お伽噺の邪竜
処女作です。よろしくお願いします。
目を覚まして最初に見えたもの、それは知らない天井だった。
なんか凄く長い間眠っていた気がする。
なぜわたしはここにいるのかと仰向けのまま考えを巡らせる。
学校帰りに熱中症とかで倒れて救急搬送された? それなら所々辻褄が合うケド、なんで真っ暗なんだ? 夜だから?
なんにせよ大人しくしているのはわたしの性に合わない。動けるなら動こう。
ジャラッ
ん? なんだコレ? なんか紐みたいのが手足に絡みついてるぞ。これでは動けない。
よっしゃ! 引きちぎろう!!!
わたしは手足に力を込め、両手両足に絡んでいる紐を思い切り引っ張り―――――
ギリギリギリ……ガキン!! ガキン!! ジャラッ!!
よし、取れた!! これで動ける……ってうおお!?
突然周囲が明るくなった。いや視界が開けたと言った方が正解か?
わたしが寝ていた場所は、広さ5畳くらいの正方形の小部屋の中心だった。高さはわたしの頭がギリギリ天井に当たらないくらいで、四方を囲う灰色の壁一面に見知らぬ文字が無数に刻まれている。
室内は明るいが、窓や蛍光灯は見当たらない。
なんだココ? 出入口が見当たらないのだが? 病院……だよな?
……あっ!! そうか!!
ここは集中治療室という部屋だな。多分。よほど重篤な状況だったのか。
仕方ない、元気になるまで大人しくしているか。
……
………………
………………………………
だいぶ長い間大人しくしていたが、誰も来ない。
暇だ、暇過ぎる!! 集中治療室とはここまで退屈な場所だったのか!!
さすがのわたしも我慢の限界だ。
何か退屈を紛らわすモノはないのか、無いな!! よっしゃ! ひとりしりとりをしよう!!
リンゴ! ゴリラ! ランドセル!―――――――
―――――――――す! スイカ! ……はもう言ったか。
えーと、ス、す、す……
《ステータス一覧を開きます》
ス、、ステータス……!!
何だコレ!?
突然、頭の中にゲームのウィンドウみたいのが現れた。
――――――――――――――
個体名/イチカ
《レベル/58》《種族/お伽噺の邪竜》《年齢/表示不能》
HP/5956
MP/4500
膂 力/2500
防御値/2940
敏捷性/1200
【保有アビリティ一覧】
【特 性/耐 性】
――――――――――――――
なんだよこれ?
ステータス……?
わたしはようやく、この状況の異常さに気がついたのだった。
えーと……
明らかにここは集中治療室じゃない。
恐らくあれから何日か経った気がするのに、誰1人来ない。
これはもしや、わたしは幽閉されているのだろうか。
と考えこんでいると、突如、後ろから鉄の扉を開けるような金属音と男の声が響き渡った。
「この濃ゆい邪悪な〝魔素〟……貴様が伝説の魔物か!! この勇者"ザッコル"が成敗してくれる!!」
そこにいたのは、とてもとても小さな小人。
何か言ってきた奴は、金ぴかの鎧兜を着けわたしに剣先を向けている。
他には紫のローブを纏った女と、黒い鎧と斧を装備したおっさんがいた。
「何とか言ったらどうなんだこの化け物! 伝説では人語を操ると聞いたぞ!!」
ば、化け物?
「えーと……化け物ってわたしの事なのか?」
「貴様以外他にいないだろうが!!」
「えぇ……それで、わたしに何の用、なのだ?」
「俺達はお前を殺して名声を得るのだ!! だから大人しく倒されろ!! お前ら一気にやるぞ!!」
殺すって!? 待て待て状況が全く理解できないのだが。
「ちょま――
「サンダークロスブレード!!」
「ブリザードショット!!」
「竜魔断頭斬!!」
わたしの話を聞かず、遠慮も無しになんか放ってきた。
金色の雷を宿した剣が、無数の氷のつぶてが、斧を掲げた小さいおっさんが、わたし目がけて飛んで来る――――
室内には土煙が巻き上がり、視界を遮断する。
「ハァハァ……やったぞ! 倒したんだ!!!」
「これで私達英雄ね!!」
「帰ったら美味いもん沢山食べるでやんす!」
わたしを倒したと嬉しそうな声が聞こえる。
なんだ今のは!? 凄い魔法みたいな……魔法か!?
当たっても痛くなかったけどかっこいいな、わたしにもできるかな?
――この時わたしはなんの気兼ねも無く、ただかっこいいからという理由でこのポーズをチョイスしたのだと思う。後悔はしてない。
掌底を合わせた手を相手に向けて、か〇はめ波ァ!! と念じてみた。
すると一瞬、何かが土煙の中で光り―――
ドシャァァァァン!!!
凄まじい衝撃と爆音が部屋の中を覆いつくした。
そしてわたしの頭の中は真っ白になった。
どうしてこうなった……
部屋にわたしが通れるくらいの大穴が空き、あの小人3人組は――――
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
「pぉきじゅhygtfrですぁq!!」
幸い生きているようだが、男2人はパニックを起こし奇声を上げている。
「二人ともしっかりして!! 逃げるわよ!! 帰還魔法!!」
あっ消えた。
なんだったんだろうか、あいつら。何か邪悪な魔物とか邪竜だとか言ってたような気がするけど。
まあ生きててよかった。それより、せっかく壁に穴が開いたんだ、ここを抜け出す他ないだろう。
わたしが空けた大穴の向こう側には、小部屋とは比べ物にならない位大きな壁があり、その一面に巨大な鏡が貼ってあるのが見えた。
よく見るとその鏡に、明らかに人間じゃないシルエットが映っている。
なにあれ? と思い、手を動かすと、シルエットも同じように手を動かした。
わたしの中に、ある疑問が浮かんだ。
思いきって、鏡に近づいて、自分の姿を見てみよう。そうすればこの疑問の答えがわかるハズ。
―――わたしは戦慄した。
目の前に佇むそれは、人と黒い恐竜を掛け合わせたような生物だった。
全身はゴツゴツとした鱗で覆われている。額の中心には巨大な赤い眼球が一つ剥きでており、その横から、象牙のような白い角が左右二本づつ後ろに伸びていた。
んで、目の前にあるコレは鏡。それが意味する事はつまり――
かつて世界を滅ぼしたというお伽噺の邪竜は、今まさに解き放たれた。