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食事

 究極(ケテル)能力(アビリティ)審判之王(イスラフィール)


 正直なところ、これがどんな能力なのかわたしもまだよくわかってない。

 連中が再びこちらへ照準を合わせる。あー、もうどうにでもなれ!


 《〝時間停止〟》


 高らかな無数の銃声が響きわたったかに思えた次の瞬間、世界の色彩や有象無象の動きが停止し、音すらも響かなくなった。

 止まった。止まった……止まってる!?


 マジ?

 待て待て、究極ってくらいだからより凄まじい威力の魔法とか想像してたけど……

 究極(ケテル)ってなんなんだ…… ただのJKがどうしてこんなことに。




 *





「待て、撃つな!!」


 第4聖銃連隊の隊長であり、ハナノ帝国軍大佐であるデミラスは、引き金に指をかける部下らを制した。


「邪竜と裏切り者らは何処へ?!」


 皆が銃を向けていた処刑対象が目の前で突然、霧のように姿を消した。

 そして人質の悪魔も同じく――


「逃げられたか……」


「大佐、捜索しますか?」


「否。先にこの異教徒どもの村を完全に浄化してからだ」


 そうして侵略者どもは村の〝浄化〟を再開した。

 が、しかし。

 聖なる「浄化」はすぐさま中断される事となる――


「ねえ、村を焼いてるのってキミ達? ひどいよ、ねえ?」


 聖銃連隊が神より賜った新兵器を持って村の奥へ入ると、紺髪の少女が立ちふさがった。

 この少女(ルピナス)が何者なのか、この時はまだ気づいた者は誰一人いない。


「大佐、どうしますか?」


「……構わん、徹底的に殺せ。蜂の巣だ」


 大佐は冷酷に命令を下す。

 一同は一斉に銃口を少女へ向け、引き金を引いた。

 鳴り響く銃声と火薬の鼻をつく匂いがたちこめる。

 聖銃連隊は邪魔するものに容赦しない。〝正義〟に反するものは死あるのみである。


 今回も聖銃隊は目の前の〝悪〟を討ち滅ぼした――

 ハズだった。


「あんまり美味しくないねこれ」


 少女は何故か銃弾を〝喰らって〟無傷で過ごしている。

 なにやら口をもぐもぐと動かしているようだが、聖銃隊の意識はそこへ向いていなかった。


「この弾幕をやり過ごすとは何者だ、貴様」


「うん、ボク? ボクはルピナスだよー。〝カリュブディス〟って言えば分かりやすいかな?」


「かっ、カリュブディスだと? ありえん! カリュブディスは山のように大きな巨体だったぞ!」


 何気ないルピナスの自己紹介に、連隊はざわめきを隠せない。

 一年前、大佐はバルアゼルへ赴き、カリュブディスとやらいう邪神の供物に、理性を破壊するという〝魔導器〟を仕込んだのだ。詳しい事は聞かされていなかったが、神の言う事なら間違いない。

 まさか自我を取り戻す事が起こりうるなぞ予想だにしていなかったのである。


「だよね、ボクもびっくりなんだよ。見た目がほとんど人間と変わりなくなって、もっとみんなと親しめるかな! って思ってたんだけど……」


 突如、空気が変わった。

 その刹那に氷の刃のような殺気が連隊の体の芯を突き刺した。

 あまりの恐怖に泡を噴いて何人か倒れ、現場は騒然となる。


(この威圧感……まさか高位(エクストラ)の最上位か、あるいはその上の……なるほど、邪竜と同じく結界が効かない訳だ。邪竜は自分にこの結界が聞いていない事に気づいていなかったが、こいつは――)


 大佐の出した結論は、極めてシンプルなものだった。

 呼吸を整え、大声で隊に命令を下す。


「諸君!! これより我々は神の御力を借り、この邪神を討ち滅ぼす! この化け物は邪竜に並ぶ帝国への脅威であると知れ!!」


 この部隊は、全員が上位(ハイ)から高位(エクストラ)のアビリティを持っている。

 帝国の部隊の中では比較的強い部類に入る、精鋭部隊だ。


 その〝切り札〟ともなると、大きな街すら消し去るほどの威力がある。これに無傷でいられる生物など、神を除いて存在しない。

 大佐はそう確信し、自らの能力(アビリティ)を解放する――


 〝与えられしもの(オルタナティブ)


 部隊の男どもから、淡く神々しい光が放たれる。


(あまり使いたくはなかったが、ここで滅ぼさねば後々の脅威となる)


 神より兵達に分け与えられた能力。

 その力の権能は自らの身体能力と魔力の超強化。

 そして、〝神〟の聖なる力の一端を行使できるのである。


「〝神よ、罪深き我々を許し給へ。我に裁きの正義を授け給へ〟」


 大佐含む上位実力者数人が、極大魔法を放つための詠唱を始めた。

 その他の者らは、目の前の敵を少しでも疲弊させ、極大魔法の成功率をあげるため、あるいは足止めに自死の覚悟を持って聖剣で斬りかかる。しかし


「なっ!?」


 神の加護を受けた聖なる剣は全て、少女へ達する前に〝さくっ〟という軽やかな音を立てて折れてしまった。

 剣の折れた部分は、子供の歯形のような奇妙な跡で削り取られており、金属ではない、甘い〝焼き菓子〟のような物質に変異していた。


「なんなの君たち? ボクのことがそんなに嫌いなのかなぁ?」


 少女がジト目で睨んだだけで、大半の者がすくみ動けなくなってしまった。

 それでも残った何人かは再び聖銃に退魔弾を込めて、少女へ発砲した。


「またこれ? 美味しくないから別のにしてよー」


 銃弾をもぐもぐと咀嚼し、飲み下す。

 露骨に嫌そうに顔をしかめ、時間稼ぎに〝付き合ってやっている〟ルピナスは、上位実力者の詠唱がまだ終わらないのかと見つめていた。




「〝――そして神の御力を我らに授け給へ〟 正義ノ滅光(デウス・オブ・クリム)!!」


 ようやく詠唱が終わり、隊は最後の仕上げに神へ祈りを捧げる。

 そうして、村の上空に明滅する〝何か〟が現れた。


「お?」


 明滅するそれは、辺り一帯を覆うほど巨大で難解な魔方陣。

 魔方陣の中心に聖なる力が球状に集まってゆく。

 神々しささえ感じさせるその光球は大きく膨れ上がってゆき――


「終わりだ! どこかに潜んでいる邪竜も貴様も、この滅光には耐えられまい!!」


 ――神の雷は、地上へ放たれた。

 光属性の派生である〝聖属性〟のこの極大魔法は、あらゆる物質を透過し、狙った対象だけを〝浄化〟する。


 もっとも彼らは、自分たち以外の物質を全て〝浄化〟するつもりで放ったのだが。


 村も、大地も、何もかもが、聖なる光に分子レベルで分解され、後に残ったのは広大なクレーターと聖銃隊だけだった。

 これを受ければいかなる魔物であろうと骨すら残らない。

 現段階で例外的に耐えられる物質は、おそらく悠久の金属(ヒヒイロカネ)のみであろう。


 大佐は高らかに勝利の雄叫びをあげる――



 そんなシナリオは、大佐の妄想に過ぎなかった。


「うーん! 美味しーい!!」


 顔面蒼白の隊を横目に、ルピナスは恍惚の表情で頬っぺたを押さえていた。

 神の雷は、なぜか地上に達する前に忽然と消失してしまったのである。


 相殺でもない、退魔結界のようにメカニズムそのものを狂わせて消し去った訳でもない。

 目の前の少女の言葉から察するに――


(察するに、認めたくはないが……聖属性の極大魔法を正面から吸収したのか!? 次元が違う、これはもはや我々の手に負える相手ではない。一度帝国に帰還し、将官レベルを複数人呼び寄せなければ!)


 大佐は隊に撤退命令を下そうとしたが……


「逃げるつもり? 君だけは逃がさないよー」


 今までわざとらしく手を出さなかったルピナスは、とうとう大手を振って歩き始めた。

 堂々と歩いて、大佐の前まで来る。


「く、来るな! 私から離れろ邪神め!!」


 刻印の刻まれた銀製のナイフでルピナスに攻撃するも、やはり達する直前でそのナイフもクッキーのように砕け、齧りとられた。

 隊のメンバーは怯えきってしまっていて、大佐を救う余裕は無い。

 ルピナスは恐怖する大佐の青い顔を覗きこみ、舌舐めずりをした。


「キミ、美味しそう♡」


 腰が抜けてへたりこんだ大佐の額を軽くポンと叩いたその瞬間。

 大佐の姿は一瞬にして、フッと消え失せた。


 そして大佐の額に触れたルピナスの右手の中には、イチゴの乗った一口サイズのショートケーキが入っていた。


「いただきまーす!」


 ルピナスはケーキを軽く上に投げ、はしたなくも大きく開いた口で受け止める。そうして少しの咀嚼の後、満足げにごくりと飲み込んだ。


「この能力(アビリティ)いいね。おいしいなぁ、まだ〝おかわり〟はあるのかなぁ?」


 ルピナスは残りの隊員らを見つめ、よだれを垂らす。

 何人かの動ける者が悲鳴をあげながら逃げて行くも、誰一人として例外なく、大佐と同じ運命をたどった。

次回 なんで泣いてるの?

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