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太くて長い、低くて平ら

 エリカの影転移という能力は便利だ。

 影があれば、距離を無視して一度行った事のある場所へ一直線に移動できる。


 にしても相変わらず窓すら無くて殺風景な大部屋だな。先日の騒動で砂の山と化したゴーレムの残骸が隅に除けてある。

 ――で、どういう訳か、そんなエリカの屋敷の食堂でわたしとヒカリは立たされていた。


「お二方に感謝します」


 いや誰?

 わたし達に向かい合うようにゴシック調のエリカと、なぜかメイド服を来た黒髪の女性が深々と頭を下げている。誰だよ、なんで感謝されてるの?

「いや、誰?」と、わたしより先にヒカリが声に出す。


 メイドは顔を上げ、微笑みながら応えた。


(わたくし)は〝マリカ〟と申します。先ほどまで貴女方と戦ってたいた、醜悪な魔物ですわ」


 ?????????


「「……え? えええええええええええ!!?」」


 わたしとヒカリの声が合わさった。


 嘘でしょう? だ、だってあのボサ長髪に、耳まで裂けた口と何より無数の触手が生えた見るからに気色の悪い怪物が、こんな美人になんて! てか胸でかっ


「お、驚いたがこういう事もあるよな。何より前例があるし」


 なんでこっち見るんだよヒカリ。

 なんかトゥーラ王も言ってた気がするな、魔物が人の姿になるとかなんとか。

 それにしても、このマリカさんは一見普通の人間にしか見えない。


「あらあら、私に魔力弾をたくさんぶちこんでくれた貴女も魔人なのですね、これからはお互い仲よくしましょう?」


 うっ……なんか申し訳なくなってきたぞ。

 握手をしようと手を差し出してきたので、応じてわたしも右手を伸ばす。


「よろしくなのだ」


 ぬるっ


「うひっ!?」


 マリカの袖から、急にミミズのようなぬめり気のある触手が伸びて、わたしの指に絡みついた。驚いて反射的に手を引っ込めてしまった。


「あら驚かせちゃった? ごめんなさいね……うふふ」


 マリカさんはわたしを見つめながら舌なめずりをし、思わず鳥肌がたった。


「マリカって名前は元からなのか? さっき戦ってた時の様子は知性を感じられないようだったが……」


 ヒカリがマリカにそう質問すると、エリカが遮るように話しだした。


「エリカがおなまえつけてあげたのーー!! マリカは新しい〝おともだち〟なの!」


 なるほどエリカがつけたのか。


 ――さっきの戦いの後、エリカは現マリカを空間ごと圧縮して閉じ込めた夢幻牢獄(影のカプセル)を持って、屋敷に帰ってしまった。

 再び影から姿を現したのは、わたし達が貴族の賄賂やら(バートムのコネ)で関所を抜けてからである。


「先ほどまでの私は、たくさんの意識が一つの体の中でひしめいいて、心身共に不安定な状態でした。このお嬢様が私に〝マリカ〟という名前をつけてくれたおかげで、全ての私は私となったのです」


 えーと、よくわからん。


「つまり、名前をつけられたおかげで自我が芽生えたっつーことか?」


「その通りですわ。意識が統一されたことで、肉体も安定してこの姿になれたのです。更に、私には108体全ての〝私〟の記憶がありますわ。それなりに常識は備えてるつもりです」


 108体の魔物全ての記憶を持ち合わせてるとか、どんだけ賢いんだろう。頭痛くなりそう。


「あの怪物がこうも常識的で知的な美女になるなんてな、チカ姉ももうちょい賢ければ色々楽なんだが」


「なっ!? それ遠回しにバカって言ってないか!? ひどいのだ!」


「別に遠回しに言ったつもりは無いが?」


「のだっ!?」


 わたし達がそんな痴話喧嘩をしてる中、微笑ましそうにマリカが間に入り、こう呟いた。


「私が美女だなんて……

 ――本当に女の子かどうか、確かめて(・・・・)みます?」


 マリカはスカートの裾をつまみ、にこにことナニかを見せたそうに微笑んでいる。

 一瞬意味が分からなかったが、次の瞬間にはわたしもヒカリも青ざめて首を横に振るのであった。




 ―――――





 枯れた大地が果てし無くどこまでも広がっている。地面は渇きにひび割れ、かつてあったであろう草木はわずかな残骸を残すだけとなっていた。


 屋敷からエリカに元の場所まで送ってもらってしばらく歩いたところ、こんなとこに出てきた。

 トゥーラ王はなんでまたこんなとこにわたし達を送り出したんだか。


「農業大国バルアゼル……こんな事になっているとは……」


 バルアゼル? また国境を越えちゃったのか。一体ここはどんな国なんだろ。


「バルアゼルはどんな特徴がある国なのだ?」


「バルアゼルは、国土面積がこの大陸ではトップでな。この国でとれた作物や魚介類は質も量も良く、世界中に輸出されてたんだが――」


 ヒカリは少し間を置いてから、話を再開した。


「一年前にハナノ帝国によって滅ぼされたんだ」



 ――ハナノ帝国は軍国主義の宗教国家である。

 強力な古代兵器の数々と最新兵器を併せ持っており、その他宗教や無宗教国を目の敵にして攻撃することがあるという。


「帝国め……クソっ」


 ヒカリがそんな事をぼやいている内に、もう日が沈みかけているようだった。

 そろそろ()退()しようか、そう考え始めた時、


「おいおい! こんな所にガキがいるぜ? 身なりもいいし、ここでなら殺してもバレないんじゃね?」


「へっ、死にたくなければ身ぐるみ全部ここに置いてきな!」


 わたし達に向けられた、敵意ある声が聞こえた。

 声の主は魔物……じゃないな。黒い布で口元を覆い、ブーメランを持つ盗賊風の男が二人。


「うぇー、マジかよめんどくせぇ……」


 小声でヒカリがぼやいた。


「こういう時、ヒカリはいつもどうしてたのだ?」


「適当にぶっ飛ばして逆に金品奪ってやってたな」


「それじゃどっちが賊かわかったもんじゃないのだ!!」


 帝国の貴族令嬢さまが賊を力ずくでカツアゲする。なんと冒涜的で名状しがたい図だろう。

 むしろ見てみたい気もするけど、今のヒカリは本気を出せないか。


「ガキの分際で無視してんじゃねえぞ? 土下座してオレ達に奉仕してくれりゃ、生かして帰すのも考えてやるぜ? こっち来いよ、赤髪のチビ(・・)


 あー、ヒカリにその言葉はNGだぞ。前世でも、多分今生のヒカリも。

 予想通り、ヒカリは青筋をこめかみに浮かばせ、すらりと剣を抜き、


「誰がチビじゃボケがああああああああ!!!!!!!」


「落ちつくのだ! ヒカリはまだ成長期なのだっ!」


 キャラ崩壊も甚だしいヒカリを後ろから羽交い締めて押さえつける。

 こういう時こそ寛大さが必要だとわたしは昔パパに教わったのだ。うまく説得して諦めさせるのだ。いつでも慈悲深くあれ。


「チビが来ないならお前が来いよ、白髪褐色の貧乳(・・)ちゃん」


 よし、慈悲は死んだ。

 死してなお消えぬ永遠の恐怖を、その魂に刻み込んでくれよう。

 もう角や尻尾隠さない! 威圧感出すために翼も出す!! 絶望させるために、あらゆる攻撃を完封した上で圧倒する!!


「先手は譲ってやろう。さあ、どこからでもかかってくるがよいのだ!!」


「てっ、てめえ魔人かよっ!? ……いや、魔人だろうが、オレ達兄弟の敵じゃないぜ! 死にやがれ!〝炎翼交撃(フレアクロスウイング)〟!!」


 盗賊二人が息ピッタリにブーメランを投擲する。ブーメランは炎を纏い、左右両側から交差するようにわたしへ飛び、合わさった瞬間、はでな爆発に包み込まれた。


 〝狂戦竜(ディロング)


 砂煙の中、黒く巨大な影が鎌首をもたげる。

 狂戦竜(ディロング)は戦闘に特化した形態だ。筋肉質で巨大な体に、背中から大きく伸ばした枝と花のつぼみのような〝蕾翼〟。


「ちょ、チカ姉それは……!!」


 ヒカリが何かを心配してるようだが、全く問題なんてないのだ。

 むしろこれは、ノーダメだし「わたしはあと数回変身を残していますよ」的な余裕アピールだ。


「馬鹿な、あれを食らって生きているだと!? チッ、お前らも加勢しろ!!」


 近くの大岩の後ろから、更に3人の仲間が現れた。

 それぞれ、魔法使い、戦士、剣士といった格好をしているが、全員黒い布きれで口元を隠している。ユニフォームか何かだろうか。


 魔法使い風の男が指を差して言う。


「炎耐性があるようだな。しかしその本性を現したあたり、ダメージで人型を保てないとみた。図星だな!?」


 違いますぅ! わたしが貧乳だとかほざきやがったお前らを絶望させてやりたいんですう!!


「どうせ殺すんだ、無駄口叩かずにさっさとやっちまおうぜ!」


 剣士がそう啖呵を切ったのをきっかけに、賊らは一斉にわたし達へ攻撃を始める。


 まず魔法使いが氷結魔法でわたしの足元を凍てつかせ、動きを封じ(たつもりだろうね)、


 盗賊二人はどこからか取り出した弓矢で支援的にちくちく攻撃する。


 戦士は極限まで身体強化した大剣の一撃を。


 剣士は素早い斬撃の連撃を。


 そしてわたしはそれら全てを受けてみせ、全くの無傷で佇んでいる。


「その程度なのか?」


 ふっふっふ、驚きすぎて声も出ないか。

 散々やってくれたんだし、そろそろわたしが一発ぶちかましてもいいよね。


 〝邪竜覇気〟!


 竜の姿で、獣のように叫んだ。

 マリカとの戦いで獲得していた力だ。自分より格下の対象へ一時的に大きな精神ダメージを与えるという。


 叫び終えると、周囲には気絶して失禁した連中が転がっていた。

 いやー気分爽快。ヒカリもさぞスカッとした事であろ……ん?


「ヒカリー?」


 わたしの体の下で守ってたヒカリの返事がない。

 どうしたのだろうと、とりあえず人化して様子を見ると――


「ぶくぶくぶく……」


 至近距離でわたしの覇気を浴び、泡を吹いて痙攣しているのであった。

一華ちゃんがそこまで胸にコンプレックス持ってるなんて知らなかったわ……

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