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おりがみ

 後ろからズルクがわたしの背中を斬りつけてきた!!


「ははは!! 死なない程度に痛め付けたら、オレの性奴隷(おもちゃ)にしてくれるわ!!」


 すっごく気持ちの悪い事を口走りながら何度も剣を振るってくる。

 背中にごんごん当たっているようだが、全く痛くない。

 わたしの防御値がズルクの攻撃力をはるかに上回っているからである。


「ふははははは!! 泣け! 命ごいしろ! さあ今こそお前を従えてやる! 〝使役(テイム)〟!!」


 わたしに対して手をかざして唱えるズルク。

 こいつ使役(テイム)使うの? というかわたしに効くのそれ?


「む? 使役(テイム)使役(テイム)!!」


 よくわかんないけど多分効いてない。ただ、なんかすっごいイライラするのはなぜだろう?


「なぜだ!? なぜお前を使役できない!!?」


「わたしに聞かれても困るのだ」


 返答に困る。こうなるならリナリアにもっと使役について聞いておけばよかったかな。

 ……で、この男はいつまでわたしを使役しようとしてんだろ?


「くっそおおお! オレは禁術をも操る使役者(テイマー)だぞ!? それがなぜこんな魔人風情を使役できない!?」


 子供みたいにわめきながら地団太を踏むズルク。

 こっちは急いでいるのだから、無視して先へ進もうとすると……


「もういい! 殺してやる!」


 どうしてそうなる!?

 ズルクはその剣を思い切り振りかぶり、魔力を込めて全身全霊の一撃をわたしにお見舞いしようとしてきた。


『おやおや? このズルクという男、以前ワタクシに楯突いた人間ですねぇ。愚かしくも自分を万能だと思い込んでいますよ』


 コランダムの知り合いかよ!!


「どりゃああ!!」


 ズルクの振りかぶった一撃を、後ろに回り込んでかわした。


「避けやがったなクソが! てめえ何の魔人なんだよ!?」


 邪竜。そう答える訳にはいかない。

 返しに困るな。なんて言い訳しようかな。

 ――と悠長に考えていると、ズルクの背後の壁に黒い扉が浮かび上がった。

 そしてその中から、不機嫌そうなエリカが現れた。


「がはっ!?」


 吐血。ズルクは不意にエリカに腹を殴られ、吹っ飛んで後ろの壁に叩きつけられた。


「おにごっこの邪魔しないで」


 エリカは冷たく無表情にズルクを見据え、近づいていった。


「く、来るな悪魔め!」


 頭を抱えて怯えるズルク。

 エリカは構わず近づいてゆき、抵抗しようとするズルクの右腕を掴むと、ゴキリ、と痛々しい音がしてズルクの絶叫が響いた。


「遊びの邪魔する子は、死んでくれる?」


 そう言うエリカの瞳にはさっきまでの無邪気さとは程遠い冷徹な殺意が宿っていて、躊躇なくもう片方の腕もへし折った。


「やめて……ゆるひて……!」


「えへへ、済んだらおにごっこの続きしようねえ」


 エリカはわたしにそう言いながらズルクを痛め付ける。

 大の大人が泣きべそかいて幼女に頭を垂れ、エリカはその頭を掴んで握り潰そうとしている。

 いくら昨日あんなことされたとしても、見殺しはさすがに嫌だ。


「やめるのだエリカ。殺しちゃ可哀想なのだ」


「カワイソウ? どういう意味なのー? お外の言葉?」


 比喩ではなく本当に意味を理解していないみたいだ。ずっと一人でいたからだろうか。

 言葉の意味を説明するには時間がかかるどころかボキャ貧のわたしにゃ無理だ。


「とにかくそいつを殺しちゃダメなのだ」


 わたしは近づいてズルクの頭部を握り潰そうとするエリカの右手を掴んだ。


「えー……でもお人形さん(あなた)がそう言うなら仕方ないのー。おにごっこの続きするのー!」


 ズルクの頭から手を離し、エリカはまた無邪気な笑みを浮かべだした。ズルクは股関から温かい液体を垂れ流し、途中転げながら走っていった。


「おにごっこの続き……のっ!? 今エリカ捕まっちゃった!」


「え?」


 確かに今エリカの腕を掴んだけど、それをカウントしてるのか? そんな意図は無かったけど……まあいいや。


「じゃあわたしをヒカリの所に連れていってほしいのだ」


「わかったの! 約束だからおへやに行くの!」


 エリカはにっこり頬笑んでわたしの手を引き、ヒカリのいる〝子供部屋〟へと連れて行った。




 ―――




 宿泊スペースにズルクの叫び声がこだまする。


「ち、ちくしょう! このオレがあんな雌に情けをかけられるなんて……」


 巨大な屈辱と恐怖の中にズルクはいた。

 バートムはそんな彼の折れ曲がった両腕に小瓶に入った青い液体――上位回復薬(ハイポーション)を振りかけると、みるみる内に腕は正常な形へと戻ってゆき、完治した。


「全く、あれだけエリカを怒らせるなと言ったのに。でも起きてしまった事は仕方ない。エリカがあの魔人を殺さないのなら、我々の力で始末するまでだ」


 バートムは想定外の事態に驚きつつも、冷静さを失わない。

 ズルクを諭し、エリカと遭遇したにも関わらず戻ってくるかもしれない一華を殺す準備を始めるのであった。



 ――――



 エリカに手を引かれて歩いている。

 壁をすり抜けたり、黒いもやもやをくぐったりして、もはやどこにあるのかわからない場所に到着した。


「ここなの! いつもは気に入ったお人形さんで遊んでるの!」


 エリカがわたしを連れてきた所は、まさしく子供の部屋だった。

 全体的に赤かピンクを基調とした部屋で、棚や白いテーブルや天蓋つきベッドの上にはぬいぐるみやお人形が並べられている。

 本当にここにヒカリがいるのだろうか。


「ヒカリはどこなのだ?」


 と聞くとエリカは


「こっちなのー!」


 とぴょんぴょん跳ねながらわたしに手招きをし、ベッドの手前の黒いクローゼットを開けた。

 その中に――


「ヒカリ!!」


 赤い髪の少女――ヒカリが膝を抱えて眠っていた。

 どうやらちゃんと生きているようだ。

 しかしこの格好は一体……


「このお人形さん、とってもかわいいから服をきせ替えて遊んでたの!」


「ヒカリがかわいいって……」


 確かに今のヒカリは短髪でボーイッシュな美少女だ。でもこの服は――


「起きるのだヒカリ。迎えに来たぞ」


 ほっぺたをつねると、ヒカリは顔をしかめて呻いた。


「んだよチカ姉……もう少し寝かせて……」


「何寝ぼけてるのだ! このっ!」


 ふざけた事を抜かしやがったので、ほっぺたを思い切り引き伸ばしてやった。


いへ(痛て)えよ! ……ん? 誰だその子? てかなに俺のこの格好!?」


 我に帰り、赤面するヒカリ。

 黒いワンピースに白いエプロン、胸元には黒いリボンと、髪にはヘッドドレス。

 どこからどう見てもメイド服ですね、ありがとうございます。


 エリカが着せ替えて遊んでたと言っていたので、これはそういう事だろう。それにしても本当に……


「似合ってるのだ……!」


「やっ……み、見るな!!」


 恥じらいのある姿が、なお一層メイド服とマッチしていてかわいいと思うわたしであった。



 *



「そういう事があったのか……」


 諦めてメイド服を受け入れたヒカリ。

 どうやら今朝からの記憶が所々抜けてるらしい。なのでここへ来た経緯とエリカを軽く紹介した。

 ちなみにヒカリの記憶がちぐはぐなのはエリカの幻惑魔法によるものだと本人が言っていた。


「俺……いやワタシはヒカリ。よろしくねエリカちゃん」


「ひかり? さっきから言ってるけどお人形さんの事?」


「えっ?」


 うーむ、これはどうやら自分以外に〝名前〟がある事がわからないようだ。


「エリカは自分を〝エリカ〟って呼んでるでしょ? それが名前。外では他の人にも〝名前〟があるのが普通なんだよ。だからワタシの名前は〝ヒカリ〟なんだ」


 ヒカリがエリカに名前とは何かを解説していると、何だかヒカリの一人称がいつもと違う所が気になった。

 いつも俺なのに今だけワタシだ。何かあるのかな。


「そうなのかー! エリカの名前はエリカなの! じゃあ今まで遊んでくれたお人形さんの名前はなあに?」


 とエリカはわたしに向き直って聞いてきたので、一息ついて


「一華なのだ」


「そっか! よろしくね、イチカ!!」


 まぶしいくらいの笑顔でわたしと握手するエリカ。さっきまで殺す気まんまんだったというのに……

 ん? これってもう帰してくれるんだろうか?


「じゃあ次は何して遊ぶのー? イチカちゃん、ヒカリちゃん」


 無事に帰れると思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。

 わたしだけならともかく、能力封印されたはエリカの遊びに耐えられない。

 言葉でお願いすれば帰してくれるかな……


「ごめんねエリカ、わたし達もう行かないといけないのだ」


「イチカ帰っちゃうの? ……やだ! やだやだー!」


 駄目だった。エリカは涙を溢れさせて床に倒れ、手足をばたつかせて駄々をこねるのでした。


「……そうだチカ姉、空間魔法に収納してた紙の束があるはずなんだけど、それを取り出してくれないか?」


「え? わかったのだ」


 言われた通りに、正方形の紙の束を取り出してヒカリに渡すと、ヒカリはその一枚をめくって折り始めた。


「こらをこうして――ほいできた」


 なんじゃこりゃ!? 屈強で精密な紙製のドラゴンがヒカリの手のひらの中で猛っている。あまりのクオリティにわたしもびっくりだ。


「なにこれー!? 凄い凄ーい!!」


 興味津々なエリカ。


「これは折り紙っていうんだ。紙一枚から何でも作れるんだよ」


「エリカもやりたーい!!」


「いきなりこれは難しいからね、まずは簡単な星から」


 それからヒカリは、エリカとついでにわたしにも色々な形の折り方を伝授してくれた。にしても、こんな意外な特技があったなんて初めて知った。多分こっちに来てから覚えたものなんだろう。




 *




 部屋のテーブルには、動物やら魔物や外界にある様々な形に模した紙がいくつも並べられていた。


「楽しかったのー!」


 とても満足そうに笑うエリカ。


「そろそろおいとまするのだ。また来るのだ」


 今度こそと言ってみると、エリカは引き止めなかった。その代わりにとんでもない提案をしてきた。


「エリカもついてくの!」

次回 やった! とうとうヒカリが復活するよ!

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