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邪教撲滅

 ――はっ!!?


 何が起きたっ!? 何かケトルがどうとかって――


「しっかりしろ、チカ姉っ! カリュブディスが……カリュブディスが!!」


 珍しく動揺した顔のヒカリに揺さぶられ、周囲を見渡すと、思いがけぬ事が起こっていた。


「カリュブディスが……消えてる?」


 そんな馬鹿なと思いつつも、大きな血の湖を残し、横たわっていた大きなカリュブディスの体がどこにも見当たらないのは事実のようだ。

「何が起こったのか」と聞くと、


「チカ姉とカリュブディスが突然変な光に包み込まれて、気がついたらカリュブディスが消えてたんだ。それで――」


 それで? そういえばガララさんがいない。

 ヒカリは無言で遠くの方を指を差した。

 そこには、ガララさんと小さな子供が向き合い立っているようだ。

 わたしとヒカリも、すぐさまそっちへ向かった。



 ガララさんと向き合う子供。

 見た目はエリカより少し年上くらいで、青いドレスと、ティアラの飾られた紺色の髪を風に揺らす姿は、どこかの姫君のように見える。


「ボクは……一体何を……?」


 頭に手を当てて、何かを思い出そうとする少女。

 途端、口を右手で押え、上を向いて――


「うぷっ……うおえええええっ」


 少女は口から、不自然にも自分の体より大きな塊を吐き出した。

 吐き出された白黒でフリルのついた物体はもそもそと動きだし


「ううん、何が起こってるのです……? とりあえず胃袋には誰もいませんでしたわ」


 吐き出された物体は、マリカだった。

 マリカを吐いた少女は、困惑した様子でガララに声をかける。


「か……カリュブディス様、なのですか?」


「そーだよ。カリュブディスじゃなくて〝ルピナス〟ね。いいかげん名前で呼んでよ」


 この娘がカリュブディス……?

 まったこのパターンか。超進化とやらで小さくキュートになったと。


「わかりました、カリュブディス様」


「わかってないじゃん……。ところでガララ、君もとうとうボクと同じくらい大きくなったのかな」


「いいえ、カリュブディス様が縮んだのです」


「じゃあ、みんなで同じ机を囲んでごはん食べれるね!」


 ガララさんは、無邪気なルピナスの笑顔から目を逸らした。

『みんな』を自分が飲み込んでしまった事に、ルピナスはまだ気づいていない。記憶に無いようだ。


 こほんと咳払いをし、マリカが話題を逸らすように話を切りだした。


「皆様、エリカお嬢様が心配ですのでそろそろ村へ帰りませんかしら」


 誰もここに留まる用事は無いので、わたしが〝疾走竜(デルタドロメウス)〟に変身して村へ帰る事になった。


 ヒトを馬みたいに使いやがって…… まあいいや、変身!!


 黒っぽい繭のようなものに包まれ、その中で肉体の形が変わってゆく。

 人化している時に肉体変形を使うと、この糸みたいなものが変形する部分を包むのだ。

 今回は全身なので、まるごと繭の中だ。


 細身の竜形態へと変身し、繭がかき消える。わたしの姿を見たルピナスは、キラキラと眼を輝かせて少し興奮気味だ。


「君すごいねぇ、もしかしてボクの眷属になりに来たのかな?」


「け、眷属? 違うのだ」


「ぅえー、面白くないなぁ」


 口を尖らせてつまらなそうに舌打ちをする。

 まずガララさんがルピナスの手を引いて、わたしの背中に座った。


「なんか変わったな、チカ姉」


「え?」


 変わったとは一体何が?

 どこが? と聞き返すと、ヒカリはわたしの両目(・・)を見つめて指摘してきた。


「目の数が増えたな。単眼だったのに、三つ目になってら。あとは体の色だ。黒一色だったのが、所々に白い線が入ってる。さっき光った時何があったんだ?」


 言われてみれば確かに、視界がハッキリしてるような気がする。

 体も前よりカッコよくなった……のかな。

 別に竜形態が変わろうとなんでもいいや、それより胸の大きさが全く変化無しは悲しいぞ。何が進化じゃボケ。


 ・・・進化? さっき夢の中でそんな事を言われたような気がする。

 走行中、暇だし能力解析(ライブラ)でとりあえず自分の能力を視てみよう。




 *




 ――究極(ケテル)能力(アビリティ)審判之王(イスラフィール)』……だと?

 あと待って、わたしのあらゆる能力値が10倍近くまで跳ね上がってるんだけど!? 何でこんな事になってんの?


 ついでにルピナスのステータスも覗き見たけど、超進化おそるべし。巨大だった時よりも恐ろしい程強化されてる。

 なにより、究極(ケテル)能力(アビリティ)暴食ノ王(ベルゼビュート)』なんていかにもヤバそうな力も持ってるし。




 ははは……なんかよくわかんない内に、とんでもない事になってたみたい。


「ねえヒカリぃ、究極(ケテル)って何なのだ?」


究極(ケテル)? 俺も詳しくは知らないが、確かこの世界の神話に出てくる神々が所持してるアビリティだったな。それがどうかしたか?」


 神々の力……? それを持つルピナスと、わたし。

 〝お伽噺の邪竜〟って一体なんなの?





 ―――





「……なんだろ? これなんの音かな?」


 わたし達が村の近くまで戻ってくると、なにやら村の様子がおかしいようだった。

 悲鳴や破裂音といった喧騒が、村から響きわたる。

 村の方から1人の少年がかけよってきて、息も絶え絶えにガララさんへ必死に伝えてきた。


「んだっ……はあ、て、帝国の連中がっ村に攻めてきたんだっぺ!! 弓でもねえ、鉄の塊を飛ばす武器にみんなやられちまった!!」


「帝国が……? おい、嘘だろふざけんな」


 ヒカリは呆然としながらも、怒りに震える様子で煙の立ち上る村の方角を睨みつけた。

 ガララさんとルピナスが真っ先に走りだし、後を追うように人化したわたし達も村へと足を踏み入れたその時――


 パァンパァンと、銃声のような破裂音が二回響いた。

 嫌な予感がして、燃え盛る村の中心にある広場のような場所へ行くと


「ふん、高位(エクストラ)持ちでもこの新兵器には敵わない事が証明されたな」


 あれは……

 純白な軍服のようなものを着た男が、何かをガララさんの額に突きつけている。


「貴様らっ……アタシが守り抜いた……村を……!!」


 地に膝をつき、血を吐き散らす。背中や胸にいくつか出血を伴う穴が開いており、わずか数秒の間でガララが瀕死に追いやられたという事を示唆していた。


 何か見覚えがあると思ったらあれは……!

 銃だ、リボルバー式の拳銃だ!! なぜこの魔法世界にあんなものが……?!

 ううん、それよりまず助けないと!


「ガララから離れるのだーっ!!」


 わたしは男に対して横から体当たりをかます。

 刹那、引き金が引かれて弾がわたしの頬をかすめた。


「ふむ、賊どもの情報通りだ。貴様が〝お伽噺の邪竜〟だな?」


 な……

 体当たりを受けても冷静に、冷酷な目でわたしを睨み表情ひとつ崩さない。

 この男から妙な威圧感を感じられる。


「あなた達、こんな事をしておいて生きて帰れるとでも思っているのかしら?」


 気配を消していたマリカが男の背後から首もとに、手首から伸びた触手を突き立てる。

 一瞬だけ男が怯んだ隙に、ヒカリがガララさんをすかさず回収した。


「生きて帰れるかだと? それはこちらのセリフだ」


 男が余裕そうにそう呟いた……次の瞬間、マリカが小さく悲鳴をあげて後ずさった。

 よく見ると、マリカの右手が手首から切断されているようだった。


「おかしいわ。再生が始まりませんの」


 マリカの言葉と疑問に対し、男は小さなナイフを取り出して答える。


退魔(ホーリー)の刻印が刻まれた武器を見るのは初めてか?

  これは魔力を断ち切れる刻印でな、魔力で生命維持を行う貴様らのような魔物には天敵と呼べるシロモノさ」


 よくわかんないけど、あれで斬りつけられたらヤバそうだ。

 それにこの男……


 《個体名:デミラス 高位(エクストラ)能力(アビリティ):与えられしもの(オルタナティブ)(ライ)

 極めて広範囲に退魔性結界を展開しています》


 まさかの高位(エクストラ)持ち。しかも能力値はガララさんより強くヒカリよりは低い程度。


 ひとまず思念でマリカとヒカリにこの情報を共有した。

 相手の手の内が見えない限り、下手な手出しはかえって被害を広げる事になるかもしれない。


「なぜこの村をわざわざ狙った? 俺を追って来たんなら、なぜ村を壊滅させる必要がある?」


「簡単なことよ。貴様を追う道中にたまたま見つけた、この汚らわしい邪教徒の村を正義の名の元に浄化しているのだ。さあ、シャクヤよ。貴様も我々と共に正義を執行しようではないか」


 両手を広げ、ヒカリにこっちへ来いと指図する男。

 ヒカリは当然ながら


「黙れ。何が正義だ、下らない」


「そうか残念だ。貴様はもう用済みのようだ」


 パチン、と男が指を鳴らすと、村の外側から同じ軍服を着た兵士が集まりわたし達を取り囲んだ。

 全員手にはリボルバーを持っており、その内の一人は銀髪の少女を連れ、その小さな頭に銃口をぐりぐり押し付けている。


「エリカっ!?」


「やはり仲間か。この悪魔の命が惜しければ抵抗しない事だな」


 汚いぞこいつら……! エリカを人質にするなんて。

 絶対許さない! 何が正義だクソッタレ!!


「総員〝刻印弾〟を撃てええぇ!!」


 無数の拍手のような、高らかな銃声が響く。地面にからからと薬莢が跳ねる。

 わたしは咄嗟に結界と〝蕾翼〟を広げてヒカリ達を包んだ。しかし弾は結界を貫通して、わたしは翼に走る鋭い痛みに歯を食い縛る。

 どうも魔力が動かせなくてうまく結界を張れず、かなり強度が弱い。


 火薬の匂いの立ち込める中で射撃が収まり、こちらを覗きこむ男と、陶器のような頬を赤く腫らすエリカの顔が翼の隙間から見えた。

 わたし達はなんとか無事だが、翼はボロボロ。次射撃されたらもたないなこりゃ……


「クソッ、力が出せねぇ。連中め、〝退魔結界〟を使いやがってるのか」


 魔力で身体強化して戦うヒカリにも〝退魔結界〟の影響があるようだ。魔素の動きを阻害し、魔法の行使を妨げる特殊な結界。その内部で魔法を使う事は難しいらしい。

 普段ならこの程度の相手は〝光魔法〟の応用の高速移動で蹴散らせるのに、それすらできない。

 当然マリカも強い影響を受けているようで、顔色が悪い。


「まさか邪竜とシャクヤが手を組んでいるのは想定していなかったが、支障はない。さあ、正義の栄光の礎となれ!!」


 再び銃撃隊がわたし達へ銃口を向ける。

 こうなったらもう一か八かだ! やるしかない


 〝究極(ケテル)審判之王(イスラフィール)』〟!!

次回 ショートケーキって、美味しいよね

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