てんやわんや
ピエロが去ってからはもう、てんやわんやの大騒ぎ。
わたしは小さいトカゲの姿になって、デイゴス達の中で会話に混ざったのだが、イセナの事がめちゃ注目されていた。
まず、イセナの姿が、トゥーラ王国に伝わる伝説の魔物「青龍」そっくりだとか、そんなイセナがなんと人間の姿に変身し、女の子だった事が判明した。
人化した際に服を着ていなかった為、すぐに目を背けたハクセンはセーフだったが、直視したデイゴスの頬にリナリアの無慈悲なビンタが炸裂し、赤いもみじの痕ができていた。
その後イセナはリナリアの青いスカートとシャツを借り、人間のようにふるまっていた。かわいい。
一見イセナは、青髪の清楚で可憐な顔立ちの少女。
それが口を開けば「オイラ」という一人称を使い、品性の無い言葉を使う。
しかも伝説の魔物。
このギャップがどうやらハクセンのドツボにはまったようで、王都へ戻るまでずっと笑いでプルプル震えていた。
そうそう、ヒカリがのしたイセクは、イセナが進化で得た高位回復魔法とやらで完璧に回復させてた。
操られてた一週間の記憶は全く無いようで、困惑してたね。
イセナの姿を見て感激してたのは言うまでも無い。
それにしても、人化とか羨ましいな。
わたしも人間の姿になりたいと言ったら、ハクセンが軽く超進化とやらについて教えてくれた。
ハクセンいわく生物が、最高レベルに達したり、何か特殊な条件を満たすと、稀に『超進化』という現象が起こってめっちゃ強くなたりするとかなんとか。
《超進化》すると、その時かかっていたあらゆる呪術や状態異常を無効化され、その影響で、イセナの《使役》が解除されてたらしい。
詳しい事は難しくてよく分からなかった。
超進化するには色々ありそうだし、人化への道のりは遠そうだ。
……ヒカリはというと、あれから意識を取り戻す素振りは全く無い。
髪色は赤くなっちゃって、もう何がなんだか。
仮面をリナリアがそっと外した際、ハクセンがはっとした表情になったのを覚えている。
イセクは里へ戻る為に、洞窟へ入っていき、わたしはリナリアの肩に乗って王都へ向かう事になった。
*
そんなこんなでわたし達は、王都へ戻って来た所だ。
通ってきた森は朝陽を浴びて輝いてた。
中華風の街には、目覚めた者がちらほらと見受けられる。
「本当にあのピエロ、呪いを解除してったんだな……」
ぽつりと呟くデイゴス。
デイゴスが背負っていたヒカリと、自ら待つと名乗り出たイセナを宿に預け、一行は中華街にありそうな赤い王宮へ門をくぐり、その向こうにいくつかある中で、最も大きく雅びな建物へ入っていった。
雅びな建物――もとい王宮の内部はというと、ここもやっぱり中華な感じだ。
内装は赤色を中心にしているが、所々に青い龍の像がある。
進んだ先には、金色の絨毯の上にいかにもな玉座があり、爽やかな印象の青年が座っていた。
「トゥーラ王よ、ただいま戻りました」
どうやらこの青年が王様らしい。思ってたより若い。
みんな王様に跪いている。
「そーんな堅苦しくしなくていいよお義父さん。どうやら本当に国を救ってくれたみたいだね。椅子を用意するからそこのお仲間も掛けておくれ。お茶でも飲んで、それから詳しく聞こう」
ハクセンがお義父さん? 色々あるんだな。
ハクセンとデイゴスは、昨晩起こった出来事を一部ぼかして王様に伝えた。
イセナとヒカリと、ヒカリの使役魔のわたしの三人で協力して、黒幕であるピエロを国から追い出す事に成功したと、大体そんな所だ。
わたしの正体については触れていない。
気づいてないか、秘密にしてくれてるかのどちらかだろう。
そして王様は、早速イセナについて興味を示した。
「それで何だって? 落ちこぼれの水竜が超進化を遂げて、《青龍》に進化した? 人化もしてるというなら実に興味深いね! ちょっと連れて来てよ」
好奇心に瞳を輝かせ、王様はイセナをここへ連れて来るよう命じた。
イセナは、ヒカリと一緒に宿屋で待機してたので、わたしとイセナが入れ替りでヒカリの側につく事になった。
「里で認められなかったオイラが、人間の国でちやほやされるなんて、皮肉なんよ……」
とぼやきながら、美少女イセナはデイゴス達に連れられて王宮へ向かって行った。
国中が活気に包まれている。格子窓から見える外は良い陽気で、小鳥はさえずり花は咲き誇る。
こんな日ならいつも、ヒオリとヒカリとで裏山の神社に遊びに行ってるんだけどな。
……
木のベッドに寝かされ、古風な麻の服を着せられたヒカリ。
わたしは枕元からヒカリの横顔を眺め、目を開けないこの愛しい幼なじみにちょっかいをだした。
でも……いくら声をかけても、耳に尻尾を突っ込んでやっても、ピクリとも反応しない。
「起きてよヒカリ。わたし退屈になってきたのだ」
「……」
ヒカリと遊ぶ事もできず、目を覚まさせる方法もわからない。
ふと、「その力を使いこなせ――」というピエロの言葉を思い出した。
そうだ、わたしは《お伽噺の邪竜》と恐れられる存在らしい。
なら、もしかしたらヒカリを目覚めさせるヒントがあるかもしれないと、わたしは《能力鑑定》を起動した。
―――――
個体名/イチカ
《レベル/64》《種族/お伽噺の邪竜》《年齢/表示不能》
HP/6480
MP/4740
膂 力/2520
防御値/3010
敏捷性/1200
【保有アビリティ一覧】
《高位アビリティ》
◆冒涜的なるもの
《上位アビリティ》
◆落落晨星
◆頭脳明晰
《特殊アビリティ》
◆能力鑑定
◆肉体変形
◆思念通話
《アビリティ》
◆自動翻訳
【特性/耐性】
不老
自己再生Lv8
人化
痛覚耐性(大)
状態異常無効
物理・魔法・精神攻撃耐性(中)
―――――
……あれ? なんだか前に見た時より、レベルと能力値が上昇してる?
いつの間にか新しい思念通話とかいうアビリティも獲得してるし、この人化とかいう特性はなん……
ん? んん?
人 化 ! ?
次回 とうとう一華ちゃんも魔人化デビューかぁ




