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絵本・バルト家の四兄弟


目が覚めた。

寝不足には変わりないが、気分は明るい。

空元気とも言いますけれど……


「おはようミツキ」


ロアは早起きだ。

昨晩あった寝癖もしっかり直っている。

朝が強いだなんて少し羨ましい。


「おはよう」


乱れた髪を手で適当に整える。


「あれから眠れたか?」

「うん、おとといよりは」

「おととい? 眠れて無かったのか?」


あ、言わなくていい事を言ってしまった。

ロアに無駄な心配かけたくない。

言い訳をあれこれ考えたがいい案が思い浮かばない。

ぐるぐる考えている間に、ロアはわたしの前髪を掻き上げて、至近距離でわたしの目を見つめる。


「ミツキ?」

「は、はいっ?」


動揺から、声が上ずる。


「体調が悪くなったらすぐに言う事」

「っ……」

「分かった?」

「あっ、はい!」


全く……と言った表情でロアが離れて行ったので、わたしの荷物から唯一向こうから持って来られた手鏡を覗き込む。

良かった、顔は赤くなってない。

変わらず心臓はドキドキとうるさい……こんな調子で一日持つだろうか。

わたしだって年頃の女の子です。

恋多きお年頃です。

ロアを好きになってしまったわたしが悪いのではない。

惚れさせたロアが、悪いのだ。

身勝手か? そう、人間って言うのは本来とても身勝手な生き物……


「ミツキ、それ」

「ぴゃあ! なな、な、なんでしょう?」


突然後ろから声をかけられて大きな声が出てしまった。

心臓がばくばくと激しく動く。寿命縮まっている気がする。

驚いた表情のロアの口元が、徐々に歪んでいく。


「ぴゃあ、って……ッ」

「…………ろあー」


笑わないでよー……

こっちは必死なんだよ?

静かに笑い始め、終わった後、ロアがぼそりと呟く。


「ミツキの悲鳴が面白い」

「面白くないよ!」


頬を膨らませ、鼻息を荒くする。

ロアの馬鹿!

誰のせいでこうなったと思ってるんだ!

……うん。ロアを好きになった自分が悪い。

やつあたりしてごめんなさい。

ごめんごめん、とロアが笑いながらわたしの頭を撫でる。


「それなんだけどさ」

「手鏡の事ですか?」

「やっぱり鏡なのか、それ」


わたしの手鏡は縦に細長いもので鏡の面が汚れないように蓋が付いており蓋は鏡と上部分でネジでくっついている、その蓋をひっくり返すと鏡が立つ、という仕組みになっている。

言っておくが、安物だ。


「それは、元の世界の物?」

「そうです」


ロアに手鏡を渡す。

興味深げに手鏡を見つめている。


「見事だな」

「……そうですか?」

「ああ、ここまで綺麗なものは貴族の中でも高位貴族でないと手に入らない」

「鏡って、高価な物なんですか……?」

「ああ、立派な屋敷が立つぐらいかな」


驚いて、ロアの方を見遣る。

ほんとに?

それ、百円だよ?

ロアによると、鏡石と言う物があって他国でしか取れない石らしい。

それを平らに切って職人が綺麗に磨くとのこと。

当たり前だが、時間がかかり、値段も上がると言う事だった。

多分、元の世界の鏡の作り方と違うと思う。

職人が磨くなんて話、聞いた事ない。

あまり綺麗ではない鏡もある。

これは、宿の脱衣所にもあるが、とても鏡とは言い難いものだった。

宿に置いてあるようなものは、鏡石では無く別の石を使っていて、磨いているのではなく水魔法を使っているとの事だった。

人が丁寧に磨いている訳では無いので、でこぼこしており鏡としての完成度は低い。

もっとも、これで十分な気もするが。


「あまり外では使わない方がいいですね……」

「そうだな、そうしてもらえると助かる」


鏡をロアから受け取り、ポケットにしまう。

着替えを持って脱衣所へ向かい、着替えた。

ロアが朝食は宿屋の食堂の物とお店で買ってくるのどちらがいいかと言うので、温かいものが食べたかったので食堂の物でお願いした。

朝食はサラダにオニオンスープ、パスタ。

オニオンスープにはすでにフランスパンが浮いていて、その上にチーズが載っていた。

パスタは緑色で、バジルっぽい味がして美味しかった。

ロアのパスタ大盛りは二度見するぐらいとんでも無かったが、あっと言う間に無くなった。


「ふぅ」


朝からいっぱい食べすぎた。さすさすとお腹を撫でる。

太りそう……運動しなきゃ。

部屋に戻るため、階段を上っていると先を行くロアから声がかかる。


「今日はどうする? 魔法? それとも文字の練習するか?」

「……あ!」


文字!

読めるようになった事言ってない!

ロアが部屋の扉を開ける。

部屋に入って絵本の一つを持ち上げる。


「ロア、あのね」

「どうした?」

「字が読めるようになったの!」


ロアが意味が分からなさそうな顔をするので、妖精から聞いたことを話す。

神様からもらった特別な力の事。


「本当に?」

「うん」

「じゃあ、その本、読んで見せてくれる?」


表紙を見る。

バルト家の四兄弟。

絵本を開いて確認する。


「うん、いいよ」


ゆっくり話し始める。





題名・バルト家の四兄弟


むかしむかし、やせた土地の村でのおはなし。

その村の村長、バルト家には個性豊かな四人の男の子がおりました。


長男・グラス

風の魔力。

とてもまじめで腕が立ち、魔法の扱いも完璧な兄弟憧れの一番上の兄。

村を守る警備を担当し、村人からの信頼も厚い。

まじめすぎるのが玉に瑕。


次男・ニック

火の魔力。

荒事は苦手だが、魔法の才はそこそこ。計算が得意。

村の外から来た人々と円滑に会話するための意思疎通が得意。村の交易を担当。

人当たりがいいので村人とはみな友達。


三男・スガナ

水の魔力。

荒事が大嫌いで魔法の事ばかり。魔法具を初めて作り出した人。

家にこもりがちだが、最近は外で魔法具を作るようになった。

村人からは変な人扱いを受けるが、本人は気にしていない。


四男・ルーア

剣も魔法もからっきし。

少し病弱な所も手伝ってか、何も出来ない彼に対して家族は何も言わない。

一番長兄グラスを慕っていて、優しい心を持っている。


とても仲がいい四兄弟でした。

そして、ある日事件が起きます。

村の羊が盗まれたのです。

村にとって羊は生活に欠かせないものです。

村長の息子である兄弟たちは、さっそく調べ始めました。


先に行動したのは長男グラス。

その日あったことを村人に聞いて回り、調べていきます。

次男ニックは過去の記録を見て、その日他の村の人間がやって来ていないかを調べます。

三男スガナはもし再び盗まれても大丈夫なように羊に印をつける魔法具を作り上げ、村人に喜ばれました。


犯人はすぐに分かりました。

隣の村の男です。

男は印のついた羊を再び盗みに入ったところをグラスに捕えられたのでした。

その男から盗んだ羊を返してもらい、その村との交流を絶ち、無事解決。

村に平穏が戻ったのでした。


それを一人悲しい目でみる人が居ました。

四男ルーアです。

ルーアは自分が何もできない事に負い目を感じていました。

今回の事も自分なりに何かしようとしましたが、出来る事はありませんでした。


そんなルーアが風邪を引きます。

体が弱い事もあり悪化し、生きるか死ぬかでした。

両親と三人の兄たちは弟をあれやこれやと手を尽くし、とても心配しましたが、それ以上はどうしようもありませんでした。

ルーアは三日三晩床に臥せっていました。


そして、ルーアの目が覚めました。

家族はすぐに異変に気が付きます。

ルーアの瞳の色が黄金に変わっていたのです。

ルーアは言いました。

神様から力を授かった、と。

家族はそんな馬鹿なと最初、相手にしませんでした。

しかし、すぐに信じるようになったのです。

変化はあっと言う間でした。

今まで病弱だった事が嘘だったかのようにルーアは健康になったのです。

それだけではなく、村と村の周りがとても豊かになったのです。

今まで荒れ地と言ってよかった土地で野菜を育てる事が出来るようになったのです。


ルーアが神様から貰った力とは、

ルーアが自分の村の土地だと思った所が豊かになる、そんな力でした。

この世界はまだまだ荒れ果てていて、緑は少なかった。

村人たちはルーアに感謝しました。

ルーア、ありがとう、神様、感謝します。


そんな中、緑が豊かな村があると言う噂を聞いて、村にやって来る人や移民が増えました。

村は大きくなっていったのです。

グラスは大きくなった村の警備の為に警備隊を作りました。

ニックは大きくなった村の財政を管理するのに大忙し。

スガナは村から数人弟子を取り、新しい魔道具を作るのにてんやわんやでした。


そして、四兄弟は順番に天国へと旅立っていきます。

長男グラスは戦う術を持たない弟を守るため、各地に騎兵隊、そして騎士隊を作り、騎士隊の元帥として活躍。

次男ニックは村のかじ取りをし、法律などを作り宰相として発展に一役買いました。

三男スガナは魔法具作りの天才と称され、魔法具を便利な無くてはならない存在にしました。

四男ルーアは寿命で亡くなる前に神様に願いました。


自分の子孫に、この力を継承させていただけないだろうか。


この力がまだこの世界に必要だとルーアは思ったのです。

神様は快く承諾してくれました。

それぞれの息子たちが、父親の跡を継ぎました。


それから何代か時間が経ちました。

やがて国と言われるぐらい大きくなった村は、神様の名前、アークを入れて、アークバルトとしました。

ルーアの子孫を王族とし、苗字をアークバルト。

グラスの子孫は騎士隊の元帥とし、苗字をグラスバルト。

ニックの子孫を王家に仕える宰相とし、苗字をニックバルト。

スガナの子孫を魔術、魔法具開発の最高責任者とし、苗字をスガナバルト。

兄弟の固い結束を持って、この国は出来たのです。


この世界に置いて、一番大きな国、アークバルト。

豊かさは神様の、そして王族のお陰。

そして兄たち三人が、王族を支えているのだ。

この国はいまでも、そしてこれからも平和だ。



おわり




読み終わって、しばらく余韻に浸る。

アークバルトが出来るまでのお話か。


「これは実際の歴史なの?」

「そうだな」


ロアの補足によると、三人の兄の家は三大貴族とも呼ばれ、この国ではとても有名なのだそう。

今でも四男の子孫は王族で、長男は騎士隊の元帥。

次男は宰相で、三男は魔法具開発の責任者、か……

そうか……バルトって付いてたら四兄弟の家って事か。


「それにしてもミツキ……」

「うん?」

「本当に読めるようになってたな」


その言葉ににっこりと笑い、胸を張る。


「でしょ?」

「俺も少しは安心出来たよ」

「じゃあ次の街に……」


うーんとロアが考え始める。

あれ?

まだだめですか?


「今から準備だな」

「準備?」

「旅に出るのに」


ロアは言う。

まだかかると思ってたから準備をほとんどしていないそうだ。

携帯食料や便利な魔法具など、買っておきたいものはあるそうで……

問題はわたしの衣服だ。

この町から次の街まで数日かかる。

ロアはワンピースを買ってきてくれたが、下着はない。

さすがにロアに買ってこいと言うのも酷な話だ。

と言う訳でその辺を今日、または明日中に買いそろえることになった。


「買い出しに行くぞ、ミツキ」

「うん!」


返事をして、ロアの後に付いて行く。

これでようやく、一歩前に進めそうだ。


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