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おとぎ話の邪竜 ~女子高生が転生したらなんかヤバい化け物になってた物語~  作者: ヨウコウ
悪魔少女のはじめてのおでかけ
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なくなった

 カーテンは閉められ、ゴミだらけでじめじめとした暗い室内。

 その一点に青白い光を放つ四角い光源――パソコンの画面を覗く小汚い男の姿があった。


「……またか」


 そう呟いた男の覗く画面には『【緊急速報】また謎の爆発現象。A国のN街が消滅。安否不明者多数』というニュース記事が表示されていた。


「いいぞ……このままこんなクソみたいな世界滅ぼしてしまえ」


 男がニヤリと不精ひげのまとわりついた笑みを浮かべたその時だった。


『 ――ならばその通りにしてやろう―― 』


 物質的でない〝声〟が男の脳内に響いた瞬間、男の住む街は丸ごと幕のような黒い光に包まれ、その範囲内にある物質は瞬時に消滅した。

 もちろんこの男も――



 ――



「何だ? 真っ暗だ。まさかパソコンが壊れたのか?」


 突然の自体に状況を飲み込めていない男の元へ、〝それ〟は現れた。


『私の名は〝アズリエル〟死者の魂を司る天使とでも言っておきましょう。それより突然の事ではありますが、あなたは死にました』


 唐突な宣告をするそれは、純白の衣に身を包んだ天使だった。

 ただし、顔には目玉の刻印が施された黒い仮面をつけ、右手には大鎌を握っており、異様な姿であった。


「おれが死んだ? 冗談言うなコスプレ女」


 男が憎々しげにそう言うとアズリエルはセミロングの金髪を触りながら、男に自分の体を確かめるよう促した。


『冗談に見えますか?』


「え……おれの体が……透けてる!!?」


『誰もあなたを認めず、世界はあなたに不適合者のレッテルを貼った……唯一の友達はパソコン一台だけ……さぞお辛い人生を歩まれてきたのですね……』


 アズリエルは仮面越しに指を目元に抑え、同情して涙を流すそぶりを見せる。


「はは……本当に死んじゃったなら嬉しいぜ……」


『それより本題ですわ』


 アズリエルは男に対し、ほぼ一方的に話を押し進めた。あるいは、男にとってもその内容は素晴らしいものだったのかもしれない。


『――という訳で、これからあなたに特別な〝大罪の種〟を付与して、異世界へ転生させます』


 アズリエルはそれだけ言うと、その手に握る鎌で暗闇の空間を切り裂いた。


「いわゆる〝チート〟ってやつ? マジ嬉しいわ」


「そんなようなものですわ」


 男は抵抗するそぶりも見せず、漆黒の世界に一点だけ切り開かれた白い光の中へと吸い込まれてゆき――


 暗闇の空間に1人残ったアズリエルと名乗る存在は、不敵な笑みを仮面の下に隠し、こう呟いた。


『ふふ……これで〝おとぎ話の邪竜〟の力を取り戻せる――』










 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










「すごいのだ! めっちゃRPGみたいな、ファンタジーな街なのだ!!」


 ここはディアリア王国。

 炎のように真っ赤な煉瓦作りの家が立ち並び、中には木造の温もりある建物もちらほら見受けられる。そんな中世ヨーロッパ風な城下町だった。


 ここは魔法の存在するこの世界において、特に日常魔法とやらが普及しているんだって。ヒカリは物知りだ。


「そこらへんで簡易魔方陣の書かれた紙が安価で売られてら。帝国に戻ってきたみたいだ……」


 仮面の下から冷静に街並みを眺める()()のヒカリを置いて、わたしと影から出たエリカは興奮気味に初めて見る様々な物をまじまじと眺めて回っていた。


「これなんなのー? ぷるぷるしてるのー!」


「わかんないけど水晶みたいで綺麗なのだ!」


 露店に売られているスライムみたいな物体を見つめ、まるで子供時代に戻ったような気分に浸っていると、ヒカリに軽く怒られてしまった。


「もう夕方だし、今日の所は宿屋に行くぞ」


 わたしとエリカはヒカリに引きずられ、宿屋へ向かった。


 ―――


「すっごーい! ここ何ー!? おやしき?」


「ここは宿屋だよ」


 エリカは初めて見る宿泊部屋にその目を輝かせ、興奮している。

 それにしても、わたしも初めて見るものが多い。壁や床のあちこちに六角星の魔方陣が刻まれている。

 ヒカリいわく、室内を快適にするエアコンやストーブのような魔法の刻印らしい。


「へぇー……ん?」


 人数分のベッドの間に小さな木製のタンスがあり、その上に置いてある小さな紙に書かれた魔方陣が気になった。


「じゃあこれは何の魔方陣なのだ?」


 手にとってヒカリに見せる。


「見せてみ。ああ、これはコンd……あ」


 ヒカリは何かを言いかけ、とっさに口を塞ぐとなぜか顔を真っ赤にして照れている様子。


「これは……まあその内な……今はエリカも居るわけだし……」


 伏し目で目を合わさず、ヒカリは小声で話しながらその魔方陣をビリビリに破き捨ててしまった。一体何がそこまでヒカリを照れさせたのだろう?


 エリカはベッドの上でぴょんぴょん跳び跳ねている。


「そうだ!! そんな事よりトゥーラ王から頂いた書簡の事だ!!」


 ヒカリは話題を勢いよく逸らして懐から小さな筒を取り出し、その蓋をかぽっと開け、中に入っていた手紙を読んだ。


『〝やあやあ( *・ω・)ノ これ読んでくれて嬉しいよ。これ読んでるって事は、今のところ捕まらずに無事って事だね? いやぁめでたい(´∀`) めでたい(´∀`)

 ところで、ディアリア王国の西には関所があるんだ。通るにはそこで自分のステータスを開示しなきゃいけない訳だけど、君たちそういうの困るでしょ? 家出娘と討伐申請出てる魔人ちゃんだし。

 だからそこで秘密アイテム! 筒の中にちっちゃい魔石入ってるよね。それ関所で見せればステータス開示無しで通れるよ。この大陸の関所ならどこでもね。

 あとオマケ機能として《魔力強化Lv5》の刻印つきだよ。大事に活用してねー。バイバーイ!〟』


 ……相変わらず文章が軽い!

 こいつ本当に王様か? と改めて思いつつも、ヒカリが筒の中から取り出した紫色の半透明な石を取り出し眺める。

 表面に細かい文字と刻印が刻まれているようだ。


「要はこれがあれば、西の関所をノーリスクで抜けられるって訳だな」


「王様もいいものくれたのだ。ところでこのオマケ機能ってどうやって使うのだ?」


「アクセサリーだな。地肌に触れる事によって効果が発揮されるはずだから――」



 ――後になってから思う事だが、わたし達はここでとてつもないミスを犯していた。

 それは、エリカから目を離していた事である。

 実年齢はともかくとして、エリカは見た目通りとても幼い精神年齢である。かまってあげないと気を引こうとしてくるのだ。


「なーにーしーてーるーのーー!!?」


 それはわたしの目の前で、スローモーションとして起こっていった。


 まず石を手にとっていたヒカリの背中へ、エリカはぴょーんと体当たりをかました。おそらく普通の人間なら骨が折れている程の勢いで。


「うわっ」


 突然の強い衝撃により、ヒカリが手に持っていた魔石は宙に放り出された。

 魔石は前方の壁に当たって跳ね、駄々をこねようとツバメの雛のように大きく開けたエリカの口の中へと見事ホールインワン。

 そして口はそのままごくりと閉じられ、ホールアウトを迎えていた。


「「あああああああああああああああああっ!??!!?」」


 一瞬、我に帰ったわたしとヒカリは合唱するみたいに叫んだ。

 当のエリカは何が起こったのか理解できず、とりあえずにんまりと、天使みたいな愛らしさで微笑んでいた。

次回 冒険者って楽しそうに見えて色々大変そう

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