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観光と追っ手

次回から新章です。

 わたしはヒカリに、あれから何があったのかを説明した。


 白黒ピエロ、イセナの超進化、わたしの人化。ヒカリはどれも落ち着いた眼差しで聞いてくれた。


 そうしている内にヒカリが目を覚ましたという知らせは、瞬く間に国中へ駆け巡り、まずは王様とラントさんが来てくれた。


「あなた方はこの国の――」


 それからヒカリと王様とラントさんは、とりとめの無い会話を少しして、しばらくするとそこにカダさんもやってきた。


 カダさんは国一番の医者……だったかな?


「あらあらカダさん、遅かったですね?」


「いえいえ、貴女と違って忙しかったもので」


「まあまあ、アタシは先に仕事を終わらせただけですので」


 あらあらまあまあいえいえ。

 またやってるね。もはや恒例だ。



「あの、自分早めに出発したいのですが、あとどれくらい安静にすれば良いでしょうか?」


 ヒカリは女傑二人の間に割って入り、仲介するかのように質問した。


「1日は安静にした方がよろしいですね。若干の衰弱もあるようですし」


 それがカダ医師の返答だった。


「1日……ありがとうございます」


 ヒカリは何かを心配するような表情を見せ、うなずいた。





「ヒカリが目を覚ましたのは本当か!?」


 王達が去った部屋に、イセナが飛び込んできた。

 街で買ったチャイナドレスを着ている。


「本当だよ。俺は……えっ、い、イセナ!?」


「どうしたんよ? オイラの顔に何かついてるか?」


 イセナの姿を見て、唖然とするヒカリ。

 その理由は――


「おま、お前女だったのか!?」


 あの(・・)イセナがこんな美少女に。そりゃ驚くだろう。わたしもびっくりしたし。


「はは、よく言われるんよ。まあ仕方ないね!」


「あの生意気だったイセナがなんか爽やかに……超進化って中身まで進化させるのか」


「何か失礼な事言ったか?」


「いや何も?」


 それからヒカリとイセナは、すぐに意気投合して友達となった。

 ヒカリが回復したら美味しい物でも食べに行こう。



「そういえば、どうやってヒカリの呪いを解除したんよ?」


 それ聞くかー。言いたくないな……


「えぇ……言わないと駄目?」


「チカ姉が困ってるじゃないか。きっと説明できない程複雑な解呪法をしてくれたんだろ?」


 思わぬ所から助け船が。


「その通りなのだ」


 そういう事にしておこう。この話は墓場まで持っていこうと、心に誓ったのであった。




 *




 王様やラントさんのご厚意により、ここを出るまで後宮で生活できるようにしてくれた。感謝。


 そうして2日後――


 ヒカリのリハビリも兼ねて、闘技場でまた特訓をする事になった。

 わたしとヒカリはおそろいのパーカーとミニスカートだ。


「お前も高位(エクストラ)持ちだったなんてな、オイラ弱い奴だとか失礼な事言ってしまったんよ。すまなかったよ」


「いいよ。別にひけらかすつもりも無かったしな」


 ……最初にデイゴス達を救った時のはなんだったけ。

 そういえば、あの赤黒い髪の男はどうなったんだろう? もうどっか行ったんだろうか。


 まあいいか。


「じゃあそろそろヒカリも一緒にカッコいい必殺技を考えるのだ」


「必殺技だなんて、俺はこれでもSランク冒険者やってるんだから、そんな技いくつも……」


 黙りこんで何やら眉をひそめるヒカリ。


「何かあったのか?」


「おかしい、アビリティが使えない……?」


 え? それってどういう事……?

 わたしはヒカリに対し、《能力鑑定》を使った――





 おかしい。


「それになんだか体も重たいような……」


 ヒカリの名前の横に《能力封印状態》と書かれている。

 それによるものだろう、ヒカリの能力値がそれぞれ、前に見た時の五分の一程度にまで減っており、アビリティの項目には《封印》と記されていた。


 そして特性の所に《リミットPT(ポイント)》なるものが追加されている。何これ?


 わからんが間違いなくあのピエロ――えっと、コランダムの仕業だろう。

 居場所は知らないが、思念で怒鳴りこむ事はできる。


『おい聞こえてるか!』


『おやおや? そっちから話しかけて、話しかけてくるなんて。何かありましたかな?』


 返答あり。早速クレームをつけてやる。


『ヒカリは目覚めたがアビリティが使えなくなるなんて聞いてないのだ! 能力封印とやらを解除するのだ!!』


『何の事かと思ったらそんな事で……仕方ないですネ、特別、特別に解呪法を教えてあげましょう、大サービスですよ!』


『さっさと教えて欲しいのだ!』


『ンッふっふっ、ステータスを見れる貴女なら分かるでしょうが、彼女のステータスにリミットPTという項目があるですね? そのポイントを最大値まで溜める事が雄一の解除法です!』


『ポイントを溜めるにはどうすればいいのだ!?』


『簡単ですよ、実に簡単。敵の攻撃をギリギリで避け続ければ良いのです。魔法弾でも斬撃でも良いですよ? 簡単、簡単でしょう?』


『なら今すぐにでも解除できるのだ。わたしやイセナの力でな!』


『甘い、甘いですネ。言ったでしょう、〝敵の攻撃〟だとね! 彼女に対して何かしら敵対心のある者の攻撃でないと、ポイントは溜まりません! 残念でした!』


 敵の、攻撃? それってヒカリを危険に晒すという事じゃん。


『あんまりなのだ! この白黒お化け! このっ、馬鹿! バカ! ビーム!!』


『ビーム……? ンッふっふっ、何とでも言いなさいなって。では私はこれで失礼! バイバーイ!』


 また向こうから思念を切られた。

 リミットポイント……ゲームならカッコいいのだが、これじゃあね。


 ひとまずわたしは、ヒカリにリミットの件をかいつまんで伝えた。


「攻撃をギリギリで避ける、か。何とかやってみるわ。しかしそのコランダムという野郎は何がしたいんだ?」


「確かイチカを〝主人公〟と呼んだり、観客がどうのって言ってたんよ」


「わたしにも〝主人公〟の意味はさっぱりなのだ」


 首を横に振って、理解不能のジェスチャーを行うわたしとイセナ。ヒカリは何かを思案しているようだ。






「……例えばこんなのはどうだろう?

 "この世界は小説か何かの中にあり、全て作られたものである〟と」


「――コランダムはそれを知っていて、チカ姉は物語の中心人物だとか? 観客というのはこの世界を覗く読者……だと結構辻褄合うよな?」




 不意に冗談めいた、いや――冗談じゃなきゃ恐ろし過ぎる仮説をヒカリが唱えた。


「んな訳ないのだ! きっと何か別の暗喩なのだ!」


「偉大なるオイラが一登場人物に過ぎない訳ないんよ!」


「だよな! 俺も何考えているんだか! ハハハ!」


 あり得ない。

 なのに、この仮説はやけにわたしの頭にこびりついて離れようとしなかった。



「そうだヒカリ、街に戻って美味しい物でも食べに行く?」


「お金はオイラが出すよ。変態王からこの体の研究と引き換えに賄賂を貰ってるんよ」


「賄賂ってオイ。まあいいや、お言葉に甘えておくぜ」


 わたし達は、街で何か食べながら今後の方針について話し合う事になった。






 これは餃子。異世界餃子なのだ。


 こっちは異世界ラーメンに、異世界小籠包。


 そしてこれは……異世界北京ダック。


 異世界なのに北京はおかしいか?

 まあいっか。


「はふはふ」


 熱々で庶民的な料理が、歩き疲れた体の内側から温めてくれる。


「あっ! お前いま俺の餃子取っただろ!」

「わたしじゃないのだ! イセナなのだ!」

「オイラのせいにするな! そのはちきれそうな頬っぺたはなんよ!?」

「むうぅ……!」


 料理店で騒ぐ三人娘。

 久しぶりにこんな楽しい食事でテンション上がるね。


「腹もふくれた事だし、そろそろ今後について考えようか」


 汁も残さずラーメンを完食したヒカリは、わたしと、イセナも交えて話し始めた。


「俺達はもう明後日にはここを出るつもりだけど、イセナはどうする? 俺たちと行くか?」


 イセナは少し考えこみ、返答した。


「……まだ決められないんよ。明日までに考えるから待っててほしい」


「そうか、分かった」



 それからわたし達は、国中を更に観光して回った。

 体は大丈夫なのかとヒカリに聞いてみたが、別に気にする必要は無いと答えていた。


 たくさん遊んで、たくさん色々見た。いっそこの国で暮らそうかとも思ったが、そうもいかない。


 白黒ピエロ(コランダム)は、自分が〝月〟から来たと言っていた。


 ヒカリは、〝月〟にまつわる事件を解決しなくてはならないのだと、前に言っていた気がする。

 奴がまたどこかで事件を起こす可能性がある以上、ここな留まる訳にはいかないのだ。


 運命の巡り合わせか。それとも、これが〝物語〟の方向性なんだろうか?





 ***





 翌日――



 〝こんこん〟


 誰かが窓を叩く音で目を覚ますと、隣には赤髪のヒカリが裸で寝ていた。

 まるで事後みたいだが、昨晩は何も無かった。間違いない。


 何だろう? ずっとノックしてる。こんな明け方からいたずらか……?


「うにゃ……チカ姉、これ何の音だ?」


「窓を誰かが叩いてるみたい。わたしがちょっと見て来るのだ」


 わたしはベッドから立ちあがり、カーテンを払って赤い格子窓の向こうを覗きこんだ。



 影だ。


 真っ黒で、かろうじて人型と分かるシルエットが、窓をノックしている。


 わたしがそう認識した途端、影はまるで霧のように消え失せてしまった。



「ヒカリ……」


「どうしたチカ姉?」


「あれを見るのだ」


 二階にあるわたし達の部屋から王宮入り口あたりに人影が見える。おそらく三人。あれは――デイゴス達? 門番さんと何か話している。


 二人いる門番が一人、王宮へ歩いて来る。

 わたし達の部屋を見ているようだ。


 ヒカリがおもむろに身支度を整えだしたので、わたしも一応着替えておいた。






 〝とんとん〟


 今度は扉をノックする音が響いた。

 向こうが用件を話す前に扉を開けてあげると、夜間警備兵さんが立っていた。


「突然ですがここから逃げてください! ハナノ帝国の騎士団がもうすぐ来ます!」


「何だって!? チカ姉、今すぐ出発するぞ!!」


「え、えっ!?」


 わたしは訳も分からぬまま、宮殿から飛び出して、上等な衣服を着た兵士さんに建物の裏側へ案内された。


 ここは建物と外壁の間の狭い隙間。壁の向こうは森へと続いているようだ。


「この壁を越えて南西へ進むのです。王からの書簡も渡しておきましょう、ある程度落ち着いたら開封してください。それでは、ご武運を」


 それだけ言って、足早に兵士さんは去ってしまった。


「行くしかないか」


 わたしとヒカリは覚悟を決め、壁を乗り越え暗い暗い森の中へ走り去っていった。





――――――




【ヒカリ】リミットPT(ポイント):100/0


【イチカ】覚醒度:20%

次回 不思議なお屋敷を見つけたらみたいだケド……?

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁぁ!!読んでしまいます! 先が気になりすぎてとまらないですね! 幻魔ちゃんに通じてるみたいなアレコレもちりばめられていて楽しいです!
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