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歩くということ

「死にかけだって、空を仰ぐ」第二話です。

洋ゲーよろしく、何もわからない、チュートリアルもないで草原に放り出された俊。

携帯もなし、食料もなしに彼は果たして生きて草原を出られるのでしょうか?

「めっっっちゃくちゃ何もない!なんで!?」


 俊はついに我慢の限界に達してそう叫んだ。

 歩き始めた頃にはまだ高かった陽が、すでに地平線に沈み始めている。

 辺り一面の黄金の海は、日が暮れるごとにさらに美しさを増していったが、それはつまりは周りの景色が全く変わらないことを示していた。一歩一歩踏み出すごとに、豊かな土壌に足をすくわれそうになって体勢を立て直す。

 群生する植物たちには恵みである豊穣の大地も、その上をその娘たる金色の植物の根茎(こんけい)を踏みつけて歩く者には厳しかった。それもそのはずで、俊はこの土地を歩き始めてからずっとローファーのままであり、何度もつまずき、変な方向に力を加えられた足の指にはもう、(いく)ばくの靴擦れができていた。


「腹減った…」


 不安定な足場は、俊の体力も少しづつ吸い込んでいった。

 幸いあたりの気温は暑くもなく、寒くもないくらいの適温で、かく汗もそれに比例して時折吹く心地いい風に乾かされる程度に抑えられてはいるが、足の疲労と、つのる空腹には対した得もなかった。

 もうしばらく歩き通し、俊がこれまで口にしたものといえば胸ポケットのフリスケくらいのもので、最初のうちは几帳面に一粒ずつ食べていたそれも、途中からは一度に二粒、三粒一度に食べるようになって、とうとう少し前に最後の一粒を食べてしまっていた。

 それも豆の一粒にも満たないミント菓子では腹の少しも膨れない。

 俊の腹が(せき)を切ったようになり始めた。


「…俺、ここで死んじゃうのかな」


 俊は制服が汚れることを気にもする事無く、日光を取り込んで暖かくなった土に腰をどさっと落とす。

 縁起でもないと自分で思いながら、今、確かに直面している問題に効果的な解決を見つけ出そうと、空腹で集中のきかない頭を絞って考えた。


「…もしかしてこれ、食べられるかな?」


 俊が目をつけたのは辺り一面に生えている植物が、そのてっぺんにつけている稲の穂のような小さな塊だった。

 別段食欲を失せさせるような見た目や、色をしているわけでもなく、むしろ空腹に身をよじらせている今であれば、美味に感じるではないかとさえ思えた。


「食べてみるか…」


 俊は力のうまく入らない手でもって穂を手に取ると、固まった粉物をほぐす要領で指を動かした。

 ポロポロと落ちる粒は、いくらか地面にこぼれ落ちながら俊の手に収まった。

 俊はその光景に、溜まる唾を飲み込んだ。


「…よしっ」


 ついに覚悟を決め、手のひらの粒をひょいと口に放り込んだ。


「うん、うん…」


 ゴリゴリと少し硬い粒を咀嚼(そしゃく)する音が頭蓋に伝わるのを感じつつ、舌は丁寧にその味を吟味していた。

 食感は落花生のものに似ていて、粒を覆っていたであろう、薄皮の部分が口の中に奇妙な食べ辛さを残したが、味の方は落花生というよりもむしろ、節分にまく豆のような、噛むと少し酸味が広がる不思議なものだなと俊は思った。

 毎日食べたくなるような味でもないが、かといって不味くもなく、俊はまた一つ、また一つと穂に手を伸ばし、指でつまんでほぐしては口に放り込んだ。


「こんなに身近に食料があったとは!」


 四、五本分の粒を食べる頃にはすっかり腹の虫も鳴き止んで、元気が出てきた。

 ずっと嫌がらせを受けていると思っていた大地に助けられることになった事実に、多少皮肉を感じはしたが、俊は素直に植物と、それを育んだ土地に感謝した。


「よし、闇雲に歩いてちゃダメだ、方向を一つに絞ろう」


 平行に降り注ぐ真っ赤な陽から、目を守るように手をかざす。向かう先に、自分の目指すところがはたして存在するかは(はなは)だ疑問であったが、進むより他あるまいと覚悟を決める。

 顔を突き刺す一線の光を遮って、俊は沈む太陽に靴擦れに痛む足を引きずり気味に、また歩き出した。



 それからしばらく歩き、陽はすっかり地平線の彼方に消えて月明かりと雲が地面に影を作り出すと、あたりはぐっと寒くなってきた。

 俊は今まで脱いで手に持っていたブレザーを羽織ってボタンを留めている。特に入り用を感じないメガネも、今はポケットに入ったままである。

 風は止み、金色の植物もすっかり月明かりに染まって銀色の輝きをたたえていた。

 景色は空の色が移っていく以外にやはり変容を見せず、どこまでいっても植物の海原が広がっているだけであった。

 今夜は野宿だな、と腰を下ろして歩きつかれた足を畳んだ。

 生まれてこのかた野宿などしたことはなかった俊だが、この時ばかりはそのやり方や、周りの土やその上を這っている虫が気になることはなかった。

 虫といえば、この辺りでみる虫は少し変わっているなと俊は思い出した。

 はじめに虫を見たのは歩いている途中、3回目くらいの小休止をとった頃合いだった。


 穂の上を跳ねるものを見つけて目をこらすと、蝶のような、バッタのような奇妙な昆虫が、ちょうど穂のてっぺんあたりで止まっているのを見つけた。

 特に俊は虫が苦手というわけでもなく、むしろ興味がある方であったが、そのヘンテコな容姿に驚いてしまったことは言うまでもないだった。

 その昆虫は、しばらくじっと動かず腹らしきものを深呼吸のように上下させていたが、何か思い立ったようにその動きを止め、ぴょんぴょんと助走をつけるような動きをした後、大きな羽を広げて何処かへと飛んでいってしまった。

 昆虫が穂の中に卵を産みつけていたのだと知ったのは、植物の穂の間から幼虫らしき小さな昆虫が出てくるのを見た後のことだった。

 幼虫の見た目がグロテスクだったわけではないが、今まで食べていた穂にも入っていたかもしれないともうと気分が悪くなって、それからは穂の粒を食べていない。

 それからも気になって時々見かける地面を這う虫や、植物の腋芽(えきが)に擬態していた虫などを観察してみたが、どれも見かけない、奇妙な虫ばかりだった。

 俊は、自分の身に何か起こったにせよ、今いる場所はもしかすると自分の知っている場所ではないのかもしれないと言う思いを募らせる。


 そんな漠然とした不安に、どことなく感じる口の渇きと、少し物足りなさそうにしている腹をさすりながら、俊は土の上に寝転がって目を閉じた。


「ん?」 


 俊の聴覚がちょろちょろとどこから水の流れる音を聞いた。

 最初は聞き間違いかと思ったが、恐る恐る耳をすますと今度もやはり、水が何かに当たるような、そんな音が聞こえた。

 俊は今まさに眠りにつこうとしていたその身を勢いよく起こすと、慎重に耳を傾けて、音の出所を探った。

 方向を見失わないように、ゆっくりゆっくりと耳を頼りに歩みを進めていく。

 すると目の前に、今まで見ていた植物の群れとは違う、もっと背の低い、若い緑色の植物が見えた。

 その向こうには幅の広い、川のような水の流れがある。


「よし...よし...よぉおし!」


 半日ぶりに金色の植物以外のものを見つけた嬉しさに思わずはしゃぎ、若草を踏みつけて、靴の中に水がしみるのを構わず川に向かって走った。


「っぷはー!生き返るぅー」


 手のひらから溢れるほどの水が喉を通り、干からびた声帯を潤した。

 穂粒で鳴る腹は抑えることはできても、喉の渇きまでは満たせない。

 ずっと我慢していた後の出来事であったので、俊は腹から水の音がなるくらいまで、目一杯飲んだ。

 どうせなので顔も洗おうと川に顔を近づけると、夜の闇で鏡のようになった水面に自らの顔が映し出された。


「なんだろう...これ」


 その顔には目の下あたりに、自分の見たことのないあざのようなものが移っていた。

 見間違いではないかと目をこすり、汚れではないかと指先であざをこするが、それは確かに俊の顔に刻まれていた。

 しまっていたメガネを取り出してかけてみても、そのあざは消えず、むしろそれが刺青のようなものだと言うことがわかった。

 涙の跡ようで、垂れ下がる青龍刀のようにも見える刺青は、照らす月明かりに反応するように淡く光り、水面に揺れていた。

 そこに写る顔は紛れもなく俊自身のものであったが、毎朝鏡の前で歯を磨く時に見る平凡な顔に一体いつ、こんな厳つい刺青が入れられたのか、思い出そうとしても思い出すことができないでいた。


「んー考えても仕方ないか!」


 そもそも、自分は一体全体、なんであの植物たちのど真ん中に放り出されていたのかすらわからないのだ。

 それ以前に起こったであろうことなど、到底わかるはずもなかった。

 唯一覚えているのは、下に落ちる感覚と、とてつもない死への恐怖心。

 しかし、それを手掛かりに何かを追おうとしても頭痛に見舞われる始末では、思い出そうとするだけ無駄に思えた。


「明日はこの川に沿って歩いてみるか」


 川の向こうには水の流れ以外、未だ何も見えないが、下りながら歩いていけばまた、何かに突き当たるかもしれない。

 この場に行き着いたことが励みとなって、明日への活路が見えてくる。


「あいつらも無事だといいな...ん?」


 もし、自分がこんな目にあっているとしたら、将吾や、圭、そして智香も今大変な思いをしているかもしれない。そう思って俊は教室で見た光のことを思い出した。


「そうか...あの時、教室で...」


 三人と放課後東京湾に現れた巨大帆船を見に行こうと約束した後、教室は謎の光に包まれて、俊が視界を取り戻す頃には深い縦穴を落ちている途中だった。

そう思うと、言いようのない焦りがこみ上げてくる。将吾や圭は頑丈だからまだ良いが、智香ではこの状況でどうすればいいのかわからないまま、きっとオロオロしているだろう。

 この場所から抜け出すことを再び強く思って川から上がろうとした俊は、川に入る前には鳴いていた虫らしきものの声が聞こえなくなっているのに。

 些細な違いだったが、耳に入ってくる情報として記憶していた状況との大きな齟齬に、俊は不安になる。

 間違ってもバシャバシャなどと音を立てないようにゆっくりと辺りを見回す。

 そして、俊は目にした。

 川上に立つ...大きな影を

なんとか、間に合いました!

今はまだ、勢いが先行しているので頑張っていますが、これがどこまで続くか見ものですね!嫌なんでお前が言うんだよという...笑

未だ「第一村人」とすら遭遇できていない俊ですが、次回は何やら「何か」に遭遇できそうです。

また、一話を読んでくださった方はわかると思いますが、小説の題名を変更しました!(語呂の問題です)

フリスケはどう考えても...フリスクですね。オリジナリティなくてすいません。

感想など、未だ掴めないところがあるかとは思いますが、文章構成の観点からでも、どしどしくださいね!

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