お局の心の声(キモチ)
「可哀想に… 今年の新人は 何人辞めてくかな…」
「また今年も あのお局さんが新人教育係だもんね」
「あのお局さん 何人辞めさせたら気が済むのかしらね」
みんながそうヒソヒソ話してるけど… 私が辞めさせてるってのは聞き捨てならない!! 確かに私はこの会社に入社して15年経つけど お局と呼ばれるほどじゃないわよ! もっと長い人だっていっぱいいるし! 世間のお局は威張ってるじゃん!! 私は威張ったりなんかしてないし! それに新人が辞めてく本当の理由は私じゃなくて この会社の給料の安さが原因なのに! 私だってこんな会社辞めたいわよ!!
お局こと 松下恵 33才 A型 独身
まぁ 恋愛もそこそこ経験してきたけど
「この人と結婚したい」って思う人には巡り会えなかったから 寿退社もできてなくって 気付けば15年も経っちゃってたって訳で… 私自身お局になってるつもりもないし! なりたくもないし!!
みんな知らないだけで 私って以外とロマンチストなんだからね!! 寿退社を夢見てるロマンチストなんだから!
長く勤務してるってだけでお局扱いして欲しくないっつーの!!
「松下くん 今年も新人教育宜しくね」
「えっ また私ですか!?」
「君が一番相応しいんだよ、他の者には任せられないんだよ」
「でも…」
「皆が何か言ってることかい? そんなの気にする必要ないよ」
「はい わかってますが…」
「頼んだよ!」
「…はい」
また今年も新人教育かぁ… 年々扱いにくくなってきてるんだよね… 私が言うのもなんだけど、世間を知らないって言うか… 温室で育ってるって言うか… 私の世代でも 『最近の若い者は』って言われてきたけど 私達の時より数倍はパワーアップしてると思うわ! はぁ~ 気が重い…。
4月1日 新入社員入社式
今年は5人の新入社員がやってきた。
男子3人、女子2人 男子は3人とも大卒 女子は2人とも高卒
今年は珍しく男子の方が多いからか 女子社員の化粧の完璧さや 香水の薫りが…
うちの会社は とある大企業の下請け会社の工場で 社員数も100人そこそこの中小企業
男子社員より 女子社員の方が多い為 社内は大奥状態!
新入社員が1人1人挨拶をしている時
「今年の新人男子 みんなイケメンじゃない!?」
「うんうん 思う思う!」
「どの子がいい?」
「私真ん中の子がいい~」
「私は左の子~」 と女子社員がざわつき出した。
嫌な予感がする… ってか 嫌な予感しかしない! はぁ~ マジで新人教育なんて嫌なんだけど…
この先どんなことがおこるか予想できる私は ずっと下を見たまま片手で両こめかみを押さえて考え込んだ。
女子社員達が騒いでる通り 今年の新人男子はみんなイケメン!
1人はジャニーズ系 藤堂 拓海くん 1人はEXILE系 鈴木 悠真くん
1人はK-POP アイドル系 安達 流星くん
私的にはK-POPアイドル系の安達くんがいいかも!
はっ! ダメダメ! こんな感情を持ってたら うちの女子社員に見抜かれて 嫉妬の雨嵐が…
お~怖い怖い! 1ヶ月間 新人教育だけに専念しなきゃ!!
「松下さん 今年の新人男子はどんな感じですか? 松下さんが羨ましいですぅ だってみんなイケメンじゃないですかぁ! 仕事の話とはいえ あんなイケメン達と一日中密室で顔を会わせていられるんですもん」
ほぉ~ら来た!
新人教育がどんなに難しいか全く知らない お気楽な女子社員が聞いてきた
「どんな感じって… まあ みんな真面目に研修してるよ ちゃんと質問もしてくるし」
「そうじゃなくって~ 彼女とかいそうですか?ってことですぅ」
「あっ そこっ! さぁ… プライベートのことは話さないから 知りたいなら直接本人に聞いてみれば?」
「ですよねぇ~ 松下さんは気にならないんですか? イケメン君達のプライベート」
「うん 興味ない」
「そうなんですねぇ よかったぁ 松下さん綺麗だからちょっと心配だったんですぅ」
「はぁ? あのね 私はもう33才だよ! 10も離れてる男子を恋愛対象って… あり得ないから」
ああ 面倒くさい! 彼らのプライベートなんか知る訳ないじゃん! 何で私に聞くのよ! ってか 陰で人の事お局お局ってディすってるくせに 都合のいい時だけ話しかけてきて情報を得ようとするその根性! 大っ嫌い!!
2週間ほどたった昼休み時間
相変わらず我社の女子社員達はイケメン君達を囲んで 根掘り葉掘り質問も攻め!
「お~お 可哀想に… イケメン君達 タジタジだね」
私と同期で親友の真弓が お弁当片手に隣に座った。
親友こと 小川 真弓 33才 既婚者
「まぁ 確かに 今年の新人は今までになくイケメンだからねぇ そりゃ囲むわ! それにしても… 女子社員の圧がすご過ぎ!!」
「毎日 な~に根掘り葉掘り聞く事あるんだろうね?」
「だねぇ… ところで あんたはどうなのよ! 3人の中で いいな って思う子いないの?」
「あのね! 10も年下だよ! 無いでしょ!!」
「ほんとに~? あのK-POPアイドル系の子 安達くんだっけ? あんたのタイプなんじゃないの~!?」
さすが親友! 私のタイプをよ~くご存知だわ!
「確かにタイプっちゃタイプだけど、年下は無いって」
「はいはい あなたは年上派でしたね! まぁでも 男と女なんて いつどうなるか分かんないもんだし もし! もしだよ! 安達くんからアピールしてきたら 心閉ざさず受け入れなよ! わかった?」
「何? 安達くんからアピールしてきたらって… 何で安達くん?」
「いや 別に… とにかく わかった!?」
「はいはい 決してあるわけ無いエピソードですけど そうしますよ」
私は真弓が言うことを軽く受け流した。
でもこの時 何とも言えない感情が波打っているのに気付いてた…
新入社員が入社してから約1ヶ月
新人教育も終了 彼らの配属先も決まり 明日からはそれぞれの配属先での勤務となる。
「はぁ~ やっと明日から余計な気を張らずに済む~!」
「余計な気って何よ!?」
「分かるでしょうが! 女子社員からの嫉妬の雨嵐を避けるために どんだけ大変だったと思ってんのよ!」
「ああ そこね」
「そこねって…」
「いや 私は 安達くんからアピられて それを女子社員達に悟られないようにするのに気を張ってたのかと…」
「はあ? まだそんな事言ってんの? そんな事ある訳無いでしょうが! 第一 入社そうそう女子を口説こうとか考えてる奴なんかいないでしょ! もしそんな事考えてて口説いて来たとしても そんな奴信用できないし それこそ辞めさせてやるわよ!!」
「まあまあ そう興奮せず」
と言いながら真弓はニヤニヤ笑った。
「何? その意味ありげな笑みは…」
「別に~」
「何なのよ!」
「だから 別に~」
真弓にはお見通しってことかな 私の中の小さな波が…
でも まだ真弓にも言えないよ…
だって 私自身が年下の彼を思ってるかもしれないことを認めてないんだから…
明日からは顔を会わす機会も減るし そしたらこの波も落ち着くかな…
ある日の休み時間
「小川さん あの… ちょっといいですか?」
「えっ? うん …何?」
「あの… 小川さんって松下さんとよく一緒にいますよね?」
「うん いるけど」
「松下さんって 独身なのは知ってるんですけど、彼氏っているんですか?」
「わぁお! 単刀直入に聞くんだね!」
「すみません」
「ふふふっ 聞きたい?」
「はい 聞きたいです」
「何で聞きたいの? 正直に言わないと教えてあげないよ!」
「はい… それは… 正直タイプで 一目惚れしたと言うか… でも 新人教育中だし本人に直接聞いたら ぶちギレされそうで怖くて…」
「ぶちギレ!!(笑) 確かに 惠の性格なら有り得るかも」
「やっぱり!」
「そっかぁ~ 一目惚れしたかぁ~ 一目惚れなら仕方ないな! 教えてあげよう!」
「ほんとですか! はい! お願いします」
「今は フリーだよ! だからグイグイいっちゃってくれて大丈夫だよ!! ってか グイグイいって欲しい!!」
「いって欲しいって… (笑) 分かりました! とりあえず新人教育が終わったら グイグイいかせてもらいます! ありがとうございました。」
「あっ でも この事は絶対に松下さんに言わないで下さいね! 告白は自分からしたいんで」
「おお かっこいいじゃん! 分かったよ!」
「いえ 当然の事なので! じゃ ありがとうございました。」
と 安達くんが話しかけてきたのが 2・3日前 恵と新人の話をしてると ついついニヤけてしまう!
あぁー早くこの話を恵にしてあげたい!!
最近 真弓と新人の話をするたびにニヤニヤ笑うから 真弓のニヤニヤ笑いも気になるけど、安達くんの事を意識しちゃって 波が引くどころか 前より高くなってきちゃってるじゃん! どうしてくるんのよ!!
「もおぉぉぉ!」
「ん? 何?」
「何でもないよ」
「今のは何でもない もおぉぉぉ じゃないでしょ! ふふっ 悩め悩め!!」
「うっ…」
やっぱ真弓にはお見通しだ…
新入社員が入社して3ヶ月が経った頃
「二課の笹木さん 安達くんに告ったんだって!!」
「えっ!! そうなんだ…」
「笹木さんだけじゃなく 入社後から何人かが告ってるらしいよ!」
「そうなんだ!」
「知らなかったよね!」
「うん 全然知らなかった…」
「でも みんな振られてるんだって! そりゃそうだよね! 誰が誰だか分かんないうちから告られてもね…」
「だよね…」
「みんな… どんだけ飢えてんのって感じだよね」
「ん… で? どうなったの?」
「どうなったって? 安達くんが笹木さんにどう返事したかって事?」
「うん」
「知らない」
「は? 知らないって… 何で知らないのよ!」
「だって 告ったって事しか聞いてないから 気になるんなら本人に聞いてきなよ」
「…」
二課の笹木さんと言えば 誰しもがすれ違い様に振り返るほどの美人!! そんな美人から告られて 振る人なんていないよね… はぉ…
それから休み時間に 二人がよく一緒にいるところを目にするようになった。
やっぱ 付き合うようになったみたいだね… 美男美女 お似合いだ…
「松下さん」
「えっ!? あっ安達くん!? えっ 何?」
「ちょっといいですか?」
「い…いけど 何?」
ちょっと! こんな所笹木さんに見られたらどうすんのよ!
「僕の噂 何か聞いてます?」
「安達くんの噂って… 笹木さんとのことかな?」
「やっぱり聞いてますよね… でも 違いますから」
「え? 違う?」
「僕 笹木さんと付き合ってませんから!」
「え? つ…き」
「松下さんには 誤解されたくないんで 言いに来ました! じゃ 失礼します。」
「えっ? あの…」
彼は 一方的に話して行ってしまった。
そっかぁ~ 安達くん笹木さんと付き合ってないんだ~
な~んだ~ って 私 今 思いっきりニヤけてなかった!?
ヤバイ! 誰かに見られてない… (キョロキョロ) よね ふぅ~
……えっ! ちょっと待って!! 安達くん 「私には」誤解されたくないって言ったよね?… え? えっ? えっ? それってそれってそれって!!
安達くん!? 「私には」なんて言ったら その言葉の意味を私は誤解してしまうよ!!
一気に身体中が熱くなって 急にドキドキしだした。
そんな様子を笹木さんに見られていたらしく…
「松下さん ちょっといいですか?」
「笹木さん… 何?」
「ここじゃちょっと… 仕事終わったら 西通りのカフェまで来てもらっていいですか?」
怖っ! 今の見られてたのかな…
「うん 分かったよ」
「ちょっと! 今の笹木さんじゃない? 何話してたのよ!?」
「ん? 何か仕事終わったら西通りのカフェに来てくれって」
「うぅわ!! 何でよ!」
「たぶん 安達くんの事だと思う」
「安達くんの? それが何で恵を呼び出す… ! ひょっとして 安達くんに告られた? んで それを笹木さんに見られてた?」
「告… 告られてはないけど… 笹木さんとの噂聞いてるか?って でも 付き合ってないからって 私には誤解されたくないからって言いに来て… その様子を見られてたんじゃないかな だからだと思う…」
「それでか! なるほどね… で? 行くの?」
「行くよ わかったって言っちゃったし 行って自分の気持ちを話してくる」
「おっ 認めたんだ! 年下への恋」
「ま…ね」
「そっか! うん それでいい! 私付いてこうか?」
「やめてよ! 子供じゃあるまいし!」
「(笑)だよね~」
私の気持ちか… そう 私は安達くんに恋してる 認める! でも 彼は10も年下だし 付き合うとか考えてない 私はただ この気持ちを大切にしたい…
「安達くん 今日の昼休みに恵に何か言ったでしょ? それを笹木さん見てたみたいで 恵 仕事終わったら西通りのカフェまで来いって 呼び出されたみたいだよ!」
「えっ! ほんとですか!?」
「ほんと 大丈夫かなぁ 恵」
「僕 行ってみます」
「あそぅ? じゃ よろしく~」
「はい」
「遅くなってごめんなさい」
「ううん 私もさっき来たから」
「そうですか…」
嫌な沈黙だな…
「何かな… 話あるんでしょ? 会社では話せない話が…」
「はい… 松下さん 私が安達くんに告白した事 知ってます?」
やっぱり安達くんのことか!
「うん 噂で」
「彼からOKもらって 私達付き合ってるんです だから 今日彼が松下さんに言ったこと 誤解しないで下さいね!」
あの時聞こえてたんだ!
「誤解なんかしないよ」
「ほんとにしてないですか?」
「してないよ」
「こんなこと言うの何ですけど… 安達くんの回りをうろちょろして 私達の邪魔しないで欲しいんです!」
「うろちょろって…」
「ああ それと! 今日私が松下さんに言ったこと 誰にも言わないって約束してくださいね!」
そりゃ~ この事が安達くんにバレたらまずいもんね! ってか何? 回りをうろちょろするな!? 自信無さ過ぎじゃん! まぁそりゃそうか! ほんとは付き合ってないんだもんね… 何か… 可哀想な人…
「うん 言わないけど これだけは笹木さんに言っとくね! 私も 安達くんの事 好…………! えっ!?」
「何ですか?」
笹木さん越しに 店の入り口から安達くんが入ってきて こっちに向かって来るのが見えた。
「お疲れ様です」
「えっ!? 安達くん! どうして?」
笹木さんが目を見開き不安げな声で言った…
「松下さんに聞きたい事があって…」
「えっ? 松下さんに?」
「えっ!? 私に?」
ってか何で私達がここに居るって分かったの? …真弓!!
「はい」
「えっ? どうしてここに居るって分かったの?」
笹木さんの問に彼は ただニコリとして
「松下さん お借りしますね」
と言って 私に 「行きましょう」
と私の荷物をもって店を出ていった。
私は笹木さんの顔を直視できなくなり
「ごめん」 と言って安達くんの後を追った。
去り際に見えた笹木さんの顔は…
安達くんは店を出てすぐの所に立ってた。
「安達くん」
「松下さん 大丈夫でしたか?」
「えっ? うん 大丈夫だよ」
「笹木さんに何を言われたんですか? ごめんなさい 僕のせいですよね」
そう言いながら彼は歩き出して ジャケットを掛けてくれた
「ありがとう。 ううん 安達くんのせいじゃないよ! それよりこんなことしたら明日から大変なんじゃないの?」
「僕は大丈夫ですよ それにこれでキッパリ諦めてもらえると思います」
「諦めて! えっ! ちょっと! まさか!! それであの店に来たの?」
「そうじゃないです! ほんとに聞きたい事があったし…」
「聞きたい事? 何? ってか 私が明日から大変になっちゃうじゃん!」
私は少しパニックになってた…
ほんとマジどうしてくれんのよ!
あーどうしよう… 明日から会社行けない… 去り際に見えた笹木さん顔が物語ってるじゃん!!
「ごめんなさい… でも 僕が守りますから」
「え?」
何言ってんの? どうやって守るってゆうの? あーどうしよう! ほんとどうしよう!
「あの 僕が聞きたい事 聞いていいですか?」
「あ? ああ うん 何?」
「松下さん 彼氏いますか?」
「えっ! …… 彼氏? いないけど… えっ? 聞きたい事って それ?」
「はい! で? けど… 何ですか?」
「えっ? あぁ…… けど… そのうち できるわよ…」
私 何で見栄張った? できる予定無いくせに…
「じゃあ そのうちできる彼氏に 僕 立候補します!」
「えっ!!」
ちょっと待ってヤバイ! 嘘でしょ!! 何言ってるの?
「僕 実は松下さんに一目惚れしたんです だから僕 立候補します! 僕を あなたの彼氏にしてくれませんか?」
「……」
ちょっと待って!!
まさかの 告白!! もうダメだ 思考回路が…
ぼ~っとする私に安達くんはクスッと笑って
「返事は急ぎませんから」と言った。
その後私達が 何を話したのか どこをどう歩いたのか 全く覚えてないほど私の思考回路は崩壊していたようだ…
「おはよう! 昨日安達くんどうした? 行ったでしょ? あんたが笹木さんに呼び出されたカフェに! で? どうなったの? ねえねえ どうなったのよ!?」
「やっぱり真弓だったんだね! あのカフェに私達が居ること言ったの!」
「うん だって安達くんがあんたを探してたから 教えてあげただけだよ! 笹木さんに安達くんの事でカフェに呼び出されたって」
「あのねー!」
「ってか どうなったのよ!?」
「もう… ん… 笹木さん 私にこう言ったの 安達くんにOKもらって私達付き合ってるから 彼の回りをうろちょろして邪魔するなって」
「えっ!? 何それ! 付き合ってないのに?」
「うん だから私も 実は安達くんの事好きだからって宣戦布告しかけたら 安達くんが店に入ってきて… その時笹木さんびっくりしながら安達くんに 何でここに居るのが分かったのか聞いたんだけど 安達くんはあっさり 私に聞きたい事があったからって… んで ニコリと笑って 松下さん借りるって笹木さんに言って 私の荷物持って店出てったの」
「へぇ~ なかなかやるじゃん安達くん それで?それで?」
「安達くんを追って店出てから 歩きながら安達くんに 彼氏いるか聞かれて」
「うんうん」
「いないけどそのうちできるって返事したら じゃあそのうちできる彼氏に立候補するって」
「きゃーー! マジで!?」
「私に一目惚れしたって 彼氏にしてくれませんかって…」
「きゃーー! 何その告白の仕方!」
「だけど私…」
「ん?」
「その後私達が どこをどう歩いたのか 何の話をしたのか 全く覚えてなくて…」
「えっ! マジで!?」
「うん だって 思わぬ安達くんの登場と告白で 思考回路が崩壊したらしく ぼーっとしちゃってて…」
「まぁ そうだよね… で? 返事はしたの?」
「それが…」
「何よ? まさか 振ったとか言わないでよね!」
「振ってはいないと思うんだけど… 返事は急ぎませんって言われたのは覚えてるんだけど… 私がその後返事したのかしてないのか ほんっと覚えてなくて…」
「えっ 嘘でしょ…」
「だって…」
「仕方ない 本人に確かめな!」
そう言って真弓は 顎をクイっと上げて 私の後ろの方から歩いてくる安達くんの存在を私に知らせ その場を立ち去った。
「おはよう」
「おはよう 昨日はありがとう」
「ううん こっちこそ…」
あれ? 敬語じゃなくなってる?
「昨日僕 眠れなかったよ 嬉しすぎて…」
「嬉しすぎて? あの… ごめん 私 店出てからの事 よく覚えてなくて…」
「あっ やっぱり! (笑)何かぼーっとしてたから そうかも…って思ってた」
「ごめん… 私 何か言った?」
「うん 言ってくれたよ」
やっぱ何か言ってたんだ! 何て言ったんだろ… 聞くのが怖いけど…
「何て?」
「教えない」
「えっ!? 教えないって… 何で 教えてよ!」
「今はまだ教えない! けど その様子じゃ覚えてなさそうだから これは教えとくね 僕は昨日 立候補した事が当確して 彼氏になったからね!」
えぇーっ!! かっ 彼氏!! って事は私返事したんだ! ってか何でこんな大事な事覚えてないのよ!! ああー もぉー 私のバカ!! でも 何て返事したのか… ほんっと覚えてない…
安達くんは おろおろする私を見て
「(笑) さっ! 今日も一日頑張ろう (耳元で)恵」
そう言って彼は 自分の部署に向かった。
恵って… ヤバイ! また思考回路が…
その日の昼休みに真弓から 安達くんが 私に彼氏はいないのかと聞きに来たこと 私に一目惚れしたってこと 告白は自分からするから黙っててと頼まれたことを話してくれた。
真弓のニヤニヤ笑いは 安達くんの気持ちを知ってたからだったんだ! だから 安達くんからアピられたらって 安達くん限定発言だったんだ!
ありがとう真弓 黙っててくれて… お陰で私 今めっちゃ幸せ気分だよ…
私がどう返事をしたか… 彼は未だに教えてくれない… 自分だけの宝物にしたいからだって… って事は 普通の返事の仕方じゃなかったって事だよね! 怖いからもう 聞かない事にしよう…
だって…
来月 新しい命が誕生するから!
そう! 私は夢だった寿退社をし 家庭で彼を支えている。
ー完ー