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強運

 痛い……めちゃくちゃ痛いし寒い。

 オイラは確か……そうか、リナリアを庇って……


 ぼんやりと広がる視界には、リナリアと、あの……名前忘れたけど目に傷のあるおっさんとジジイが、目に涙を浮かべてこっちを見ている。


 オイラの隣には……ヒカリとかいう小娘と、あぁ、イセク……


 イセクも何とかなったし……変だな、不思議と満たされた気持ちだ。

 まだ強くなるって夢は叶えてないのに……でも、なんかもうどうでもいいや。


 なんだかわかった気がする。

 きっとオイラは強くなりたいんじゃなくて、誰かの役に立てるようになりたかったんだって。


 これで、いいんだ……


 ………………


 …………


 ……








 いやよくねーよ!


 よく見たら、なんかデカイ奴が黒幕っぽいのと戦ってるよ!

 まだ全然終わってないよ!


 危ない、危うく納得して死ぬ所だった。


 しかし……くそっ、体を動かせないな。

 動けた所で、オイラに何ができるのか?


 ……いや、どちらにせよオイラが死んだらイセクは悲しむだろう。

 死ねない! 死にたくない!!


 うおお! 死んでたまるかああああ!




 脳内で奇声を上げて意識を保とうとしていた、その時だった。



 《レベルが最高値の99に達しました。条件を満たしている為、『超進化』の施行が可能です。実行しますか?》

 《Yes No》



 なんだこの四角い……紙? 縁と文字だけが白く後は漆黒の紙のような、えらい無機質な文章と選択肢が、脳内に提示された。


 何が起こっている?

 超進化とやらがよくわからんが、今は何でもやるしかないだろうよ。



 Yes!




 *




 突然の事にデイゴス達は困惑していた。


 目の前の黒い怪獣は、空を飛び回る道化師と戦っている。


 ヒカリを優しくこちらへ差し出し、おそらくは敵ではないのだが、その見た目はこの世界の人間なら誰でも知っている――


「お伽噺の邪竜……?」






 不意に邪竜は、手のひらから国がまるごと一つ消し飛びそうな威力の極大雷魔法を放った。


 しかしピエロは、簡単に邪竜の魔法を回避し、邪竜へ全方位から青い魔法弾幕をおみまいした。



「ヴァオオオオオオオ!!」


 弾幕により穴だらけになった邪竜が、いきなり咆哮をあげた。


 すると自分たちを守っていた結界が消失し、邪竜はまるで獣のように暴れている。


 無数に分身したピエロは、結界の消えたこちらも弾幕の標的にしているようだ。


 もう絶体絶命。


「もう駄目だ、おしまいだ……」


 そんな諦めかけていた三人の横で、虫の息のハズだったイセナが、青くまばゆい光に包まれた。




 *




 やべー、一瞬意識が飛んだが、なんとか戻った。

 ヒカリ達を守る結界が消えている。


 もう大した魔法も結界も使えないし、肉弾戦しかないだろう。

 この状況で勝てるか怪しいケド、やるしかない。後ろにはヒカリだっているんだ!


 《肉体変形 腕部銃剣化 を使用します》


 いつの間にかピエロの分身が少し減っているようだけど、それでも多い。


「〝主人公〟ならば、今度こそ!」


 またあの攻撃が来る!

 わたしは剣化した右腕を構え、攻撃に備え――



「ぎゃはっ!!」



 ……えっ!?


 突然、後ろから無数の水の剣が魚群のように飛来し、ピエロの群れへ襲いかかった。


 ピエロは気の抜けた悲鳴のようなものをあげ、分身が次々と消滅してゆく。


 振り返るとそこには、青くまばゆい光の玉が辺りを包み込んでいた。

 どうやらそこからこれが放たれているようだ。


「これは予想外、やはり貴女は〝主人公〟のようだ!!」


 高らかに笑うピエロ。

 何が起こったのかわからないわたし。


 青い光の中から、細長く青い何かが飛び出し、わたしに話しかけてきた。


「オイラも一緒に戦うよ!」


 それは、青く美しい、春先の霧雨を形にしたかのような、神々しき巨龍だった。





 腹を貫かれたピエロは嬉しそうに、龍とわたしを交互に見つめている。


「え……ええ!? 〝オイラ〟ってまさかイセナ!?」


「そうなんよ! なんか超進化とかいうのらしいよ。それよりお前も凄い魔物だったんだな!」


 とても信じられないが、あのヘビとトカゲと人間を足して3で割ったような見た目のイセナが、なんかとてつもない龍になってた。


「おっと、まずはあの黒幕さんを倒すのが先なんよ!」


 何はともあれ、光明が見えてきた。

 イセナは何気にピエロへ一太刀浴びせているのだ。


 うまく協力すれば、倒せるかもしれない。


「ンッふっふっ! 素晴らしい、素晴らしいですね! これぞ〝主人公〟の持つ強運! さすがのワタシもこれには敵いません!」


 まるで子供が新しい玩具を買ってもらったように、狂喜乱舞の白黒ピエロ。


「さあ! これでも食らいなさい!」


 紫の弾をこちらへ投げつけてきたので、わたしの右手の剣で受け止める。

 腹に穴が空いてるからなのか、さっきの攻撃からずいぶんと弱くなっているようだ。


 これは追い討ちをかけるチャンス!


「イセナ! 一番攻撃力の高そうな一撃を放つ準備をするのだ!」


「了解なんよ!」


 さっき気がついたが、わたしは雷撃を数発放つか、小さな結界を一回張る程度には魔力が回復しているようだ。


 それでもアイツを雷撃数発で倒せるか不安である。

 だから、奴を確実に仕留める算段を《頭脳明晰》を使って立てた。


 あとはそれを実行に移すだけ。


「ンッふっふっ! 次はどんな面白いものを見せてくれるのか、楽しみ、楽しみですねえ!!」


 ピエロは楽しそうに空中ですべるように踊っている。

 楽しみなら遠慮なくいかせてもらおう!



 食らえ! 《悪神の加護》!!


 わたしの僅かな魔力を使い、球体の結界でピエロの周りを包み込んだ。


 こんなわたしの作り出す未熟な結界は、数秒もあれば破壊されてしまうだろう。


 だが、脆い上に数秒()稼げれば十分。


「今なのだイセナ!!」

「任せろ!」


 イセナは顎を開き、その口元に白い煙のようなものを集め……否、あれは霧だ!

 森中の、いや国中の霧がイセナの口先に集まっている!


「よくも里を、人間の国を、イセクを!! お前だけは許さない!! 喰らえ《龍神の水槍砲》!!」


 イセナの口内に集められた高密度の水玉から、針のように細く鋭い弾が一発発射され、ピエロの閉じ込められた球状の結界を貫き破壊した。



「今度こそ……」


「絶対決まったんよ。今のオイラの全力の一撃で生きてる方がおかしいよ」


 ちょ、それフラグ……と言う前に、そのフラグは回収されてしまった。


「ンッふっふっふっふっ!! 素晴らしい連携でした! さすがのアタシも走馬灯、走馬灯が見えましたよ!」


 後方に、ピエロがぱちぱちと拍手しながら浮いていた。


「なっ、何で生きてるのだ!? あれは確実に……!!」


「それは秘密、企業秘密です。それより、そこの青龍に免じてここから手を引きましょう! 国と里にかけた眠りの呪いも、そこに転がる水竜への精神支配も、全て解除してさしあげまする!」


 ……?


 訳がわからない。あれだけやってこんなあっさり手を引くの? 一発かましてやりたいが、もうわたしとイセナにそんな力は残っていない。

 捕まえようとしても逃げられるのがオチだ。


「本当にオイラの弟を、解放してくれるのか?」


「当然です! あたし感動してしまって、そんな国を滅ぼす気、消えて、失せてしまいました! せっかく強くなれたのですから、しっかり弟さんを守ってあげるのですよ!」


 感動とか嘘つけ。


「それと、《お伽噺の邪竜》の肉体を持つ貴女、せっかくの〝主人公〟なんですから、その力、その力を使いこなしなさい。あたいからはそれだけさ! ンッふっふっ……それではまた会いましょう!」


「待て! ヒカリは……」


 ピエロは、黒い煙となって、不可解な笑い声と共にその場からかき消えてしまった。


 その瞬間――

 いつの間にか白んでいた空の果てから、輝く緋色の光が顔を出した。

 その光は、一週間ぶりにこの国を優しく暖かく包み込んでゆく――

次回 活気を取り戻したトゥーラ王国、楽しみなんですケド

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