表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/142

片思い


部屋に戻り、ガラス越しに外を見る。

わたしのドキドキが収まると同時に人の通りも戻ってきた。

騎兵が、町が安全であることを町民たちに示したのかな。

わたしは部屋に居るが、ロアは外出中。

部屋に帰って来るなりロアは、小腹がすいたと言い始めたのだ。

大規模な魔法を使ったからだろう。

ドラゴン騒ぎがあったため、店は閉まっているところが多い。

また外をのぞく。

安全と分かって営業を再開する店が増えてきた。

この分ならロアはもうすぐ帰って来るだろう。

そう考えていると、妖精がすいっと飛んで目の前に現れる。


『おねえちゃん』


「なあに?」


『魔法教えなきゃ』

『教える!』

『魔法!』


ああ、少し忘れてたよ。

わたし、魔力欠乏で倒れちゃったし、ロアは大技使って町で騒ぎになるし。


「ごめん、忘れてたわけじゃないの」


『分かってる』

『おにいちゃんかっこよかったもんね』


「あの……少しだけ休ませてくれない?」


朝からこの国の事、魔力の事。

昼から妖精の事、実際に魔力を使った事、ロアのすごい魔法を見た事。

容量オーバーだ。

一日の内に詰め込みすぎた内容だ。

それにわたしは今日、一度魔力欠乏症で倒れている。

そのせいか今、とても眠い。眠たい目をこする。


『いいよおねーちゃん』

『ゆっくりおやすみ』


「うん……ありがとう、妖精さん」


ゆっくりとベッドに横になった。そのまま目を閉じ、眠りに落ちた。




*****




数刻後、ロアは部屋に戻ってきた。

ミツキが寝ている事に気が付き、足音を立てないようにそろりそろりと歩いた。

ミツキ……昨日よく眠れて無いようだった。

朝から連れまわして無理をさせてしまっただろうか。

ミツキの顔を覗き込む。

心地よさそうにすやすやと眠っていた。

突然、その顔が歪む。


「お、とう……さ」

「……」

「……おかあ、さん」


苦しそうにあえいだ後、つぅ、と涙が一粒頬を伝う。

ごめん。

ミツキの頭を優しく撫でる。

少し表情は和らいだようだ。

何もできない自分が歯痒かった。

改めて、思う。

俺が、家に帰してやるからな。




*****




ふと、目を開ける。

外から差し込んでくる日の光が赤くなっていて、夕方であることを悟る。

悪夢を見ていたような気がする。

どれだけ頑張っても家に帰れない、家族に会えない、そんな夢。


「あっ……ロア」


帰って来てたのか、って……あたりまえか。

睡眠をとって休んだはずなのに、頭痛がした。

ロアは剣の手入れをしていた。


「ミツキ、おはよう」

「はい、おはようです」


痛む頭を無視して起き上がる。

妖精が目の前を飛んで行く。

その光がチカチカして頭痛が増した。


「うー……」

「ミツキ?」

「寝起きに妖精を見るのがつらい……」


ここに来たばかりの時は見えなかった。

あの頃に戻りたい。

周りの妖精たちは飛び回るのをやめ、心配そうにわたしを見つめていた。


「切り替えられないのか?」

「……ぅ?」

「祖母は見る見ないを完全に切り替えてたけど」

「ほんと?」

「ああ、妖精の眼を使う事で余計に魔力を使うらしいから」


これって、使うのに魔力が必要なのか。

だから魔力欠乏を起こした時、妖精が見えなかったのか。


「どうやって見ないようにすればいいの?」

「眼の奥にスイッチの様な物を思浮かべるんだ」


スイッチ?

わたしは目を閉じて、電気を消したり付けたりするスイッチを思い浮かべる。


「それをオフにするだけだよ」


少し唸って、カチッ、と音がしたような気がした。

再び目を開ける。


「……あ!」


ホントだ、見えなくなってる。

寝起きには暴力的だった妖精の光が見えなくなってる!


「できた?」

「うん! できた!」

「見たいときは、またスイッチをオンにするだけだから」

「分かった、ありがとう」


見るだけではなく、声も聞こえなくなった。

とても静かな空間になった。

ロアが剣を研ぐ音だけが響く。

体がむずむずした。

居づらい。

同じ部屋に年の近い男女が二人っきり……

何か起こりそうでしょ?

ううん、ロアはわたしみたいな子供には興味を示さないから……

そこまで考えて、へこむ。

わたしは胸は並みだし、スタイルも顔も並みだけど……!

言っておくが襲われたい訳では無い。

あんまりにも何もないと女としてのわずかなプライドが傷ついているだけだ。

それにロアとだったら……いいかなって……

ハッとして頭を抱える。

何がいいの!? よくないよ!

ロアは確かにかっこいいよ、わたしの好みそのものだよ!

でもロアはわたしなんかより、もっと美人な人が隣に居たほうが絵になる。

ハリウッドスター同士が結婚するような感じだ。絵になるのだ。

なによりもわたしは助けてもらっている身。

こんな感情を抱く事すら万死に値するだろう。

うああっ、ごめんなさい!


「ミツキ?」

「はっ」

「百面相してたけど、大丈夫か?」

「あ、あはは……大丈夫」


しばらくしていなかったが、片思いするのもいいだろう。

その方が、少しは気がまぎれる。

家に帰れないと言う現実から……

ロアの気を逸らすために、近くにあった物を指差す。


「それってなに?」

「ああ、これは……」


昨日、部屋には無かったものだ。


「絵本だよ」


先程出かけた際に、図書館で借りて来たそうだ。

わたしが字を読めないから。

ぺこりと頭を下げる。


「すみません」

「いや、いいんだ」

「何の絵本を借りて来たんですか?」


絵本と言えば、日本にはいろいろあったが……


「この国で有名な……歴史にもかかわる内容の絵本だよ」


そう言って手渡される。

四冊も。

本、一冊の厚さはそうでもないが、四冊ともなると分厚い。

表紙にはどの本にも人間が描かれている。

文字が書かれているが、全く読めない。


「まず、ミツキにはこれかな」


ロアが指をさした絵本には金の髪に金の眼をした顔の整った男性が描かれていた。


「タイトルは、アーク神、世界を見守る」

「アーク……様……」


この世界を治めると言う、神様。

男神だったのか。

一つ一つタイトルを聞いて行く。


四人の男の子が描かれている本。

バルト家の四兄弟。


髪の黒いがっしりした体系の男性が描かれている本。

アークバルトの英雄。


長い黒髪を持った赤い眼の女性と茶色い髪に緑の眼を持った男性が描かれている本。

英雄の娘。


この四つはこの国の人間ならだれしもが知っている話だそうだ。

最初に受け取ったアーク様の絵本を開く。


「………」


分かっていたが、読めない。

日本語でも英語でもない。

元の世界で似た言葉は、わたしの知る限りではなかった。


「全く読めないのか」

「……はい」


ロアはわたしの隣に座って、絵本を覗き込む。

心臓がはねる。

距離が近いよ!

わたしの動揺に気が付かないロアは、絵本の最初の一文を指差し、読み始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ