冒険者に
「出せェ!! 出すんだァ!!!!」
ヒカリは、魔石を飲み込んでしまったエリカの頬っぺたを荒っぽく両手で引っ張り、叫ぶ。
わたしはどうにか取り出せないかとアビリティを使って調べようとした。
《〝能力鑑定〟の新しい権能、【自動鑑定】が使用可能です。起動しますか?》
いつの間に新しいのが……〝自動鑑定〟だって? よくわかんないけどとりあえずイエス!
《個体名:ヒカリ 貴女にとって一番の存在。光熱魔法、物理攻撃が強力》
なにこれ。
ヒカリを見たら簡単な説明文みたいのが脳内に表示された。これが自動鑑定?
と、新たなアビリティに触れているとエリカが
「うっ…えぐっ……ふえええんっ! いじわるするのー!」
「あっ……その……ごめんね?」
突然の涙に動揺するヒカリ。
エリカはシルクで包んだリンゴみたいな顔色で、涙を流しながらわたしの胸に飛び込んできた。なんだこのかわいい生物は……
《個体名:エリカ 今怒らせてはいけない。彼女の使う影魔法は範囲が広い》
今怒らせてはいけない。その通りだ。
下手に刺激して怒らせようものならば……この国がヤバい。
一旦、エリカに魔石を吐かせる事は諦め、ヒカリとわたしはコランダムの言っていた〝厄災をもたらす禁術〟について考える事にした。
*
翌日。
「今日はズルクについて調べよう。貴族と冒険者兼ねてんだから、ギルドへ行けば何かしら分かるかも」
――という訳で、ヒカリは一人でギルドに行ってしまった。
一方のわたしはエリカと街で色々な物を見たり買って食べさせて、エリカのお腹の調子を見ている。
「おいしいのー!」
「うまっ!? なにこれ美味しいのだ!!」
上品な甘さとどこか懐かしい香りのする、ストローつきカップに入れられた飲み物。中に入っている、むぎゅむぎゅ食感の丸い半透明の玉がまた美味しさを引き立てている。
さしずめタピオカか?
「ってエリカもう飲み終わったの?」
「うん! ねえ次はあれたべたいのー!」
ヒカリに『たらふく食わせておけ』と言われ、それを実行している訳だが、なんだその……太らないか心配になってきた。
でも関所を超える為には、何をとは言わないが、出させなきゃだし。
我慢だ、乙女のプライド今だけ捨てるべし!
―――
ギルドにははでな鎧や衣服を着た人がたくさん。そこへ金髪の少女が扉を開けて入ったとたん一斉に凝視する。
「なんだあの小さなガキは……? 一人で冒険者やってるのか?」
「親とはぐれたんじゃねえの?」
ひそひそと話声がする。ヒカリは気にせず中央の受付へ歩いてゆき
「俺はヒカリという者だ。詳細は伏せるが、ズルクというAランク冒険者について尋ねたいのだが――」
ヒカリが堂々と、大きな胸をはって声大きく受付嬢に尋ねた瞬間、職員含めギルド内の空気が一瞬にして凍りついた。
「おいおい待て待て、あんたズルクについて何を調べようってのかい? まだ若いんだから、そんな無謀な事するんじゃないよ」
初老くらいの冒険者がヒカリにそう言った。
「些細な事でいい。例えば最近何か変わった事を始めたとか」
他の冒険者達に尋ねる。
すると皆口をつぐみ、しばらく沈黙が訪れた。
「……最近やたら魔物を使役するようになったって噂があってだな……」
「馬鹿やめろ! 始末されちまうぞ!!」
始末。ヒカリはその一言でここの状況をあらかた把握した。
ここでズルクに逆らうものは貴族の権力によりひねり潰される。
思ったより面倒な事になってるな――と、考えを巡らせていると
「そんなにズルクとお近づきになりたいなら、Bランク以上になってからここで待ってるんだな。運が良ければ屋敷で妾にしてもらえるぞ」
朝っぱらだというのに酔っ払っている老人がそんな事を呟いた。
「妾?」
「ああそうじゃ。それなりに実力があって、見た目もかわいい女の子はみんなズルクのものなのさ。全く……」
――
「え……エリカちゃーん……? まだ食べるのかな……?」
ダメ……わたしはもう入らない……
「うん!」
エリカは両手にクレープと果物を持って、ほくほくしている。
こんな小さな体のどこに、あんな量入るんだよ……
胃袋がブラックホールと直結してるのか? だとしたらあの魔石は今頃、特異点に到達して次元の向こう側へと消え失せてるのかなぁ……オエッ
「一華おねーちゃんもう……限界……なのだ」
「えー? まだまだ食べたいのー!」
恐ろしい子っ!! 大食らいを通り越して無慈悲!
これ以上食べたらわたしの腹が裂ける。それくらい食べたと思う。このままではもう路肩で吐いてしまう……
そんな時、救世主がただいまと戻ってきた。
そして着くなりわたしにこう言ってきた。
「チカ姉に今すぐ〝冒険者〟の登録をしてほしい」
「ほえ?」
冒険者。それはこの世界において、最も人気のある職業らしい。
次回 一華ちゃん、偽名を使う




