婚約破棄したい僕の、正しい女王の育て方!
少し前に書いていたものです。
よろしければご覧ください。
死んだら目が覚めた……と、いうと少し妙な表現である。
が、言葉の通り、僕は死んだら目が覚めたのです。
思い出すのはつい先程までの僕自身。
「とっとと歩け!」
「いや、もうちょっと優しくしてくださいよ!」
どうして僕がこんな目に遭わないといけないんですか!?
僕は手枷を付けられて、炎天下で熱せられた地面を素足で歩かされている。
「あっち、あっちぃ!? 火傷しちゃいますよ!? せめて靴を履かせてくださいよ!」
目前には処刑台……僕はこれから断罪されようとしていた。
「なんで僕がこんな目に遇うんですか!? 嫌ですよ! 離してくださいです!!」
「黙れっ! 大人しくしていろ!」
執行人が無理矢理僕をギロチンに繋いでしまう。僕は何も悪くないのに、悪くないのに……なんで殺されなきゃいけないんですかっ!?
そう、僕は何も悪くない。
悪いのはすべて妻であり、この国の女王、シャネルニー・エルメスである。
妻はこの国、ヴィトン国、国王陛下の一人娘である。
僕はそんなシャネルと幼き日に婚約させられてしまう。
というのも、国王陛下には第一妃しかおられなかった。
その理由は、国王陛下が大層妻の妃様を愛しておられたからだと聞く。
しかし、そのせいで側室を持たず、妃様が子を生めない体になったと知ったあとも、陛下は世継ぎを誰とも作らなかった。
その結果、シャネルは婿養子を取らざる得なくなる。
シャネルはとにかく手がつけられないほどの我儘娘で、何人もの婚約者候補の子息をけちょんけちょんに罵倒して、世継ぎとなる婚約者が決まらずにいた。
そんな中、何故だか辺境の地に住まう僕のところに国から使者がやって来た。
確かに僕の家は伯爵家ではあるが、何で僕なんだ!?
その理由は凄く簡単なものだった。
彼女が公爵家の子息を一人残らず罵倒した結果、相手がいなくなってしまったのだ。
そんな折り、たまたま見た僕の顔写真が気に入ったらしく、僕が無理矢理婚約者に選ばれてしまったというわけです。
だけど、伯爵家の僕が我儘放題の彼女を止められるわけもなく……っていうか、怖くて止めなかったけど……。
とにかく、それが原因でクーデターが起きてしまった。
結果、王家の人間が断罪されることとなる。
「殺せ! 殺せっ!!」
聞こえるのは耳を塞ぎたくなるほどの罵声の数々。
「なんで……こんなことに」
いや、確かに僕は今となってはこの国の王様だけど……無理矢理王様にさせられたんだよ!
「やめてよぉぉおおおおおおっ!? 僕は無実だよ!!」
声が枯れるまで叫んだけど、僕の言葉が受け入れられることはない。
大声は虚しく観衆の罵声に掻き消されていく。
「悪く思うなよ、王様。あんたの妃が悪いんだからな」
「そんな……僕悪くないよね?」
「……あんたもついてないな」
力なく呟いた声音は、同情の言葉を連れて返ってくる。
同情なんていらないから助けてくださいよ!
涙を流す僕を、申し訳なさそうに見つめる執行人。
瞳を潤ませながら「助けて」と小さく囁いた僕の言葉に、首を横に振る。
執行人のため息と共に、重たい鉄の塊が落ちてくる。
ドサッと鈍い音が鳴り響き、俯いて見えるはずのない青空が視界に広がる。
最後に目にした青空は雲一つなく、嘘みたいに晴れ渡っており、とても綺麗だった。
こうして……僕は死んでしまった。
死んだはずなのだけど……。
「あれ? なんで僕は生きてるんですか?」
何気なく周囲を見渡すと、見覚えのある懐かしい光景。
「ここは……僕のお部屋ですね」
確かに僕の部屋なのだが、僕がこの屋敷に住んで居たのは六歳の頃まで。
六歳の頃に国から迎えが来て、僕は六歳という若さでシャネルと婚約させられる。
以降、立派な王様になるための教育をお城で受けさせられるはずなのだ。
「なんでですか? なんで僕は実家に居るのですか?」
もう何がなんだかわからない。
確かに僕はさっき処刑されたはずなのに、気がつくと懐かしき我が家。
ふと、自分の手に目をやると……小さい。
「んっ!? これは幼児の手じゃないですかっ! って……声が異常に高いです!!」
違和感に気づいた僕は、近くの姿見に映り込む自分自身に目を向けて……驚愕に固まった。
「わわわ、若返っています!? こ、これは間違いなく幼き日の僕ですよ!!」
数分、姿見に映る自分自身とにらめっこをして、これは夢なのではと頬をつねってみる。
「い、痛いですっ!?」
自分でつねったとはいえ、あまりの痛さに涙が出ます。
ごしごし目元を袖で拭い、冷静に考えます。
「僕は……過去に戻ってきたのですか? 所謂タイムリープというやつですかね?」
だとしたらついてるぞ!
僕はシャネルと婚約する前の過去に戻って来たんだ!
「やったぁー! 僕は王様にならなくていいんです! つまり、処刑台に送られることもないわけですよ!」
一人歓喜の声を上げて小躍りしていると、
「アレン、準備は出来たか? そろそろお城に向かうぞ!」
「え……っ!?」
ノックもせずに父上が部屋に入って来るや否や、あり得ないことを口にする。
「ち、父上! お、お城って何のことですか!?」
「何をわけのわからないことを言ってるんだ。つい先日シャネルニー姫と婚約したばかりだろう。これからお前はヴィトン城に住まわせてもらい、立派な婿王として責務をまっとうするために教育を受けるのだろ!」
「そ、そんなぁ……」
僕は膝から崩れ落ち、ショックのあまり意識を失ってしまいました。
次に意識が覚醒したとき、僕はふかふかのベッドに寝かされていた。
「あら、目が覚めたようでちゅわね!」
「げっ!?」
シャネルだっ!? 紛れもなく六歳の頃のシャネルだよ!
「聞きまちたわよ。わたくちに会えるのが嬉しくて、歓喜のあまり意識を失ってちまったと。うふふ。お可愛いでちゅわね! チュッ!」
驚愕にフリーズする僕を無視して、シャネルはベッドに両手を突き、そのまま僕の額に唇を押し当てた。
シャネルはとても我儘なのだけど、とても可愛くて、僕を愛してくれている。
本人曰く、一目惚れらしい。
しかし、彼女の我儘で僕が処刑台に送られることは紛れもない事実なんだ。
なんとか婚約をなかったことにしたい。
「あの……」
「あらいやだ、照れていらっちゃるのね! お可愛いでちゅわ!」
言えない……婚約をなかったことにしてくださいです、なんて言えるわけないよ。
頬を染めて喜色満面を向けてくる彼女に、そんなこと言えるわけないですよ!
仕方ない、こうなったら……一から僕が彼女を立派な王女様に教育してあげるですよ!
それが最悪の未来を……僕を救う唯一の方法です!
この日から、僕の彼女……悪役王女を立派な王女に育てる苦悩の日々が始まった。
お読みいただきありがとうございました。m(_ _)m