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小さな水竜

 リナリアの声と、獣か魔物か何か恐ろしいものの叫びが洞窟内に響いた。

 その声がした方向を見ると、大きな岩に挟まれた小さな隙間があった。


「まさかリナリア、あの中に……」


 わたし達はデイゴスを先頭に一列になり、狭い隙間へ身をよじらせて入り込んでいった。

 中は入り組んでおり、とても窮屈でじめじめしている。


「嫌ぁ! 気持ち悪い!!」とこの先からリナリアの声が聞こえるので間違いなくいる。早く助けに行かなくては。


「リナリアー! 今行くぞ!!」


 デイゴスが大きな声で呼び掛けるもリナリアの返事は無く、代わりにまた

「ギャアアアア! イタイ……ヤメロオォォ!!」

 といった恐ろしいうめき声が響いた。


 少し進むと、床に草が敷き詰められた岩屋のような場所に抜けた。わたし達がそこで見たものは、


「痛い!! やめるんよ!」

「このっ! 使役(テイム)してやるんだよ!!」


 青っぽい鱗を持つ人型のトカゲ(蛇?)と、アグレッシブにもそれの首に三角絞めをキメているリナリアの姿だった。


 わたし達が到着した事に気づいたリナリアは、トカゲの首に絡ませていた脚をほどいて、事情を説明した。


 一行が鍾乳洞へ到着した時、リナリアは岩に挟まれた隙間にこのトカゲの姿を見たという。

 好奇心の赴くままにトカゲの後を追ったところ、ここでいきなり襲われたから反撃し、ついでに《使役(テイム)》の呪縛もかけたとか。


「無事で良かった……でも勝手に離れるなよ、今みたいに魔物に襲われるかもしれないだろ?」


 デイゴスは頭を抱えてリナリアを諭した。

 そしてリナリアが三角絞めを食らわせていたトカゲ人間の方は――


「襲ってなんかいないよ!!! むしろオイラの住み処にいきなり入って来て難癖つけてんのはオマエらの方だ!」


 喋った……

 そのままトカゲ人間はいかに自分がリナリアに痛め付けられたのかを熱弁した。


「オイラの言ってる事は全て本当だ!! その証拠にその白い女に使役(テイム)をかけられてるから、何一つ嘘は言えないんよ!」

「うっ、これはテイム失敗したかしら……」


 トカゲは爪の長いその指でリナリアを差した。

 この主張に強く反論しないあたり、リナリア()勘違いしていた事は図星なのだろう。


「ヒカリ、テイムって何なのだ?」


「ああ、テイムっていうのはな―――」


 ヒカリいわく使役(テイム)とは文字通り対象を従属させるアビリティで、受けた魔物は術者やその仲間に逆らったり嘘をつく事ができなくなるらしい。

 でも文句を言う事はできるっぽい。



 この中ではリナリアが使役(テイム)を使用できるようだ。

 ハクセンが問題無くテイムできてると言ってるので、トカゲは本当の事を言っているのだろう。


「うちのじゃじゃ馬がすまなかった」


 リナリアの顔はローブの下に隠れていて見えないが、間違いなく今のデイゴスの謝罪の言葉でムッとしてるだろう。


「リナリア、テイムを解除してやれ」


「でも……」


 リナリアはしぶしぶデイゴスの言葉に従い、かけた使役の呪縛を解除する為にトカゲ人間の額に触れた。


「……冒険者だろあんたら? オイラの頼みを聞いてくれりゃ許してやるんよ」


 なんか偉そうな態度だな……何様なんだコイツ。


「悪いが、今オレ達には時間が無いんだ。この事が解決したらまた来るから、その時に―――」


「ほおん、水竜の里ねぇ。あそこにゃもう行けないんよ」


「えっ」


 トカゲ人間は、まるで心を見透かした(・・・・・・・)かのように、わたし達の目的を言い当てた。


「な、なぜそれを知っている!? それに里へ行けないとは一体……」

「頼みを聞いてくれりゃ教えてやるんよ。大した内容じゃないよ。それにあんたらにも悪い話じゃあない」


「……わかった。その頼みとは何だ?」


 トカゲ人間はちょっともったいぶってから、その頼みについてを打ち明けた。


「オイラの弟がな、ちょっと癇癪起こしちまってこの国を滅ぼそうとしてんのよ。だからあいつを止めるのを手伝ってくれよ」


 へえ、弟がこの国を……えっ!?


「おま、お前さんの弟がこの霧を!? ここまで大規模な魔法、どうやって……」


 思わず声をあげるハクセン。

 大した内容じゃないとは一体。


「そうなんよ。《水操作魔法》っての。出来損ないのオイラと違って弟は天才なんよ。"上位(ハイ)"を複数発現させ、中には高位(エクストラ)に比類するのもある! どうだ、凄いだろ!」


 なんで嬉しそうなんだ。

 まあ《高位(エクストラ)》は、わたしとヒカリも持ってるから大したこと無いとして、黒幕ってこいつの弟だったのかよ。


「なんだよその冷めた目は! オイラの言う事が信じられないってんなら、またテイムして確かめてもいいぜ?」


「……わかった。そこまで言うならお前の言う事を信じよう。それにオレ達もこの国を救う為にここへ来たからな」


「交渉成立だ。オイラはイセナってんだ、こんななりでも立派……じゃないけど水竜族なんよ! よろしくな」


 トカゲ人間もといイセナは、なぜわたし達の目的を知っているのか、なぜ里へ行けないのかを説明してくれた。



 イセナは《思考解読(Lv1)》という、自身と目の合った者の思考を読み取れるアビリティを持っており、さっきはデイゴスの考えていた事を口に出してみただけだとか。


 あまり恵まれたアビリティではなく、目が合っても自分の意思で発動できる事は稀らしい。


 そして水竜の里についてだが―――


「オイラの弟、イセクってんだけど――がな、里への道を閉じてしまったんよ。その時オイラだけ里からはじき出され、どうしようも無いからここで過ごしてるんだ」


「道が閉じられただと? なぜお前さんだけ……」


「他にも奇妙な事があるんよ。国と里を滅ぼしてやる とか言ってたくせに、なぜか実行までに1週間の猶予を持たせているんだ」


「……」


「……もしや何者かに操られているのでは?」


 ヒカリが自分の憶測を呟く。ハクセンとデイゴスもうなずいている。

 一方あくびをしてるリナリアは多分、わたしと同じで話についていけてないだろな。


「その通りだと思うんよ、本当はイセク優しい奴だから、できれば殺さずに取り押さえて欲しいよ……」


 それからイセナは、イセクを倒すチャンスについて説明してくれた。



 イセクは霧を放ってから1週間後、つまり今日の深夜0時に霊峰の頂上から、真っ先に王都を壊滅させに行くという。討つならそこだろう。もちろん殺さずに。



 今更だけど、イセナはトカゲ……というより頭はヘビだろうか。わたしの苦手な生き物だ。


 わたし達はイセナの知る情報をまとめ、イセクが控えているであろう霊峰の頂上へ、直接赴く事になった。

次回 イセクって奴に会うらしいケド

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