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異世界に来ましたが今すぐに帰りたいです  作者: ぽわぽわ
深き森の村 フロラリア
20/142

見抜かれる


村をぐるっと一周した。

一周したと言ってもそこまで村は広く無いし、細く暗い裏路地は危ないので行かなかった。

裏に入らなければ取り敢えず危険はないようだ。


「ロア、ここから王都までどのぐらいかかるの?」


わたしが病気になってしまったのが原因でこの村に来ることになった。

恐らくわたしが倒れた位置からこの村が一番近かったからだ。


「そう遠くない」


此処から隣町のカナトラまで馬を使って丸一日位かかり、カナトラからは一日かからないそうだ。

この町による予定が無かったのは、ここを経由すると余計に時間がかかってしまうから。


「ごめん……わたしが倒れたりしなければ……」


今頃は王都に着いていたかもしれない。

ロアはわたしの帽子の上に手を置く。


「気にするな、俺もミツキの体調を察せなかった」

「ロアのせいじゃないよっ」

「……じゃあ、お互い様だ」


そう言ってロアはふっと笑う。


どきっ


高鳴った心臓を誤魔化す様にロアから視線を外した。

さらに深く帽子を被りなおして前を向く。

その時、


「ひぃっ」


遠くで小さな悲鳴が聞こえた。

視線を投げるとそこにはこの町の騎兵が居た。

騎兵はこちらを凝視し、少しずつ後ずさっていた。


「おい、どうした? 悲鳴なんか上げて」


もう一人路地から騎兵が顔を出した。

そして、こちらを見た。


「いっ」


もう一人も、同じような声を上げた。

二人は、こちら、と言うか、ロアを凝視していた。


「行くぞ、ミツキ」

「え? うん」


ロアに手を引かれ、その場を後にする。

ロアはバツの悪そうな表情で足早に歩く。

二人は遠く離れて行くロアをおびえた目でずっと見ていた。




*****




ロアに連れられて、病院に来た。

病院、と言うか診療所と言うらしい。

老父が此処のお医者さん、先生であるようだ。

わたしは一度此処に来て診察を受けたらしいが全く覚えていない。

老父とも話をしたが、何を話したかも覚えていなかった。

壁に大穴が開いていて、応急処置で中が見えないように材木が置いてあった。

少し驚いた。誰かここで暴れたのだろうか。

他に患者はおらず、すぐに中に通され、老父と話をする。


「お嬢さん、体調の方はいかがですか?」

「はい、ロアが回復魔法を使ってくれてから調子がいいです」

「それは何よりです」


老父はカルテに書き込んで行く。


「お嬢さん、あなたは色々な事を溜めこみすぎてしまう傾向にあるようです」

「……はい」

「あまり一人で抱え込まず、誰かに相談して下さいね」

「はい」


強く頷いた。

こうなる前に今度はロアに相談しよう。

そうした方が逆に無駄な時間を取らずに済む。


「出した薬は一応最後まで飲んで下さい」

「はい」

「お大事に」


ぺこりと頭を下げる。

立ち上がろうとした時、再び老父が口を開く。


「それから、ロア様」


老父は笑顔だった。

さっきまでとは違う、黒い笑顔だった。

思わず、固まる。

老父の感情はわたしの後ろに居るロアに向けられていたが、それでも恐怖した。


「あまりお遊びが過ぎませぬよう」

「……悪かった」

「謝れば済むのですか?」

「……」

「回復魔法が使えるようになった、ええ、喜ばしい事です。ロア様のお父上もさぞやお喜びになるでしょう」

「……そんな事で喜んだりするような人では」

「ロア様、私が言いたい事はそんな事ではありませぬ。分かっておいででしょう?」


ロアは黙った。

わたしは訳が分からず二人を交互に見る。

老父は、わたしの手を優しく握った。皺くちゃの手は温かくて、歴史を感じた。


「今回の事はロア様だけの問題ではないのです、上に報告が行ったら面倒でしょう」

「……」

「少しの間、お嬢さんは預かります。騎兵達とよく話して来てください」


ちらりとロアを見た。眉間に皺を寄せ、何か考えているようだった。


「……分かった、ミツキの事、頼む」


踵を返し、ロアは一人で部屋を出て行った。

老父は天を仰いでいた。額には汗が浮かんでいる。


「生きた心地がしませんでしたよ」

「……あの」

「お嬢さん、少し待ってくださいね」


老父は看護婦を呼んだ。水が飲みたかったようだ。わたしの分も用意してくれた。

汗をぬぐった老父に声をかける。


「先生……あの」

「お嬢さんはどこまで知っているのですか?」

「どこまで、とは……?」

「ロア様の事と今回の事です」


ロアの事?

そう言えば、何故、老父はロアに様を付けて呼ぶのだろうか。

ストーラの時も騎兵達に様を付けて呼ばれていた。


「ロアって偉い人なんですか?」

「……何もご存じないのですね」

「わたし……ロアの事ずっと旅人だと思っていて……」

「そうなのですね……」

「あの……ロアの事、教えてもらえないでしょうか?」


老父は黙った。黙りこくって、色々と考えている。

そう言えば、ロアの事何にも知らない。

王都に家があるって事と、父親がいる事、年齢、そのぐらい。

どうして旅をしているのかも分からない。

わたしはロアの事をほとんど何も知らないんだ。


「お嬢さん」

「はい」

「ロア様が自身の事を語らないのは、何か理由がある様に思えます」

「……はい」

「私がロア様の想いを無視してロア様の事をお教えする事はできません」

「………はい」


老父はもう一度水を飲んだ。

ロアの事はロアに直接聞いた方がいいだろう。答えてくれるかは別として。

わたしは、本当にロアの事、何にも知らない事を、改めて感じた。

老父はしわしわの顔をさらに皺くちゃにして、わたしを見る。

その柔らかい眼差しは、孫を見る優しい目とよく似ていた。


「お嬢さんはロア様にとても大切にされていますね」

「えっ?」

「ロア様は回復魔法を覚える為に相当無茶をされていたので」


無茶を?

ふと、ボロボロになったロアを思い出した。

何か関係があるのだろうか。

恐る恐る聞く。


「ど、どんな事をしたんですか……?」

「そうですね……」


老父は少しずつ順を追って話し始める。

事の発端は騎兵が集まる駐屯場所にロアがやって来た所から始まる。

わたしが寝込んでいた時の事だ。

駐屯場所には広いグラウンドがあり、そこで騎兵達は剣技を高めたり、魔法の練習をし、時には手合せもするようだ。

そこに来たロアが何をしたのか……そう、手合せをしたのだ。

無茶なやり方だった。

ロア一人対複数人。

ロアは回復魔法を手っ取り早く覚える為、自分を傷つけた。

老父が言うにはロア程魔力が高いと自己治癒力があるようで、沢山傷つかないといけないらしかった。

それならば自傷すればいいとの考えもあるだろうが、魔力を消費した方が治りが遅くなるとの事だった。

ロアは何度も傷ついて傷ついて、自分の体で回復魔法を練習して、ようやく使えるようになったのだ。


「わたしっ、そんな事知らない……」

「言うつもりは恐らくないのでしょう」

「……ロア」


と、ここまでなら良かったが、問題はここからだ。

手合せをした騎兵全員がロアに吹き飛ばされたのだ。

中には怪我を負った人もいて、この診療所も大変だったようだ。


「此処に居る騎兵では束になってもロア様には勝てません」

「ロアって、そんなに強いのですか?」

「ええ、とても」


老父は誇らしげににこりと笑う。

此処に来る前の、騎兵の反応を思い返す。

そう言えば悲鳴を上げていた。

老父が言うにはロアが無茶をしたことにより、騎兵がロアに対して畏怖の念を持ってしまった。

やれ悪魔だ、鬼神だ、と。

この話が上に行ってしまうと少し厄介な事になりかねないので、ロアは今、自分で蒔いた種を拾いに行っているようだった。

元はわたしの為なのに、何もできなくてごめん、ロア……

帰って来たロアになんと声をかけようか考えていると、爆弾が降って来た。


「お嬢さんはロア様の恋人ですか?」

「……えっ!?」


ち、違います! と大声で否定して首を振る。

わたしなんかがロアの恋人とか嫌だ! わたしが釣り合わない!

確かにわたしはロアの事が好きだけど……好きだけども!


「そうなのですか?」

「はい! 全然、全く、そう言うんじゃないです!」

「そうですか……ロア様は案外奥手なのですかね?」

「はいっ?」

「いえ……ロア様の女性嫌いは結構有名でして……」

「女嫌い?」

「本命には慎重なのでしょうか?」

「な、な、な、なにをっ」


動揺するだけ動揺する。ロアが女嫌い? そんなの初めて聞いた。

ぐるぐるぐるぐる。脳も回って目が回る。

ロアが奥手? 本命に慎重? 誰の事を言ってるの?

ロアの好きな人って?


「私から見たらロア様はあなた様の事を」

「わーっ! 待って! 待ってください!!」

「はい」


にこにこと老父は笑う。一人で百面相をしているわたしを微笑ましく見ている。

なんとか消え入りそうな声で何とか反論する。


「ロアとはそう言うんじゃないです……本当です……」

「そう言うお嬢さんはロア様の事を好いている様に見えます」


すでに真っ赤な顔を両手で隠す。

ああ、恥ずかしい、恥ずかしい! こんなおじいちゃんに見抜かれてしまうだなんて!

嘘がつけないわたしはゆっくりと頷いた。


「ロアには……言わないで下さい……お願いします……」

「私は言いませんよ、約束です」

「ありがとうござ」

「そう言うのは自身で言わなくてはいけませんからね」

「……えっ?」

「応援してますよ」

「…………しないで下さい……」


これが年の功か……おじいちゃんに勝てない。

と言うかロアは偉い人なのにわたしみたいな子の恋愛を応援するって?

なんかちょっと違和感……


「ロアは、貴族なのですか?」


赤い顔のまま水を飲み、問いかける。


「……さて、それもご本人に聞いてみてください」

「わかり、ました」


ロアに聞きたい事が沢山出来た。

ロアは一体、何者なのだろう。何故旅をしているの?

どうしてわたしを助けてくれるの?

思えば疑問は山ほどあった。

今まで大変で、疑問に思わなかったけど。

ロアの事、ちゃんと知りたい。

答えてくれるだろうか。

少しの不安を胸に、ロアの帰りを待った。


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