#001 栄光の手 4
「我々は能力者と呼ばれる者達だ」
怪盗ベレトの対策本部が立てられる。
ゴードロックは、先ほどの警備員姿ではなく、軍服姿を纏っていた。
結局の処、美術館での自己紹介とは違い、ゴードロックは警備員の格好をして、派遣されてきた警察の人間ではなく、彼らに混ざっていた『栄光の手』のメンバーみたいだった。
どうやら、この支部は、彼が指揮官を務めているらしい。
血気盛んな男だ。
しきりにホワイト・ボードを叩いていた。
「諸君も御存じの通り、我々はメビウス様からの指令によって動いている。指令伝達書は我々とは別の者達の手によって送られてくるっ!」
そこは、あるビルの地下に作られた部屋だった。
大型のパソコンが幾つか置かれ、他に地図や資料の束が本棚に納められている。余計なものの一切無い、殺伐とした部屋だった。
部屋の中にはカナリーを含めて、六名の人間がいた。
ゴードロックとオブシダンの他に、着物姿の女に、太ってスナック菓子ばかり食べている男、それから白い服の顔色の悪い猫背の男。
それぞれ、男三名、女三名といった処か。
「我々は法の上でも、殺し屋達の手によっても裁けない者達を裁く機関だっ! 能力者組合である『ドーン』を創設されたメビウス様の腕であり、指を務める『ハンド・オブ・グローリー』のメンバーであるっ!」
軍服の男は、再び、ホワイト・ボードを叩いた。
「今回、あたし達が始末するべきターゲットである怪盗ベレトは、何故、特別抹殺対象にされたのかしら?」
部屋の隅で、キセルを吹かしていた女が訊ねた。
「花鬱、我々はメビウス様の命令通りに動けばいいのだ。疑問を挟むな」
「…………。ゴード、あたしゃあ、以前、メビウス様の指令で大切な後輩を失ってねえ。あたしのミスとは言え、どうしても慎重になっているのさあ。メビウス様はあたし達を試しているように思うわ。何故、あの方御自身が全て動かないのかしら」
「花鬱、俺は軍人だ。今は前線から退いたとは言え、軍人たるもの上官の命令には絶対だと考えている。我々が口を挟むべき事では無いっ!」
「それは、タダの狂ったカルト宗教と変わらないわさあねえ」
二人は、少しだけ睨み合う。
オブシダンはそれを見て、不愉快な顔をする。
この二人は、性格が余り、合わないのかもしれない。
「メビウス様の意図は単純でしょ? あの方は錬金術師フルカネリとその信者達を殲滅したいか、もしくは多次元世界を渡れる者を警戒している。後はフリーのハンター達では始末出来ない相手を、直々に始末する事を考えている。それだけだと思うけれど?」
人形作家は、呆れたようにゴードロックの顔を眺めていた。
そして、ホワイト・ボードを見ながら、描かれた文字が消え掛けていて、眉を顰める。
「俺っちは、テラリスって言うんだがな」
酷く痩せた、陰鬱な顔色の男は言った。
「ベレトの居住地なら、突き止めたぜ。俺っちのチカラでな」
テラリスと名乗った男は、地図を広げた。
†
古びた塔の跡地だった。
一体、何の為に、いつの頃に作られたのかは分からない遺跡だ。
そんな場所を、ベレトはねぐらに使っているみたいなのだ。
切り込み隊長を買って出たのは、花鬱という女だった。
オブシダンは、相変わらず、建造物の周辺に香を焚いていた。
あくまで、彼女は補助に徹する立場だ。
ただ、オブシダンは、メンバーの中で、一番の重要な任務に付いているらしい。なので、無理はさせられないとの事だった。
「あんたも気を付けな。メビウス様の直属の部下である栄光の手のメンバーは、入れ替わりが激しいみたいだから」
花鬱はそうカナリーに告げる。
おそらく、この女性は、沢山の仲間達の死を見てきたのだろうな、と、カナリーは推測する。
栄光の手……、ハンド・オブ・グローリーのメンバーは、この六名だけでは無いと聞く。あくまでも、ベレトを抹殺するチームとして、このメンバーが選ばれたのだと聞かされている。そしてまた、花鬱が言うには、メビウスは部下を使い捨てにする傾向を感じると……。
†
「晩餐に来てくれるとは光栄だ」
魔人ベレトは嬉しそうに言った。
デス・ウィングは席に着くと、出された肉料理をまじまじと見た。
「何の肉だ? 私は人の肉は好かない」
「牛肉だよ」
そう言うと、ベレトは肉料理にナイフを入れる。
「ちなみに、俺は中華も好きだ。今度、それも御馳走する」
ベレトは、肉にナイフを入れていく、血が滴っていた。
「それにしても、客人が来たみたいだぞ」
デス・ウィングは、少し面倒臭そうに告げた。
†
ゴードロックと、ミキシングが、塔の中へと乱入する。
すぐに、待ち伏せされていた事が分かった。
中には、牛や馬やヒヒの頭を持った人型の怪物達が、それぞれ、槍や棍棒を手にしていた。
ゴードロックが、彼らに機関銃を撃ち込んでいく。
ミキシングは、巨大な拳で、敵を殴り払っていた。
後方から、無数の刃物が飛んでいく。日本刀だった。次々と、怪物達の首が一刀両断にされ、はねられていく。
栄光の手のメンバー達は、それなりの実力者揃いみたいだった。
カナリーは後ろの方で、彼らの姿を眺めていた。
ガタン、と、松明の一つが倒れる。
炎が床を焼いていく。
それを見て、カナリーは蹲って震え始める。
「クソッ! 何なんだ? こいつら? 銃弾が弾かれる!」
「固まっていては駄目さね。一度に襲撃されるわよ!」
「うおおお、俺が全員、爆破してやるよぉ!」
みな、それぞれに混乱の混ざった声で、叫んでいた。
やがて、みな、現れた怪物達との乱戦になっていく。
特に、ゴードロックの取り出す、拳銃の発射音が洞窟の中で大きく反響していく。それに続いて、爆弾でも爆発した音が連続して続いていく。
他のメンバーも散り散りになっていく。
カナリーは、へたり込んでいた。
彼女は、自分に力が無いという事を嫌でも思い知らされる事になった。
気付けば、仲間達と離れていた。
とてつもなく、心細くなる。
彼女はランタンを手にして、塔の中を進んでいく。
風の音が軋んでいる。
自分の黒髪が靡いていく。
何かが、自分を誘っているようだった。
まるで、心地よい音色のように、彼女はその場所へと向かっていく。