」



 私達は案内された応接室で今見てきたことを説明した。ポーリーンは魔法の種類による差別や偏見を恨んでいる者の犯行の可能性を語った。


「なるほど。ハートフィールドで予想していた通り、魔法使いの仕業だったか。しかも少年、ねぇ。それはそちらのポーリーンさんが言う通り、吸廃魔法を使う者への差別や偏見が無関係ではないような気がしてきたな。だから氷魔法を使っていたヴィクターや火魔法使いの私を狙ったのかもしれない。私が火魔法使いなことは、領民や貴族には知られているからね」


 コンラッドさんはしばらく考え込んでいたが


「だが、魔法使いによる犯行なら証拠が何も残らない。現場を取り押さえる以外に手がないな」


 するとポーリーンさんがアイデアを出した。


「私達が囮になるのはどうです?私が走るのが遅いことはわかったでしょうし、また狙ってくるかもしれませんよ」


「しかし今日、俺たちが追いかけたことで警戒しているだろうから、どうかな」


「まあ、ジェラートを売りながら様子を見ようよ」


 私の意見に皆が賛同して、今後は用心しながら広場でジェラートを売ることにした。


「それでその、ジェラートはまだ残っているのかい?うちの奥さんや子どもたちが最近噂になっているジェラートが食べたいと、ずっと騒いでいるのだが」


「ありますとも。今日は売る前に騒動が起きたのでまるまる全部残っています」


「よし、では私がそれを全部買い上げよう」


 そのあとはコンラッドさんの奥さんと二人の娘さんも応接室にやって来て、ジェラートはたいそう喜ばれた。私達も一気に売り切ったのでホクホクだった。



 それから一週間。

 スローン領につむじ風が出たという情報は入らなかった。そして今日は対策会議としてシリルさんの家にコンラッドさんが来ている。今は家主のシリルさんを含めて五人で話し合い中だ。


「もう他の領地に行っちゃったのかしらね」

「いや、まだそんな連絡は受けてないぞ」


「連絡って、他の領地からだと時間がかかりますよね?」


「いや、魔法使い同士なら使役鳥を使って連絡がとれるんだ。何箇所も同時に連絡がとれるし早馬よりもずっと早い。距離に限界はあるが、領主から領主へと次々連絡を繋げば遠くまで情報が届くんだ」


 ほぉ。あの小鳥は監視の他に情報伝達もできるのか。いいなぁ。私も使いたいなぁ。


「コンラッドさんの小鳥は何色なんですか?」

「私のか?緑だ。深い緑。って、ハルは見えるのか?」

「はい。見せてもらえたりは……」

「これだよ」


 コンラッドさんが唇に人差し指を当てて呪文を唱える。すぐに深緑色の小鳥が部屋の中をクルクル円を描いて飛ぶ。飛びながら「会議中。ただいま会議中」とコンラッドさんの声で喋った。残念なことにシリルさんには見えないし聞こえないそうだ。


「魔法の鳥、便利ですね。いいなぁ。私のは怖がられちゃうからなぁ」

「おや。ハルは使役する動物を持っているのかい?」

「動物っちゃ動物ですけど、今出してもいいですか?コンラッドさん、見て驚いても攻撃しないと約束してくれますか?」

「ああ、他人の使役動物を攻撃なんてしないさ」


「では。クロ、おいで」

「にゃっ」


「うわっ!」

コンラッドさんが立ち上がって魔法を使う構えを取った。


「コンラッドさん、大丈夫です。この子はクロ。私の仲良しです」

「にゃ」


 私はクロの顔を両手で挟んで目と目を合わせて話しかけた。


「クロ。私の言葉をこの人達に伝えることはできる?」

「にゃ」

「じゃあ、『クロです、よろしくね』ってここにいるみんなに伝えて?」

「にゃ」

 

 クロがみんなの顔を見ていた。すると……。


「うわ!」

「ひゃっ!」

「うぐっ!」

「これは……」


 なぜか皆の顔がすごい。


「うん、頭の中にちゃんと伝わったのだが」とコンラッドさん。

「ハルの声じゃない」とヴィクター。

「地の底から伝わるようなシャーシャーいう低い声ね」とポーリーンさん。

「なるほど、魔物がしゃべるとこうなるか」とシリルさん。クロの伝達はシリルさんにも聞こえるらしい。


「ちゃんと伝えてくれたのですから、誉めてやってほしいわ」


 三人とも同意してくれたけど。「クロの声はもう結構です、おなかいっぱい」的な反応だ。


「クロ、あなたは本当にお利口さんで役に立つわね」

「にゃ」

「じゃ、今後はこの声は私からの連絡だと思ってくださいね」


 皆がしょっぱい顔でうなずいてくれた。



 その日は諦めて私たちは解散した。

 そしてそれから数日後の夜、コンラッドさんの緑の小鳥が食事中の私たち四人の頭上に現れた。


『ハートフィールド領につむじ風が出たそうだ』


 コンラッドさんの声だ。

「小鳥が現れたのかい?」

 シリルさんは興味深そうに私達を見ている。



「領主のコンラッドさんの小鳥なの」

「ほう」

「またつむじ風が出たらしいわ。場所は ハートフィールド領。あそこは網の目のように道が入り組んでるから犯人を捕まえるのは難しそう」


 するとシリルさんがニコニコしながら提案してくれた。


「捕まえるのが難しいなら誘き寄せればいい。犯人たちのプライドを傷つけるような催しをすれば、自己顕示欲の強い少年ならば我慢できなくなって自分からやって来るんじゃないかな?」


 

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