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ココハ魔導学士のかえりみち  作者: 倉名まさ
第二話 隊商
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②騎鳥

「やっぱり、イハナさんたちの”騎鳥”って、近くで見るとすごい迫力ですね」

「ふふーん、でしょでしょー。ココちゃん、なでなでしてみるー?」

「と、とりあえず遠慮しておきます」


 ちょっと気圧された様子のココハに、豊かな胸を張って自慢げなイハナ。

 イハナ隊の機動力の秘密。

 それが、ココハの目の前にいる騎鳥(きちょう)と呼ばれる鳥の存在だった。

 全長は馬や牛よりも一回り大きく、にょろりとした長い首、ずんぐりとした胴体を赤茶色の羽毛が覆っている。細長い四本の脚も特徴的だ。

 地を駆ける動物では最速と云われているほど足が速く、大型の馬車を二頭で引けるほど馬力もある。

 主に砂漠の民たちがこの騎鳥を乗物として使っていたが、この国ではあまりメジャーな存在ではない。

 イハナ隊はどこでどう手に入れたのか、この騎鳥を四羽も所有していた。

 隊員たちは慣れた手つきで騎鳥に小川の水を飲ませていた。

 彼らがココハを待つのに小川のほとりを選んだのは、騎鳥のためだろう。

 イハナを含めた十人の隊員、四羽の騎鳥、それと騎鳥に牽かれた荷馬車、以上がイハナ隊の構成員すべてだ。

 ココハはイハナ、エステバン、それとテオ以外の隊員の名前は知らなかったけど、自己紹介はひとまず後回しにされた。


「さ、ココちゃんも来てくれたことだし、しゅっぱーつ!」


 イハナが元気よく号令を下し、隊商たちは騎鳥の手綱を引いて歩きはじめた。

 きちんと隊列が決まっているみたいで、若い隊員が先頭をつとめ、副隊長のエステバンと荷馬車は隊のまんなか、隊長のイハナは最後尾だ。ココハもイハナの隣りに並んで歩く。

 丘の道は、上り下りが交互に繰り返され、上り坂続だったそれまでとはまた違ったキツさがあった。


「ん~、出発の日がいい天気でよかったねえ、ココちゃん」

「はぁはぁ……は、はい……」

「魔法使いのガッコウのお友達とは、ちゃんとお別れのあいさつしてきた?」

「はい……。卒業式の後で……。はぁ、はぁ……それに、お世話になったみなさんにも……」

「そっかそっかー、ココちゃんはえらいなー」


 道中、イハナはまるでピクニックでもしてるみたいに朗らかな声でココハに話しかけ続けた。

 けど、ココハはそれに返事するのもやっとだった。

 隊商の足取りは格別急いでるふうには見えない。

 けれど、一挙手一投足に無駄がなくて、緩急ある丘の道もスタスタと進んでいく。

 荷馬車を引く騎鳥も涼しい顔だ。

 サラマンドラから離れるごとに道の整備もいいかげんになってきて、木の根や石ころが散らばるでこぼこした道になってきた。


 ココハは足元をすくわれないよう下を向いて気をつけて歩いていたが、隊商の者達は悪路を少しも苦にしてない。イハナものほほんとおしゃべりを続けながら、変わらぬペースで歩いていた。

 根っこが田舎育ちな上、学士時代、採取や実習でよく郊外に出ていたので、ココハは体力にはそれなりに自信があった。

 けど、旅を基本にしているベテランの隊商とココハではまるで次元が違うみたいだ。

 歩く速さや移動の上手さでいったら、彼らは冒険者以上かもしれなかった。


 ―――気軽に同行をお願いしちゃったけど、もしかしてわたし、すごい足手まとい……?


 ココハの中にあせりが生じる。とにかく必死で彼らの移動についていった。


「ふぅ、ふぅ……」


 息が上がりそうになっているのを気取られまいと、イハナが話しかけてくるのにもなるべく答えようとする。

 そんな矢先、


「隊長」


 前を行っていた隊商の男の一人が、イハナのすぐ横まで戻ってきて、なにやら耳打ちした。


「んー、やっぱそうなっちゃうかぁ」


 イハナはふんわりした声で、ほんの少し思案するみたいに眉を寄せた。

 男にうなずきかけ、それを受けた男は前列へと戻っていった。

 不安に思ってココハはイハナに近づき、


「イハナさん、なにかあったんですか?」

「あ~、ちょっとね。このままのペースだと日暮れまでに次の野営地に着けなさそうっぽいなーって」

「え……ええっ!?」


 のほほんと告げたイハナの言葉にココハはうろたえた。


「そ、それってわたしが歩くの遅いからですよね」


 顔をあおざめさせて問うココハに、今度はイハナの方があわてる番だった。


「ちがうちがう」と大きく手を振って早口で、

「ぜんぜんちっともココちゃんのせいじゃないから。もともと出発もちょっと遅めだったし」

「それも、わたしが遅くなったから……」

「だ~か~ら~、ココちゃんのせいじゃないんだって」


 イハナはココハの肩に手を置いて、安心させるように笑顔をつくった。


「それに全然心配するようなコトじゃないの。こーいう時のための”騎鳥”なんだから」

「え、えっと……?」


 イハナはココハにウィンク一つして、コホンと咳払い。前を向いて、


「全隊―――騎乗!」


 堂々とした声で号令をかけた。

 まるで軍隊長のような威厳があって、聖歌隊のように張りのある朗々とした声だった。

 それまでのふわふわした物腰とのギャップもあって、その横顔が途端、毅然として見えた。


「おう」


 短く答え、隊商の面々が次々に騎鳥にまたがった。


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