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ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです【書籍発売中・コミカライズ】  作者: 守雨


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ポーリーンさんの先見は外れない

 私たち三人は広場でジェラート販売の準備をしていた。


 ヴィクターは魔力が入っていない空の石板に魔力を込めていたし、ポーリーンさんは穏やかな風魔法を使って馬車の周りの落ち葉やホコリを静かに取り除いていた。私は看板や椅子を馬車から下ろして周りに設置していた。


「ハル、石板は満タンだ。午前中いっぱいは俺が付きっきりで見張らなくてもジェラートは安心だ」

「ハル、私の方もお掃除完了よ」

「二人ともありがとう。あとはお客さんが来るのを待つばかり……」


 私の声が尻すぼみになったので二人が「ん?」「どうしたの?」という顔で私の方を向いた。そして私が一点を注視しているのを見てヴィクターの身体に緊張が走る。


「どうした」

「二人ともそのまま聞いて。あれが来る」

「つむじ風か!どこだ?」

「今、二人の後ろ側の広場の入り口。ゆっくりこっちに向かって来る」


 ポーリーンさんがワタワタしている。

しまったー!彼女はつむじ風のことを知らないんだった!


「ポーリーン、落ちついて俺の話を聞け。お前は入り口に向かって大きく右に迂回しながら向かえ。真っ直ぐ走ってはだめだ。俺は左側を進む。おそらくだが、入り口の近くで魔法を使っている奴がいる。それを二人で捕まえるぞ」


「なんだかわからないけど、とにかく捕まえればいいのね」

「私はどうすればいいの?」

「ハルはつむじ風の動きを見張れ。コースが変わったら俺たちに聞こえるように叫べ」

「わかった」


「ポーリーン、行くぞ!」

「はいっ!」


 二人が猛然と走り出した。すごい速さのヴィクター、そして、そして……全力疾走なんだろうけど小走りに見えるポーリーンさん。まずい。遅い。狙われたら逃げられないんじゃないだろうか。


 私の不安は的中した。

 つむじ風が進む方向を変えてポーリーンさんの方へ進みだした。


「ポーリーン!狙われてる!逃げて!」

「ひゃあっ!どっちへ?」

「私の方に戻って!」


 くるりと方向を変えるポーリーンさん。

 全力で入り口に向かい続けるヴィクター。


 だめだ。ポーリーンさんが追いつかれる。私はダッシュしてつむじ風の方へ向かった。私ならつむじ風を消すことができる。膝下まであるワンピースのスカートを持ち上げて脚を丸出しにしながら走った。こんなに全力で走ったのは大学、いや高校の体育の時間以来だ。


「こんちくしょう!消えろ!」


 あと少しでポーリーンさんに追いつきそうだったつむじ風に体当たりするようにして突っ込み、両腕を振り回した。渦を巻いていたつむじ風は少しだけポーリーンさんの魔力を吸い出しかけていたけれど、散り散りになって消えた。


「ハル、大丈夫?」

「ハアァッ、ハアッ、ハアッ……だ、大丈夫……ハアッ」


 息を切らしすぎてオエッとなりつつ地面にしゃがんだ。


「ヴィクターは、どうした、かな」

「あ、戻ってきた。だめだったみたい」


 ヴィクターが悔しそうな顔で「逃げられた」と言いながら戻ってきた。


「姿は見たの?」

「ポーリーン、無事で良かった。見たぞ。少年二人組だった。攻撃すれば倒すことができたが、躊躇してる間に逃げられた」

「少年?」

「ああ」


 ジェラート屋の馬車に戻ってヴィクターの報告を聞いた。

 どうやらつむじ風の犯人はやはり魔法使いで、ヴィクターが探知魔法を使いながら走っていったところ、魔力を放出中の二人がいたそうだ。しかしヴィクターの姿を見て逃げ出したと。


「すまない。ためらったばかりに逃した」

「ううん。いいよ。そこで躊躇なくアイスランスとか火の玉とか出してたら、逆に引くところよ」

「ねえ、そろそろ私につむじ風について詳しい話をしてくれる?」

「あ、そうだったわ」


 そこで私とヴィクターがポーリーンさんに魔力を奪うつむじ風のことを説明した。


「ふうん。許せないわね。魔力切れがどれだけつらいか、魔法使いなら知らないわけがないのに。なんのためにそんなことをしているのかしら」

「一人は間違いなく吸廃魔法の使い手だな」

「そうね。そしてもうひとりは風魔法の特殊な使い方を知っているわね」


 ポーリーンさんが複雑な表情になって説明してくれた。


「吸廃魔法はね、一部の人に卑しい術と言われているの。昔は魔力過剰症の治療として普通に使われていたんだけど、過剰症の治療に治療用のブレスレットやペンダントが開発されたの。それからは、もっぱら魔法使いの囚人を相手に使われるだけになったの。それからよ、穢れた魔法使いと言われるようになったのは。それしか使えない魔法使いは肩身が狭いのよ」


「だって仕事でやってるんでしょ?悪いことしてるわけじゃないでしょうに」

「理屈と感情は別だからな」

「そんな」

「私だってそうよ。古来からの習慣で『先見様』なんて言われてるけど、攻撃魔法の使い手たちには『結局俺たちに丸投げするだけ』とか『見るだけ魔法』とか揶揄されているわ」


 魔法使い同士の中でも何を得意とするかで差別とか偏見とかがあるのか。


「とりあえずつむじ風は人為的なもので、犯人は少年、ということまではわかったんだ。なるべく早くコンラッドさんに報告しよう。皆で話し合って何か対策を考えないと」

「そうね」


 私達はジェラート屋を閉めて領主様の館を目指した。昨日ポーリーンさんが「明日は商売していない」と先見したことが現実になったわけだ。


 ポーリーンさんの先見は外れないんだなぁ。すごい。




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書籍『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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コミック版
『ええ、召喚されて困っている聖女(仮)とは私のことです1・2巻』
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