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まるでこの世界が

 この世界には〝レベル〟という概念がある。

 これは個体としての、生物学的な強化・成長上限を99とした場合の段階を数字で表したものとされる。


 レベルを上げるためには、精神的および肉体的な強いストレスと、それを上回る何らかの感情が必要とされ、強い敵との戦闘や過酷な修行、珍しいものでは、死の淵からの蘇生といった例が現在まで確認されている。




 ハナノ帝国 新兵器開発機密計画書 より一部抜粋。





 ***





「さては君、主人公だね?」


 ピエロはわたしを仮面の下から見据え、理解不能な質問を投げ掛ける。


 主人公って、まるでこの世界が小説か何かで、それの主人公がわたし? そんなことありえない。


 もう気にするだけ無駄だなと、わたしはピエロの不可解な言動を気にしない事にした。


 それより現状、ピエロの姿が見当たらない。

 どこに潜んでいるのか……


「そこだ!」


「うぎゃっ!?」


 背中に魔法弾が炸裂し、また大きな爆発が起こった。


 一体どこから?


「バカだ、バカだね。技量も低く、頭も悪い。これでは《おとぎ話の邪竜》が聞いて呆れるよ」


「うるせー!!」


 ムッかつくなぁ! わたしだって好きでこんな姿になったんじゃないもん! できる事なら人間に戻りたいわ!!


 とにかく考えないと……考える……そうだ! あのアビリティを使おう!


 《上位アビリティ 頭脳明晰 を起動します》


 その瞬間、思考が冴え渡り、世界が超スローモーションになった。確か思考加速ってやつだっけ? これは凄い、初めて使ったけど、これからも使う機会がありそうだ。


 それはそうと考えねば。



 周囲を浮遊する木や岩、姿が見えない……


 姿が見えない? いや、違う?


 ……そうか! わかった!!



 思考加速をやめ、わたしは自らの作戦を実行する。


 《悪神の暴風 を使用します》


 わたしは眼前に巨大な竜巻を生み出した。


「ほう」


 そして竜巻を操り円を描くように、わたしの周りに浮いている木や岩を一掃させた。


 そう、ヤツは浮いてる木や岩の後ろに隠れて攻撃してきているのだ。

 ならその隠れ蓑を消し去ってしまえばいい話である。


 だが、わたしの作戦はこれで終わりじゃない。


「ンッふっふっふ……これはこれは面白い、面白いね」


 どこからかヤツの声がする。


 実はわたしの周りで、あえて竜巻に掃除させていない部分がある。


 わたしの後方には皆を守る結界が張られており、そこの上にはまだいくつか木や岩が残っている。


 そしてピエロの声はするが、まだ姿が見当たらない。

 つまり、まだあの中のどれかに隠れているのだろう。


「どこにいるのか、見当はついてるのだ!」


 ならばまとめて粉砕してしまえばいい。


 食らえ!《悪神の春雷砲》!!


 右腕を押さえ、手のひらから全魔力を込めた極太の雷撃が放たれる!

 粉々に砕け散る岩、焼け焦げる木々。


 しかし……


「惜しかった、惜しかったね!」


 雷撃砲を放ち終えたわたしの後ろから、無傷の白黒ピエロが現れた。

 この攻撃に全魔力を込めていたわたしは、もう雷撃一発すら放つ事もできない。

 魔力を回復させる手段もあるにはあるが、この状況では雀の涙だ。


「ヒカリ……」


 結界の中で、デイゴス達により胴の無いイセナの隣に横たえられたヒカリは、まるで眠っているようだった。


「技量がもっと高ければ、あたしを倒せていたかもね。さあて、そろそろ、終わり、おしまいにしようかね!」


 その男とも女ともつかない声が響いた瞬間、ピエロが分裂した。


 比喩とかじゃなく、本当に増えてる。たくさんのピエロ達が、わたしと、ヒカリ達を守る結界の周りを取り囲んだ。


「〝主人公〟ならこれくらい、これくらいは華麗に切り抜けられるよね!」


 分身のどれがそう言ったのか、そんな事はもはやどうでもいい。


「バイバーイ!」


 と、巨大なわたしの体めがけて濃青色の魔法弾を集中砲火した。


 さっきまでの弾と違い当たっても爆発はせず、代わりに強い貫通力がある……なんて冷静に分析する暇さえ無い。


 全身を穿く痛みと熱と衝撃。


 熱い。 痛い。 嫌だ!!

 せっかくヒカリに会えたのに、こんなのって……


 身体中を抉られ、穴だらけ。人間だったらとっくに死んでるだろう。

 蜂の巣のように空いた傷からは、黒い液体が滴り落ちている。



 もう、ダメかも……


 なんだか、意識が遠のいて、体が勝手に――




 *




 不意にピエロ達は、弾幕を放つ手を止めた。


「ヴァオオオオオオ!!!」


 満身創痍の《お伽噺の邪竜》は突然大きく遠吠えをあげた。

 その瞳からは理性の光が消えかけており……


 すると後ろに張っていた結界が消え失せ、中で守られていた者達が表に晒された。

 一華の意識が失われた事により解除されたのだろう。


「ンッふっふっふ、自我を失いましたか。これではつまらない、つまらないね」


 ぼろぼろの邪竜は、巨体に似合わぬ速さでピエロの群れへ飛びかかり、分身をいくつか叩き落とし握りつぶし、まるで野獣のような雄叫びをあげた。


「ヴァオオオオオオオ!!!」


「せっかく〝主人公〟を見つけたと、見つけたと思ったのに違っ……おや?」


 突然邪竜は何かを思い出したかのようにピエロへの攻撃をやめ、元の、水竜の横たわる場所へ戻っていった。


 そこで邪竜の右腕がめきめきと鈍い音をたて、たちまち長い銃のような形状になった。

 その瞳には、微かに理性の光が戻りつつあるようだ。


「ンッふっふ、まだ見限るのは早い、早いようですね」


 嬉しそうに一華を見据えるピエロの本体。


「〝主人公〟ならば、今度こそ!!」


 まるで試すかのように、ピエロは、一華と後ろの仲間に向けて、たくさんの分身と共に弾幕を放とうとした。


 そこへ――


「ぎゃはっ!」


 ピエロの分身達が何かにつらぬかれ、黒い煙となって消滅した。


 本体のピエロは、自分の腹部に突き刺さったソレを見て、大層楽しそうに笑っている。


「ンッふっふ、ンッふひひひひひ!! これは予想外、予想外です! やはり貴女は〝主人公〟のようだ!」


 ピエロは自身の腹部に突き刺さった、ガラスのように透き通る、水でできた剣を引き抜いた。


 そして、より一層楽しそうに高く笑った。

次回 イセナが大活躍するらしいケド

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