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第六話 この女神、最悪なんですけど!?

「それじゃあ、行ってくる!」


誤解を解いて心機一転。大小の日本刀を二振り腰にはいて、リアナは意気揚々と神殿から飛び出していった。

なんで二刀流を気取っているのかは知らない。きっとカッコいいからとか、そんなチャランポランな理由に違いない。

で、俺はと言うと、さっきの大部屋でベルベティとふたりきりになっていた。

マリエリはどこかに行ってしまった。リアナを追いかけてってことはないだろうし、神殿のどこかにいるんだろう。


「あんたもどこか行ってくればいいじゃない」

「や、下手に出歩いて迷ったら嫌だし」


リアナの部屋からここまでと、ここと武器庫の往復しかしてないけど、この神殿がめちゃくちゃ広いのはよくわかった。ひとりで出歩いたら普通に迷う。


「つまらない人間ね。そんなだから、リアナも誤解だ何だと御託を並べるのよ」

「事実、誤解だから。100%何もなかったから」


というか、なぜ蒸し返す。


「最後にいい思いだけして死のうとしてるのかと思ったわ」

「必死に生存への道を模索してる途中でそんなことするわけないだろ!?」

「あら、いいじゃない。最後に女神と快楽に塗れた時間を過ごせるのよ。人間からすれば最高の死に方だと思うけれど?」

「俺はまだ夢のキャンパスライフを諦めてないんだよ」

「元居た世界に戻れる保証もないのに?」

「夢はいつか絶対に叶うって教わったんだよ!」


アニメとかゲームとかマンガでな!

二次元はいつだって俺たちに生きる目的を与えてくれるんだ。


「へえ。それじゃあ、あんたにも叶えたい夢や希望があるってことなのね?」

「今は一刻も早く元の世界に戻れることを夢見ている」

「散りゆく夢って、時として美しいものよね」

「人の夢を勝手に終わらせてんじゃねぇよ! それでも女神か!?」

「女神よ。見てわかるでしょう? この美しさが何よりの証拠じゃない」


……いちいち腹立つな、この女神は。なんでこう人の揚げ足取りをするんだか。


「何か言いたげね、人間」

「女神ベルベティ様はとてもお美しい」

「棒読みじゃない。もっと心を込めて言いなさいよ」

「心にもないことなので無理です」

「あら、生意気ね。いじめて欲しいのかしら?」

「そんなわけあるか!」


なんなんだよ、一体!?

あんたこそ暇してるならどっか行ってくればいいだろう!?


「退屈ね。まるであんたの人間性みたい」

「会って数時間も経ってないのに、俺の何がわかるんだよ!」

「大体わかるわ。ボーっとした顔をしてるもの」

「あんたは性格の悪そうな顔をしてるよな」


ようし、そこまで言うなら相手になってやろうじゃないか。

強めの美人はプレッシャーがあって苦手とか思ってたけど、容赦はしないぞ。


「人間。女神のことを悪く言うと天罰が下るって知らないのかしら?」

「天罰ねぇ。例えばどんなのがあるんだ?」

「そうね、死とか与えるわ」

「即終了じゃねぇかッ! もうちょっとプロセス踏めよ!!」


いきなりアクセル全開でぶっこんでくんなよな!?


「女神に悪口を言ったのだから、それぐらい当然だと思うのだけれど?」

「首を傾げて見せたって、何一つとして可愛くはねぇからな?」

「あ、また言ったわね。死がひとつ積み重なったわ」

「まさかの累積性!? 来世にまで影響出るんじゃないだろうな!?」


名付けて、女神流無慈悲システム。嫌すぎるから、即座に破壊されて欲しい。


「何をそんなに取り乱してるのかしら」

「あんたが変なことを言うからだろ」

「あら、私は人間はいつか絶対に死ぬという事実を口にしているだけよ」

「伝え方に悪意があったら、必ずしも額面通りに受け取ってもらえるとは限らないと知っておいて欲しい」


絶対確信犯じゃねぇか。


「ねえ、人間。さっきから退屈なのだけれど?」

「ワガママだなぁッこの女神!!」


ジェットコースターみたいな会話につき合わせてて、まだ物足りないと申すか!


「もっと実践も交えて楽しみましょうか」

「実践?」


何言ってんだ、こいつは?


「ええ、天罰の実践よ」

「実家に帰らせていただきます」


あ、ヤバい。勢いで立ち上がるんじゃなかった。固い床の上で正座してたから、めっちゃ足が痺れてる。


「どうしたのかしら。嬉し過ぎて足腰が立たなくなったのかしら?」

「いえ、単純に足が痺れて倒れただけです」

「あら、それは大変ね。起き上がらせてあげましょうか」

「時間が経てば収まるから大丈夫だ。ホント。マジで。だから手助けとかいらないから」


なんでこんな必死に断ってるかって?

ベルベティの表情が怖いからだよ! なんだよその、獲物を見つけた猛禽類と言うか、舌なめずりする蛇と言うか、とにかく『もう逃げられない』って思わせる顔は!?


「あら、どうしたのかしら。顔が引き攣ってるように見えるわよ? そんに苦しいなら、遠慮せず私に頼りなさいな」

「いやいや、むしろこの程度で女神様の手を煩わせるわけにはいきませんし? 大丈夫です。放っておいていただいて。いや、本当に」

「そう言いつつ、どうして後ずさるのかしら?」


あんたの笑顔が怖いからだよ!

このシチュエーションで、出会ってから最高の笑みを浮かべる女神とか、恐怖以外の何物でもないわ!!


「ふふ。リアナには感謝しなくちゃダメね。退屈過ぎて、ちょうどオモチャが欲しかったところだもの。ふふ、うふふ」


本音を全く隠す気がない!?

わかっちゃいたけど、ただのドSだろこの女神!!


「ふふふ。いいわよ、その反抗的な目つき。ゾクゾクしてくるわね」

「あんた実は悪魔なんだろ。そうなんだろ」

「女神である私に向かって悪魔だなんて、本当に罰当たりな人間ね」


あ、ヤバい。壁際だ。追い込まれてる!?


「いきなり天罰じゃつまらないわよね。まずはお仕置きからかしらね」


ペロリ、と。艶めかしい舌なめずり。蛇の化身かよ。怖いわッ!


「あんたはどうやって遊ばれたい?」


いや、マジで女神のセリフじゃないだろ、それは!?

この際リアナでもマリエリでもいい。頼むからこの窮地から俺を助けてくれ──ッ!!


「誰かの助けを求める声が聞こえた気がするの!」


と、俺の祈りが天に届いたのか、大部屋の扉を勢いよく開け放ち、リアナが戻ってきた。

おお、腐っても女神。迷える子羊の祈りを聞き届けるとか、ちょっと見直したぞ。


「リアナ! リアナ、こっちだ!! おかえり!!」

「たっだいまー! え、何どうしたの遊。私をそんなに出迎えるなんて。心変わりして私をちゃんと女神と認める気になったのね」

「今この瞬間に理解した。あんたは間違いなく女神だ!」

「当り前よ。その証拠にほら、見てよこれ!」


くるりと背を向けたリアナの背には籠が背負われており、その中には大量の──、触手ッ!?


「我ながら大量。すごいでしょ、私」

「いや。いやいやいや。待てリアナ。あんた一体何を捕まえてきたんだ!?」

「何って。魔物に決まってるでしょ。外にはそれしかいないんだから」

「魔物って。え、魔物って、それ……?」

「多分! 聞かれてもよくわからないのよね。今まで見たこともないから」


え、待って。待ってください。リアナは、それを俺に食べさせるつもりで捕まえてきたの?

その、よくわからないウネウネしたモノを!?


「あらぁ、リアナ。すごいじゃない」


って、ヤバい!?

ベルベティがリアナと俺を交互に見て、すげぇいい表情をしてる!

ちょっと待て。あんた一体何を考えてる!?


「よかったわね、人間。これで生存への道は模索出来るものね」


くっそ。人のセリフを引用しやがって! 

って、そんなツッコミを入れてる場合じゃないッ。なんとかこの場を脱しなければ!!


「──ッ!?」


ドンッ! と耳元ですごい音。


「もちろん、ちゃぁんと食べるわよねぇ?」


えーっとー……?

なんか、なんか、背にしてた壁がひび割れてません? これが噂の壁ドンかー、なんてふざける余裕すらないんですけど!?


「楽しい楽しいお食事タイムの始まりよ」


にっこりと慈母の如き笑みを浮かべるベルベティを見て思った。

やっぱり元居た世界に戻りたい!!


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