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異世界に来ましたが今すぐに帰りたいです  作者: ぽわぽわ
深き森の村 フロラリア
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不安


……ここはどこ?

ぼんやりと天井を見る。

知らない天井、知らない布団、知らない部屋。

視界の端には妖精の姿が見えて、手で目を掩った。


「日本じゃない……」


からからの声で呻く。

窓から外を見る。

日はもう出ていた。

背の高い木々の隙間から日が零れる。

こんな状態でもなければ感動する光景だっただろう。

道を歩く人の数は多く、もう昼ごろである事を窺わせた。


……水が飲みたい。


いつもやっているように魔法で水を作ろうとする。

……上手くはできなかった。

健康な状態でないからだ。上手く魔力を操作できない。

うーん……何度も魔力を練る。

すると。


ばしゃあっ!


「ひゃっ!」


水が出せないと思ったら、上から大量に降ってきた。

布団までぐっしょり。

やってしまった……どうしよう。


「くしゅ!」


小さくくしゃみをする。

ああ駄目だ、昨日より良くなったのに悪化する……

どうしよう、と回らない頭で何度も考える。


ガチャッ


音がした方を見る。

扉の鍵が開いた。


「ロア」

「な、なにしてるんだ!?」


扉からロアが入って来た。

ずぶ濡れのわたしを見て焦っている。


「水が飲みたくて魔法を……」

「魔法? そんな状態で使えないだろう! いいから来い!」


びしょ濡れのベッドから引っ張り出されて、乾いてる服とタオルを渡される。


「着替えて来い」

「……はい」


ロアは怒り心頭の様だ。

ようやく元気になったと思ったら悪化するようなことをしてるのだ。

……わたしでも怒る。

きょろきょろと部屋を見回し、脱衣所を見つける。

緩慢な動きで着替え、部屋に戻った。

ロアは掛布団をまくり、敷布団を見てどうすべきか悩んでいるようだった。

おねしょをした子供の気分だ。


「ミツキ」

「はい……」

「此処に来い」

「はい」


よろよろとロアに近づく。

少し怖かったが、髪の毛を乾かしてくれるようだ。


「水が飲みたいならそこに水差しがあっただろう」

「え……あ、そうだね」


よくよく見ると水差しらしきものがあった。隣にコップもある。

気が付かなかった。

余程判断力が鈍っているようだ。


「ミツキ、お腹空いてるか?」


わたしは首を横に振った。

髪を乾かし終えたロアがわたしの額に手を置く。


「まだ熱は下がってないな……」


ロアが掛布団を手に取り、バサッと一二回振った。


「ふ、あ?」


濡れていた布団はあっという間に乾いた。

布団を渡され、くるまる。

天日干ししたばかりの布団の様でぽかぽかしていた。

すごいな、ロアの魔法は……わたしとは大違いだ。

敷布団もシーツも同じように振るとあっという間に乾いてしまった。


「くしゅっ」


布団の中は暖かいはずなのに、寒い。

まだ熱は下がり切っていない。

それに、水をかぶったせいか頭痛が増した。

ロアが水差しの隣にあるものを手に取る。

中身はスープの様だ。

ベッドに座り込むわたしの隣にロアが座る。


「少しでもいいから食べられないか?」

「……」

「……ミツキ」

「ぅん……」


一口だけ食べた。

スープは作りたての様に温かかった。

ロアが一瞬で温めたのかも知れない。

細かく刻まれた野菜は火が通っていて舌で潰せるほど柔らかかった。

ふと、母親の事を思い出した。

母はわたしが風邪を引くと梅粥を作ってくれた。

お母さんの梅粥が食べたいな……


「もういらない?」


ロアに話しかけられ、現実に引き戻される。

ロアが無駄に心配しないようにもう少しだけお腹に入れた。

水で薬を飲み込んで、再びベッドに横になった。


「出かけて来る」

「どこに行くの?」

「……えっと」


ロアは困った表情を浮かべる。


「遅くても夕刻前には帰って来るから」

「……ロア?」

「何か用があったら宿の女将さんに頼んで。優しい人だから」

「……うん」


そのまま、ロアは出て行った。

質問の答えは帰ってこなかった。


「ろあ……」


一気に不安になった。

何か考えれば考えるほど頭痛が増していく。

寝よう。

きっと何か用があったんだ。

大丈夫、怖い事なんか何もない。

自分に言い聞かせて目を閉じた。




*****




かすかな音が聞こえて目を開ける。

寝起きに加え熱にやられた頭はぼんやりしている。


「……ろあ?」


窓から赤い光が入ってくる。

もう夕方。また一日寝てしまった。

何時になったら王都に行ける?

何時になったら家に帰れる?

不安がよぎる。

ロアが部屋に入って来た。


「っ! ろあっ?」


ロアの服はボロボロだった。

遠くから見ただけでも分かる。

ロアはまずい! と言う顔を一瞬した。


「ああ、ミツキ」

「どうしたのっ? 怪我してないっ?」

「怪我はない、そう捲し立てるな、体に良くない」

「でもっ!」


起き上がろうとした所を静止され、ベッドに戻る。

ロアの服は泥や汚れが付いていた。裂けている部分もある。


「血が!」

「ああ……俺のじゃないから」

「じゃあ誰のなの!? ロア危ないことしてないよね! ねぇ!」

「危ない事はしてないよ」


信じられなかった。

散々叫んで頭に響く。

不安と恐怖で胸が痛い。

ロアが居なくなっちゃったらどうしたらいいの?

この世界で一人で生きていけないよ。


「……シャワー浴びてくる」


困り果てたロアは離れて行く。


「待って!」


ロアの服を掴む。


「何してたか教えて……」

「ミツキ……」

「お願い、不安でっ……ロアが居なくなったらって、」

「俺は居なくなったりしないよ」


ごまかすように頭を撫でられる。


「ロア……」


言いたくないのか。

わたしには言えない事なのか。

ロアの手をぎゅっと握った。

何時までそうしていただろう。

わたしはもう何も聞かなかった。

ロアも語ろうとしなかった。

太陽が落ちて暗くなる頃、ロアがようやく口を開いた。


「夕飯は食べられるか?」

「……少しなら」

「消化に良いものを作ってもらうな」

「……うん」


ロアの手は離れて行った。

今度はロアを引き留めなかった。




*****




夕飯を一緒に取った。

ロアはシャワーを浴びてボロボロになった服を捨てていた。

わたしは昨日と同じようなスープを食べる。

これがこの世界の病人食なのだろう。


「おかゆが食べたいな……」


小さく呟く。

柔らかく煮たお米を思い出した。


「何が食べたいって?」

「あ……」


ロアに聞かれたようだ。


「おかゆって言ってね」

「うん」

「わたしの世界の病人食なの」


お米について聞く。


「米はこの辺りじゃ作ってないな」

「作ってるところがあるの?」

「少しだけな」


作っている量があまりないので大体が作っているところでしか食べられない。

王都に行けば売っているかもしれないが、とても高価で貴族でもないと買えないようだ。


「そっか……」


こっちの世界のお米とかすごく興味ある。

日本の米に近いのか、海外の米に近いのか。

卵かけご飯とか納豆で食べてみたいな……

でも、卵は生は危険だってロアが言ってたし、納豆なんてものこの世界にはないし、厳しいか。

向こうに帰ってから食べるのが一番だよね。

ご飯を食べ終え、


「ミツキ、体拭くか?」

「えっ」

「まだ熱はあるけど、綺麗にしたいだろ」


わたしはこの数日体を綺麗にしていない。

最後に綺麗にしたのは旅の途中の水浴びだ。

正直シャワーを浴びたいが、まだ治りかけ。無理はしない方がいい。

わたしは何度もロアに頷く。

ロアは脱衣所に行き、少しして帰って来た。

準備が出来たようなので、ふらつく足で向かう。


「うわ……」


服を脱いで体を拭く。

え? ほんとに? と思うぐらい汚れていた。

臭くなかったかな……

そんな事ロアに聞けないし。

頭を抱えた。


「はあ……」


少しさっぱりして部屋に戻る。

欲を言えば髪を洗いたいが……やめておこう。ロアにそんなこと言ったら怒られそうだ。

ロアは剣の手入れをしていた。

ロアの愛剣の大剣は、少し汚れていた。


「ロア」

「ん?」

「その……剣……」

「ああ……」


ロアは何と言おうか迷っているようだった。


「此処って、前の町に比べると治安が悪いんだ」

「えっ」

「少しだけな」


驚いて足が止まったわたしにロアが言う。


「早く寝ろ」

「……はい」


ベッドで横になった。


「外に出なければ大丈夫」

「……うん」

「ここは安全だからな」

「………」


何故剣が汚れていたのか。

答えは返ってこない。


「……ロア」


呼ぶと、目が合う。


「どうした? ミツキ」


微笑みながら優しい声でわたしを呼ぶ。


「なんでも……ない」


布団にもぐりこんだ。

言いたくない事ぐらい、誰にでもある。

気にしない方がいいんだ。


「火を消すぞ」

「……うん」


一瞬で部屋が暗くなる。

ロアの近くの蝋燭だけ明かりが灯っている。


「ロア、おやすみ」

「……おやすみ」


少し早い時間のせいか、不安のせいか、なかなか寝付けなかった。


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