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第一話 異世界転生なんて、そんな冗談が今どき通じると思ってるのか!?

新作です。頑張って続けます。

食べて寝て遊んでるだけで生きていきたい。


ぼんやりと部屋の天井を見上げながら、益体もない思考を巡らす。

特に意味のない時間。しかし人生にはこうしてガス抜きをする瞬間ってのが、必要だと思うんだ。

休みがあってこそ活力も芽生える。むしろ逆か。充実した休みを得るために、日々活力を持って生きていくんだ。


なんてな。

まあ、要は暇なんだ。

こんなどうでもいい思考に時間を費やすぐらいに時間を持て余している。


でも、高校三年生の三学期、しかも三月の頭ともなれば、ほとんどの奴が時間を持て余しているだろう。悲喜交々はあるにせよ。

幸いにして俺、米枕遊(ヨネクラ ユウ)はとある大学の附属高校に通っていることもあり、大学受験なんてイベントとは一切縁がなかった。ビバ、エスカレーター進学。

ただ、それには弊害もあり、とにかく時間を持て余す。何しろ三学期丸々暇してるようなものなのだしな。おかげで一通りアニメも漫画もゲームも堪能しつくしてしまった。


大学進学に向けて何か勉強でもしておけば、とも思うが、生憎と俺はそこまで勤勉じゃない。

そうして特に目的もなくダラダラと日々を過ごしていれば、時間は有り余り、人生について思いをはせることだってあるってわけだ。中身は全くないけどな。


「大学、行きたくねぇー」


それこそガス抜きのような呟きだ。

別に本当に行きたくないわけじゃない。今後の人生を考えたら、『大学卒業』という資格は手に入れておいた方がいいに決まってる。


それはわかってる。わかってるんだけど。


「食べて寝て遊んでるだけで生きていけたらいいよなー」


と、本当にどうしようもない呟きを漏らした瞬間だった。


「え、は? なにこれ」


間抜けな言葉と同時に起き上がる。周囲を見渡せば、俺の部屋が薄ぼんやりとした青白い光に満たされており──。


「ちょっ」


何か言葉を発する前に、俺の意識は抜け落ちた。



「もし。もしもし」


……んん?


「もしもし? 生きてる?」


……なんだよ。


「生きてるのなら生きてるって言って頂戴」


……うるさい。


「あ、死んでるときもちゃんと死んでるって言って頂戴ね」


だからうるさいって。こっちは気持ちよく寝てるんだから放っておいてくれ。


「んー、反応がないわねぇ。あ、そうだ」


ん? なんか指先に感触がって──!?


「いってぇえッ!?」

「きゃあっ」

「っつ、ってぇ。なんだよ一体」


いや、マジでなんだよ。人がせっかく気持ちよく眠ってたのに。どこのどいつだ右手の人差し指を折ろうとしてきたのは。


「…………マジで誰?」


飛び起きて見つめた先、そこには見知らぬ少女が目を丸くしてこっちを見ていた。いや、嘘。ただの少女じゃない。とびっきりの美少女だ。


揺れる焚火のような赤い髪に、夕日が溶け込んだようなオレンジ色の瞳。肌は白く輝いていて、俺がこれまでの十七年で見たどんな女性よりもキレイな少女がそこにいた。

いや、マジですごい。そこらの芸能人や声優なんて目じゃない。


「ちょっと、君。起きるならそう言ってくれないとダメじゃない。びっくりしたでしょう」


そう言ってむくれて見せる顔すら可愛い。この子の顔から眼が逸らせない。


「? どうしたの、そんなにじっと見て」


キョトンと見つめ返してくる視線に慌てて顔を背ける。痛む人差し指が、俺の意識を引き戻してくれる。


「え、ここどこ?」


知らない場所だった。

どうあっても俺の部屋と見違えることなど出来ない豪華な作りの一室。手を着くカーペットも、目につく壁や窓もその全てが、ありきたりな俺の部屋とは違っていた。


「ここ? ここは私の部屋よ」


何より違うのが目の前にいる美少女だ。まかり間違っても俺の部屋にこんな美少女はいないし、来る予定もない。ていうか来られたら困る。だって俺の部屋、完全なオタ部屋だし。


「えっと。ていうか、君は誰?」

「? 見てわからないの?」

「わからないから聞きました」


何その、わかって当然でしょ、的な答えは。

そりゃ、一度でも見たら忘れないぐらい可愛いけどさ! 逆に言えば、見おぼえないんだから初対面ってことだよね!?


「もう、失礼しちゃうわ。私のことを知らないなんて」

「だったら君は俺のことを知ってるのかよ」

「いいえ、知らないわ。だって初めて会ったもの」

「そっくり同じ言葉を返す。俺も君とは初対面だ」


それは間違いない。こんな特徴的な子、一度会えば忘れるはずがない。


「それでも、女神である私に向かって『知らない』なんて、失礼だとは思わないの?」

「何、君。自分のこと『女神』なんて言ってるの?」


痛くない? それ。


「そうよ。だって事実だもの。私は女神。女神・リアナ。敬ってね」

「敬えって言われても……。女神を自称する痛い子って印象しかないよ」

「ますます失礼ね。誰が君をこの世界に転生させたと思っているの?」


おっと。さらに痛いことを言い出したぞ。

世界に転生と来た。まあ、確かにここ数年の流行りだもんな、異世界転生は。つまりこの子も俺と同じオタクってことか。


「そういうことか。それで、俺にはどんな能力が備わってるの?」

「能力? 何、それ」

「設定だよ、設定。あるだろ、色々と。魔法の才能とか、世界最強の剣技とか、オンリーワンのユニークスキルとか。大抵は女神様が授けてくれるじゃないか」

「おかしなことを言うのね、君は。ただの女神がそんなこと出来るわけないじゃない。というか、何よ。設定って」


ははぁん。なるほどね。流行りに乗りたくないから奇を衒いたいわけだ。でもさ、そういうのって大抵ボロが出るよな。俺は違うことやるんだ!って作品もいくつか見たことあるけど、やっぱり面白いのは流行り物だったりするんだよ。


「まあ、その辺の設定はおいおい考えるとして。俺ってなんのために転生させられたの?」


魔王討伐か、はたまたダンジョンの攻略だろうか。何にしろ、目的がわかればこれから俺に起こるイベントも予想が着くってものだ。


「暇つぶしよ」

「……はい?」


え、なんて?


「だから暇つぶしよ。なんか面白いかなーって思ってやってみたの。上手くいかなかったらいかなかったでよかったんだけど、本当に転生してきたからびっくりしたのよね」


いや、したのよねって……。


「え、それ本気で言ってる?」

「もちろん」


茶化すでも何でもなく、リアナはこくんと頷く。

って、待て。さすがに、待て。


「いやいや、それは無いでしょ。能力の設定がなければ、転生した理由もないって。何それ、何がしたいの?」


まさか、自分が女神だって名乗りたいだけなんて言わないよな……?


「だから暇つぶしよ。何しろ後五百年はこの神殿にいなきゃいけないんだもの。何でもいいから暇つぶしをしたかったのよ」


さて、ここらで俺が感じている違和感について整理しておこう。

なんかさ、この子、マジで自分が女神だって信じ切ってない?

自分が作った設定で『ごっこ遊び』をしてるのとは、どうにも様子が違う気がするんだよね。なんて言うかさ、自分が女神なのは当たり前って思ってる節がある。


「もう一回聞きたいんだけどさ。君って本当に女神なの?」

「だからそう言ってるじゃない。さっきから『君』って呼んでくるし、本当に失礼しちゃうわ。敬いの心が全然ないじゃない」


あ、これマジだ。

目の前で腕を組んで不服だと言わんばかりに頬を膨らませるリアナを見て確信した。冗談でも何でもない。本当の本気で、彼女は自分を女神だと言っている。


「じゃ、じゃあ。俺が元いた世界から転生したっていうのも……?」

「だから本当よ。君は私が転生させたの」

「……マジか」


なんかもうそれしか出てこない。

え、ていうか異世界転生ってこんなに簡単に出来るものなの?


「どれだけ疑り深いのかしら。女神である私が『そうだ』って言っているのよ? 信じたっていいじゃない」

「いやいや、普通は信じられないから。だって俺、自分の部屋のベッドで寝てたんだぜ?」


あるか? そんなシチュエーションでの異世界転生なんて。

普通もっとこう劇的な何かがあるだろ。なんでこんなぬるっと転生してんだよ!?


「納得いったかしら?」

「理解はした。納得は、ちょっとまだ出来ない」

「もう、ワガママね。でもいいわ。それじゃあ、行きましょ」

「行くってどこに?」

「それもそうね。ねえ、君はどこに行きたい?」


いやいや。そこは女神様らしく導いてくれよ。

これが異世界転生なんて、そんなの納得出来るわけないだろ!?


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