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第十話 女神とは、実は憐れな存在なんじゃないか!?

「って、キッチンあるのかよ!?」

「遊、どうしたの? いきなり叫んだりして」

「そりゃ叫びたくもなるだろうが! キッチンがあるんだぞ!?」


リアナとマリエリに神殿を案内されて、一番最初に連れてこられたのが、まさかのキッチンだった。


「なあ、リアナ」

「何?」

「なんで料理をしなかったんだ?」


こんなに立派なキッチンがあるんなら、何も魔物を踊り食いじみた食べ方をしなくてよかったじゃないか!

あのビジュアルがなくなれば、食欲が低下することもなくなるんだぞ!?


「料理? って、私が?」

「そう。あんたが」

「何を?」

「魔物を」

「生でも十分いけるのに? 何で?」


おっと、クールになれ俺。話が通じないからって怒るのはよくないぞ。冷静に。冷静に対応するんだ。


「いいか、リアナ。生でも十分美味い魔物をだぞ、きちんと料理したらどうなると思う?」

「どうって、どうなるの? 遊。さっきから君が何を言いたいのか、全然わからないんだけど」

「いや、だから。料理ぐらいしようぜって話をしてるんだから」

「うん。だから、何で?」


??

???

話が、通じてない????


「え、いや、リアナ。料理は分かるよな?」

「バカにしてるの? もちろん分かるわよ。私たち女神には必要のないものだけど、それぐらいは知ってるわ」

「え」

「え?」


待て。今、こいつは何て言った?


「料理を『女神には必要ないもの』って言ったか?」

「ええ。それがどうかしたの? だって私たち女神は食事をしなくてもいいんだもの。料理なんて技術を身に着けたってしょうがないじゃない」

「マジでか!? え、じゃあマリエリも出来ないの!?」

「ええ、そうですね。する理由がありませんし。天界でも料理なんて奇特なことをするのは、一部の趣味人ぐらいですよ」


おいおいおい。冗談だろ?

料理が出来ない? 全く? 本当に?


「あ、それで言うと。食事も昨日初めてしたんだよ!」

「──ッ!?」

「遊君がものすごく衝撃を受けていますね」


いや、いやだって、そりゃそうだろ!?


「なんてこった……」

「どうして私のことを憐れみに満ちた表情で見ているのかしら?」

「だってさ、初めての食事があんなわけの分からないウネウネなんて。そんなに悲しいことがあるかよ。ごめん、リアナ。俺がもっとちゃんと気を遣えていれば……」

「涙ながらに謝られた!? ちょっと遊。平気だから、そんなに謝らなくても大丈夫だから!」

「マリエリもな……」

「あの、巻き込まないでください。涙を見せられても困ります」

「そっか。ベルベティもか……」

「き、聞いてないし」



女神ってのは、きれいで可愛くて、それだけで人間よりよっぽどいい人生を送っているかと思ったのに、まさか、まさかそんなに憐れな一面を持つ存在だったなんて。

食べる喜びすら知らないなんて──ッ、そんなに悲しいことがあるかよ!?


「よし、決めた」

「遊?」

「俺が料理をするぞ。あんたらのために、最高に美味い飯を俺が作ってやる──ッ!!」


悲しい女神たちに、食の楽しさを教えてやるんだ。

それこそが、ウニやタコすら美味しく食べ、常に食のおいしさを追求し続けている日本人としての使命なんだ──ッ!!


「なんだか、変なスイッチが入っちゃったみたいですね。どうしましょうか」

「うーん。でも、なんだか楽しそうだからいいんじゃない? 私たちも退屈してるし」


さて、そうと決まれば早速行動あるのみだ。


「まずはこのキッチンだな。これだけ立派なキッチンなら、きっと色々と揃っているに違いない。リアナ、マリエリ。待ってろよ」

「あ、それでしたら私は抜けます」

「何でだよ!?」


俺のこの漲るやる気を何だと思ってるんだ!?


「正直、料理にはそんなに興味がありませんので。美味しい食事というものも、そんなに。私の関心を惹きたければ、楽しい恋愛話のひとつでも披露してください」

「どこまでも欲望に忠実だな、あんたは」

「今の遊君も変わらないですよね」

「確かに。オーケー、わかった。どこかで興味が出たら言ってくれ」

「わかりました。では」


そう言い残し、立ち去ろうとするマリエリだったが、ぴたりと立ち止まると、こちらを振り向いた。


「リアちゃんは遊君に付き合ってあげてください。武器庫のように人間が触れれば大事故になるものが無いとも限りませんので」

「もっちろん! なんだかおもしろそうだし、そのつもり」

「お願いします。それでは、失礼します」


そうしてマリエリはあっさりと立ち去って行った。


「さて、それじゃあ始めるか」

「おー! ところでさ。遊は料理出来るの?」

「ああ、任せろ。小学校の頃から鍵っ子だったしな、簡単な料理ぐらいは出来る」

「へー」


微妙な反応……。

まあ、鍵っ子なんて言っても分からないよな。


「少なくともあんたらよりは出来るってことだ」

「そっか。じゃあ大丈夫だね! ねえねえ、まずは何から始める?」

「そうだな。最低限の器具や調味料が揃ってるか確認しよう」

「オーケー!」


って、いい返事をしてくれるのはいいけど、リアナはそれが何を指すのか分かってるのか?


「よく分かんないけど、遊に見せれば大丈夫よね!」

「ああ、うん。そうしてくれ」


やっぱり分かってなかったか。


「さてと、せめて調味料ぐらいはあるといいんだけど」


なんて俺の期待はすぐに裏切られることになるのだった。


「空っぽ。ここも空っぽ。ここもか!?」

「遊~。何にも入ってないよ~」

「こっちもか! じゃあ、ここは!? 空ッ!!」

「こっちも、すっからかんだよ~」


はい。三十分ほどかけてこの広いキッチンを隈なく探し回りましたが、包丁のほの字すら見当たりませんでした、と。


「って、冗談だろ!?」

「わ、びっくりした。もう、遊。いきなり叫ばないでよ!」

「そりゃ叫びたくもなるだろ!? 料理器具も調味料も何一つないんだぞ!?」


もはやキッチンである必要すらなくないか?

そこにあるコンロやシンクは何なんだ?


「まさか……」


思い立ちコンロと思しきものの前に立つ。それっぽいところを、慎重にいじれば──。


「あ、火は出るんだ」

「わ、すごい。見て見て遊。火が出てるわ」

「そういうものだからな。よかった、蛇口から水も出る」

「へえ~、不思議。なんで水なんか出るのかしら」


しげしげと見つめるリアナを放っておいて、思案に暮れる。

火と水だけあったって、道具のひとつもないんじゃどうしようもない。

せめて包丁とフライパンのひとつでもあれば、まだ料理の真似事は出来るのだが……。


「リアナ。他のところも案内してくれないか?」

「いいわよ」

「他の部屋に包丁とかが保管されてないか調べたい」

「オーケー。それじゃあ、別のキッチンを案内してあげるわ」

「よろしくって、は?」


今、リアナは何て言った?


「キッチンがここの他にもあるのか?」

「ええ。あと二つか三つあったはず」

「何のために?」

「さあ?」


2人そろって首を傾げる。

ひとつの建物にキッチンが二つ以上ある意味ってなんだ?

それだけこの神殿が広いってことか?


「ここで悩んでてもしょうがないし、行くか」

「おー!」


ノリのいいリアナの掛け声と共にキッチンを後にする。

ふむ。よくよく考えれば、神殿探索なんてダンジョンに潜ってるみたいで、異世界転生みがあるな。

──ちょっとワクワクしてきた。


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