ポーリーンの探索旅
「少々休暇を取りたいんです。疲れて仕事になりません」
ポーリーンにそう懇願されたブレントはあっさり許可を出した。二つの未来のことを騒がれるより休んでもらったほうが、王城の混乱を防げると判断したのだ。
「君はほとんど休んでなかったからな。少しゆっくりするといい。大災害が一年も先なら、一度休んで良い。あとは私たちが努力すべきことだ」
その時のブレントは宰相に呼び出されていて急いでおり、彼女が何日休むつもりなのかの確認をうっかり怠った。書類の中身を精査することなく手をかざして自分の名前を魔法で申請書に書き込んだ。
ポーリーンは「ありがとうございます!」と返事をして、ブレントに何か言われないうちにと素早く退室し、廊下に出てドアを閉めると両手をグッと握りしめて喜んだ。
「二十年分の休暇を取らせろだと?」
「正確には十九年八ヶ月分です」
総務部の責任者ジム・バードが呆れた顔でポーリーンを見つめた。
「わたくしはこちらに職を得てから感謝の念で休まずに働いてきました。来る日も来る日も先見をして皆様のご要望にお応えしてきました。休暇を取る資格は十分だと思いますけど?」
「先見は今まではそんなに忙しくなかったろう」
「はあ?それを言ったら何年に一度の魔獣退治、何十年に一度の戦争しか出番がない攻撃魔法の方々こそ暇ですよね?」
「しっ。声が大きい。攻撃部隊をとやかく言うんじゃない」
「でしたら今回は働き者の先見魔法使いを労わるためにも休暇をくださいよ」
「『でしたら』の使い方を間違ってる」
文句は言われたがポーリーンは休暇を手に入れた。繰り越されて溜まっている休暇のうちの百日分だ。見習いの少女にはこの先必要になる定期的な先見の結果を全て紙に書いて手渡した。
「天候も流行風邪も特に問題無し。だからあなたものんびり過ごすといいわ」
ポーリーンは不安そうにする少女にそれだけ伝えてハル・アユカワを探す旅に出た。まずは「明日のハル・アユカワの予定」を先見したところ彼女がどこかの田舎でお茶を飲んでいる様子を見たのだ。
まずはハルの侍女を務めたシェリーに詰め寄った。彼女の召喚は間違ってなかったかもしれない、彼女を探したいと言うとシェリーは「あの扱いはあんまりだった」と憤り、実家を紹介したことを教えてくれた。
「こちらの都合で召喚しておいて、偉い人たちは小銭一枚すら渡さず、着の身着のままでハル様を王都に放り出した」と聞かされてポーリーンの胸は痛んだ。自分も彼女の召喚に関わっていたからだ。
すぐに宿屋アウラを訪問すると、宿屋の人たちも憤慨していた。ハルは偶然出会ったヴィクターと一緒に慌ててどこかへ出て行ったと言う。
ハルは一人ではない。この国を知っているヴィクターと一緒だ。なぜ一緒なのかはわからないが、ヴィクターは真面目な男だ。きっと彼が守ってくれているだろうと思うと少しは胸の痛みが和らいだ。
「どこか場所を特定できる景色が見られればいいけど」
ポーリーンはとりあえずアウラに部屋を取り、ハルを見つけることに専念することにした。
♦︎
私はシリル家の裏庭の金の噴水の所にもうひとつ椅子を出して、ヴィクターと二人でくつろいでいた。
「具合はどう?」
「かなりいい。これがこんなに体に効くのなら、他の人にも教えてやりたいよ」
「ヴィクターは優しいのね」
「優しくはない。ハルはどうだ?これは魔力が無い人にも効くとシリルさんが言ってたけど」
「効く。足先の冷えは消えたし、肩こりもない。体全体に力がみなぎる感じ。元気が有り余ってるから、また働きたい」
ヴィクターが笑顔で背中を伸ばした。
「またジェラート屋をやるか?」
「やりたい。季節の味を色々作りたい」
シリルさんに街でジェラート屋を開きたいと話した。まず、ジェラートとは何かを説明した。するとシリルさんは「屋台を作ってやろう」と張り切って作業を始めた。使っていない荷馬車の荷台をジェラート屋にすると言う。さすが建築家だ。ジェラートの移動販売、いいねぇと喜んだ。
馬車の改造は一日か二日で出来るというから、街まで材料を買いに行くことにした。馬で二人乗りしてスローン領の繁華街を目指す。
手早く牛乳、砂糖、果物をあれこれ。
前回の商売で私のお財布には余裕があるのに「全額俺が出す」と言い張るヴィクターには半額出してもらった。「建築家のシリルさんの家まで配達してほしい」と頼んで買い物は終わった。
「お茶して行くか?」
「うん!」
二人でお店に入った。香りの良いお茶と甘いケーキを楽しんだ。
「シリルさんの家に世話になるにあたって、俺たちが急にいなくなるかもしれないことは伝えるべきかと思う」
「うん。そうだね。でもヴィクター、私はともかく、あなたは真っ当なこの国の人間なんだから。私に合わせて落ち着かない暮らしをする必要はないと思うの。私、一人でもきっと生きていける、と思う」
「え……」
「だから私に遠慮だけはしないでね。やりたいことがあったら、自分を最優先してね」
「へえ。そうか」
急にヴィクターが不機嫌になった。
「違うよ?あなたのことを心配してるんだよ?」
「そうか」
上手く気持ちを伝えられない。伝わってない。気持ちを言葉にするのは難しい。それは元の世界でもよくあったことだ。
「私はヴィクターと一緒で嬉しいんだよ?そこはわかってね?」
ヴィクターは返事をしなかった。
「もう」
弟も拗ねると長引いたな、と懐かしく思い出した。






