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あれは誰だ?

 元々おかしいと思っていた。

 神ことルキアを、帝国の人々が心酔し、あそこまで盲目的に狂信するなんて、間違いなく理由があるはずだ。

 俺の見立てではおそらく、精神支配系の強力なアビリティが広範囲に渡って作用しているんだと思う。

 なぜか俺には効果が無かった訳だが、リリームにも効いていないという保証はどこにもなかった。


 そうなると、帝国で初めて会った時からルキアを心酔してて、ルキアのためなら俺を切り捨てるつもりだったんだろうか。


 はは……我ながら滑稽だな。

 気分が悪い。あぁもう……! リリームの事を考えるのは後だ、後!


 リリームは今、俺のカバンからあのユニコーンがくれた仮面を取り出して持って行った。あれを魔導器だと思っていてくれたならありがたい勘違いだ。

 チカ姉に託された傲慢の仮面とやらは、俺の懐に隠してあった。


 ぐっ……もう視界がぼやけてきた。全身を寒気が襲ってくる。

 背中の傷口だけがずきずきと熱い。

 一度立ち上がる事も厳しい。


 このままだと俺は出血多量で確実に死ぬ。

 早いとこチカ姉に回復してもらいたい所だが、さっきから思念が繋がらない。

 何かあったのだろうか……?


 ドオオオオオオ!!!


 !? この轟音……遠目に見えるのは白ずくめの白い少年。

 光の槍や剣の大群を、人化したチカ姉に飛ばしている。チカ姉は何とか避けようと飛び回るが……ダメだ、あれじゃ追い付かれる。


 光の武器の群れはついにチカ姉を捕らえ、球状に群がってゆく。遠目からじゃ白い光の球が浮いているように見えるが……

 やめろ、そこにはチカ姉が入っているんだ!

 その槍を離せ! やめろ……ルキア! あぁ……


 ルキアの奴は、チカ姉を包む光の球ごとあの槍で貫いた。光の武器どもが散ってゆく中、槍はチカ姉の腹部を貫通していた。

 いつもなら腹を貫通された程度じゃ致命傷にはならない。ならないが……


 チカ姉は槍の先端で項垂れてぴくりとも動かない。

 ルキアはチカ姉ごと槍を地上へ投擲した。

 そして木々の影に隠されてチカ姉もルキアの姿も見えなくなった。


 負けた……んだ。チカ後があの化け物(ルキア)に。

 俺が助けに行かないと……あぁ……なんで俺の体は動かない?


 コランダムの能力封印のせいか?

 ……いや、それもあるが血が足りないんだ。


 意識が……霞んできた。そろそろヤバイかも……


 立ち上がる……事も無理だ。

 俺はここで何もできずに……死ぬ……のか?


 ――魔導器。


 死にかけの脳裏にその言葉が浮かび上がる。


 あれって何だっけ。そうだ、ルピナスが暴走して国を崩壊させた原因だ。

 ルピナスはあれを体内に入れちまったから暴走したんだ。


 確かコランダムかラプラスの奴も言ってたな。

 適合する者が魔導器と接触すると、魔導器に宿る邪竜の悪意に乗っ取られるって。


 ……最後の賭けだ。

 成功する可能性はほぼ無いに等しい。だが、ゼロではないのだ。

 コランダムが俺に能力封印を施した理由はひょっとすると――


 まだ辛うじて腕は動く。

 俺は……ズボンのポケットにアレを入れてたハズだ。


 力のまともに入らない手でポケットからそれを取り出し、震えながら顔に装着する。


 頼む……傲慢の仮面よ……


「俺に力を!!」












 ―――


 個体名 ヒカリ=シャクヤ

 種 族 焔魔人


 H P 14950

 M P 25680


 膂力 9500(+15000)

 防御 9650(+15000)

 =======


 ―――



 あれはヒカリなのか?

 服装は間違いなくヒカリのものだし、あのブロンドの髪はおそらく能力封印を解除したって事だろう。

 完全解除の条件は確か三回、一時解除を行う事だってコランダムが言ってた。って事は、これからはヒカリと一緒に戦えるって事?


 やったの……うっ……


 わたし瀕死なの忘れてた。

 よし、ヒカリにこの槍抜いてもらお――


「があああああああああああああああああああああああ!!!!」


「化け物だああ!! ルキア様を守れええ!!」


 ルキアが吹っ飛んだ方向へ、帝国の連中が駆けてゆく。それらをめがけてヒカリとライオンは同時に拳を叩きつける。その衝撃で地面に地割れが発生した。

 瓦礫の中でルキアは立ちあがり、連中を静止した。


「ははは! シャクヤちゃあん、やっぱり僕は君が欲しいなぁ!!!」


 ルキアは元より、ヒカリの様子がおかしい。

 あんな……獣みたいに力任せで暴れるなんて、普段からは想像できないのだ。

 それに、あのライオンマスクを被ったプロレスラーみたいな人誰だよ!?


「ぐおおおお!!!」


 ヒカリと目が合う。

 そこで理解した、今のヒカリからは理性が消失しているのだと。

 そしてあの仮面。間違いなく、さっき渡した魔導器である。


 まさか、ルピナスのように暴走を?


『ヒカリ……聞こえてる?』


 ダメ元で思念を飛ばしてみる。


『聞こえてるぞー』


 うっそ、逆に聞こえてんの!?

 じゃああれは暴走してないのか? あのプロレスラーは誰!?


『してるね。暴走。意識はハッキリしてるし、こうして冷静にチカ姉と会話もできるが、身体を動かせねえ。仮面に肉体の主導権乗っ取られてる感じだぜ。このマッチョマンは多分、ルピナスのハエと同系統のものだろ。多分』


 わあぁ……マジかよ。めちゃくちゃステータス強化されてても、暴走してちゃダメなのだ。

 どうにかして身体を取り戻せそうにないのか?


『無理だぜ。少なくともすぐには不可能だと思う。気をつけろ、こいつは目につくものすべてに破壊衝動を抱いてやがる』


 気をつけるも何も、わたし動けないのだ。

 お腹に槍がぶっささったままだし、どちらにせよ放っておかれたらいずれ死んじゃうのだ。


……


 お互い、身体の自由が無くなり大ピンチじゃん。

 と、嘆いていると、ヒカリ(の身体)が獣の如く乱れひっかきをルキアへかましていた。音速を超えた攻撃の数々に衝撃波と破裂音が発生する。


「ふははは!! いいねぇ! カリュプディスの巨体はかさばり過ぎて使えなかったが、シャクヤちゃんなら上手く扱えそうだ!! 少し本気を出してあげよう!!」


 お、おおお!

 都合の良い事にルキアがわたしのお腹から槍を引っこ抜いてくれたのだ!!

 これで僅かだケド回復が見込める。


「あっはははは! 力任せじゃ技術には敵わないよー!!」


 やべ、ヒカリが押され始めたのだ。

 真っ直ぐ飛び込んでくるヒカリに対し、ルキアは超反応で真横に回避。隙のできたヒカリの脇腹に思い切り蹴りを入れる。


「ぐああお!!」


 ヒカリの体が吹っ飛ばされ、わたしの目の前に飛ばされてきた。


「……」


 ……


 目と目が合う、その瞬間にわたしは死を覚悟した。

 這いつくばって移動するのが精一杯のこのタイミングはあかん。


『逃げろ……逃げろチカ姉!!』


「があああああああ!!!!」


 ぎゃあああああああ!!!! 死ぬう! ヒカリに殺される!


「邪竜に自らとどめを刺してくれるのかい!?」


『殺させねぇ! チカ姉は絶対に殺させねえぞお!!! うおおおおお!!!』


 おおっ!? ヒカリの身体の動きが止まったぞ。

 頭を抱えて、苦しげにしてるのだ。


『今だ……チカ姉! 今の内に逃げるんだ!』


 今すぐにでも逃げたい!! でもわたしが逃げたら、ヒカリは絶対にルキアに捕まって、それから良いように使われるのだ!


 ……


 そういえば、ルピナスはどうして自我を取り戻したんだろう。

 おまけに究極(ケテル)アビリティの暴食ノ王(ベルゼビュート)まで獲得して。


 あれは確か……わたしが魔導器を持った状態で、ルピナスの体にもたれ掛かった時の事だったのだ。

 その時にわたしも究極(ケテル)を獲得したのだ。


 魔導器と体にわたしが接触する事が条件?


「ホラホラ、こっちだよシャクヤちゃん」


 ルキアがヒカリの背後に現れ、亜音速で槍を投擲した。

 ヒカリは槍をキャッチし、ルキアへ投げ返す。

 投げた槍よりも速く駆け、ルキアの顔へ殴りかかる。


「グルアアアアアアアア!!!」


 あうう……また二人の戦いが再開しちゃったのだ。

 魔力の無い今、せめて背骨が回復するまでわたしは動けないのだ。

 回復してもヒカリが大人しくしてくれないと、この手は使えない。


「僕の動きにここまでついてこれるなんて何年ぶりだろう!?」


 ルキアが笑う。

 ヒカリはケダモノのように咆哮する。


 わたしは起死回生のチャンスを、今度こそ手にしようと決意するのであった。

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