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ログアウトできない


また、目を開ける。

まず飛び込んできたのは無機質なコンクリートではなく、豊かな草原であった。

温かで優しい夜風が草原を、そしてわたしの肌を撫でる。

飛び起きた。

美しい夢を見ていたようだった。

自分が死んだのは覚えてる。

その後、何か、あったような……?

頭を振って、とりあえず状況を確認する。

きょろきょろと辺りを見回し、自分の体が無事な事を確かめ、胸を撫で下ろす。

怪我一つしていないし、服も破けたり血がついていたりしていない。

当惑しながらまわりを観察してみた。

ここは草原で……木が遠くの方に生い茂っているし、その先に山も見えた。

草原に生えている草はよくよく見ると見た事のない植物であった。

どこの国?

さらに立ち上がってどうしようかと悩んで空を見上げ、口が開いた。


月が三つもある……!


頭を抱えた。

ここ、地球じゃ、ない……!

狼狽してうずくまる。

弟をかばって事故で死んだと思ったら変な世界に飛ばされた……?

いや、違う、きっと新しいゲームか何かだ。

弟が目を覆うタイプのゲーム……確かVRだっけ?

それだ!

きっとそれに違いない。

でもそれって視覚情報だけで風とかの触覚は無かったような。

い、や!

最新機種はあるのかも!

悩みながら自己暗示をかけていた。

うずくまって、見た事が無い植物を見ながら何度も。


「おい」


弟は悪ふざけが過ぎるタイプだった。

これもきっと、


「おい! 大丈夫か!」


がっ、と肩を後ろから掴まれた。

ハッ、と顔を上げる。

日本語! 日本語だ!

ほら! やっぱりゲームじゃないか!

慌てて振り向く。

ゲームの基本操作を教えてくれるキャラクターに挨拶しなくては。


「か、ひゅ……ごほッ、ゴホゴホ!」

「……おい! 水だ、早く飲め」

「は、ひ……しゅみませ、」

「いいから」


声を出そうとしたら、喉が張り付いていて上手く出せなかった。

形状的に、恐らく水筒だろう物を手渡され、一口貰った。

この水、美味しい……

あれ? 飲食なんかゲーム内で出来たっけ?

それに、日本語を話しているようで、違う言葉を話している様な。


「落ち着いたか」

「はい、落ち着きました、ありがとうございます」


やっぱり、日本語じゃ、ない……?

相手の顔を見た。

黒髪の青年だった。

年齢は自分と同じぐらい。

目鼻立ちはわたしよりもハッキリしていて、整っている。

特筆すべきはその宝石の様な真っ赤な瞳だろう。

大粒のルビーでもはめ込んだかのようで、妖しい魅力を放っている。

その人はと言うと、少し驚いたような表情を浮かべていた。


「あ、の!」


そのイケメンに詰め寄る。


「わたし、現実世界に帰りたいのですが! ログアウトはどこでするんですか!」


整った顔が困惑に彩られる。


「ログ……?」

「ログアウトです!」

「言ってる意味がよく分からん」

「家に帰りたいんです、助けてください……」


感情が高ぶって涙が出てきた。


「おとうさん、おかあさん……ぐすっ」


お助けキャラがお助けしてくれないよぉ。

家族はどうなったの?

涙がぼたぼたと着ている服に落ちてシミを作っていく。

涙を見たイケメンが慌てる。


「お前、何処かから攫われてきたのか?」

「知らない! 分かんない! ここどこ!? うわぁん!」


いきなり知らない場所に来て一気に不安が噴き出る。

ぼだぼた泣いて、嗚咽も漏れて、鼻水も出た。

うずくまって泣いていると、ハンカチが差し出され、背中をさすってくれた。


「大丈夫か?」

「ぅ、う、ぅ……ぅん」

「お前が家に帰るのを、俺が手伝ってやるよ」


見上げる。

この人、ゲーム的なお助けはしてくれないけど、とってもいい人だな。

イケメンに促されて、少し歩くと崖になっておりそこから町の明かりが見えた。

近くに町があったんだ。

町の明かりは現代日本と比べるととても控えめで暖かい。

それを、三つの月が見降ろしていた。


「俺の名前はロア」

「ロア?」

「そうだ、お前の名前は?」

「河野 美月」


名前を言った途端、イケメンの顔が渋い顔になる。


「名前がコウノ、苗字がミツキ?」

「あ、美月が名前です」

「苗字持ちって事は貴族か?」


呼吸が止まるかと思った。

この世界には貴族なんてものが?

無礼な事をしたら首をギロチンで刎ねられてしまうのだろうか、恐ろしい。

あ、我が家はごくごく一般的な家庭です。


「いえ、違います……わたしの国では苗字を持ってない人はいないと思います」


ロアが首を傾げる。

ピンと来てないらしい。

なのでちゃんと説明する。

貴族が居ない事、国民すべてが苗字を持っている事。


「そんな国聞いた事が無い」

「現実世界だし……違う世……あっ」


違う世界! 異世界!

自己暗示でゲームだと思い込んでいたが、感覚があまりにもリアルすぎる。

弟から異世界物のジャンルが流行っているとも聞き及んでいる。

でもそれって本とかの話じゃなくて……?

疑問には思うが、そう思うのが一番しっくり来た。

それに……?


『………の世界に送ろう』


……?

此処へ来る前に何か聞いたような?


「わたし、違う世界から来たのかも、知れないです……」


ロアの眉間に皺が寄る。


「俺が思いつかないだけでどこかにそんな国があるのかもしれない」


普通に考えたら、わたし、頭のおかしい人扱いになってもいいのに、ロアは真剣に考えてくれている。


「俺の知り合いにとっても博識な人がいる」

「ロアさんの……知り合い?」

「図書館の本を全て読破してしまう人」

「すごい!」

「物知りな人なんだ、あと、呼び捨てで良い」

「ロア?」

「ん、そう言えば、ミツキって、年はいくつ?」

「わたし、17歳……」


ぐりぐりと頭を撫でられながら答える。

高校二年生だ。

そう考えて、涙が出てくる。

もっと友達と遊びたかったな。

帰れるだろうか。


「ロアは?」

「俺、20歳」

「えっ!?」

「もうすぐ一つ年を取るけどな」


ぐっと言いたい事を飲み込む。

童顔! 同じ年かと思ってたよ。

そういえば、


「どうして、ロアは夜中にこんな場所に?」


膝を抱えながら、聞く。

ここは夜に来るような場所では無いと言うのは分かる。

周りには街灯一つないのだ。月光のお陰で必要ないほど明るいが。

ロアは頬を指先で掻いた。


「ここは俺の秘密の場所なんだ」

「秘密?」

「ああ、ここから見える町が綺麗だろ」


言われて、再び町を眺める。

また、優しい風が吹き抜けて行った。


「綺麗ですね……」


すると、ロアは立ち上がり、わたしの手を引く。


「行こう」

「どこへ?」

「とりあえず、そこの町」

「町……」


ポケットを探るが、お財布が入っている気配はない。

それに気が付いたロアが、


「お金の事は気にしなくていい」

「でも、」

「それとも何か売れるものでもあるのか?」


持っているものと言えば、ポケットに入っている100円で買った小さな手鏡のみで、他に売るとしたら


「体を、売るとか」


震える声で答える。

一番やりたくない方法だった。

そうなる前に健全な仕事にありつけたらと思うが、身元のはっきりしないわたしを、この世界で雇ってくれる人がはたしているだろうか。

ネガティブな考えに落ち込む。

と、


「わっ!」


強めの力で腕を掴まれた。

じろりともともと存在感のある赤い目に睨まれる。


「冗談でも二度とそんな事言うな」


今までロアは、わたしに対して優しく対応していたことがよく分かった。

ぐらぐらと煮えたぎるような怒りの感情。

低く腹に響く声。


「嫌いなんだ、そう言うの」

「ロア……」


それ以上、言葉が出せなかった。


「お前の事は俺が責任を持って家に帰す」


腕を掴んでいた手が離れた。

今日会ったばかりのわたしに対して本気で怒っていた。


「どうして、助けてくれるの?」

「それは……」


じっと見つめられロアは少し考える。

怒っていた表情は怖かったが、すぐに緩んで元に戻った。


「そう言う性分なんだ。見捨てたら後味悪い」

「信じていいの?」


自分より背が高いロアを見上げる。

今まで混乱していてよく見ていなかったが、ロアは腰に剣を差しており、服装はよくあるRPGの剣士の服装のイメージ、を軽装にした感じと言ったらいいだろうか。

剣士と言う職業がある世界なのだろうか。


「ミツキが信じられるなら」


手を差し出された。

手と、ロアの顔を何度か見る。

わたしは、ロアに付いて行く事にした。

触れた手は少々武骨で剣士っぽく大きくてたこが出来ていた。

他に頼れる人が居ないと言うのもそうだが、あのまま草原に残っても仕方ないからだ。

不安な気持ちもある。

会ったばかりの男の人に付いて行くなんて、家族が聞いたらビックリしてしまうだろう。

駄目だったら逃げよう。

そう心に決めて、ロアに手を引かれて町へ向かう。



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