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おにごっこ

 どしん、と屋敷全体に強い衝撃が走った。


「何事だ? 屋敷が揺れるなんて初めてだぞ?」


 物陰から出てきた半裸のズルクが言った。


エリカ(悪魔)……? 嫌な予感がする。ちょっと様子を見てきてくれないか。報酬は生きのいい女エルフ奴隷でどうだ?」


 椅子に座って紅茶を啜るバートムは怪訝そうに眉をしかめ、着替え始めたズルクに頼んだ。


「へっ、バートムの頼みなら報酬無しでもやってやるよ」


「そうかい、それと万一でも、悪魔(エリカ)の機嫌を損ねないようにな? いくら君といえど、危険だからね」


「ふん、心配するな。オレらはダチだろ?」


「そうだったね。じゃあ頼んだよ」


 しっかり着衣を着たズルクはバートムにニッと笑いかけ、食堂方面へ向かって行った。


「あの魔人め……見つけたら必ず……!」


 宿泊スペースから離れたズルクの瞳には、怒りと屈辱の感情が混もっていた。



 ―――




『でさー、トゥーラ王いわく昔は他に国が四つあって四神獣というのが――』


『ンッふっふ、あれにはかつて対立する四凶という存在がいたのです。よく覚えて、覚えておくといいですヨ?』


『ほうほう、コランダムは物知りだな、何者なんよ?』


『〝月〟からやってきた道化師(トリックスター)とだけ言っておきましょうかねえ?』


 ……頭がうるさい。

 イセナとコランダムがわたしを介して思念で楽しそうに会話してる。

 コランダムはともかく、なんでイセナまで楽しげなんだ?

 故郷を滅ぼしかけた悪党だぞ?


『ずいぶん静かだな、イチカも会話に参加してもいいんよ?』


『そうですねえ、貴女なら良い話題をいっぱい持ってそうなのですが……』


 終始無言を貫いていたわたしに、とうとう会話を振ってきた。でも――


『今は会話どころじゃな・い・の・だ!!』


 そう、わたしは〝おにごっこ〟の最中である。

 後ろから巨大な黒いハサミを持った空飛ぶ幼女(エリカ)が超速で迫って来てるのだ。

 捕まったら今度は切り身にされる! 間違いない、活作りの次はステーキだ!


「あははははは!! 逃げてばっかじゃつまんないのーーー!!!!」


 反撃は屋敷に損害を与えそうで嫌だったが、もう仕方ない。


 《悪神の雷撃》!!


 わたしは後ろのエリカに向けて数発、魔弾を放った。一応威力は押さえてあるが、エリカといえど当たれば多少の時間稼ぎにはなるかも。

 と、数秒前まで思ってました。


「面白いのーー! エリカそういうの消すの得意なのーー!」


 エリカの足元からなにやら黒い半透明な不定形の物体が伸びて、エリカを守るように薄く覆いかぶさった。それはわたしがエリカに向けて放った魔弾をかき消していった。


「これこそおにごっこのだいごみ! 楽しいねー!!」


 おにごっこってそういうゲームじゃないだろ!? と内心でツッこんでいると


『ンッふっふ、悪魔は幻惑を魅せるのが得意なんですよ? ほらそこの道も……』


 ふと、コランダムがそんな事を言った。

 目の前には廊下が続いているように見えた。ところが、


「ぐえっ!?」


 なぜかわたしは壁に思い切り激突した。

 確かにわたしは長い廊下を進んでいたのに。


『それが悪魔のチカラですよ! いやこれは面白い展開ですねぇ、イセナくん?』


『そうですねぇ、ここからどうやってイチカが逃げるのか見ものです』


 何他人事のように実況してやがる!? しかもイセナまで! てかどうやって状況把握してるんだこいつらは。


『おっとそんな油断してると――』


 じゃきん!! という鋭い音と冷たい感触が頚元で響いた。

 そして視界がぐるぐると回転し、やたら低い位置で止まった。

 目の前には逆さまの生白い足と黒いスカートがひらひらしている。


「あたまがとれちゃった!」


 あたまが、とれちゃった? 待ってどういう事?

 とわたしが困惑していると、コランダムが実況解説してくれた。


『おー首を切り落とされてしまいましたね。ンッふっふ、生きていますかな?』


 首を切り落とされた!? わたしが!?

 どうりで体が変な感じすると思った。って納得できるかーー!!


『だ、大丈夫!? コランダムはこの程度じゃ死なないと言ってるけど、本当に大丈夫なんよ!?』


 さすがにイセナは心配してくれた。……のか?


『わたしも信じられないが、生きてるようなのだ』


 でもこれからどうやって動こうか。体が再生するのを待つ?

 いやいやそんな面白い所、エリカが大人しく待つ訳ない。


 無力にもわたしはエリカに持ちあげられ、鼻をその小さな口で噛みつかれた。

 なんで鼻を……別段強く噛んでくる訳でもなく、柔らかく優しく噛んできて……ふぁっ……


「くしゅん!!」


「うわーーー!?」


 首だけなのにくしゃみが出たのと同時に、驚いたエリカはわたしの頭を床に落とした。わたしはごろごろと転がり、エリカの足の間に入り込んだ。

 白だ。ロリコンからしたら絶景だなこりゃ。


「動いたーー!? お人形さんまだ生きてるのーー?」


 あばばばばば

 エリカは再びわたしの頭を持ち上げ、上下左右に激しくシェイクしてきた。


 首だけでもアビリティ使えるんだろうか。よしよし、今はとにかくエリカの腕の中から逃げよう。


 《肉体変形:簒奪者(ラプトル) を使用します》


 何かを察したエリカは咄嗟にわたしを放り投げた。

 わたしと切り離された胴体は黒い包帯のような物に包まれ、気がつくと腕と爪が長い小さめなドラゴンの姿になっていた。

 でも今はこの形態に用は無い。再び《人化》を使用して、褐色肌の少女の姿へと戻った。


「治ったーーー!? じゃあおにごっこの続きするのーー」


 嬉しそうにそう言ってエリカはわたしにハサミを突きつけてきた。

 いや、この子は本当におにごっこのルールを理解しているんだろうか? という疑問が再度よぎった。


「待つのだ! おにごっこなら捕まったわたしが次の鬼なのだ」


 と、命ごい(死なないけど)をすると、エリカは首を横に傾けて何の事かわからない素振りを見せた。


「おにーー? おにはエリカだよー?」


「おにごっこは捕まえられた側が次の鬼になるのだ。だから今度はわたしが追いかける番なのだ!!」


 もう痛い目に合いたくないわたしは、必死におにごっこのルールと素晴しさを力説した。


「そーなのかー! 今まで〝次〟は無かったからわかんなかったの! ありがとうなの!!」


「わ、わかればいいのだ。わたしがエリカを捕まえたら、ヒカリを返してもらうのだ」


「わかったのーー! じゃあエリカ逃げるの! 捕まえてみてねーー!」


 そう言ってエリカはとてとてと子供らしい足どりで駆けていった。

 思っていたより融通が利いた。

 本当は良い子なのかもしれないね。残虐行為さえなければ……


『ンッふっふ、教育をしっかりさせれば普通の子供のようになるでしょうね。ちょっとやそっとでは死ななくて、強さも彼女より上の教育者がいたらの話ですがねぇ』


 はは……誰の事だろう。

 何はともあれ、エリカを捕まえたらヒカリが戻ってくる……ハズ。無事ならね。

 さて、そろそろ追いかけ始めよう。楽しい鬼ごっこの始まりだ!


 *


 エリカの背中に手が届きそうで届かない。

 わたしの飛行速度の方がエリカより若干速いハズなんだけど……


「うぎゃあ! 危なっ!!」


 エリカの力だろう、床から黒く鋭い棘がわたしを串刺しにしようと伸びて妨害してくる。

 それを避けたりしているために、エリカに全然追い付けない。


「あははは!! おにさんこーちら!!」


 見た目は全然普通の子供なんだけどね。

 わたしはエリカの棘攻撃を避けつつ、エリカのアビリティを更に深く調べてみる事にした。捕まえるには色々知る必要がありそうだし。






 ―――





 《『熱望するもの(アマイモン)』:高位影支配魔法、幻惑魔法、魔王覇気》


 《『籠鳥檻猿(ヒトリシズカニ)』:自己領域結界【夢幻回廊(ワタシダケノセカイ)】》



 ぱっと見て解らなかった能力を中心に深く掘り下げていこう。


 まずは〝影支配魔法〟

 影を実体化させて自在に操る魔法らしい。エリカが操る黒い刺とかは全部影を実体化させたものだ。めちゃくちゃ応用が効くけど明るいところだと弱体化するみたい。


 次は〝魔王覇気〟

 同格から下の強さの敵に対して精神的圧力を与えられる能力。相手との強さに差があるほど有効……と。わたしには効かないらしい。

 なんだよ魔王って。


 幻惑魔法は、そのまま幻を見せる魔法だ。実際にさっきかけられたし。


 ……で、最後に一番気になっていた〝自己領域結界〟

 一定範囲内に限り自分だけが一方的に有利な環境を作り出せる……と書いてある。エリカの〝夢幻回廊〟は、範囲内の敵のあらゆる耐性を貫通でき、結界内であれば何処にでも壁を越えて移動できてどこでも遠隔的に魔法を発動できる。らしい。


 なるほどどうりでわたしに物理攻撃が効く訳だ。既に領域内だから耐性を貫通してたのか。


 ……え? 壁を超えて逃げられたらもはや打つ手無しじゃん。

 おにごっこにおいてチートじゃないのそれ。


「あははは!! 逃げるのってこんなに楽しかったのかーー!」


 楽しそうで何より。それならわたしも遠慮せずに攻撃をぶちかましてもいっ……


「ぐぎぶほっふぉ!!」


 ったい! また見えない壁にぶつかった。

 しかもおかげでエリカを見失ってしまったよ、どの辺だここは?

 同じような扉が長い廊下にずっと続いてて全然わからん。地図無いのか地図は?


 はあ。ヒカリは無事だろうか? もしもヒカリが殺されてたりしたら、怒りで屋敷ごと消滅させられる自信がある。

 だから内心エリカを捕まえてヒカリの安否確認するのも怖いんだよね。


『ンッふっふっふ、安心しなさい。彼はかわいいから無事、無事ですよ』


 またコランダムが意味のわからない事を言っている。

 しかもヒカリを〝彼〟って。前世が男なのを知ってるのか?


『ヒカリは女の子だろ? なんで〝彼〟なんよ?』


『わたしも気になるのだ』


『ンッふっふ、どうしてでしょうかねぇ? 私を倒せたら教えて差し上げてもよろしいですよ?』


 つまり教える気は無いと。


『まあいいのだ。それよりもっと有益な情報を教えて欲しいのだ』


『いいですよ、気が向いたらネ?』


 ……


 もうやめた。しばらくコランダムの言葉には耳を貸さないわ。疲れるし。

 代わりにイセナにちょっと聞いてみよう。


『イセナはどうやってわたしの状況を把握してるのだ?』


『それはコランダムがイチカの視界を思念に中継してるかららしいよ。オイラにはよくわかんないけどよ』


 は? わたしの視界を中継って、何勝手な事を!? トイレとか恥ずかしくて行けないじゃないか!


『ンッふっふ、それより後ろに面白いものがありますよ?』


『えっ?』


 突然コランダムにそう言われ、わたしは反射的に振り返ると、そこには確かに予想だにしないものがあった。


「昨晩のお礼だ」


 巨大な剣を振りかぶった大男――ズルクが、わたしの後ろから今まさに斬りかかってくる光景だった。

次回 おりがみ遊び

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