見知らぬ少女
どのくらい時間が経っただろうか。
ユイが目を覚ました時には魔法陣の光は消え失せ、1人の少女が立っていた。
「ーーー,ーーーー」
少女は喋りかけているが、ユイには聴き慣れない異国の言葉だった。
「ん…?」
意識がはっきりしてきたユイは、起き上がって少女の顔を見て驚いた。
顔はユアに似ているが、ユアより髪の色が明るく二藍色をしており、長く伸びた髪は後ろでひとつ結びされていた。
驚いたのは世間一般的に魔女のイメージの服装のコスプレをしていたのだ。
少し派手な。
「あなたは…誰?えっと、Who are you?」
「ーーー,ーーー」
何語なのかさっぱり分からない。
「どこの国の人なんだろ…?」
手を顎の下に添えてユイが考えていると、少女は先程の言葉とは少し発音や雰囲気の違う言葉を発し、ユイの方に右手を伸ばした。
伸ばされた右手から魔法陣が出てきたと思うと、魔法陣は生き物のように動き、ユイを包み込んだ。
「えっ?な、なに?!」
数秒すると光と共に魔法陣は消え去り、ユイに少女が話しかけてきた。
今度はユアにも分かる日本語で。
「あなた大丈夫?」
「えっ?急に言葉が…!」
「言語取得術、という術を使ったの…それで、あなた気絶してたみたいだけれど、一体なにがあったの?」
「えっ、えっと…っ…」
事情を説明しようとして言葉が詰まった。
言葉ではなく涙が溢れた。
「っう…ユア…お母さん…お父さん…うぁああああああ」
泣きじゃくるユイの背中を少女は優しく撫でた。
撫でられた背中から直接少女の優しさが伝わってくる。
暫く泣いていたユイも少し落ち着きを取り戻してきた。
ポツポツと、昨晩から両親が書斎から出てこず、朝にはユアが目の前で魔法陣に取り込まれた事を話した。
「辛い思いをしたのね…」
「ぅぐっ…私が無力のせいで…姉も両親も…っ…」
「その後気絶してしまったのね…?」
「うん…。何かに吹き飛ばされて…」
「なにか…?」
「後ろだったから分からなかったけど、黒くて大きな生き物が、魔法陣から出てきて…」
「黒くて大きい…」
「それであの…天井壊して出て行ったみたい…私吹き飛ばされて気絶したみたいだから…」
そう言いながら、天井のあった部分を指差した。
壊れた天井から見える空には、大きな鳥が飛んでいくのが見えた。
鳥に見えたそれは、鳥にはない手足が付いる。
「なっ!?なにあれ…」
「?…ああ…グリフォンね?知らないの?」
「え…あのゲームとかによく出てくる…へ?!」
グリフォンは確かに空を飛んでいた。
「なんで…グリフォンが…?」
ユイの頭の中はフル回転していた。
「もしかして私…アニメとかで有名な異世界に来ちゃったの?!」
頭を抱えながら空を見上げるユイ。
その姿を見ながら隣に立っていた少女は口を開いた。
「…この世界はグリフォン居ないんですの?」
そう呟きながら空を見上げた。
その瞳にはなにが映されているのか、どんな表情が込められているか、ユイには分からなかった。
「い、いるわけないじゃん!…え?この世界はって事は…まさか、あなた異世界から来た人?」
「ええ。そういえば自己紹介まだだったね。私の名前はレミュア。マクフ王国の専属魔術師」
「魔術…」
魔法関連の言葉に少し心が痛むユイ。
「あなたは?」
「わ、私は龍泉ユイ…」
「呼び方はユイで良いかしら?魔法使い同士よろしく」
そう言ってレミュアは手を差し出した。
「えっ…?私が…魔法使い…?」
魔法が使えない自分が魔法使いな訳がないと思っていたユイはレミュアの言葉に心底驚いた。