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傀儡の水竜

 えっと……何が起こったっけ? 頭がぼんやりする。


 確か紫色の魔法弾が結界に当たって、粉々に砕け散った?



「全くすばしっこいね、キミ」


 イセクの声で我を取り戻したわたしは、自分の張っていた結界を破壊された事を思い出した。


 そしてわたしを頭に乗せたヒカリがその上空でイセクと空中戦を行っている事も認識した。


 しかしデイゴス達の姿が見当たらない。そして、ヒカリの持っていたはずの両手剣も無い。素手だ。



「デイゴス達は……?」


「あー、あいつらは……多分無事だ」

 ヒカリはあの時咄嗟に、上位(ハイ)アビリティ《身体強健》の《上位防御強化魔法》をデイゴス達にかけたらしい。


 そのまま結界が破壊された衝撃で、ヒカリとわたし以外はどこかへ飛ばされてしまったとの事。



「今は祈る事しかできない」


 割と余裕そうに話すヒカリだが、水でできたガラス細工のような剣の弾幕を避ける事に精一杯なようだ。


「てか俺にも剣が無いと手加減できないわ。これじゃ死なせてしまう」


 あの時、衝撃でヒカリの剣もへし折れてしまったと話すヒカリ。

 手加減にこだわるのは、イセナが弟を殺さないでとか言ってたからのような。


「つまり勝とうと思えば勝てるのか?」


「殺すのは余裕。ただ、中途半端に強いから手加減が難しいんだ」


 余裕なんだ……まあ、人類滅亡レベルらしい怪物(わたし)を追い詰めるヒカリだから納得だけど。


 それにしても、剣がなくて行き詰まってるのか。異空間魔法にも今のところ剣のストックは無いし、正体を隠しているわたしが出る訳にもいかない。さてはてどうしたものか……


 ……


 その時、わたしの灰色をした脳細胞(この体に脳があるかは知らん)が素晴らしくてかっこいいアイデアを産み出した!!


「そうだヒカリ!!」



 *



邪竜之剣グラム化》



 ヒカリが振るう片刃剣の刃は、妖艶な深い青色の光を纏わせ、柄は爬虫類を思わせる黒い鱗で覆われている。

 その剣はそこらの品々と比べ物にならない程の頑丈さと、膨大な魔力を秘めていた。


「ホント何でもありだな……チカ姉」

 と剣に話しかけるヒカリ。


「自分でもびっくりなのだ」


 剣から少女の声が響く。



 そう、わたしはアビリティの《肉体変形》で剣に変身したのだ。

 何でもありだなとわたしもホントそう思う。


 いや、何でもありは語弊があるな。人間にはなれないんだから。


 剣になったわたしはその身をヒカリに預け、扱われるままに敵の攻撃を捌いてゆく。

 そうしていく内に、少しずつイセクとの距離が縮まっていった。



「何だいその変わった剣は、興味深いね。君を倒したら僕がいただくとしよう」


 イセクは表情筋を歪めて不自然でぎこちない笑みを浮かべ、そう言った。

 わたしはヒカリ以外に使われるつもりは毛頭無い。


「ヒカリが倒されてもわたしはお前の持ち物になんてならないぞ!」


 とりあえずそう反論して、後はヒカリに任せる。ぶっちゃけ頭の弱いわたしは口喧嘩と苦手なんだよね。


「へえ、喋る剣って珍しいね。おかげでここまで近づかれちゃったよ」


 水剣の弾幕は、手数は多いが直線的な軌道で迫って来るため対応は簡単だったが……


「これならどうだい?」


 イセクは弾幕のパターンを変えてきた。


 水でできた剣の雨が、イセクを中心にまるで竜巻のように旋回し、近づいてきたヒカリを襲いかかる。


 少し距離をおけば、こちらを狙って水を鋭いビームのように発射してくる。

 まるで弄ぶかのよう。


 それでもヒカリは余裕を残しているようだ。

「近づかせないつもりなら、こちらも遠距離攻撃をしてみるとしよう」


 うーん、弄んでるのはヒカリも同じかもしれないね。


 ヒカリは腕を伸ばし、わたしの剣先をイセクに向け魔力を込め、「チカ姉、少し魔力を貸りるぞ」と小さく呟いた。


 えっ? なんか今一瞬脱力感が…… いや。ヒカリの事だし、さもありなんってやつだよね。



 そんなこんなしている内に、わたしの剣先から高密度の魔力で形成された緋色の光線が射出された。

 光線は弾幕をはね除け突き進んでゆく。


 それを見たイセクは、光線の進行方向に幾重にも水の壁を張ったが、光線はそれらを全て貫通し、そしてイセクの元に到達した。


「これで―――」


 大爆発。

 強い熱風を剣の身に感じる。


 ヒカリの光線が到達する寸前、イセクが何かを言っていたような気がするが、何だろう?


 というかあの爆発で生きてるのか? 手加減とは一体。


「ありがとう。チカ姉の魔力を借りたおかげで上手く威力が調整できた。派手だがああ見えて破壊力は大した事無い」


 へえ、へえぇ……そうなんだ。

 ヒカリが本気だったらどうなっていたのだろう。


 ヒカリの言った通り、爆煙の中からぼろぼろになった少年イセクが落下していった。生きてはいるようだ。


「さて、あれを回収したらデイゴス達を助けに行こう」


 すいーっと宙を駆け、イセクに近づく。

 これで終わりなのか。 なんかやけにあっさりしているような。


 ヒカリがぼろぼろのイセクに手を伸ばそうとした時だった。


「が……ガアァァァァ!!!」


 意識なんて無かったハズのイセクが、まるで野獣のような咆哮をあげ、ヒカリの手にがぶっと噛みついた。


「うぎゃっ!?」


 ヒカリが驚いて手を引っ込めた次の瞬間、イセクの体が水色の光の繭に包みこまれた。


 そして少ししてその繭の中から出てきたのは


「グアアアア!!!」


 水色の鱗を持つドラゴン、正真正銘の水竜イセクだった。




 *




 一方、突如飛来した魔法弾により、地上へ落とされたデイゴス達はというと


「いてて……何でオレ達は無事なんだ?」

「ヒカリちゃんの魔法じゃないかな?」

「もしくはあのイチカという魔物によるものじゃろう」


 三人は冷静に話し合い、ヒカリの勝利を祈り、皆で大人しく待つ事になった。

 ただ、一人を除いては。


「オイラは行くよ! あんなガキンチョがイセクに勝てる訳がない! イセクはオイラが救うんよ!!」


 イセナはデイゴス達を置いて一人霊峰を登ろうとし、それをリナリアが強く引き留めた。


「アタシに勝てない程弱いアンタこそ、あの化け物に勝てる訳ないでしょ!! 足手まといになりたくなきゃここは大人しくヒカリちゃんに任せるのが正解なの! わかった?!」


「うるさい! オイラは弱くなんかないんよ! 絶対イセクを止めて見せるんだ! ついでにあの小娘も助けてやる!!」


「待てイセナ!」


 リナリアの言葉に耳を貸さず、取り押さえようとするデイゴスの腕も振りほどき、イセナは登山道の方向へ向かい、闇に吸いこまれていった。



「少し言い過ぎじゃなかろうか?」


「オレもそう思う」


 後に残されたデイゴスとハクセンが、リナリアをたしなめるように言った。


「あたしは……事実を言っただけよ。大した力を持たない奴がでしゃばるとどうなるか……」


「っ……」


 一瞬、言い返す言葉を忘れるデイゴスとハクセン。

 二人の表情には、ほのかに憐愍(れんびん)の色が表れていた。





「ちくしょう、どいつもこいつもオイラの事を馬鹿にして……」


 イセナはぶつくさ言いながら、湿度の高い闇の中を進む。たまに上空で何かが赤く光るので、その明りを頼りに登山道を逸れないよう注意して歩いていた。すると……



 きひひひひ……


 フフフ……


 ンフフフフ……



 そこらじゅうで、子供の笑い声のような、猫の鳴き声のような音がする。

 それは少しずつイセナへ近づいてくる。


「誰だ!? お、オイラは強いんよ!? 来るならかかってくる、んよ……」

 心臓の刻みが速くなる。



 がりっ。

 何かがイセナの背中を引っ掻いた。


「うああああああああ!?」


 イセナが悲鳴をあげると同時に、上空で青い閃光がほとばしり、周囲を照らし出した。


「縺薙�繧ュ繝」繝ゥ繧貞炎髯、縺励∪縺�」


 そこに照しだされたものは、恐らくは数百体にも上る真っ黒なピエロの群れが、イセナを取り囲んでいる光景だった。

次回 出来損ないにも夢はあって努力してるケド、そう叶うものではない

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