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水竜の里へ

 ある日突然、このトゥーラ王国を包みこんだ霧は恐ろしいものであった。

 この霧の外から内には入れるが、内から外へ出る事ができず、更に一度眠ると目覚められなくなる。


 一人また一人と睡魔に負けてゆき、王国内で眠らずに残っている者は極少数となった。



 霧が出始めてから1週間後、かつてこの国に遣えていた魔法使い、ハクセンの所属する冒険者パーティが王国へ到着した。


 ―――――


「ワシがそのハクセンじゃ。よろしく頼みますぞ」


 黒いタキシードを着こなす老男がそう名乗った。


「このパーティーのリーダーがこのオレ、デイゴスだ。これでも戦士としてやってる。で、こっちのじゃじゃ馬が――」


「違うもん! じゃじゃ馬じゃないから! ……あたしはリナリア! パーティの補助役と、魔物使い(テイマー)として活躍しているんだよ!」


 我先にと自己紹介する二人。さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのかというくらい元気が有り余っている。


「俺はヒカリ。巷ではSランクの冒険者として活躍してる。よろしくな」


「Sランク!?」


 えすらんく? それを聞いた3人組は豆鉄砲でも食らったような顔色をしている。やっぱりヒカリは有名人らしい。


「んで、コイツはイチカ。同じくじゃじゃ馬だ」


「は!? じゃじゃ馬ってまさかわたしの事か!?」

「さあ? 何の事かな?」


 ヒカリがなんかとてつもなく失礼な事を言った気がするが、きっと気のせいだろう。わたしがじゃじゃ馬なハズはない。



「それそうと、話の続きをしてくれ」


「おお、そうだった」


 ―――――


 到着したデイゴス一行は、即行で王宮へ向かった。そこには王様がただ一人、睡魔に耐え続けており、デイゴス達は彼からこの国の現況を伝えられた。

 そうして王様は、役目を終えたと言わんばかりに眠りについたという。


 王宮から出てこの国のギルドへ行くと、あのヴァイバルという赤髪の男が、ギルド内の人間に強制睡眠魔法をかけているのを目撃した。



「そのままいきなりヤツに襲われて、後はさっきの通りだ」


 最後はえらくざっくりとしてるな。

 というかあのギルドとやらで倒れてた連中は、赤髪の仕業だったのか。



「あ、そういえばさっきバッタに襲われてた時、なんでアンタ一人で俺達を助けに来たんだ?」


 ヒカリは顔の仮面の端を指でつまみ、デイゴスに質問したが、それに答えたのはデイゴスの仲間達だった。


「デイゴスはすぐ面倒事に首を突っ込むんだよ。あの時はあたし達を置いてきぼりにして行っちゃったんだよ」


「しかし剣を折って帰ってきましたな。予備があったから良かったものの、行動が軽率過ぎるのですぞ、デイゴス殿」


 仲間にボロクソ言われてちょっと涙目のデイゴス。


「まあ、後先考えずに突っ走るのは良くないな……」


 ヒカリにさえそう言われ、精悍な顔を涙で濡らすデイゴスを、影から応援したいわたしであった。




 *




「さて、これからどうする? この霧の発生源がどこなのか知らねばどうにもならないと思うが」


「そうですな、王の話によると――――」



 ヒカリとハクセンの間でなんかどんどん勝手に話が進んでゆく。

 わたしは、話の内容をよく理解しないままただうなずく事しかできなかった。


「―――それじゃとりあえず水竜の里とやらへ行くと……」

「そうじゃ」


 何か話がまとまったようなので、軽く要点を聞いてみる。

 なんだ聞いてなかったのか? と呆れられたが、一応説明はしてくれた。


 ここから西へ半日程歩いた先に『霊峰』なるものがあり、そこにある"水竜の里"という場所で、霧の出る直前に変わった魔物の目撃情報があったらしい。

 だからそこへ行ってみようという事だと説明してくれた。


 満場一致で、すぐにその霊峰へ行く事になった。





「こりゃ凄い、これなら一時間かからずに到着できる!」


 楽しそうにはしゃぐデイゴス。


 わたしはアビリティの〝疾走竜(デルタドロメウス)〟に変身し、細身な背中の上にみんなを乗せ、広大な針葉樹の森を駆けていた。

 木々を避けながらなので、全力疾走できなくてもどかしい。しかもヒカリに「絶対に全速力出すな」と念を押され、あまり楽しいドライブではない。


 ハクセンのアビリティ《座標表示》で、目的地への方角が目の前に矢印で表示されているおかげで霧の中でも迷う事は無い。


「すっごーい! こんな凄い魔物()、どうやって使役(テイム)したの?」


 リナリアはフードに隠れた瞳を輝かせ、身を乗り出してわたしの頭をなでなでしてきた。ちょっとくすぐったい。


「テイムっていうかなんていうか……」

 口ごもるヒカリ。


「あっ! そっか、アビリティの《使役(テイム)》による主従関係じゃないんだね! 魔物(モンスター)と人間の仲良し、たまにいるんだよ!」


 す、鋭い……!! 恐ろしい程鋭いぞコイツ!!

 わたしの正体に気付かれたりしたらヤバい。これからは目立たないよう、人畜無害な変わった魔物で通そう。




 *




 目の前にそびえる岩山。霧に隠され標高がどの程度なのかわからないが、かなり高そうだ。


「ここが霊峰……」


 岩山を見、ヒカリとわたしは少し不思議な気持ちになっていた。


「いつもなら天を突く程高いんだ」

「そうそう、とっても高いんだよ!」


 デイゴスとリナリアは息ぴったりに霊峰について語っている。結構詳しいみたいで、伝説の龍を奉っているとか色々説明してるがわたしとヒカリはそのほとんどを聞き流していた。


「そこに洞穴があるだろう、その中に"水竜の里"へ通じる道がある」


 ハクセンの指差す先には、切り立った岩山の壁にぽっかりと口を開けた洞窟があった。

 雰囲気的にかなり不気味だが、一行はその中へ足を踏み入れていった。



 中は暗い。当然っちゃ当然か。

 ヒカリとハクセンが手のひらから小さな炎を出し、辺りを照らす。洞窟はじめじめしており、所々コウモリの死体が落ちている。

 

 そしてどうやら洞窟の内部にも霧がたちこめているようだ。


「そこの大岩を曲がった所が"水竜の里"の入り口じゃ。里の者達は無事だろうか……」


 ハクセンの言う通り、狭い道を曲がった先には、開けたとても広い空間があった。


 天井から水分を含む白い石がたくさんつららのように垂れ下がり、地面からは筍のような形状の岩がつららに対応するように突き出ている。


「これが俗にいう鍾乳洞か、初めて見た」

「わたしも初めて見たのだ」


 軽く感動するわたしとヒカリ。

 デイゴスとリナリアも初めて見たようで、珍しく静かにしている。


「あれ……リナリア?」


「きゃあああああ!!?」

「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!?」


 リナリアの姿が見えない事に気づいたのと同時に、リナリアと恐ろしい獣の悲鳴のような声が同時に鍾乳洞にこだました。

次回、水竜ってなんなのかわかんないんですケド

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