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道化師の謀略

「この中で一番強いのは、そこの老人かお前、どっちなんよ?」とイセナはデイゴスに問いかけた。


「オレこそが最強! と普段なら言うとこなんだけどな、この中で圧倒的に強いのは、ヒカリさんだ」

 そうデイゴスは首を横に振り、ヒカリを手で示した。


「こんな小娘が? オイラが水竜族の落ちこぼれだからって、からうなよ」


 生意気にもヒカリが弱いと鼻で笑うイセナ。

 ちょっとむかつくぞ。


「ヒカリはわたしを追い詰めるくらい強いのだ!! お前の弟なんかけちょんけちょんなのだ!!」


「へっ、お前みたいな雑魚モンスターからすれば強かろうが、そんな小娘がイセクに敵うわけないんよ!」


「何を!? 雑魚ってわたしの事か!!?」

「それ以外に何があるんよ?」


 バチバチと、イセナとヒカリの頭の上のわたしとの間に稲妻が走る。


「もういい、やめてくれ、落ち着け」


 迷惑そうにヒカリは口喧嘩の仲裁に入った。


「いずれ分かるだろうて……」


 デイゴス達もイセナに納得してもらえるのは今のところ無理だろうと判断したのか、これ以上言及する事はなかった。




 わたし達が洞窟から出ると、外は真っ暗になっていた。もう日が暮れてしまったのだろう。

 確か0時までに山頂へ行かないといけないんだっけ。


 ヒカリとハクセンは手のひらに灯火をともし、暗い霊峰の登山道をじゃりじゃりと踏み鳴らしながら歩く。


 ふと、イセナは何か申し訳なさそうに呟いた。


「……言い忘れてたが、あの日から夜になると奇妙な魔物が現れるようになったんよ。小さな、黒い道化師のようなのが沢山。それが今――」


 イセナはなぜか言葉を詰まらせ、それを不審そうに思ったデイゴスはそっと声をかけた。


「それが今、どうしたんだ?」



『ゲラゲラゲラゲラゲラ!!!』


 突如、狂気的な笑い声が響きわたり、わたし達の後ろから何かが飛び出してきた。


「!?」


 わたし達を驚かせたそれは、小さな道化師のような人影。


 背丈と頭身は幼い子供程度。かろうじてピエロと認識できる二股のとんがり帽子といった服装は、全身どころか顔につけた仮面すら全て黒く塗りつぶされており、シルエットのようにも見える。


「な、なんだお前……?」


 ヒカリは、わたし達の前に佇む異様なピエロへ、恐る恐る声をかけた。


「……」


 反応は無い。


「こいつが今お前の言ってた〝黒い道化師〟だな?」とデイゴスはイセナに確認をする。

「そうなんよ。いきなり襲ってくるから油断しちゃダメよ」


 それ(・・)は、金属の軋むような声を出しながらゆっくりとわたし達へ近づいてくる……

 手が震えた。



「縺薙�荳悶�繝輔ぅ繧ッ繧キ繝ァ繝ウ縺�!!!」


 ピエロはまるで糸が切れたかのように突然、奇声を発しながらヒカリへ飛びかかってきた。


「危ない!」


 イセナはピエロを迎え撃とうとするヒカリの前に立ちふさがり、ピエロの顔面に拳を炸裂させた。

 それを食らったピエロの体は、まるで初めからそこにいなかったかのように、消え失せてしまった。


「見たか! お前よりオイラの方が強いんよ!」


 そう振り返ってどや顔をきめるイセナを、ヒカリ達は気にも留めず話し込んでいる。


「今のは何だったんだ?」


「あたしにはさっぱり」

「オレにもわからん。ハクセン、何か知ってるか?」


「いや、わしにもさっぱりわからん。少なくとも元々この森にいた魔物ではなかろう」



 長らくこの国で暮らしていたハクセンでも、あのピエロ(?)は見たことが無いらしい。謎はますます深まるばかりだ。


 無視されてしょんぼりするイセナを横目に、わたし達は暗い霧の中、ハクセンの《座標表示》を頼りに頂上を目指していった。






 青く淡い光を空の上から放つ丸い月。

 濃紺の空に散りばめられた色彩豊かな光の粒達。

 頂上が近いのだろうか、まさか霧が晴れるとは予想外だ。


 周囲には高木は無く、代わりに低木と巨岩が沢山ごろごろと落ちている。


「外部への脱出を阻む効力は上空には無いようだな。イセクは何を考えているのやら」


 冷静に状況を分析するヒカリ。

 そんなヒカリを見ていて、ふと気になった。


 ヒカリはウエストラインから上が白色で、下が紅く可憐なワンピースを着ている。


「そういえばヒカリ、そのワンピース姿は何なのだ? 街を出た時どうやって着替えたの?」


「この服か。これはそうだな……私服?」


 私服? って後ろにクエスチョンマークつけられても困るわ。


「ワンピースが私服って、ヒカリは男じゃなかったのか?」


「ワタシこれでも14年は女の子やってるんですケド?」と、ヒカリは女の子らしい声でわたしに物申した。


「だからその14年の間に何があったのか教えて欲しいのだ」


「今はダメー」

 仮面をずらしてピンクの舌をちろりと出し、可愛い子ぶるヒカリ。


 本当にこいつがあの可愛げの無いヒカリ(男)なのか疑わしくなってきた。

 時の流れとは恐ろしいものだ。


「男……? ヒカリちゃん実は男なの?」


 会話の一部始終を聞いていたリナリアが、小声で話しかけてきた。


「なっ……!? 違ぇし! 今は女の子だから!!」


「今は?」

 リナリアに変な目で見られるようになり、気まずくなってきた所でちょうど頂上が見えてきた。




 *




「イセク!!」と大きく声をあげるイセナ。


 頂上へ到着したわたし達が見上げる真上には、水色の光を放つ少年が宙に浮いていた。服装はTシャツと短パンみたいに見える。どう見ても竜ではないが、あれが水竜イセクのようだ。


「何しに来たの? まさかイセナごときがボクを止めるつもりかい?」


 少年はこっちへ向き直り、冷徹な眼差しをイセナへ向けた。


「オイラだけじゃない、この人間達にも協力してもらうんよ!!」と力強く力説するイセナ。


 それを聞いたイセクは、不自然な微笑を浮かべ、わたし達を一瞥した。


「やってみるといい、好きにするといいよ」


 そんなイセクの前方に何か、半透明の不定形な物体――いや、水だ。水がたくさん集まり、無数の剣のようなものを形成している。


「待ってイセク!! それは―――」


「死ね」


 一言、イセクが呟いた途端、周囲に無数の水の剣が雨のように降り注いだ。

 水剣の当たった岩は粉々に砕け、その破壊力を物語っている。


 それらは咄嗟に貼ったわたしの結界に当たり、はでにしぶきをあげて消し飛んだ。結界を壊せる程強力ではないようだ。

 ……いや、結界を叩き割れるヒカリがヤバいだけか。


 それにしても、しぶきで外が見えない。



「死んじゃう…… ここで終わりなんよ!!」


 イセナはうずくまり、青い鱗に覆われた体をガタガタと小刻みに震わせながら情けなく叫んだ。


「イセナ、顔をあげてよく見るんだ。オレ達は守られてる」

 デイゴスは怯えるイセナにそう伝えた。


「……え?」


 顔を上げて呆然とするイセナ。何が起こっているのか理解できず、思考停止しているようだった。




 結界の外ではずっと剣の雨が降り続いている。この雨が止まない限り、この結界を閉じることはできない。


「あーあ、少し退屈になってきたのだ。ヒカリなんか面白い事言って」

 わたしを頭に乗せているヒカリにあえて聞こえるように、大きい声で呟いた。


「よくこの状況でそんな事が言えるな……俺は今のところ面白い事言う気分じゃないんだ。悪いな」


 断られちゃった。つまんないの。



 しばらくするとしぶきの合間から星空が垣間見え、イセクの攻撃が少し収まってきた気がする。


「そろそろですな。わしらも微力ながら支援しますぞ」


 事前の作戦会議で彼らは、後方でヒカリの支援を行う事になっている。イセナも交えていたハズだったが、見たところ何も聞いてなかったようだ。



 この国はハクセンの故郷らしい。

 デイゴス達は、仲間の故郷の危機にいてもたってもいられずに来たという。


 彼らにイセクを倒す事は不可能だろう。

 だからこそ、ヒカリとわたしが前線に出るのだ。彼らの想いを背負って。




「チカ姉……アレは何だ?」


 結界の外、イセクの後方から、紫色の発光体がこちらに近づいてくるのが見える。

 何だろう、アレは……イセクの攻撃?





 後から言えばの話になるが、あの紫色の発光体は〝高位(エクストラ)〟以上の力によって放たれた魔法弾だったのだ。


 この時、わたしは完全に油断していた。大概の攻撃は防げるだろうと。

 それが大激戦の始まりであるとも知らずに……

次回 ピエロが大量発生してるケド、大丈夫かな?

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