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言ってない!


『じゃあまず水球を作ってみよー!』

『物はためしだよ』

『おみず!』


「ええっ、さっきやろうとしたけどできなくて……」


『物はためしだって!』


妖精に促され、少し戸惑いながら、ロアに言われたやり方を思い出す。

体の中にある魔力を感じて、巡らせて……少し外に出す。

それを、水球にする。

唸る。

なんで魔力が水になるの?

つまりどういうことなの?

科学技術が発達した国出身のわたしには難しい。

うんうんうなり続けていると、妖精の一人が言った。


『おねーちゃんはちょっと考えすぎちゃうんだね』


「……考えすぎちゃう?」


『あたまでっかち!』

『魔法は感覚が大切』

『魔法はイメージだよ!』


イメージ?

考えないでイメージしなさいって?

今まで学んできた理科の授業とか必要ない感じですか?

うーん、うーん……


『おねーちゃんさー』


少し呆れながら妖精は言う。


『完成形を思い浮かべるんだよ』

『過程はどうでもいいー!』

『魔法はなんでもありなんだよ!』

『たのしーよ!』


完成形……?

うんと、じゃあ……5センチぐらいの水球をイメージする。

これを、わたしの力で作る!

目を閉じて、踏ん張った。

魔力を放出するってこんな感じ?

妖精たちがにわかに騒ぎ出す。


『できてるよ!』

『やったあ!』

『さすが!』

『やったね!』


目を開ける。

確かにイメージ通りの水球が出来ていた。

やった!

嬉しくてぴょんぴょん跳ねた。

しばらくすると水球は形が崩れて地面に吸い込まれていった。


「ありがとう! 妖精さ」


ドサッ

気が付くと天を仰いでいた。

さっきまで足元にあった草花が目の横にあった。

何が起きたか分からず、動こうとするが、手も足も動かない。


「ミツキ!」


ロアが倒れた私に駆け寄ってくる。

大丈夫だよ。

声が出せずに口だけぱくぱくと動く。

どうしたんだろ、わたし。全く力が入らない。

ロアに抱えられ、心配そうな目が向けられる。

体が動かないんです。

ぱくぱくと口だけ動かす。


「魔力がからっぽじゃないか!」


魔力が底をついている?

ロアの言う、魔力欠乏状態だろうか。

そいえば、さっきまであれだけたくさんいた妖精たちの声も姿もない。

魔力が無くなって見えなくなってしまったのか?

と言うかなんだか……眠たい……寝不足だからかな?

ロアは焦りながら、大きな手でわたしの手を握る。

ふわっと、ロアの手からあったかいものが流れてくる。

あったかい。

熱が、体中を巡って行く。

虚ろな意識で心地よくて微笑む。

お風呂入ってるみたいで気持ちいい。


「ミツキ? 大丈夫か?」

「……ロ、ア?」

「遠くで見てたけど、一度に魔力を放出しすぎだ」


ロアはご立腹の様で眉をひそめていた。

あれ位小規模な魔法だったらもっともっと少ない魔力で十分だそうだ。

全力で魔力を放出したのがいけなかったようだ。

と言う事は魔力を放出する事には成功していたのか。


「今、俺の魔力を分けてるから」

「ごめん……なさい」

「いい……俺も子供の頃はよくやった」


ロアはどこか懐かしそうな、やわらかい表情をした。

それにしても、あたたかい。頭もふわふわする。

寝不足で、疲れている心身にじんわり染みて行く。

しばらくロアの腕の中で夢見心地だったが、わたしの手を握っていたロアの手が離れ、頭を撫でられた。


「もう大丈夫」


にっこりと笑ってそう言ったロアの手を、再び掴む。

ふにゃふにゃになった脳みそは、心地よい事をすっかり覚えてしまったようだ。


「ミツキ……?」

「やぁ、ろあ、きもちぃ、もっと……」


ロアの手に少しだけ力が入り、顔を見つめられた。

すごく、綺麗な瞳だなあ……

ぼーっとする意識の中、かすかな声が耳に届く。


『大丈夫? おねーちゃん』

『無理させちゃった?』

『おにーちゃん怒ってる?』

『おねーちゃあん』


妖精の存在も、どこか夢の中の存在の様に感じられる。

彼らは半透明で、ぼんやり光っているから余計に空想上の生き物のように感じられた。

妖精の一人がぼそりと呟いた。

その言葉だけが、やけにはっきり聞こえた。


『えっちぃ』


ハッと目を見開いた。

ビクッとロアの体が跳ねる。

ズサササッ! と四つん這いで慌ててロアから距離を取った。

わたしも、ロアも、呼吸を忘れてしまったようで互いに驚いた表情で見つめあったまま、動かない。


「……わ、たし……なにか、いいました?」


なにやら思った事をそのまま言ったような気がする。

ロアは瞬きも忘れ、固まったまま動かない。

何でもいいから、お願いだから、喋ってほしい。

頭を抱え、叫びたくなる。


「ロア、あの、その……」

「………」

「なにも、言ってないですよね?」

「……」

「捉えようによっては大惨事になるような事、言ってないですよね!?」


必死にわたしは、あった事をなかった事にしようとした。

あんな事、わたし、言ってないです。気のせいです。ロアの空耳です。

ここで、ようやくロアが時間を取り戻した。


「言っただろ……」

「言ってないです!」


折角話せるようになったのに、そんな事言わないで!


「言ってない!」

「言った」

「言わない!」

「じゃあ何か? 俺の耳がおかしいってのか?」

「そう! おかしいの!」

「周りの妖精に言ったかどうか聞いてみろよ」

「わーん! 言ってない! 言ってないよう!」

「……っ」


結局叫んだ。

恥ずかしい!

死にたい! いっそ殺してほしい!

必死に暗示を試みてる最中、ロアは片手で口元を覆う。


「……ロア?」


ロアの体は小刻みに震えていた。

少し心配になり、声をかける。


「どうしたの?」

「いや、その……ッ」

「! ロア!」


上ずったロアの声で、察する。

自分から離れて行ったくせに、再びロアに大股で近付く。

背中を向けて震えるロアの背中にとびかかる。


「笑ってるでしょう!?」

「ごめ……ミツキがあんまりにも必死で」

「必死にもなるよ! あんな事」

「あんな事? それ言ったって事認めてるよな」

「わーん! 酷い! ロアがいじめる!」


ロアが吹き出した。

お腹を抱えて大声で笑っていた。

周りに居る妖精もせわしなく飛び回りながらカラカラ笑う。

それを見てたら何だかわたしも、笑いたくなった。

ロアの笑顔はとっても綺麗で絵になる美しさがあった。

ようは笑いがうつったのだ。

それに、こんな些細な事で喧嘩して、馬鹿らしくなったのもある。

わたし、この世界に来て初めて、心から笑った気がする。

今だけは、不安な事は考えずに済みそう。

しばらくロアと、互いに笑いあった。


「は、あ……久々に涙出るほど笑った」

「はあそうですか、それはそれはよかったですねえ?」


涙を拭うロアを見ながら恨み言を言う。

大惨事だ、穴があったら入りたい。わたしはそんな軽い女じゃないから!

気軽に気持ちいいとか言う女じゃないから!

肩を怒らせていると、少し乱暴に頭を撫でられる。


「機嫌直せよ」

「むう」


わたしは唇を尖らせる。

また風が吹いて、わたしの髪や草原の草花がもてあそばれる。

心地よくて深呼吸をした。

ここは、良い風が吹く。


「昼食にしよう」


空を見て、太陽の位置を確認したロアが言う。

そう言えばこの世界、月は三つあるのに太陽は一つしかない。

……そう言う世界なのだろう。

町を出る時に買ったパンを広げる。

トーストにレタスとトマトとハムとチーズの様な物をサンドした大きなサンドイッチだ。

ハムの代わりに卵のものもある。

ぐうう、とお腹が鳴る。よだれも出てきた。

なんだかとてもお腹が空いた。


「はい、ミツキ」

「ありがとう」


受け取って、かぶりつく。

美味しい。野菜は新鮮でハムとチーズの塩加減もちょうどいい。

お腹が空いてると一段と美味しく感じられる。

あっと言う間に一つを食べ終えてしまった。


「……」


おかしい。まだ足りない。

わたしはそんなに食べる方ではない。

今朝だって同じぐらいのパンを一つやっと食べてきたのだ。

お腹をさすりながら二つ目を食べ始めたロアを睨むように見る。


「うっ」


目が合ったロアが呻いた。

ロアは何も言わず、もう一つ同じパンをくれた。

今度は卵のものだ。

二人でパンを食べながらロアが話す。


「魔法を使ったからお腹が空いたんだろ」

「んむ、魔法を使ったらお腹が減るの?」

「ああ、食べたものがそのまま魔力になるからな」

「そっかあ、だからロアはたくさん食べるんだね」


魔力が無くなると動けなくなっちゃうし……本能的に魔法を使うとお腹が空くみたい。

あれ? でも……

そもそも魔力を持ってない人がいるけど、その人たちは大丈夫なのだろうか?

ロアに聞くと、魔力が無くなって動けなくなってしまうのは魔法が使える下位から。

魔力欠乏とは、魔力を持っている人が魔力を使い切ってしまうと動けなくなる現象の事のようだ。

わたしが魔法を使う事を見計らって多めにパンを買ってきたようで。

わたしが二つ、ロアが五つ、パンを平らげた。

朝より食べてる……とロアに飲み込まれていくパンたちを眺めながら、少しだけ恐ろしくなった。


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