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幕間 おせっかい

ユニコーンの名前を変更しました。

アスター→アムス

 トゥーラ王国――


 ここは冒険者の疲れを癒す目的でギルドに併設された酒場。

 冒険者酒場と世間では呼ばれている。


「わしの勘が合ってるとすれば、ヒカリさんはハナノ帝国の〝消えた侯爵令嬢〟だ。名前は確かシャクヤといったかの」


 黒いタキシードを着こなすハクセンは円形のテーブルを囲む仲間に告げた。


「だったらなおさらオレ達がここを出ちゃまずいだろ?! 懸賞金ついてんだぞ」


 他の利用客の視線が黒い胸当ての特徴的なデイゴスに集まる。


「その通りよ! まだ目も覚ましていないのにどうして出発なんて言うのよ!?」


 声を荒あげるデイゴスに白いローブを纏ったリナリアが続き、それをハクセンは嗜めた。


「落ち着くんだ二人とも、それより覚えているか、わしらがここへ来た時襲いかかってきたあの赤黒い髪の男を」


「アイツがどうしたってんだ」

「そうよそうよ!」


 ハクセンは若干呆れ気味に、彼らにとって分かりやすく説明した。


「奴の名はヴァイバル。ハナノ帝国の諜報員だ」




 *




「やっと見つけたぞシャクヤ……」


 赤黒い髪の男、ヴァイバルはウスアムの港街で船を待っていた。

 彼自身が乗る船ではない、ハナノ帝国騎士団の船である。


 彼は帝国のスパイのような存在だ。情報収集のスキルに秀でており、その能力と〝上位(ハイ)〟を持っている事から、冒険者として活動し手にいれた情報を魔道具を通じて帝国に提出する役割を与えられていた。


 ただし彼は自信過剰な節と獲物をいたぶる癖があり、それのせいで〝人魚の亜人〟の捕獲に失敗したばかりである。


 ―――


「ええ、なんでもハナノ帝国の騎士達が乗った船がもうすぐ来るらしいわ」


 と、エルフの女ギルドマスターは言う。

 帝国騎士団といえば、能力強化を施した馬を扱うという。三日三晩全力で走り続けられるともっぱらの噂だ。


「どうしてウスアムの街にハナノ帝国の騎士団が来るんですか?」


 デイゴスはギルドマスターへ更に問いかけた。


「探し物を見つけたらしいわ。詳しくはあなた達なら知ってるんじゃないかしら? 早くトゥーラ王国へ戻った方がいいわ」


 女ギルドマスターは、何もかも見透かしているような青い瞳でデイゴス達を一瞥し、ギルドの奥へ行ってしまった。


「わしらはここまでヴァイバルを監視するつもりで来たが、早くトゥーラまで戻ってこの事を知らせねば」


 三人の考えは同じだった。

 デイゴス達は大急ぎで準備を整え、あわただしく街を出た。


「確か海辺に双角馬(バイコーン)の生息域があったよな? バイコーンのランクっていくつだっけ?」


 デイゴスは一応魔物使い(テイマー)であるリナリアに聞いた。


「Dランクよ。それが何?」


「よし、バイコーンを使役(テイム)して王国まで乗っていくぞ! その方が先につくかも」




 デイゴス達はバイコーンの生息する海辺の草原へやって来た。

 バイコーンは頭に牡牛の角を生やした黒い馬の魔物である。ランクはDで、多少弱らせればリナリアにも使役できる。


 草原にはちらほら黒い塊が見える。バイコーンの集団だ。


「よし、弱らせるのはオレ達がやるからリナリアは――」

「待って! あそこを見て!」


 リナリアは剣を抜こうとするデイゴスを止め、海岸を指した。


「おいおい嘘だろ……」


 海の上に一際大きな白い船が浮いている。騎士団の船だ……が、問題はそこではない。その手前、砂浜の上にたたずむ存在だ。


 純白の毛並みにバイコーンの3倍はある体格、額からはレイピアのような鋭い角が一本生えている馬。

 一角馬(ユニコーン)だ。


 バイコーンの変異種(ユニーク)であるユニコーンはAランクの上位モンスターだ。

 知性が高く、目の前で仲間が傷つけられると凶暴化して手がつけられなくなるという。

 ここでいう仲間とはバイコーンの事だ。


「クソっ、手を出せないじゃないか!」


「おや、ユニコーンが……?」


 デイゴス達に気づいたユニコーンは、ゆっくりと三人へと近づいてゆき、そしてリナリアの目の前で座り込んだ。


「え……?」


 困惑するリナリアとハクセン。デイゴスに至っては思考停止状態だ。

 ユニコーンはそんな三人に()()で話しかけてきた。


『我、汝らに従おう』と。



「またこんな夕方にギルドの屋上登って双眼鏡で何を見てるんですか?」


 ギルド職員の男が声をかけるとギルドマスターは嬉しそうに語りだした。


「ユニコーンは人の心が見える魔物。穢れた心の持ち主を決してその背に乗せない。でも実は例外があって、恩人を救う為には一時的な妥協をするのさ。それでもこれはもっと凄いよー?」



 *



「はわわ……こんな事ってあるんだ……」


「これは夢か? 現実とは到底思えないぞ」


「わしも同感じゃ。本当に魔物とは不思議なものですな」


 三人はユニコーンの背に乗って、トゥーラまでの広大な平原を駆けていた。

 本来ユニコーンとは使役が難しい魔物である。人前に姿を見せるだけでも珍しいのに、使役までできるなんてリナリアも思わなかっただろう。


「この速さなら明け方までには到着できそうじゃ」


 ウスアムとトゥーラ間を歩くと2日はかかる。

 それをユニコーンは半日で済ませられるのである。


 ―――


 明け方。うっすら空が白み始めた頃、三人はすっかりユニコーンの背で眠っていた。

 ユニコーンは目的地であるトゥーラ王国へ到着した事を知らせる為、大きく(いなな)いた。


「もう着いたの……? 凄いね」


 それから三人はユニコーンの背から降り、王国へ入っていった。

 ユニコーンは入り口で待機だ。


 デイゴスを先頭に夜の中華(風の)街を進み、王宮の入り口までやってきた。


「ハンセンさんとその仲間じゃないですか」

「こんな明け方に何用ですか?」


 眠そうな双子の門番が息を合わせて聞いた。


「もうじきここへハナノ帝国の騎士団が来ます! ヒカリを連れ去る事が目的と思われます! どうか王にこの事を!」


「そんなバカな」


 と門番が言いかけた時の事だった。

 遠くから蹄鉄の音が響く。騎士団が来たようだ。


「早く!」


 ハクセンは血相を変えて門番に怒鳴りかかった。



 *



「まさかこんな所にユニコーンがいるとはな。儲けもんだ!!」


 白い鎧を纏い馬にまたがった騎士数人がユニコーンを取り囲む。


『身の程をわきまえよ!!』


 ユニコーンは激怒した。

 己の角でこの者らを突き殺すと、そう決めていた。


 ところが……

 ユニコーンは強力な魔弾に首を穿たれ、あっさりと崩れ落ちた。


「こちとら緋色の勇者(シャクヤ)を想定して来てんだ。ユニコーンごときに負ける訳がない」


 騎士の一人がそう言ってユニコーンの角に触れようとした瞬間だった。


「ぐぎゃっ……!!」


 死んだはずのユニコーンが動きだし、長い角で近づいた騎士を強烈に弾き飛ばした。


「バカな!?」


『愚か者め……』


 この時、騎士達は大きな間違いをしていた。

 それはこのユニコーンが「使役」されていること。

 使役された魔物はまず死ぬ事がない。更に言えばユニコーンは回復魔法に秀でた魔物であり、傷を負えば即座に回復させるので戦闘不能にさせることも不可能である。

 つまり例外はあれど、現時点で騎士達にユニコーンを殺す手段は存在しない。


 騎士達は知らず知らずの内に、不死身の怪物を相手にしていたのである。



 ***



 空が青くなってゆく。

 三人は、自分達の警告は何とか王様とヒカリに伝えられたと安堵していた。

 もう目を覚ましていたらしいので、ヒカリなら逃げるのは簡単だろうし、ワンチャンイチカと協力すれば撃退も可能だ。

 デイゴス達にできることは終わったのである。


「さて、ユニコーンちゃんを待たすのも悪いし、一回戻ろうか」


 デイゴスはそう言って、二人を率いて街の門まで降りてきて入り口を抜けた。

 ところがそこには――


「一体どういう事だ……?」


 数人の白い騎士が、門の前にある〝青龍の石像〟の側で折り重なって倒れていた。

 その奥には所々に赤い染みのついたユニコーンが立っている。


『よくぞ戻られた我が主よ、我はこの愚者どもと遊んでいた所である』


「殺して……ないよね?」


『否。このような下衆には殺す価値すら無い』


「ずいぶん辛辣ね……でも生きてるのね、なら良かった……」


 リナリアがユニコーンとそんな会話をしていると、上空から青髪の少女が降り立った。イセナだ。


「おっ、久しぶりよ。オイラ今上から騎士を探して捕まえてたんよ。ここにもいたようだけど……これどういう状況?」


 とても困惑するイセナ。三人はひとまず状況を説明した。ユニコーンがヤッちまったと。


「へえ、世の中にはこんな魔物もいるんだ。オイラも冒険者やってみたいんよ」


 まじまじとユニコーンを見るイセナ。

 一方のユニコーンもイセナを見つめている。


『貴女の名は何という?』


「オイラはイセナってんだ。そっちは?」


『今の我に名は無い』


 それを聞いたイセナはほっぺたをかりかりと掻きながら言った。


「んじゃ、オイラがつけてやろうか?」



 ―――



 翌日。デイゴスたちはトゥーラに一晩泊まった後に出発しようとしていた。


「元気でなー!」


 街の外でイセナはデイゴスらを見送ろうとしていた。


「アムスも達者でな! 仲間をしっかり守るんよ」


 〝アムス〟と名付けられたユニコーンは、イセナに敬意を払うために空高く嘶いた。


『我はアムス。いかなる厄災からも主を守り抜く存在である!!』


 *


 アムス。その名は後に、とある伝説として語り継がれる事となる。






 ―――――






 個体名/イセナ


 《レベル/5》《種族/青龍魔人》《年齢/16》


 HP/4255

 MP/3620


 膂 力/1959

 防御値/1638

 敏捷性/1987


 【保有アビリティ一覧】


 《高位(エクストラ)

 春告げるもの(エイアー) 『高位水支配魔法、上位回復魔法、中位植物魔法、空中移動、思考解読(Lv8)』


 《上位(ハイ)

 晴耕雨読(ガンバリヤ) 『獲得経験値UP(中)、自動MP回復(小)』



 【特性・耐性】

『人化』

『水属性耐性(大)』

『眠り無効』

『状態異常耐性(小)』



――



 個体名/アムス


 《レベル/65》《種族/一角馬(ユニコーン)》《年齢/187》


 HP/857

 MP/590


 膂 力/468

 防御値/290

 敏捷性/960



 【保有アビリティ一覧】


 《ユニーク》

 聖なる獣『高位回復魔法、万能異常回復、膂力強化』


 思念会話


 【特性・耐性】

『膂力強化(中)』

『毒無効』

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