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スクルドの予言

ストーリーに関わらない部分を一部変更です。

 わたしとヒオリ、そしてヒカリは近所でも評判の仲良しトリオだった。仲良くなったきっかけは覚えてないが、暇さえあればいつも裏山の神社で集まって遊んでいたのを覚えてる。

 というか感覚では一月前の事なんだけどね。


「あれからもう14年前になるのか……」


 〝美少女〟のヒカリは、とても懐かしそうに回想を始めた。







 *







 それはやけに暑い初夏の夕刻。

 その日ヒカリは季節外れのインフルエンザを引き、学校を休んでいた。

 いつものヒカリにとってこういう暑い日は、もっぱら三人で遊びに出かけるか、一華の父親が経営する道場に顔を出すかの二択だが、そのどちらも風邪では選べない。

 おまけに自室の本類は全て読破済みだ。


 要するにめちゃくちゃ暇だったのである。


「何か事件でも起こらねーかな……」


 自室のベッドにつっぷしてスマホを見ていると、速報が流れてきた。


「××町のファストフード店で日本刀のような物を持った男が女子高生を刺した……? って、学校のすぐそばじゃねーか! まさか巻き込まれたりしてないよな……?」


 そういえば姉貴とチカ姉、まだ帰っていないような……

 ヒカリは一瞬血の気が引いたが、まさか二人が巻き込まれる訳ないと思い、ニュースの続報を待っていた。


 それから数分後の事である。


『キャアアアア!! 誰かーーー!!!』


 突然、窓の向こう――道路から甲高い悲鳴が飛び込んできた。

 何事だとカーテンを開けて外を見ると、下の道路に人が何人も血を流して倒れているのが見えた。そして、手に細長いものを持った黒い服の男が、中学生くらいの少年を走って追いかけ回している。


 日本刀のような物を持った男が――


 気が気じゃなくなったヒカリは自室に置いてある竹刀を持って、家を飛び出した。

 大丈夫、俺は剣道3段だから何とかできる――と自分に言い聞かせ、今まさに少年を斬り殺そうとする男の前に踊り出た。

 ヒカリは男の振るう日本刀を竹刀で横から弾いて逸らし、アスファルトにへたりこむ、知った顔の少年に声をかけた。


「大丈夫かオウカ!? 立って逃げろ!!」


「そ、それじゃあアンタが……!」


「いいからさっさと行け!!」


 ヒカリが怒鳴ると少年はおぼつかない足どりで立ちあがり、走って行った。


「通り魔か。何人も……なんでこんな事を」


 会話で時間稼ぎをしようと試みるも、相手の男は最初からそのつもりは無いようだ。

 それどころか、男は白目を剥いてよだれを垂らしており、まるで意識の無いロボットみたく機械的に刀を振り下ろしてきた。


「チッ!」


 男の攻撃を竹刀で受けて防いだものの、真剣を受けた竹刀はへし折れてしまった。これではまともな攻撃はできない。

 おまけにヒカリは病人だ。今の攻撃を受けただけで目眩がしてまともに走る事さえできない。


 嫌だ……死にたくない


 生物の原初的な恐怖が、ヒカリの脳を支配していた。

 男は日本刀を振り上げ、刃はまるでスローモーションのようにゆっくりとヒカリの眉間へ吸い込まれてゆく。


「俺はまだチカ姉に……き」


 ブツン。






 *






「で、気がついたらこの世界で赤ん坊になってた訳。それから色々あって冒険者をやる事になっててさ……」


「待て待て、そんなあっさりと語るな」


 再生したわたしの右手の上で語るヒカリは、仮面を外してあぐらをかいている。

 ブロンドの髪と顔は前世のに似ているが、顔の配置は女性っぽく、瞳は緋色で雰囲気が違って見える。


 そして話の内容から、おそらくわたしと同時に転生したようだ。


「そう、今の俺は14歳。中学生だぞー?」


 と、ニヤニヤしながらわたしへ見つめてくるヒカリに対し、わたしは肩をすくめて


「……情報量が多すぎるのだ。まずその仮面はなんだ?」


「仮面? ああ、これ俺の家の者に顔が割れないように着けているんだ。家出中なんだよ」


 なんだか複雑そうな家庭事情みたいだ。

 一月前に目覚めたばかりのわたしがあれこれ詮索べきではないだろう。


 それからわたし達は、互いの近況やこの世界についてを報告し合った。といってもわたしの近況なんて迷宮彷徨ってたくらいなので、大半はヒカリによる解説を聞くだけだったが。



 ――


 ヒカリの話をまとめるとこうだ。



 魔法や魔物の存在するこの世界には、『邪竜の恐怖』という有名な童話がある。

 その昔、世界を滅ぼそうとした〝お伽噺の邪竜〟を、8人の王が自分たちの命と引き換えに封印した という内容だ。

 その過程で8人の王が治めていた国の民は〝月〟へと移り住み、人間は残って繁栄していると言われている。


 そして、予言。


 〝破壊神(ニーズヘッグ)〟が再臨する時、月の者と大戦争(アルマゲドン) が勃発して世界が滅ぶ――


 これは近い未来に起こるといわれているそうな。


 近年、奇妙な事象が確認されるようになった。

 〝月〟で奇妙な発光現象が確認されたり、あるいは〝月〟の魔物と名乗る存在が人間に危害を加えたりと――


 人類最強格(自称)のヒカリはそんな〝月〟にまつわる事件を解決するため、冒険者協会とやらにちょくちょく依頼されてるらしい。

 元々はある人を探してたのに、どうしてこうなったと嘆いていた。



 ―――



 一通り話し終わり、ヒカリはしばらくしてからわたしにこう提案(・・)した。


「俺と一緒に冒険する気はないか?」


「え?」


 思わず目をぱちくりさせる。

 ぱちくりさせる瞼は無いんだけど。


「冒険だって、見ての通り今のわたしはこんなキモい怪物なのだぞ? この巨体で一緒に旅だなんて……」


「その点は大丈夫だろ? 俺は結構かっこいいと思うな。それに大きさを変える事くらい朝飯前だと思うぜ」


 んな無茶な……と思ったが、わたしには《肉体変形》がある事を思い出した。


「ちょっとやってみるのだ」


 《肉体変形》とは、自分の体を思う形に変形させる能力(アビリティ)である。

 何にでもなれる訳ではないが、他のアビリティと併用すれば変形できる形質の幅が広がるらしい。


 試しに〝異空間魔法〟と同時に起動してみると――


 《体積変更(小型化)を使用します》



 ―――



「すげー……」


 手のひらに乗ったわたしを見つめるヒカリは、驚きの声をあげている。


 わたしは四足歩行の小さなヤモリのような姿になっていた。そして手のひらサイズだったヒカリは、ビルよりも大きそうな巨人になった。


 あの姿よりは多少マシかな。


 ちなみにあの巨体の質量はどこへいったのかというと、《異空間魔法》に収納されており、いつでも取り出せるらしい。


 でもやっぱり――


「わたしはどうにかして人間に戻りたいのだ! この体はキモいから嫌なのだ!! 何か知ってたら教えてほしいのだ!」


 たくさん冒険してきたヒカリなら何か知っているかもしれないと淡い希望を抱いて聞いてみた。


「魔物が人間に変身するってのはよくある話だぜ。この世界に溢れる魔素の力に介入すれば、いずれ人間の体になれるかもな」


「本当か!?」


 希望が見えてきた。早く人間になりたーい!




 *




「最後にもう1つ、一番気になってる事があるのだ」


「なんだ?」


 元々中性的な顔立ちのヒカリだが、心なしか女の子っぽい……というかどう見ても完全に女の子だ。けっこう胸あるし。


「もしかしてヒカリ、女の子?」


 するとヒカリは、とても難しそうに顔をしかめ、渋りながらようやく話しだした。


「……そうだよ、今生の俺は女だよ!!」


 頬を赤らめながら、開き直るヒカリ。

 結構かわいい。


「なかなかの美少女なのだ! そこまで落ち込む必要は無いのだ!!」


 というわたしのフォローは、ヒカリにとってはあまり好ましいものではなかったらしい。


「うっ……うるせー!!」


 照れているのか拗ねているのか、ヒカリはしばらく口を聞いてくれなくなってしまったのだった。

次回 チンピラに絡まれてるみたいですケド

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