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〝究極〟に近いもの

 けもみみ巨乳少女(巨乳死ね)――ガララに手を引かれ、村に戻ってきたわたし達。


「聞いてくれ、皆の者。これから、カリュブディス様を討ち果せるかもしれない」


「!?」


 村人らの間にざわめきが生じる。

 ガララさんは元々、土着神(カリュブディス)の眷属の亜人だったらしい。かの事件で生き残り、なお故郷に留まるこの村の人間達をまとめているのだ。


「それはどういう事でしょうか、ガララ様?」


「強力な魔人であるイチカ様が討ってくださるのだ。彼女らはもう敵ではない。契約したからな」


 契約とは、村人を納得させるための口実だ。神経質なこの村の人間達はそうとでも言わないと安心してくれないとか。ストレス多そう。


「そんな強力で邪悪な魔人と契約だなんて、ガララ様もやはり凄いお方だ!」


 邪悪って失礼な。ぷんぷん。


 それからわたし達は、ガララさんに案内されてようやく村の中へちゃんと入れたのだった。

 荒廃した広い土地の中で数少ない緑。畑を作り野菜を育てているようだ。

 村人達の目線は、いつの間にか敵対心から神でも崇めるようなものへと変わっていった。


「邪竜様……いえ、邪神様! どうか我々の神を、解放してくださいませ!!」





 ――





「すごーい! 君はお伽噺の邪竜の魔人なんだね!」


「ブッふぉっ!? ゲホッゲホ」


 急にガララさんがそう切り出してきて、飲んでた水を噴き出してしまった。

 なんでバレたんだ? というか誤魔化せるか?!


「誤魔化そうとしても無駄だよ。能力鑑定(ライブラ)で視たんだから」


 マジで?


「おとぎ話のじゃりゅーってなあに?」


 そうか、エリカは知らなかったのか。

 この機会だから説明しておくか。




 むかーしむかし、世界を滅ぼそうとした悪い邪竜がおりました。

 世界をあと一歩で滅亡させるといった所で、なんやかんやで8人の魔王が邪竜を封じこめる事に成功しました。めでたしめでたし。



 という話らしい……




「らしい?」


 エリカとガララさんが口を揃える。

 あーもう、ややこしい。わたしが転生してきた事をどう説明すりゃいいんだか。


「まあいいじゃねーか、チカ姉は世界を滅ぼそうとするような悪者じゃない訳だし」


「そうだぞ! わたし悪いドラゴンじゃないのだ!」


「自分で言ったら説得力無いぞイチカちゃん……でもまあ、信じる事にしよう。それとこの事は秘密にしておくよ」


「ありがとなのだ」


 ガララさんやっぱり話の通じる人だ。

 村の中でも一番強くて信頼されてるだけある。




 ―――


 個体名:ガララ 種族:狼獣人(ウェアウルフ)


 高位(エクストラ)アビリティ:潜むもの(スキュラ)


 ―――


 ふと、彼女のステータスを覗いてみた。

 なんと、ガララさんもエクストラ持ちだった。

 どうりで強い訳だ。初めて会った時のヒカリほどじゃないけど。


「アタシのは下級だが、あのお方……ルピナス様は高位(エクストラ)の中でも最上級のものを所持しておられた。それが暴走したからこそ、この国は……」


 アビリティの暴走。そんな事があるのだろうか。

 この世界に来て日の浅いわたしには、まだわからない事だらけだ。


「待って、最上級のエクストラ? それってどういう事なのだ?」


「最上級は、高位(エクストラ)より更に上の〝究極〟に近い能力さ」


 ……マジで? 高位(エクストラ)より上があるなんて思いもしなかった。なんかわたしとエリカだけで勝てるか不安になってきたぞ。できればヒカリも交えて戦いたい所だけど……


「俺も協力したい所だが……」


 おのれコランダムめ。

 奴のかけた呪術によってヒカリは、わたしを追い詰めるほどの力を封印され、ただの可憐な美少女と成り果てているのだ。


 よって、今回ヒカリは遠くから眺めてるだけ。

 実に簡単なおしごと。


『ンッふっふっ、面白い事になっていますねぇ』


 もしや、カリュブディスが暴走しているのはコイツのせいなのでは?


『わたくしは何もしてないですよ? それにしてもカリュブディスですか。彼女は大罪の……おっと、何でもありません』


 大罪……?


『大罪ってなんよ? オイラ気になるよ?』


 イセナも来たか……まーた思念チャットが騒がしくなるなこりゃ。

 しかし、大罪とは一体なんだろう。

 ところが今回、コランダムがその疑問に答える事は無かった。





 ―――





 翌日の夕方。バルアゼル北にある海岸。ガララさんが言うには、ここが一番カリュブディスの出現する場所らしい。


「エリカこれから〝協力する〟という事を学ぶのだ」


「わかったの!」


 今回エリカも一緒に戦う事にした。だって、わたし一人だと荷が重い気がするし、エリカもたまには暴れたいだろう。

 さて、もう間もなく日が沈みそうだし、そろそろ出てくるだろう。


 〝海渦霊魔人(カリュブディス)〟が。



 空の色を映しオレンジ色に輝く海面に突如、山のように巨大なものがゆっくりと浮き上がった。

 それは更に高く高く浮いて、夕日の前に佇む。不気味なほど長い影が、わたしとエリカを包みこむ。


「あれがカリュブディス……」


 額にティアラを付けた、黒髪で青い肌の魔人。体のあちこちに魚のヒレが生えている。

 そんな姿の女性が、四足歩行で白波をたてながらこちらへ近づいてくる。


 近づいて……きて……?

 で、デカイ!? 待って聞いてないって!!


「すごーーーーい!!! おーきーーー!!」


 嬉しそうなエリカ。

 海岸の崖の上に立つわたし達を見下ろすその姿は、高層ビルよりもはるかに高く、正直パニックになりそうなほど巨大過ぎた。


「……え?」


 突然、カリュブディスが巨大な右手を上から覆い被せてきた。

 大地がめきめきと音を立て、海に突き出していた崖が、カリュブディスの手によって引っこ抜かれ――


「ここから離れるのだ!!」


 カリュブディスは〝本来の姿〟のわたしですら収まりそうなほど大きな口を開き、まるでスナック感覚で口の中へわたしの立っていた岩の塊を放り込む。


 スケールが違い過ぎるぞこれ……


「エリカ! 空に飛ぶのだ! 上空からなら魔法攻撃を一方的に当てられるのだ!!」


「わかったのー!」


 翼を伸ばし、空高く飛翔する。

 カリュブディスの視線は、眼前を羽虫のように飛ぶわたし達にロックオン。わたしとエリカめがけ、ギザギザの歯列が並ぶ大口でかぶりつく。


「動きはトロいから避けるのは簡単なのだ!」


 エリカを先導し、カリュブディスの首筋を通り抜け背中側に回り込み、そこでわたし達は攻撃を開始する。

 本当にやってもいいのかという葛藤を押し殺し、決行した。


「思う存分遊んでいいのだ!!」


「わあい、やったぁ! それじゃあいくよー」


 〝影刃弾撃(ヒゴノカミ)〟!!


 エリカの翼から巨大なナイフがいくつも召喚され、カリュブディスめがけて放たれてゆく。


 OK出した途端これだ。

 やれやれ、わたしも攻撃をぶっぱなそう。

 早く終わらせてぐっすりと寝りたいし。


 〝黒雷斬撃(ミョルニル)〟!







 ――――






「ゴオオオオオオオオオオオオオ」


 低い風の音のような唸り声が、戦いの場から遠く離れた岩影から見守る者らの耳にまで届いた。


「始まったぞ」


 双眼鏡を覗きこみ、ヒカリはそう呟いた。

 ガララとヒカリ、そして事の顛末を見届けたい村人が、海岸から離れた場所から戦況を観察しているのだ。


「大丈夫かしらエリカ。あんな大きな方を屋敷に連れて帰るなんて言わなければいいけど……」


 ヒカリの隣で、なぜか黒髪のメイドが佇み戦場を見つめていた。


「ガララ様、あのメイドさんは何者ですか?」


「マリカさんというらしい。とても腕が立つので、何かあった時にアタシらを守護してくださるらしいぞ」


 何かあった時というのは、万が一エリカや一華が敗北し、カリュブディスがこちらに襲いかかってきた時の事だ。

 能力鑑定(ライブラ)で見れば、ステータスの差で一華やエリカの敗北は十分ありうる。


「生きて帰ってこいよ……チカ姉」


 無力なヒカリには、ただ祈ることしかできないのであった。





 ―――





「ゴオオオオオオオオオオオオオ!!」


 凄まじい地鳴りのような、腹に響く悲鳴。

 わたしとエリカの攻撃はカリュブディスに効いているようだ。

 ところが……


「……ん? ちょっと攻撃やめるのだ!!」


「えーどーして?」


 ……何か妙だ。

 どうしても違和感が拭えない。なぜって、攻撃を当てているのに傷一つつかないから。


 ガララさん何て言ってたっけ。


『カリュブディスさまの能力の基本は、吸収と放出だ。

 かつてはその力で外海の魔力や養分を取り込んできて、この国の土壌に与えていた』



 吸収と、放出?


「イチカおねーちゃん、なあにあれ?」


 あれは……

 カリュブディスが振り返って、こっちに向けて口を開けている?

 口の中で何か光って――


「うわぁ!?」


 黒き雷の斬撃と、真っ黒のカッターナイフが、カリュブディスの黒からわたし達に向けられ放たれた。


 わたしの〝黒雷斬撃(ミョルニル)〟とエリカの〝影刃弾撃(ヒゴノカミ)〟?


 吸収したというのか……? 今までの攻撃を全部?


「やっ、エリカよけきれな……きゃっ!」


 弾幕を避けきれないエリカの翼に影刃弾撃(ヒゴノカミ)が突き刺さり、薄紙のように引き裂かれてゆく。

 同時に体にも雷弾を受け……やがてエリカは飛翔を維持できなくなって、回転しながら落下を始めた。


 エリカが落下するであろう真下には、カリュブディスの大口が待ち構えており――


「エリカ!!!」


 バクンッ!!



 危なっ! 間一髪!!

 ギリギリでエリカをキャッチする事ができた。

 しかし、エリカは戦闘不能。わたしも数発受けている。


 ちくしょー、正直見くびっていた。

 一旦戻って立て直さないと、わたしもエリカも食われるだけだ。


『ヒカリ!! エリカが攻撃を受けて動けなくなったのだ!! そっちと合流したらすぐに逃げるのだ!!!』


 思念でそう伝え、エリカを抱えるわたしはカリュブディスから逃げるため内陸へ飛翔する。

 奴の動きは遅い。だから全速力で逃げれば振り切れ――


「嘘……? あの巨体で」


 わたしの背後に巨大な影が迫っていた。

 カリュブディスが、飛んでいる―― それもかなりの速度で。


 まずい、このまま帰ろうなんてしたら、ヒカリやガララさんらを危険に晒してしまう。

 ヒカリは空中移動を封じられているし、マリカは元々飛ぶことができない。考えろ、今できる事といえば……


『作成変更! 近くの大岩の陰にエリカを隠すのだ! わたしがカリュブディスの気を引くから、ガララさんかマリカが回収しに行ってほしいのだ!!』


『……わかった、伝えておく。必ず無事に帰ってきてくれよ!』


 ヒカリに伝えたから、あとはバレないようにエリカを隠すか。


「こっちを向くのだ!!」


 方向転換し、海側に回り込む。

 泳ぐように飛ぶ速度は早いが、幸い小回りが効く様子はない。

 振り返ったのを確認し、再び内陸側に移動する。


 カリュブディスがゆっくりと振り返るわずかな間、わたしは気づかれないようにエリカを大岩の後ろに横たえた。


『今からカリュブディスの注意を引く! 回収を頼むのだ!!』


 思念でそう連絡し、わたしは高度を上げてカリュブディスの顔に近づいた。


「わたしを見るのだデカブツ!!」


 よし、あとは時間稼ぎをするだけ!

 わたしがカリュブディスの背中側に抜けると、奴もぐるりと回る。これでいい、上手く気を引いてるようだ。


「鬼さんこちらー!」


 巨大な青い手が迫ってくるも、ひらりと身を翻して避ける。

 そのまま海上へと抜け、わたしは振り返った。


「……ん?」


 ふと、カリュブディスが飛行をやめ、海底に手足をつけて大口を開けているのが目にとまった。

 なんだろう? また攻撃をしてくるつもりだろうか――


 ビュオオオオオオオオオオオオオ―――


 沖から突風がわたしを吹き付ける。

 急に強い風が…… ッ!? まずいっ、吸い込まれる! カリュブディスに食われる!!


 その突風はあまりにも強く、わたしが翼を羽ばたかせても逆らう事さえできず、わたしは空中でバランスを崩し、そのままカリュブディスの大きなおおきな、真っ暗な口の中へと――

次回 魔人の身体構造は人と大体同じ。消化されたものの行く末は……

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