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異世界講座


つつがなく朝を迎えた。

目が覚めたら全部夢で、と言うのに期待したが全くそんな事は無く、木造の小さな部屋で溜息を吐く。

実はあまり眠れていない。

幾度となく目が覚め、浅い睡眠を繰り返した。

精神がすり減っている状態だが、しかたない。


「おはようミツキ」

「おはようございます……ロア」


ロアはすっかり起きてしまっていて、寝袋もしまい込んでいた。

ベッドからひょっこりと窓越しに外を見た。

昨晩とは打って変わって、人の通りが激しく、活気にあふれていた。

フッと目の前が暗くなる。


「……ロア?」

「あまり眼を晒さない方がいいって、昨日言っただろ?」


手で目隠しをされてしまった。


「そうだったね、ごめんなさい」


でも、どうして?

目隠しを外され、ロアに問いかける。


「確認だけど、この国のことも魔力のことも分からない、でいいか?」

「……うん」

「そうか……なら先に魔力の事かな」


ロアは丁寧に一つずつ教えてくれた。

まず魔力の事。

魔力には、火、風、水、の三種類の属性がある。

魔力は瞳に宿るとされており、ロアは火属性に、わたしは水属性になるようだ。

そして魔力の強さ。魔力の内包量とも言うが、これも眼に現れると言い、綺麗な色をしているほど沢山魔力を持っていると言う。

魔力保持者は魔力の高さでランク付けがされており、上から


最高位(規格外の存在)

高位(強い魔法が使える)

上位(常用的に魔法が使える)

中位(日常的に魔法が使える)

下位(簡単な魔法を数度使える)

最下位(魔力はあるが魔法が使えない)

なし(魔力なし)


と分けられる。

ロアによるとわたしは中位程度らしい。

何故わかったのか聞くと、上位以上の魔力保持者は眼を見ただけで相手がどのぐらい魔力を持っているか感覚的に分かるらしい。

つまりロアは上位以上の魔力を持っているということだろう。

そして、なぜわたしが眼を外部にさらさない方がいいのか、と言う事だが。


「女性は基本、魔力を持たない」

「えっ」

「持っていても魔法が使えない程度……最下位程度だ」


魔力を持っていない女性は茶色の眼、もしくは黒っぽい眼をしているらしい。

魔力を持っている女性のほとんどが貴族であるらしく、これは強い魔力を持った男性が貴族に多いから。仮に普通の家に生まれたとしたら、すぐに攫われてしまうとの事。

この世界は超が付くほどの男社会のようだ。

魔力を持っている女性は、ある迷信があって……

魔力持ちの女性の方が魔力の強い子供を産む、と言う物だ。

これは全くの迷信で、魔力の強い方、つまり男性側に似る、と言う研究結果も出ているらしいが……まだ浸透はしていないらしい。

この国では、いや、世界では魔力持ちの女性の誘拐が後を絶たないらしく、わたし自身も、攫われて逃げ出し、あの草原に居たのでは、と思われていたようだ。

それでもこの国は摘発が進み、数十年前にくらべ激減していて、平和にはなったらしい。

が、眼を隠さずに出歩くのは自殺行為だと言う。


「特にミツキは魔法が使えるくらい魔力がある……とくに危ない」

「わたし、魔法は使った事ないです……」

「それは……使い方を忘れているんだろう?」

「忘れたわけでは……」

「まあ、自分を守る術は必要だからな、時間のある時に教えてやるよ」

「! ありがとう」


魔法!

現代っ子のわたしはワクワクしてしまった。

まさか魔法を使う日がくるなんて!

その浮かれた気持ちを隠すように貰った布で眼を隠した。

この布はもともとロアが使っていたようだ。

自分の実力を隠すことで戦いを有利にするんだってさ。

……戦い?


「戦いって……?」

「ああ、この世界は話した通り、少し物騒なんだ」


人さらいもそうだが50年ほど前には隣の国と戦争があったし、町と町を繋ぐ道を歩いていたら狂暴化した動物に襲われたり……

ちなみにこの世界では動物も魔法が使えるらしい。

ロアは年齢よりも幼い外見からか何度か追いはぎにあいかけたようで、そのたびに返り討ちにしたと話す。

一番怖いのは人間だとロアは何度か言った。


「魔法についてはこのぐらいか……次はこの国の事だ」

「なんて名前の国なんですか?」

「名前はアークバルト。この世界で一番栄えていて平和な国だ」

「あーく……ばると……? アーク……」


ハッと体が跳ねた。


『アークの世界に送ろう』


思い出した……!

あれは綺麗な夢ではなかったのか?


「どうかしたか?」

「あ、あの……名前の由来を聞いても?」

「この世界はアークと言う名の神が治めている。バルトは王族の元々の苗字だな。あわせて、アークバルト。安直だろ?」

「!!」


やっぱり、夢じゃなかった!

あの人……女神って呼ばれてたけど、アーク様と何か関係があるのだろうか?


「あの……」

「何か思い出したか?」

「その、この世界に来る前の話なんですが……」


女神様の事を話す。

銀の髪に金の眼、白い肌に大きな体……

人とは思えない美しい顔立ち。

それを聞いたロアは、腕を組んで考え始めた。

わたしはそれを見守る。


「アーク神については王族が一番詳しいんだが」

「王族ですか……」


王族……何とかして話を聞けないだろうか?


「王様はどこに居るのですか?」

「俺達はこれから王都に向かおうとしていた所なんだ」

「王都?」

「王都は王族の城があって城下町がある、この国最大の街だ」


もともとロアの言っていた物知りな人も王都に居るらしい。

ここから王都はそう遠くなく、徒歩で15日、馬に乗れば10日もあれば到着するようだ。


「王族についても……伝手が無い事も無い」

「王族に知り合いがいるって事ですか?」

「……まあ、そんな感じだ」


どこか引っ掛かる言い方だが、取り敢えず王都に行けば家に帰る手がかりが掴めそうだ。


「今の話からどうもミツキは神とかかわりを持っているようだな」

「信じられない?」

「いや、この国の歴史に神は度々介入してきているからな。逆に信じられる」

「そう、なんだ」


わたしの世界と違って神様と言う存在が確実に存在してるってことか。

日本って神様の事を信仰しない人が多いよね……わたしもだけど。


「ミツキが違う世界の人だってなんとなく理解できた」


この世界の神様は突拍子も無い事を平然とやるらしい。

わたしが此処にいる事もその一つだろうとロアは考えているようだった。


「ロア、いろいろありがとう」

「俺は当たり前のことをしているだけだ」


そう言うとわざとらしく肩をすくめた。

ロアの事、最初は警戒してたけど、夜に隣で寝てても何もなかったし、親身に話を聞いてくれるし、疑問に思った事もすぐ答えてくれる、信用して良さそうだ。

むしろ今まで疑ってかかってごめんなさい。


「じゃあ、取り敢えず王都に向かうの?」

「そのつもりだ。が、その前に」


じっとロアに見られる。

昨日の事もありなんだか恥ずかしい。


「準備をしないとな」

「準備?」

「まず服を買おう。その服は目立つ」


自分の服を見る。

確かにジーパンじゃ悪目立ちするよね。

それから旅の準備をするってことかな?


「そういやミツキ、昨日シャワー浴びてないけど、気持ち悪くないか?」

「はっ」


言われた拍子に体の汚れが気になり始める。

風呂好きな日本人の心が叫ぶ。

あああ、むずむずする、お風呂に入りたい……!


「ミツキの服は目立つから、適当に服だけ先に買ってくるからな」

「はい……」

「シャワー浴びてていいから」

「はい、お願いします……」

「石鹸とタオルは備え付けのがあるから……着替えは取り敢えずこれ着とけ」


渡された着替えはロアのシャツだった。

ロアは足早に昨日と同じような格好で出かけて行った。

ガチャリと扉に鍵がかかった。

……シャワー浴びるのに気を使ってくれたのかな?

シャワーを浴びる為に部屋を覗き込む。

浴室はタイル張りになっていてシャワーの形も元の世界の物とそう変わらなかった。

欲を言えばお湯に浸かりたいがそんな我がままを言ってはいられない。

頑張ろう。

わたしは自分の家に帰るのだ。

家に帰って、現代の便利さを噛み締めるのだ。



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