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 エリカの案内により、食堂前の扉まで戻ってきた。案内というより瞬間移動に近いのかな? まあいいや。


「にしてもエリカちゃん本当にワタシ達についてくるのか?」


 何度目だろうか、そう聞くヒカリに対しエリカは目を輝かせて


「エリカね、一度お外に出てみたかったの!」


「ここへは帰ってこれないかもしれないけどいいの?」


「その辺はだいじょーぶなのー!」


 エリカは大丈夫でも、外の人達の命が果たして大丈夫か?

 と思いつつ、扉の取っ手に手をかけた途端


「おわっ!?」


 扉が吹っ飛んだ。

 デジャブを感じつつ向こう側を見ると、灰色の人型をした巨大なロボット――いや、魔道人形(ゴーレム)がわたしの前に立ち塞がっていた。


「まさか本当に戻ってくるとは。悪いですが悪魔(エリカ)を見て生きて帰す事はできないのです」


 よく見ると、ゴーレムの後ろに立つバートムさんがわたし達にそう言ってきた。どうしてバートムさんが……


「どういう事ですか? なぜ我々を攻撃してくるのです?」


 とヒカリが聞くとバートムは腕を組み直し


「いいでしょう。冥土の土産に教えてあげます」


 メイドの土産……一瞬ヒカリを見てしまったが関係ない。多分。

 それよりバートムの話はとても重いものだった。


 ―――


「それは500年前の事だ。ある女が大悪魔を余命幾ばくも無い娘に憑依させた。

 結果命は助かったものの、悪魔の力を得た娘は、遊びだろうと食事だろうと何をするにも死人を出した」


 悪魔を憑依させたって、コランダムがそんな事言ってたような……


「そこで当時の当主は娘をここに閉じ込め、定期的に遊び相手(イケニエ)を与えると大人しくなった。 それから生贄と、外へ出さない為に改築し続ける事が歴代当主の義務となり、代々私に引き継がれたのだ。私はお前達のような生意気な冒険者をな――」


 生贄? じゃああの骨の山はエリカの玩具として捧げられた人達で……エリカはここで500年もの間閉じ込められてた……?


「それって……あんまりなのだ! ひどいのだ!」


 我慢できず、思わず声を荒らげる。


「ああひどいさ! でも仕方なかった! そうせねばエリカが大勢の人間を殺す! 必要な犠牲だったんだ!」


 必要って、そんなの……

 隣で戸惑うエリカを見て、わたしはどうすればいいのかわからなくなってしまった。

 一方のヒカリはいたって冷静だ。


「で、この事を知った俺達を生かして帰す訳にゃいかないと?」


「その通り。さあエリカ、お部屋に戻って遊んでいなさい」


「パパ……エリカは……」


 とバートムの言葉にエリカは身を縮こまらせ、黙りこんでしまった。


「では、ここで死んでください!」


 バートムが叫ぶと、灰色のゴーレムがまるで待っていたかのように関節からギリギリと重たく擦れる音を立てて動きだした。

 そして人の頭ほどある拳をふりかぶり、わたしめがけて――


「確かにそうなのだ……でもこのまま見過ごすなんて……」


「チカ姉!」


 食堂内に土埃が舞い視界を遮る。


 エリカにそんな複雑な事情があったとは……

 第一印象は最悪。でもなぜか、わたしはエリカが嫌いになれない。

 (はらわた)を引きずり出されようが、首を切り落とされようとも。

 どうしてだろう。境遇が似てるからかな? わたしにもわかんないや。

 だが何はともあれ……


「わたしは死なないのだ」


 言葉通りの意味である。

 というかゴーレムの攻撃自体がわたしに一切の痛痒を感じさせない。

 それからわたしは、ゴーレムの額にある弱点っぽい紋様に軽く雷弾を放って当てた。すると本当に弱点だったみたいで、そのまま全身のパーツがぼろぼろ崩れてゆき、しまいには砂の山になってしまった。


「ふむ、やはりズルクの言った通り下位のゴーレムでは歯が立たないか。だがこれだけではない。私はディアリア(いち)のゴーレムマスターだ!」


 バートムの後ろから更に十体くらいのゴーレムが現れた。その全てが鎚か大剣を持ち、緑色の装甲で全身と弱点の顔を包んでいる。


「このゴーレム達は一体一体が上位(ハイ)の冒険者に匹敵する強さです。諦めなさい」


 むうう……ガチで殺しにかかってるらしいな。

 でもわたしにかかれば――と、臨戦態勢をとろうとした時の事だった。


「俺にもやらせてくれ」


 丸腰であるハズのヒカリが名乗り出た。




 *




 バートムはエリカを置いて食堂内に入ったわたし達を見つめ、不敵に笑う。


「さあ、覚悟はできましたか?」


「できたのだ」


 対するわたしもにやりと笑うと、緑鎧を纏ったゴーレム十体が同時にわたし達へ「ぎぎぎぎぎ」と音をたてながら同時に武器を振り下ろし、

 鈍い金属音が無機質な部屋に響いた。


 無機質な広い部屋に、十体のゴーレムがひしめく。

 その中心――ゴーレム達の振り下ろした武器の下をバートムが覗くと


「……何だこれは?」


 わたしの張った〝強化結界〟により、ゴーレムの武器が防がれていた。

 濃い青色の結界。これは以前まで使っていた簡易(水色の)結界とは違って、結界を維持する魔力を常に注ぎ続けている為に非常に強固で、穴を開けられても瞬時に塞がるのだ。


「じゃあわたしからもいくのだ!」


 〝本体召喚〟《邪竜の拳》!


 わたしの目の前の空中に黒い穴が現れ、その中から黒い鱗におおわれた巨大な腕が飛び出し、ゴーレムの集団をなぎはらった。そして一瞬で10体いたゴーレムが、一体だけ残して粉砕された。




 ―――




「ヒカリが倒すって!? ヒカリは今めちゃくちゃ弱体化してるのだ! 無理なのだ!」


 と、止めようとするとヒカリは少し呆れた様子で首を横に振り、諭すようにわたしに説明した。


「〝リミット〟の事を忘れたのか? 敵の攻撃をギリギリで避けると貯まって、一定以上になると能力封印が解除される――」


 正直忘れてた。


「それでも危険過ぎるのだ!」


「いやいや……まさか俺が全部相手にするとでも思ってるのか? チカ姉が先に大半を片付けてくれればいいじゃん」


「なるほどなのだ! さすがヒカリ、冴えてるぅ!」


 わたしは上に向けた手のひらをポンと叩き、感心した。

 これならリスクも少なく済む。


「それでもヤバかったらわたしがなんとかするのだ」


「その時は頼んだぜ」


 横で「何を言ってるのかわかんない」という顔してるエリカを置いて、ヒカリの案が決行された。




 *




「なっ……? 何をした!? 私のゴーレムが一瞬でっ!?」


 顔面蒼白で部屋の隅に佇むバートム。

 さっきあれだけドヤ顔で「私は国一番のゴーレム使い」とか言ってたんだから、相当な自信があっただろうに。少し申し訳ない事をしたな……


 それはともかく、ヒカリは残った最後のゴーレムを相手取っていた。ゴーレムは大剣を持っている。


「一体だけ残った……? そうか! いまのは貴女達の奥の手だったのですね! やはりズルクより強いようですが、今の攻撃で貴女の魔力も底をついたのでしょう!? 残念ながらまだ残ってます! フハハ! それにお連れの赤髪はズルクより弱いそうですね、もう希望はありませんよ! フハハハハハ!」


 なんかハイになってる? バートムはとち狂ったように高笑いしているが、気にしない事にしよう。


「さあ来い!」


 以前購入した安物の剣を器用に使い、ヒカリはゴーレムの攻撃を華麗にいなしてゆく。

 時折来る大振りな攻撃は、身を翻してギリギリの所で避けていた。


「何をしているっ!? そんな丸腰の小娘さっさと叩き斬れ!!」


 ゴーレムの攻撃が一向に当たらず、バートムは焦っているようだった。

 ……ところでどれくらい避ければいいのだろう?

 ひとまず能力鑑定(ライブラ)を起動して、ヒカリの状態を見てみた。


 ―――


 リミット:89/100(3)


 ―――


 89!? 確か100まで貯まると解禁だったっけ? すぐじゃん!

 ってまた増えた。6ポイントくらい。

 こうもあっさりと解呪できるものだったのか……?


「来た……」


 ヒカリが小声で呟いた瞬間、部屋中が緋色の強い光に包まれた。

 その刹那、どんっ、という音がしたかと思うと、部屋の隅に佇むバートムの横の壁に、何かが強烈に打ち付けられていた。


「ひっ……」


 片足を上げた姿勢で止まるヒカリ。

 壁に打ち付けられていたものは、まるで割るのに失敗した玉子のようにひび割れ、壁にめりこんだゴーレムの頭部だった。


「ひいいっ! お前達こんな事をして許されるとでも思ってるのか!? 私はディアリアの貴族だぞ?」


 バートムは身を丸くし必死で命ごいをする。

 わたしは別に命を奪うつもりは無いんだけどな。問題はヒカリだ。

 メイド服のヒカリはバートムに剣先を突きつけ、妖しく微笑んでいる。


「質問に答えてもらおうか……」


 と、バートムの頸へ剣を押し当てて何かを聞こうとする。

 すると突然エリカが飛び出してきた。


「おねがいパパを殺さないで! パパはいつもエリカにお人形くれるの! だからおねがい!」


 ()()エリカが人の命を庇った。

 そんなエリカの訴えを聞いたヒカリは、剣をバートムの首から離して納め、腕を組んだ。


「……別に殺しゃしねーよ。そうだな、まずエリカは俺たちが面倒を見よう。先祖代々の事も秘密にしておいてやる。だから俺の質問に正直に答えてくれ」


「し、質問ですか?」


 怯えてろれつの回らないバートムを落ち着かせ、ヒカリはゆっくり目を見て質問した。


「〝リリーム〟という名の少女の奴隷を知らないか?」


 リリーム。彼女はこの世界のヒカリにとって一番の親友である。

 だが、それを知る事になるのはかなり先になってからであった。

次回 いざ出発

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