表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/61

活作り

 嘘だろ……

 戦慄するわこんなの……


 ―――


 個体名/エリカ


 《レベル/44》《種族/高位悪魔(デーモンロード)》《年齢/???》


 HP/2233

 MP/4444


 膂 力/2111

 防御値/1888

 敏捷性/1666


 【保有アビリティ一覧】

 《高位(エクストラ)》『熱望するもの(アマイモン)

 《上位(ハイ)》『籠鳥檻猿(ヒトリシズカニ)


 ――――


 外見はゴシックドレスを着た10にも満たない銀髪の少女。

 その愛らしい見た目からは想像できない、わたしに匹敵するほどのステータス。おまけに高位(エクストラ)持ちだ。


「おりょーりーー!!!」


 奇声に近い声色を発しながら少女――エリカは手に持った黒いカッターナイフを凄まじい速度でわたしの首もとめがけて振り下ろし――


「っぶな!! いきなりかよ!?」


 間一髪、体を反らして避けた。


「あははははは!! まだまだいくよーーー!」


 エリカは獲物を仕留めるべく黒いカッターナイフを凄まじい速度で振り回し、わたしはそれを全て紙一重でかわしていく。


「今日はレバーが食べたい気分なのーー!!」


 斬りつける速度が上がった上に、執拗にお腹を狙ってくるようになった。

 ってマジでなんなのこの子、ちょっと体浮いてるし、なにより殺意ハンパねえよ! ちょっ、最近の子供人間離れし過ぎだろ!?


「ちょタンマなのだ!!」


 わたしは結界をエリカとの間に張り、後ろの紫の扉を開けて中に入った。

 暗い部屋の中は生臭い臭いが充満している。手のひらに雷を閉じ込めた結界の球――雷球と呼ぶことにしよう――を生み出して、辺りを照らした。


 薄汚れた灰色の壁と床に染み付いた、大きな赤茶色いしみ。

 そしていたるところにあるくすんだ白い山。よく見るとそれは、綺麗に積み重ねられた無数の人骨だった。


 まさかこの中にヒカリが――


 脳裏を最悪のビジョンがよぎった瞬間、後方の扉がぶっ飛んでわたしの頭をかすめ、骨の山を崩しながら奥の赤茶色い壁に当たって砕けた。


「あはははははははは!! お人形さんみーつけた!!!」


 フレームだけの扉から覗かせた恐ろしく無邪気な笑顔が、わたしにじりじりと迫ってくる。


「おりょーりの続きするの! 逃げないのー!」


 突如、体に力が入らなくなった。

 どうしてかエリカが叫んだ途端、金縛りにかかって動けなくなってしまったのだ。

 エリカはそんなわたしを冷たい床に仰向けに寝かせ、それから壁の燭台に火を灯した。


「な……何をするつもり……なのだ……?」


「えへへ……お人形さんの中を見てみるの♪」


 オニンギョウサンノナカヲ……? わたしの中を!? まさかわたしこれから……!!?


「や……やめろっ!」


 かろうじて動く口と目で訴えるも、エリカに伝わる素振りは無い。


「まずは服を脱がしてあげるの!」


 エリカは黒いカッターナイフを握りしめ、無邪気に笑った。





 *







 玄関ホールに、顔から大量の血を流し虫の息のナルスがうつぶせに倒れていた。

 その傍らには両腕両足を縄で縛られ、さらに痣だらけのアンが横たわっている。


「ナル……ちゃん……どうして……」


 ズルクを横に置いたバートムは無表情で答えた。


「あの悪魔にいつも通り殺されるか、逆に退治してくれたら良かったんどけどね……あれを見てから生きて帰って来られると困るんだよ。後で〝あれ〟の生贄にしようか」


 それにズルクが付け足すように喋った。


「そうさ、生贄にするためにオレはお前の男を半殺しにした。お前もすぐ同じようにしてやるが、その前にオレと楽しい事をしようぜ? ちなみに拒否権は無い」


 アンはズルクに物陰へ強引に引きずられてゆき、衣服を引きちぎられ、それから―――




 *





「んっ……あぁっ! もう無理なのだっ!!」


 ぐぽっ、ぢゅぷっ、といったみずみずしい音が()の方からする。

 体はピクリとも動かせないのに、眼球だけは動く。

 ゴシックドレスを着た幼女――エリカが裸のわたしに馬乗りとなっている。

 その小さな白い手が、わたしのお腹にぽっかりと開けられた穴から侵入し(はいっ)ていった。


「あはははっ!」


「おえぇっ! あぁぁぁ!」


 お腹の中に広がる異物感。体内で何かを握られる感触。


「見てみてお人形さん! これあなたの中身!」


 エリカは動けないわたしの体内から手を引抜き、滴る赤黒い物体を握りしめて見せつけてくる。

 これがどこの部位なのか……幼い日に読んだ子供向けの人体図解が頭に浮かんだ。


「次はこの柔らかいとこをとるのーー!」


 眉に力を込め激痛に耐える。

 内臓を弄られる程度でわたしが死ぬ事は無い。この体は所詮本体から分離した〝活動体〟に過ぎないため、粉々にされようとわたし自身が死ぬ訳ではないのだ。


 でもそれとこれは別! 活動体とはいえ体のしくみはほとんど人間と同じだから、普通に痛いしめちゃくちゃ苦しい。


 体を動かせないこの状況、一体どうしたものか……



『ンッふっふ、お困りのようですねえ? さてここで豆知識の披露といたしましょうか』


 あまりにも唐突に、人を小馬鹿にするイントネーションの思念が飛んできた。その声は白黒ピエロもとい――


『コランダム!?』


『貴女を苦しめるその娘は、大悪魔にして、グロキシニア家初代の〝エリカ・グロキシニア〟令嬢ですよ! 余命幾ばくもなかった命を悪魔の受肉に成功して生きながらえさせた珍しい例です!!』


 目の前の悪魔(エリカ)について語りだしたコランダム。


『お、おぉそうなのか。なぜその事を知ってるのだ。てかそれよりこの状況を打開する方法を教えてほしいのだ』


『アタシは何でも解る、解るんです! 気分が良いからトクベツに金縛りの原理を教えて差し上げましょうね!!』


『本当か!?』


 トゥーラ王国を滅ぼそうとしたコランダムが、今だけ神様に思えてきた。終わったら一応お礼言っておこう。


『ンッふっふ、エリカはですね……』




 ―――





「今日のお人形さんまだ生きてるの! 凄ーーい!!」


 コランダムとの思念に意識を逸らすのをやめると、エリカがわたしのお腹から……うん、とても言葉にしたくない凄惨な状況を目の前で作り出している所だった。


「これを潰したらみんな死ぬのーー! でも今日のお人形さんならへーきかなー?」


 ぢゅぽっ、という音がした。


「んあ゛っあぁッ!(裏声)」


 ダメだヤバい。死にはしなくても限界だ。

 内心幼女を殴るのは抵抗があったが仕方ない。正当防衛って事で!


「これでもへーきなのね! じゃあ今度は――」


「あああああ!!!」


 《異空間魔法を使用します》


 刹那、部屋に響きわたる轟音。

 わたしは〝本体〟の巨大な拳を召喚してエリカを壁ごと殴りつけた。

 コランダムの言う通り、金縛りは解除された。



 ――


『至極簡単な話、話ですよ? 影を実体化させて操る魔法。それがエリカの能力。貴女の体に薄く伸ばした影が貼り付いているために、動きを制限されているのです。

 これを解除するにはエリカを怯ませるといいでしょうネ?』


 ――


 体動かせないのにどうやって怯ませるんだ、って抗議しようかと思ったけど、アビリティは余裕で使えるぽかった。すっかり忘れてたけど。


 ふと、お腹がむず痒いので見ると、裂かれた部分が再生を始めているようだ。

 これもまた言葉にしたくないくらいグロい。目を背けて再生が完了するのを待った。



 ―――




 再生が完了した。

 傷痕もなく綺麗に治ったので良かった……のか?

 脱がされた服は血が付かないよう離れた所に置かれていたので、そのまま着た。


 なんとか窮地を乗り切れたわたしはやっぱ天才だ。

 あとはヒカリだ。エリカにヒカリをどうしたのか聞いておかないと。


 わたしは〝本体〟の腕を収納し、壁にめりこんだエリカに近づいた。


「おい、ヒカリをどこにやったのだ? 赤い髪の()()()なのだ。無事だろうな?」


「それはね……」


 エリカは口元に笑みを浮かべている。

 わたしはまだ何かあるのかと警戒し身構えた。


「おにごっこしてくれたら教えてあげるのーー!!」


 一瞬でひび割れた壁の中から抜け出したエリカは、わたしの前に佇み、無邪気な笑みを浮かべた。

 お料理ごっこの次はおにごっこ。地獄になる予感しかしない。

次回 死にはしない、死にはしないんだ。大丈夫、一華ちゃんは大丈夫……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ああぁぁぁぁぁ!! ホラーの描写も怖さ出てていいですねって言おうと思ったらグロですか! 不意打ちを食らいました! 得意じゃないけど、情景しっかり浮かんできました。死ななくていいけどいっそ殺…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ