第五話 女神のくせに俗っぽいよなぁ!?
「なんでこんなに武器が揃ってるんだ?」
早速リアナに魔物を捕まえてきてもらおうとしたところ、待ったがかかり連れてこられたのは、神殿内のとある一室。
そこには多種多様な武器が所狭しと並べられていた。
「さーて、どれにしようかなーっと」
「あ、おい。待てよ、リアナ!」
「遊はそこで待っててもいいのに」
「だって目を離すと何をしでかすか分からないだろ、あんたは」
「何それ!? 失礼しちゃうわ!」
「ベルベティとマリエリから言い含められてるからな」
「余計なことを吹き込まなくてもいいのに」
ちなみにベルベティとマリエリは興味がないと言って、さっきの大部屋に残っている。つくづく気まぐれなもんだな、女神ってのは。
「しかし、すげぇな。剣に槍、斧に弓。銃もあるのか」
「興味あるの?」
「べ、別にぃ……?」
「誤魔化す意味を教えて頂戴」
「武器を見てはしゃぐなんて、ガキっぽくて恥ずかしいと思ったからだよ!」
言わせんな!
「こんなのを見てはしゃぐなんて、人間ってよくわからないものね」
「男の子なら誰だってはしゃぐに決まってる。武器だぞ武器!」
「力説されても興味ないものはないの」
くそぉ、この興奮を分かち合える存在がいないなんて! こんなに武器が並んでる空間なら、一日中籠ってても飽きないぞ。
「ちなみに、武器には触らないで頂戴」
「え、ダメなのか?」
「なんでそんなに悲しそうな顔をするのよ……」
「そりゃするだろう!? 目の前に武器があるのに触るなって、男の子殺しなことを言われたんだぞ!?」
ほら見ろよ。あの剣なんかめちゃくちゃカッコいい。
「持ちたいって言うなら持ってもいいけど、たぶん死ぬわよ」
「死ぬの!? なんで!?」
怖っ。ていうか先に言ってくれ、そういうことは。カッコいい剣を前にしたら、とりあえず持ってみたくなるのが男子の性なんだから。
「ここにある武器は全部、私たち女神用なの。人間が触れたら生命力を全部もっていかれるのよ」
「なんだよそれ。呪いの武器じゃないか」
なんでそんなもんがこんなに陳列されてんだ。
「ちょっと。大主神様が用意してくれた武器を悪く言わないで頂戴。ここにある武器を使って魔神を倒すのが、私たちの使命なんだから」
「へぇ、なるほどな」
って、ちょっと待て。リアナのやつ、今なんかおかしなことを言わなかったか?
「なあ、リアナ」
「何?」
「魔神って倒すの?」
「? そうだけど?」
待て。待て待て待て。さっきの大部屋でこいつは俺になんて説明してた?
いいか、米枕遊。よーく思い出せ。そしてこの違和感をちゃんと問い質すんだ。
「あんたら三女神の役目って、この世界の浄化なんだよな」
「そうよ」
「この神殿に引きこもってるだけでも、世界は浄化されていって、五百年後には清浄な世界になるんだよな」
「そうね」
「魔神を倒すための武器って、必要なくね?」
「あ」
『あ』って言ったぞ! 『あ』って! 何だよその『バレちゃった……?』的な表情は!?
「ま、まあ。それはどうでもいいじゃない。あ、ほら。この剣なんてカッコいいんじゃない? どう思う?」
「あからさまに誤魔化そうとするんじゃねぇ。それにそれは刀だ、日本刀だ。剣じゃねぇ」
そういう細かい違い、オタク男子は敏感なんだぞ!?
「で、どうして魔神を倒すための武器がこんなに揃ってるんだ?」
「えっと~、それは~」
「それは?」
「えへへ~」
「笑ってもダメだからな?」
付き合いは短いが、それでも分かったことがある。
女神だ何だと言っているが、リアナはポンコツだろ? しょうもないミスをする、ポンコツ女神なんだろ?
「リアナ。頼む。正直に言ってくれ」
「な、なによ。そんなに真面目な顔しても、教えられないものは教えられないんだからね」
「お願いだよ、リアナ。俺、どうしてもあんたの口から聞きたいんだ」
「そんなこと言われても、言えないものは言えないの」
真剣に問い質す俺から顔を背けるリアナ。
「そうか。そんな風に言われたらしょうがないか。悪い、誰だって言いたくないことのひとつやふたつ、あるよな」
「あ、えっと……、そのね、遊」
「いいんだ、リアナ。無理に聞き出そうとした俺が悪かった。俺のために魔物を捕まえてくれるって言った、あんたの優しさに甘えた俺が悪かったんだ」
「ねえ、遊。絶対に秘密にしてくれるって約束してくれる? ベルベティにもマリエリにも言わないって、約束してくれる?」
いや、チョロいなぁ!? こんな茶番で口を割りそうになってんじゃないよ! 俺からすればありがたいだけだからいいんだけどさ。
「ああ、絶対に言わない。約束する。今から聞くことは、ここだけの秘密だ」
「絶対よ。約束したからね。あのね、さっきは説明しなかったんだけど、私たちサボってるの」
「サボってるって、何を?」
「魔神を倒すことを。本当はね、違うのよ。大主神様からは、一刻も早く魔神を倒して世界を浄化しなさいって言われてるの。だけどね、武器を持って戦うなんてめんどくさいじゃない? それにほら、私たちって女神だし。そんな野蛮なのより、もっと優雅な方が似合うのよ。だからね、話し合って決めたの。『三柱の女神がいれば世界は勝手に浄化されるんだし、神殿に引きこもってればいいよね』って」
深刻な表情でクッソしょうもない暴露話をされた。ここまでの前振り含めて、ただのコントじゃねぇか。
「わかってる。私たちもわかってるの。これはいけない、女神である私たちがこんなことをしちゃいけないって。でもね、同時に思うの。『大主神様もわざわざ監視なんてしてないし、サボっててもバレないよね』って。ダメよね、こんな女神。ねえ、遊。こんな私たちに幻滅した……?」
「した」
「え」
「え?」
「え、したの? 幻滅。したの?」
「した。普通に心底アホだなって思った」
「え、嘘でしょ?」
「ここで嘘を吐く意味、ある?」
逆に今の話を聞かされて幻滅されないって、どうやったらそんな風に思えるんだ?
「え、え。だってここは『わかってる。それでもリアナは美しい女神だ』って言う場面でしょ? そういう流れよね? テンプレってそういうものでしょ!?」
「女神がテンプレとか言ってるなよ!」
テンプレだのラブコメの波動だの、つくづく俗っぽいなここにいる女神は!
「遊。ひとつだけ聞かせて頂戴。あなた、今までの私の話を何だと思ってたの?」
「漫才のボケ」
「冗談でしょう!?」
「マジ。女神新喜劇が始まったなーって思ってた」
「何よそれ!?」
おっと、この女神様はどうやら新喜劇って概念を知らないようだ。それは惜しい。これほどの逸材が漫才を知らないなんて。
「遊だって真剣な顔をしてたじゃない。すっごく真剣に『今から聞くことは、ここだけの秘密だ』って言ってたじゃない!? 私ちょっとカッコいいって思っちゃったわよ!?」
それはどうも。だけどさ。
「あの流れ的に、ちょっとノッておこうかなーって」
「そんな軽い気持ちで女神の純情を弄んだの!?」
「あ、そこは『乙女の純情』って言わないんだ」
「私は女神よッ!」
なるほど。そこにはこだわりがあるんだな。覚えておこう。
「うわーん。女神なのに人間に弄ばれたぁあっ。女神なのにぃいっ」
「あー、はいはい。大丈夫だぞー。リアナは立派な女神だからなー」
「そんな気持ちがこもってない言葉で言われたって、何の慰めにもならないわよッ!!」
「そっか。それは残念だ。じゃあ、慰めひとつ出来ない俺は、ベルベティとマリエリに今の件について確認してくる」
キャンキャンうるさい女神はちょっと放っておこう。
「待って」
「悪いな、リアナ。いくら引き止められても、今この場で俺に出来ることは何もないんだ」
「待ちなさいって言ってるでしょ!?」
「うわっ!?」
急に襟首を掴むなこけたじゃないかって、……おい、マジか。
「逃がさないからね」
「いや、リアナ。ちょっと待てって」
「ダメ。待つなんて出来ない」
「俺が悪かったから。頼むから、待ってくれ」
「絶対に、嫌」
ヤバいぞ。今の俺、リアナに押し倒されてる。なんかすげぇいい匂いするんですけど!? っていうか、顔が! リアナの顔が真上にッ!!
「お邪魔だったみたいですね」
「……リアナ。趣味悪いわよ、あんた」
え?
「ベルベティ……? マリエリも……。な、何してるの?」
「遅いから様子を見に来たんです」
「リアナがまたなんかやらかしてないとも限らないものね」
「私は何もやらかさないよ!?」
いや、それはダウト。俺を転生させたのは、どう考えてもやらかしだろ。
「で、まあ。案の定やらかしてるわけね」
「やらかしじゃなくて、ヤろうとしてるみたいですけどね」
「? 何言ってるの?」
「リアナ。頼むから今の俺たちを客観的に見てくれ」
「客観的にって、……え?」
はい。理解してくれたようで大変よろしいかと存じます。
どっからどう見ても、リアナが俺を押し倒して襲ってるようにしか見えませんよね。
「いや、違っ。違うの、これはっ」
「マリエリ、戻りましょうか」
「賛成です」
「あ、ちょっ。ちょっと待ってってば! ねえっ!?」
背を向けるベルベティとマリエリ。武器庫にはリアナの叫びが虚しく響く。
「あ、言い忘れてたけど、本当にヤったら人間は死ぬわよ」
ちょっと待って、それ初耳なんですけど!? 振り返り様に何て言った、高飛車女神ッ!!




