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乙女とゲソと恋心

プロット立ててから執筆するようになりました。僅かにクオリティが上がった気がします。

 雲ひとつ無い空、海はどこまでも続く。凪ぐ空気は心地よい潮の香りをまとい、陽気も良い。

 まさに絶好の釣り日和と言えるだろう。


「最近、焔人(ホムラビト)の奴隷が入荷したって噂、本当ですかねぇ」


 大国スラバルトから近隣の小国へ綿や絹糸を輸出へ行く貿易船。

 その甲板から釣糸を海に垂らす若き見習い女船員は、隣で同じくあぐらをかいて釣りをする先輩へぽつりと呟いた。


「さあなぁ。今どき焔人の生き残りなんていたんだかなぁ。それより退屈だなぁ……」


 先輩船員も新入りも退屈そうに、何かスリリングな出来事でも起こらないかなぁ――と、ぼんやり考えていた。

 そして、その瞬間はすぐに訪れる。


「あっ、かかりました! かなり大きいっす!!」


 ふと、新入りの竿が曲がる。今にも折れそうなほどのしなり具合はかかった獲物の力強さを物語っていた。


「おっし、離すなよ、俺も手伝おう」


 二人は力を合わせ、釣竿を力いっぱい引き上げる。

 水面に魚影が見えてきた。あともう少し――

 更に力を入れ、思い切り引いた。釣糸の先にかかっていたものは……


「なんじゃこりゃ?!」


 釣針に食いついた大きな魚に絡み付く、吸盤のついた更に巨大な触手。触手は海の中へと続いている。


「うおわっ!?」


 二人の持つ釣竿は、圧倒的な力によって魚ごと海の中へ引きずりこまれていった。

 触手が消えた水面にぶくぶくと泡がたち、次の瞬間、船のすぐ側に巨大なそれは現れた。


「おいおいおいおい……」


 大魔蛸(クラーケン)

 危険度は街を一つ滅ぼせるとされる上から3番目のAランクの魔物。

 極めて狂暴な性格で、その巨体で近くを通りかかった船舶を沈めてしまう。


 巨大なタコの魔物は、手慣れた様子で触手を貿易船へと絡ませる。

 船内は立っていられないほど強い揺れに見舞われ、あちこちで悲鳴が放たれる。


「くっ、クラーケン?!! 逃げないと!!!」


 その時だった。

 皆てんやわんやで船内を駆けめぐる状況で、甲板で倒れこんでいた新入りと先輩は、確かに見た。


 ドシャアアアアアン!!!!


 突如、クラーケンの頭へ落雷のような強烈な閃光が走り、凄まじい爆音が響きわたった。


「くっ、耳が……ってな……なんだあれは?!」


 黒っぽい三つ目の飛竜のような、4mくらいの大きさの魔物がちょうどクラーケンの真上に浮かんでいた。

 1対の枝に色とりどりの結晶か、あるいは蕾のようなものを垂らしたような変わった大きな翼を生やしている。

 その魔物は船を一瞥すると、満足したのかそのまま飛び去っていってしまった。


 船を沈めんとしていたクラーケンは、あの衝撃で気を失ったのかあるいは絶命したのか、船に絡んだ触手はずるずると力なくほどけてゆき、やがて逆さまに海中へ沈んでいった。


「助かった……?」


「クラーケンを撃退するなんてあの魔物は一体……それに――」


 そしてこの時、二人は確かに見ていたのだ。

 あの魔物の背にまたがる、白い仮面を着けた赤髪の少女の姿を。









 ***











 飛翔竜(クリオドラコン)。この姿は一華の飛行に特化した形態だ。

 小回りとなかなかの速度が出るので、長距離の移動には最適である。そして今しがた、船を襲っていた魔物を通りすがりに攻撃して去った所でもある。


「なあなあヒカリぃ。探し人って何なのだ?」


 一華の背中にまたがるヒカリは、質問にはおそらくわざと答えず、ただ黙りこんでいた。

 その顔には中心に赤い宝玉のはめ込まれた仮面をつけており、表情は見えない。


「……わたしにも言えない事なのか?」


「言ってもいいが、目的地に到着したらな」


 ヒカリはうなだれてそう言った。





 ―――





 3日前、エリカの屋敷にて。



 朝、一華がベッドで目を覚ますと、顔をなにか柔らかい物が挟んでいる事に気がついた。顔だけじゃなく、上半身もすべすべした何かにおおわれているようだ。


(なんだろこれ。布団でも枕でもない、温かくてすべすべで、柔らかくて気持ちいい。これは……)


 横向きで顔を埋めたまま手で触り、もみもみ感触を確かめる。


「ううん……」


 すぐ近くでヒカリが息苦しそうなうめき声をあげた。

 気になった一華は、柔らかいものから顔を離す。そこで、一華は柔らかいものの正体に気がついた。


「ほあ?」


 一華の顔のすぐ上に、ヒカリの真顔が見下ろしていた。

 顔の位置からして、ちょうど一華の頭に胸があたる。


(これって、これって……!? まさか、ヒカリの――)


「あ゛あ゛あ゛!?」


 一華はなぜかヒカリに抱き枕のごとく両手足で抱きしめられていた。

 そしてヒカリは眠る時はいつも裸。つまり、裸のヒカリと同じベッドで――


(嫌な気はしないケド、でも……でもぉっ!!! なんでこんな事にっ!!!!??)


 一華の脳が情報に耐えきれずにオーバーフローを起こしてフリーズした時、タイミングを見計らったかのようにコランダムの思念が入った。


『ンッふっふ、突然ですが貴女たちに頼みたい事があるのです』


『うわわわわわ!? はぁ、びっくりした。何なのだ?』


 コランダムは嬉々として説明を始めた。


『ルピナスの体内にあったような〝魔導器〟を探して集めて欲しいのです。あれはこの世界に8つある、邪悪な力の破片なのですよ。危険ですねぇ』


『はあ。破片という事は、元々あった邪悪な力とは何だ?』


 ヒカリがふてぶてしく聞く。

 コランダムは少し声のトーンを下げて、シリアスな声で言った。


『〝おとぎ話の邪竜〟ですよ』


『はあ!?』


 驚きの声を揃ってあげる二人。

 おとぎ話の邪竜とは、まさに一華の事である。


『邪竜って、わたしのこと?! なんでなんで!?』


『落ち着いて聞きなさい……ンッふっふ、昔話をしましょうかねぇ……


 ――今から3000年前の事です。

 世界を破滅させんとしていたおとぎ話の邪竜(ニーズヘッグ)を、8人の魔王は力を合わせて倒す事に成功したのです。

 その後、有り余る危険な力を、8つに分けてそれぞれ命と引き換えに封印しました。ここまでは有名ですね?

 そしてその力が封じられた器が〝大罪の魔導器〟

 素質ある者が魔導器に触れると、たちまち理性を失い邪竜の悪意に支配されてしまいます。

 先日のカリュプディスなんてまさにそれでしたねぇ』


 コランダムはそう説明し、更なる質問を待っているようだ。

 案の定、一華らにとっては何もかもについて質問したくなっている。


『わたしは何なのだ!? わたしが残虐な〝おとぎ話の邪竜〟だったというのか!?』


『ンッふっふ、安心なさい、貴女の肉体と魂は全くの別物です。その肉体は力と魂の抜けた所謂脱け殻といった所ですねぇ。

 しかし貴女は邪竜の肉体とは別に、特別なものを持っているらしい……暴食の魔導器をまさかあんな……』


『特別?』


『おっと、その話はまた別の機会にでも。さておき、貴女らには魔導器を回収していただきたい。帝国に先を越されると面倒ですのでね。

 ここから最も近くの魔導器は、大国スラバルトにあるようですねぇ』


 コランダムが何か企んでいるのか、はたまた危険物を隔離しておきたいからなのか。

 どちらにせよ、ヒカリは協力する気にはなれなかったようだ。


『断る。集めたいのなら自分でやればいいではないか』


『辛辣ですねぇ、()()()()さん。貴女の探す大切なヒトも、スラバルトにいると言ったらどうですか?』


『何だと!?』


 取り乱すヒカリ。

 どうやらコランダムの方が一枚上手だったようだ。


『ワタクシだって怠けている訳ではないのですよ? 1週間したら必ずそちらで合流し、探し人も魔導器のありかも教えてさしあげましょう。それまでに見つけられてなければの話ですがね……ンッふっふっふっふ』


 コランダムはまた一方的に思念を切断し、沈黙が訪れた。

 それから二人は大まかな情報共有を行った。もっとも、ヒカリがスラバルトという国について一華に解説するだけだったのだが。

 それからエリカの力でバルアゼルの海岸へ運んでもらい、そこから竜形態の一華とヒカリは飛び立った。





 ―――






「鳥が飛んでるのだ」


 飛竜形態の一華は、自身の背中で黙りこむヒカリに対してそう話題をふった。


「そうだな。陸が近いのかも」


「どうして鳥が飛ぶと陸が近いのだ?」


 一華の質問に、ヒカリは少し考えてからから答えた。


「海鳥だって陸地に巣を作って暮らしてるんだ。だから陸からあまり離れて沖へ行く事はまず無いのさ」


「そーなのかー。でもあれが渡り鳥だったらどうなのだ? まだまだ大陸へは遠いのかも」


「その可能性は捨てきれないな。だが、俺はあの鳥が渡り鳥でないと思う。何か賭けるか?」


「じゃあ、今日中に到着しなかったら、今晩は抱かせないのだ!」


 ヒカリはくすっと微かに笑い、身を乗り出して一華の太い首に艶かしく腕を回した。

 ここ数日、やけにヒカリは一華へのボディタッチが多い。抱き枕事件はその始まりだったのだ。


「〝今晩は〟か。そんなのでいいのか?」


「えっ? どういう意味――」


「前をよく見ろ、陸地が見えてきたな」


 ヒカリが指し示す先には、地平線のあたりにぼんやりと濃青色の幅広い塊が浮かんでいる。


「そんなあぁ~~!!!」


「ふっ、賭けは俺の勝ちだ。なんで負けたか、明日までに考えておくんだな」


「でも、でも……」

(どうせわたしが勝ってても今夜もわたしを抱く(直喩)つもりだったんでしょ、別に……悪い気はしないケドさ…)


「ん? 何か言ったか?」


「別に何も……」


 一華は、今が竜の姿である事に心の底から安堵しているのであった。人の姿だったら、その態度を誤魔化せないだろうから。


 そうこうしている内に、スラバルト大陸はどんどん近づいてくるのだった。

次回 7つの大罪って何があったっけ? 傲慢とか正義とか?

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