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衝突


夕方、業務を終えて自宅へ向おうと荷物を纏めた。

ミツキを俺の部屋に置いたのは悪くない判断だったと思うが、それでも心配だった。

一番早く移動する手段は魔法で鳥のように飛んで行く事だ。

上官である分隊長に挨拶をした。


「分隊長、自分はこれで上がります」

「ああ、お疲れ」

「失礼します」


背を向けると、分隊長が続けた。


「レッド教官が数日休みを取るそうだ。何か知っているか?」

「教官が……? いえ、分かりません」

「そうか、家の事じゃないのか……ありがとう、お疲れ様」


呟きながら分隊長は去って行った。

走ってスピードを付けて空に飛びあがった。

おばあ様が休みを……? 今回の事と何か関係があるのだろうか。

保守派とおばあ様は絶対に会わせてはいけないと父も考えている。関係ないのか?

家の姿を確認し、庭に下り立った。

心配だ、早くミツキに会いたい。


「ロア様、お帰りなさいませ」


玄関にいつもの白髪の執事がおり、挨拶をした。

適当に返事をして、自室に向かう。


「どちらへ?」

「自分の部屋だ。ミツキが気になってな」


歩を進めると、慌てた様子で行く先を遮られた。

なんだ? 訝しげに執事を眺める。


「旦那様がお呼びでございます」

「そうなのか。だがミツキと先に」

「ロア様!」

「なんだ、どうしたんだ。言いたい事があるなら言え」


老いた執事は元は父に付いていたベテランだ。

こんな風に戸惑っている様子を見るのは初めてだ。


「お部屋にミツキ様はおりません」

「は? ならどの部屋にいるんだ?」

「……旦那様がお呼びでございます」


ミツキは父と一緒にいるって事か?

執事が父と会わせたがっているので仕方なく応じた。

父は自室で休んでいた。ノックののちに部屋に入ると難しい顔をした父が椅子に座って空を眺めていた。


「お呼びですか?」

「ああ」


父がもう一つの椅子を指差した。座れって事だろう。

背負っていた大剣を脇に降ろし椅子に座った後、父が深く溜息を吐いた。


「ミツキはどこですか? 俺の部屋に居ないみたいなのですが」

「……お前は、帰って来てからと言うもののミツキの事ばかりだな」


眉を寄せ、思わず父を睨んでしまった。

どうして説教されなくてはならないのだろう。

ミツキの居場所が知りたいだけなのに。


「説教なら結構です。居場所を知らないのなら、探しに行きます」

「まあ待て」


立とうとすると父が制止する。イライラがつのる。

父は呼吸を一度だけ深く吐いた。


「ロア良く聞け……ミツキはこの屋敷には居ない」


言葉の意味を時間をかけて理解しようとした。

だが、理解できなかった。


「……は?」


と、短く聞き返す事しか出来なかった。

父は淡々と状況を説明し始めた。


「ミツキを守りきれない。そう判断し安全な場所へ預けた」

「ここ以上に安全な場所があると言いたいんですか!」

「ロア、お前の言いたい事は分かる。だが現状、ここにミツキを置く事が最も危険な事だと理解できるだろう」


それでも反論すると、父がミツキめがけて鉢植えが落ちて来た事を教えてくれた。

ミツキは外に出る事すら、ここでは難しくなっていた。

だが納得など出来るはずがない。


「ミツキはどこですか」

「言えば連れ戻すつもりだろう」

「当たり前じゃないですか。……ああ、安心して下さい。カリスタを追い出してからにしますから」

「武力に訴えるつもりか、許すと思っているのか」


バン! と強く机をたたきながら立ち上がった。

上から父を睨む。


「それ以外に方法があるとでも?」

「お前の立場が悪くなるだけだ」

「分かっています! 恐らくそれが狙いな事も……」


そうでなければあんな女を送ってくるはずがない。

俺に女を追い出させて決議書に反したとして糾弾するつもりなのだろう。


「廃嫡になっても構いません。ミツキさえそばに居ればなんだってかまわない」

「はあ……落ち着け。ミツキはそんな事望んで無い」

「俺はミツキを望んでいます! どこに行かせたのです!」


頭に流れ込んでくる血が燃える様に熱い。

敵を排除しなければ。邪魔をするなら父であっても敵だ。

父は何度も落ち着くように促す。平然とした態度にますます血がのぼる。


「ミツキは頼れる人間が俺しかいません! 知らない場所に行かせるのは可哀想だと思わなかったのですか!?」


ミツキに家族はいない。たった一人この世界にやって来た。

俺が守らないと誰が守るって言うんだ。

父はもう一度息を吐いた。


「ミツキが頼れる相手は、なにもお前だけでは無いだろう」

「なにを……」

「あの子はお前が思っているよりもずっと強い。お前はミツキを籠の鳥にしたいんだろう? 誰の眼にも入らず誰の記憶にも無い自分だけの女……だからミツキを外に出したくない。そうだろう?」


図星を突かれ、歯噛みし睨んだ。

ミツキを何処にも、誰にも会わせたくない。俺の事だけ見て、俺の事だけ考えて、俺の事だけ思って、俺のそばにいればそれがミツキにとっても幸せだと思っていた。

いつからこんなどす黒い感情が湧くようになったのだろう。

ミツキが俺以外を見たり、話したり、楽しそうに笑ったりするだけで胸が痛かった。

嫉妬だと知られてしまえばミツキに嫌われると分かっていた。

でも止まれなかった。だから今回も止まれない。


「待て、どこへ行くつもりだ」

「話しても無駄です。失礼します」


話していても父はミツキの居場所を言う事は無い。

分からなければ探せばいいだけだ。

幸い魔力可視の能力を使い、ミツキの魔力を辿ればすぐに居場所が判明するだろう。

痺れを切らせて扉の方へ進むと父がひときわ大きな声で俺を呼んだ。

鬼気迫る声だった為、思わず振り返った。

コト、と乾いた音を立てて父が机に何かを置いた。


「これに見覚えがあるだろう」


思わず眼を見開いた。

ミツキが友人から貰った物だと大切にしていた風の民のペンダント。

どうしてこれがここに。


「なぜ父上がそれを……」

「ミツキから預かった。お前がミツキを追わないと約束するならば渡すつもりだった」


じっとペンダントを見つめる。

風の民にとってペンダントは大切な物だ。

おばあ様も英雄も……常に首から下げている。

ペンダントを異性に渡す行動にどんな意味があるのか、俺も父もよく知っていた。


「ロア、冷静になれ。追わないと約束するならば今すぐに渡そう」

「………」


何も言わずに思考だけ巡らせる。

どうにかペンダントを手に入れてミツキを探しに行く方法を考えた。

今だけ従順に頷いても父に通用するとはとても思えない。

諦めてミツキを探しに行く……ペンダントの意味から父に持たせておきたくなかった。

父は呆れ半分あきらめ半分、といった表情で溜息を吐いた。


「では……これは俺の物だ」

「っ、なにを!」

「いらないのだろう? 俺が付ける事にするよ」

「意味を分かっているのですか!? ミツキを後妻に取るつもりですか!?」


風の民にとってペンダントは自分の分身だと言ってもいい。

それを異性に渡す事、意味は……プロポーズと同じ。

結婚の際に互いのペンダントを交換する、それが風の民特有の風習だ。


「お前がいらないのならば俺が貰う事にする」

「! やめろ!!」


父の指がペンダントの紐を持ち上げ、首にかけようとした。

怒りで体が勝手に動き、立て掛けられてあった大剣に手をかけた。


「それは俺の物だ!!!」


真っ直ぐ突き進んで剣を振り上げる。

魔力を練って大剣に注ぎ込んだ。

父はペンダントを首にかけた後、俺の方を見てまた溜息を吐いた。


「ペンダントもミツキも、お前のものでは無い」


机が飛んできた。父が足で跳ね飛ばしたのだろう。

構わずそのまま切った。

机は真っ二つになった後、魔法の影響で爆発し粉々に四散した。

衝撃で部屋の窓ガラス全てが割れ建物が大きく揺れた。


「父に剣を向けるか……いいだろう」


父はすでに自分の大剣を持ち、ガラスの割れた窓に片足を乗せていた。


「ロア、考えは変わらないのか」

「それは俺の物だ! ミツキだって」


剣を構え直し、父に向ける。

父は諦めた様に一度だけ頷いた。


「久しぶりに稽古をつけてやる。これが欲しければ俺に勝て」

「まて!!」


三階の窓から飛び降りた父の後を追う。

庭に降り立った父に剣を振り下ろした。

剣筋はすべて読まれ、大剣に防がれる。剣同士がぶつかると火花が散った。


「クソッ」


少し距離を取って火球を複数飛ばす。

魔法で防がれるが幾つか狙いをずらしていた為、地面に落ちる。

芝生がめくれ土を巻き上げた。

視界を奪っている隙に切りかかる。


「なるほど、悪くない」


が、いとも簡単に受け止められた。


「泥臭い戦い方を覚えたのか。教官が喜ぶだろう」

「うるさい!」


おばあ様が喜ぶなんて今はどうだっていい!

至近距離で何度も切り付けるが父の方が剣速が早く、傷つける事すら出来ない。

澄ました顔の父を見てさらに頭に血がのぼる。

近距離では駄目だ。少し離れて策を……


「っ!」


父が攻守を転じて大剣を向ける。

一撃目は横に飛んでなんとか避けたが、次の追い討ちが避けきれない。

横一線。足をもたつかせながら跳んだ。


「はあ、はあ」

「今のを避けるか。以前よりは成長しているな」


利き腕を切られた。手に力が入らない。魔法で何かされたのかも知れない。

父はじっと俺の様子を観察している。

駄目だ、大剣は振れない。

大剣を地面に投げ捨てた。

諦めたと思ったのか父が構えを解いた。


「お前の行為はミツキを危険にさらすだけだ」

「ここから出す方が危険です」

「向こうにも雇っている私兵が居る。送り出した時にはこれ以上ない護衛も付けた」

「護衛? 護衛だって?」


俺の知らない場所で、俺の知らない相手とミツキは一緒にいるのか!?

目眩がした。こんなに不安になったのはミツキが風の村に行く以来だ。

早く……迎えに行かないと……ミツキ……


「ミツキはどこだ」

「……どうしてそこまで求める。ミツキの心はお前の元にあるだろう」

「言っても父上には分からない!」


不安が膨らんで行く。

俺は最低な男だ。いつかミツキが離れていくんじゃないかと思ってしまう。

ミツキが俺の事を嫌いになって、他の男に恋をして……耐えられない、考えたくない。

少しでも可能性を無くしておきたかった。だから、ミツキに異性と話をしてほしくない。


「邪魔をするなら……容赦しない」


魔力を練って形にし始める。

残っている全魔力を魔法に変換する。

剣も振れない俺に何が出来るのかと父が冷めた眼で見つめる。

やがて作り出したのはミツキと出会って間もない頃に一度だけ見せたドラゴン。

それよりも威力を大幅に上げた物を作り出した。


「どうするつもりだ」

「父上が受け止めきれなかったら、王都が半壊します」

「罪人になってでも求めるのか!? あの子はそんな事望んでいないだろう!」

「他国に逃げればいいだけの話です」


ペンダントを渡すなら話は別だ、と言うが父にその意思は無い。

全てを投げ出し、義務から逃げ、愛した女と二人、国を捨てる。

不思議と不安は無かった。

ミツキと一緒に居られない方が不安だった。


「父上には分からない、もうミツキを手放したくないんだ!」

「待て! ロア!」

「全てを焦土とせんと燃やし尽くせ! 塵すら残すな!!!」


父に向かえ、と最後に命令を出す。

ドラゴンが風を巻き上げ上昇し、父に狙いを定め勢いよく降下。


「ここまでだったとは……見誤ったか」


父がドラゴンの牙に飲まれた。そこまでは見えた。

耳が一瞬聞こえなくなるほどの爆発音と爆風。目の前が真っ白になり、思わず眼を閉じた。

飛ばされないようになんとか踏みとどまり、ゆっくりと眼を開けた。

前方が大きく開けていた。

庭の芝生は焼き尽くされ跡形もない。

その先に続いていた森は、木々が薙ぎ払われ焼けていた。

焦げた匂いが鼻についた時、被害が少なすぎる事に気が付いた。

王都を半壊させるつもりで放った魔法だった。


「っ……」


大きな魔法を使い魔力を一度に多く消費し、目眩でふらついた。


「がっ!」


後頭部に強い衝撃。そのまま前方に倒れ込んだ。


「はあっ……久しぶりに肝が冷えたぞ」

「ちちうえ……くそっ」


なんとか仰向けになって父の姿を確認する。

目立った外傷は無かった。服が多少黒く焦げていただけ。

やはり父に勝てない。


「お前は謹慎だ。全て終わるまで屋敷から出る事を禁ずる」

「嫌だ! 俺はミツキの所に行く! 邪魔をするな!!」

「行ってどうする? お前が邪魔になるだけだ」

「俺はただミツキと共にありたいだけです! ささやかな願いすら叶わないのですか!?」

「お前の行動は保守派に監視されている可能性が高い。ミツキの居場所を相手に知られたくないんだ。分かるだろう?」


父の言っている理由は痛いほど分かる。

深く考えなくったってこれが最善な事も分かっている。

でも、この感情は理屈じゃないんだ!

本当なら一時だって離れたくない。だけど騎士としての務めがある。それすらも煩わしいと感じるのに……!


「はあ……全く、手を焼かせる」


父が膝を折って俺の顔を覗き込む。

顔を歪ませ睨みつけるが効果は無い。

少しして父の手が俺の顔を鷲掴みにした。


「ぐ、ぅ」

「寝てろ。後処理は俺がしておく」

「い、やだ……ミツキ……ミ、ツキ……」


急激に意識が遠のいていく。

ミツキ、どこに行ったんだ……お願いだ置いていかないでくれ。

元の世界に帰るなんて言わないでくれ……ミツキ……

黒く塗りつぶされる視界の中、父が首から下げているミツキのペンダントが眼に入った。


ミツキ……!


最後の魔力を使ってペンダントの紐を切った。

落ちてきたペンダントを握った光景を最後に意識が完全に黒く塗りつぶされた。


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