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似た者姉弟


入って来た馬車は、グラスバルト家とそう変わらない豪華な馬車だった。

そう言えばロザリアはどこに嫁いだのだろう?

馬車から一人の男性が降りた。

……ん? 予想より小さい気がする。

男性はおぼつかない足取りでこちらに向かってくる。


「みなさん……妻がお騒がせしています……」


ダークブラウンの長い髪を後ろに一纏めに縛り、前髪はきっちり切り揃えている。

顔はこれと言って特徴が無く、綺麗なスカイブルーの眼が唯一の特徴。

背は高いが、鍛えてないようで足も腕も、どれもこれも細い。

どう見ても五人も子供を作った人には見えない。


「ロザリア、迎えに来たよ」

「………」

「お願いだから一人で勝手に出かけないでほしい……心配したよ」

「嘘よ、本当は心配なんかしていないんでしょう」


言い切ったロザリアにスーリアは眼に見えてたじろぐ。

……ロザリアはたった一人でここまで来たのか?


「毎日毎日、あのメイドとよろしくやっているんでしょう!」

「ロザリア……彼女はだたのメイドで何も無いって言ってるだろう」

「嘘よ! 嘘よ! うそよー!!!」


今までの清楚さは何処へ。

髪を振り乱して立ち上がり、ロザリアは叫ぶ。


「私よりも若い女の方が良いんだわ! あの女を辞めさせてっていつも言ってるのに! 五人も子を産んだ私よりも若い方が良いんでしょう!!!」

「そんなことない、僕が愛してるのは君だけだロザリ」

「嘘を、言うなー!!!」


ボン! とロザリアの近くで何かが爆発した。

バチッバチッとその後も爆ぜ続ける。

火の粉がロザリアから立ち上る。

陽炎のようにロザリアの姿が揺らいで見える。

ロザリアも魔法が使えるのか……!


「私が妊娠中なのを良い事に夜に女連れ込んでたくせに!」

「あれは誤解だって何度も言っ」

「誤解なものかー!!!」


ふーっふーっと荒く息を吐くロザリア。相当興奮している。

ちょ、誰か……! 唯一止められそうなナタリアはお茶を飲んでいる。そんな余裕がどこにあるんだ!?

怒りに震えながらロザリアは一歩、スーリアに近付いた。

足元の芝生は一瞬で水分が抜け、焼け焦げた。


「ひいっ」


スーリアから情けない悲鳴が聞こえた。


「ユルサナイ……私以外を選ぶなんて……」

「選んでない、選んだ事なんてないから……」

「私は帰らないわ……おじい様とおばあ様の所に行く……あの女とよろしくすればいいわ……お父様に言いつけるから」

「いぃっ」


元から悪かった顔色がさらに青くなる。

ロザリアの父と言えば、ロゼの事だけど……


「待ってロザリア、そんな事をしたら僕は殺されてしまう」

「そうすればもうスーリア様は誰の物にもならないわ! お父様に殺されてしまえばいいのよ!」


あの優しいロゼが娘の夫を殺す?

想像出来ないけど……スーリアの様子を見るに、本当に殺されてしまうと真っ青になっている。


「あなたの全ては私のモノ! それ以外は認められないわ!!」


ロザリアの執着する瞳が、今まで出会ったグラスバルトの人達と重なった。

そうだ……ロザリアは女性だけど、この家の出身だ。

惚れた相手に対する嫉妬や独占欲が強いのか。


「分かった! 分かったよ!」

「何が分かったって言うの!?」

「彼女にはメイドを辞めてもらう! 他の仕事を紹介して出て行ってもらうから!」

「……本当?」

「君以上に大切な人は居ないんだ! 戻って来てくれ!」


必死なスーリアを見て、背筋が凍る。

もしかしたら、スーリアの必死な姿は将来のわたしの姿かもしれない、と。

ちょっとした事で浮気を疑われる事は、すでに経験済みだ。


「母親がいないと子供が可哀想だよ」

「私の事を子の母親としか見ていないのね!?」

「……そんなこと、ないから……女性としてすごく魅力的だよ……」


酷く疲れた表情を浮かべるスーリアに同情した。


「いつも通り、言う事を何でも一つ聞くから……それで許してくれ……」


いつも通り……?

ロザリアはじっと夫を見つめている。


「あのメイドは辞めさせて。約束よ」

「約束だ。愛して、ぐふぅ!」


ロザリアがスーリアの胸に激突した。

後ろに倒れるかと思われたスーリアは、ロザリアがきつく抱きしめた事により倒れずに済んだ。


「私、信じてた! 大好き! 愛してるわ!」

「僕もだよ……」


振り回されるスーリアを唖然と見ている事しか出来ない。

お姉さん……すごく力強いですね……身体強化魔法ですか……? 


「お願いは決まったかい?」

「うん! もう一人子供が欲しいの!」

「いやもう……子供は十分だよ……」

「なんでもって言ったじゃない!」

「分かったよ……頑張るね」


成る程、七年で子供五人はロザリアが原因であったか。

スーリアは諦めの表情を浮かべている。何だか可哀想だ。


「……あれ?」


その時、スーリアと目が合った。

そして恥ずかしそうに顔が赤くなった。


「ごめん……知ってる人しか居ないと思ってたんだけど……どちらさま……?」

「はじめまして、美月と申します……ロアの、えっと……恋人です……」

「えっ!? ロアくんの?」


はじめて人に恋人だと言ってみた。ちょっと恥ずかしい。

スーリアが驚いた顔になった。


「あの噂は本当だったのか」


ロアが結婚間近であるとの噂を信じていなかったようだ。


「僕はスーリア、ロザリアの……一応、夫」


一応、と言ったスーリアの心情とはいかに……

スーリアは頭の裏を掻いた後、にこやかな笑顔を向けてくれた。


「これから大変だろうけど、お互い頑張ろうね」

「……は……はい……」

「困ったら相談に乗るよ。先輩だからアドバイス出来ると思、うぐっ!」


スーリアが呻いた。

ロザリアが無理に胸元を引っ張ったからだ。


「私以外の女性と楽しそうに話さないでっ!」


嫉妬に溢れる姉の姿が、完全にロアと重なった。

ロザリア……スーリアが来るまで普通に話していたのに……

惚れた人物が近くに居ると、壊れるの? いや、これが本来のロザリアの姿なのかもしれない。


「ロアくんの恋人だよ? 義理の妹になるかも知れないし……」

「私が応対するからスーリア様は関わらないで!」

「分かった! 分かった、分かったよ……」


射殺さんばかりのロザリアをなだめはじめた。

執着具合がロアと似ている。


「僕は君の母君に御挨拶するから、先に馬車に乗っていて」

「………」

「すぐに後を追うから。一緒に帰ろう」

「……分かったわ」


馬車に向かって歩き始めたロザリアを見送った後、スーリアはナタリアに頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました」

「娘の方こそ申し訳ありません……あれほどわがままに育ってしまったのは当家の責任です」

「ロザリアは僕に甘えているだけです……可愛い物です」

「本当に申し訳ありません」

「癇癪を起してまたお世話になるやも知れません、その際はご連絡ください」


スーリアは疲れた笑みを浮かべている。満身創痍だ。


「ミツキちゃんもごめんね……ロザリアは悪気がないんだ、あとで後悔して地面に頭を打ち付けると思うよ……」

「え、地面に……?」


今回の若いメイドの事や、わたしに対しての対応……いけない事だと本人は分かっているが、感情が溢れ出て止まらなくなってしまうそうだ。


「普段は素直で良い子なんだよ……僕が異性と話すのが嫌みたいで」

「ああ……分かります……」

「女性と一緒に居るだけで割って入って来るし……」

「分かります、分かります」


何度も頷くと、スーリアが笑顔になった。

わたしも仲間を見つけた気分で笑顔を浮かべる。


「スーリアさんはロザリアさんを愛しているのですか?」


ロザリアに対して疲れ切っているように見えるけど……

言葉に嘘は無いのだろうか。


「それだけは胸を張って言えるよ」

「疲れているように見えるのですが……」

「ああ……あはは、お恥ずかしい話で……仕事で徹夜していたから……」


ははは、と笑うスーリア。

徹夜するような忙しい仕事をしているのか。どんな仕事だろう?


「今日は時間が無いのでこれで失礼させていただきます」

「お気をつけて」

「お体、あまり無理をなさいませんよう……」


ナタリアが体を気遣うとスーリアは頭を下げた。

スーリアは周りのメイドにも頭を下げつつ、馬車に乗り込んだ。

馬車が動きだし、森へ消えて言った所で、ナタリアに気になった事を聞く。


「ロザリアさんは魔法が使えるんですか?」

「ええ、高位の魔力だわ」


高位って言うと……最高位の一つ下か。

そう言えばわたしが魔法を使う事に対して、メイド達はあまり驚かなかった。

ロザリアが魔法を使える事が原因だったのだろうか。


「よく帰って来るんですか?」

「いいえ、夫婦仲は良いから……たまにロザリアが癇癪を起すけれど」


スーリアはロザリアと上手くやっているようだ。

わたしもロアと上手くやっていけるだろうか。


「スーリアさんって、貴族ですよね? 何のお仕事をしているんですか?」

「……そうね、話しておかないといけないわね」

「?」

「えっと……三大貴族は分かるかしら?」

「それはもちろん」


グラスバルト家、ニックバルト家、スガナバルト家。

建国に携わった重要な、王家と血の繋がりのある家々。


「魔法具開発と言えばどこの家かしら」

「えーと……スガナバルト家ですよね」


戦う事が苦手で、そのかわり手先が器用で物を作るのが得意な家……だったはず。


「スーリア様は魔法具開発の第一人者です。徹夜で魔法具を作っていたのでしょう」

「魔法具開発………あの、まさか」


にこりとナタリアが笑った。


「スーリア・スガナバルト・ナイトレイ。これがフルネームです」


頭を抱えたくなった。

どうして誰も教えてくれなかったんだ!

ナタリアは時間が無かったからいいとして……セレナかロア、教えてくれたっていいじゃないか!

ヘタに仲間意識を持ってしまった……そんな相手では無いのに。


「わたし……スーリアさんに失礼な事を……」

「あの方はとってもお優しい人だから、何をしても平気よ。ロザリアを見たでしょう?」


確かにロザリアは傍若無人の限りを尽くしていた気が……

困ったら相談に乗るよ、と疲れた笑顔を浮かべるスーリアが頭に浮かんだ。

きっと、ロザリアは再び妊娠するのだろうな……スーリアがロザリアをどうにか出来るとは思えない。


「スーリアさん……」


わたしも結婚したら子供をたくさん……

悪寒が走って、体を震わせる。

……誕生日が終わったら聞いてみようかな。

思わず天を仰いだ。

スーリアの瞳と同じ鮮やかなスカイブルーだった。



スーリアとロザリアの結婚までの経緯は同シリーズ「奥手な貴族とあなたのナイフ」で詳しく書いてあります。

名前は出てきませんが、ロナント、ロゼとナタリア、それからロアが出てきます。

基本的にスーリアが酷い目に合います。よければどうぞ。


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